◆RAISON D'ETRE◆
プトレマイオス�兇魯ぅ離戰ぅ匹箸梁亰荼紂�地球に降りていた。
これからも武力介入を開始した時と同じように紛争に介入するために目的地へ移動している中。
自室に籠もり、ベッドに腰を下ろして携帯端末でプランを確認していた刹那の耳に来訪者を告げる電子音が届く。
腰を上げて音声のみで相手を確認すればロックオンだった。
入れてくれと言うロックオンに特にこの後の予定も無い刹那は自室に彼を招き入れる。
「おー、殺風景な部屋」
「お前の部屋も変わりなかったと思うが」
アニューの事があった後、一度だけロックオンの部屋で酒盛りに付き合った刹那はその時を思い出して言えば、ロックオンは肩を竦めて刹那を振り返る。
「なんつーか、生活感に欠けてる気がする」
人間、何かしら自分自身の匂いを持っているものだと思っていたロックオンはそれさえも感じない刹那の部屋に妙なわびしさを感じた。
「そうか?」
「そうそう。シャンプーとか何使ってるわけ?石鹸とか言わないよな」
身の回りの生活用品は特に要求を述べなければ大手メーカーの無難な品が支給されるようになっている。
全てまでとはいかないが、何処のメーカーの品が良いかは要求出来るようになっており、ロックオンもいくつか要求を出した覚えが何度かあった。それは他のクルーも同じだろう。
「石鹸ではない。ロックオンが、ニール・ディランディが使っていた物と同じのをずっと使っている」
エクシアのガンダムマイスターに選ばれてから少しの間だけ相部屋だったからと付け足せば、ロックオンは納得したように頷いたのだが、その後ニヤニヤと笑うので刹那は気持ち悪いと眉を潜めた。
「なん、だ?」
「そうやって兄さんの匂いに染まろうとしてるところがいじらしいなぁって」
「ッ…!何を言っている」
刹那はロックオンを睨むが、その頬が上気している時点で威力はない。
図星というより、たった今気付かされて恥ずかしくなったんだろうと、短くもない期間仲間をやってきたロックオンは思う。
「こういうとき、ご馳走様って言うんだろうな」
ロックオンはニヤニヤしたまま勝手にベッドに仰向けに倒れる。
不機嫌な声が上から聞こえたが、それに構うことなくロックオンは無機質な天井を見つめた。
流石にベッドには匂いが残っているなと微かな残り香をすんと感じた。直接刹那の匂いを嗅ぐのは正直男同士なので勘弁願いたいが、嫌な匂いではないとも思う。
「でも、兄さんもあんまりだよなー」
先程の笑いを含んだ楽しそうな声は続かず、トーンを落とした台詞に刹那は「何が」と無言でロックオンを見下ろす。
「俺は何も越えてないだろ」
「越える?」
「そ。イノベイドと戦ってる最中にさ、兄さんと会った」
「そうか」
「驚かないの?」
「俺も夢の中で会った」
「うわあああ。本当、あの人お節介だよな」
「全くだ」
お互いにしょうがないと微笑を交わす。
この場にはいない共通の知人に対する印象が重なると笑いを誘うらしいと刹那は知った。
しかし、ロックオンの言葉で気になることがあり、笑いを収めて問い掛けを口にする。
「越えてないと言ったが、何を越えていないんだ?」
「ああ、それね。誠に言いにくいんですが」
常にない言い回しを口にするロックオンに刹那は首を傾げるが、もともとはロックオンが先に言ったことだと続きを視線で催促する。
ロックオンは片膝を立てて、少し勢いを付けて上半身を起き上がらせてから刹那と視線を合わせた。
「刹那のこと兄さんに頼まれた」
「………はぁぁ」
ここまで呆れた刹那の溜息を聞くのは初めてだとロックオンは思いながらも、この状況は少し楽しい。
「…俺はまだ子供だと言いたいのか、彼奴は」
「危なっかしいんじゃないの?」
盛大に肩を震わせて笑うロックオンに刹那は苛立ちを覚えるも、話の核心をズラされていることに気付く。
「俺が訊いたのは、お前が何を越えてないかの話だったはずだ」
「あー、ごめん。まあ、俺も良く分からないんだけどさ」
ロックオンは眉間に皺を寄せてむむむと考え込むが、直ぐにそれを放棄して肩の力を抜いてしまう。
「兄さんに刹那との蟠(わだかま)りはもう無いから上手くやってくよって言ったらさ、『越えられちまったな』って言われたんだよ」
越えられたというのは刹那との間にある何かであることは会話の中で分かったのだが、ロックオンは正直、その間にある何かが分からないままだった。
だからこうして刹那の部屋を訪れたのである。
刹那から直ぐに言葉は発されなかったが、時間を溜めてから刹那は口を開く。
「どうやら、俺は思い違いをしていたようだ。だが、それはロックオンにも言えるな」
それは俺じゃなくて兄さんだなとロックオンは口の奥に言葉を飲み込んで、壁に背を預けた刹那を見やる。
刹那は顔を背けて扉の先を見つめたままその続きを語る。ロックオンと視線を合わせずに喋るということは、ただの独り言だと受け取れという表れだ。
「彼奴は俺に『変わらなかった俺の代わりに、お前は変われ』と言った。その言葉は間違ったものではないと感じたから、俺は自分自身の変革を願った」
イノベイターとして覚醒したことに後悔はない。
これからも変革し続けていく意志も望みも刹那にはある。
「ロックオンに彼奴は『越えられた』と言ったんだな」
「うん」
刹那が視線をロックオンに戻して確認すれば、ロックオンは頷き、刹那は視線を下げて落とす。
「『変わらなかった』と『変われなかった』という言葉の意味は違うと思わないか?」
変わらなかったというのは、変わる意思がなかったからこそ出てくる言葉であり、
変われなかったというのは、変わる意思があってこそ出てくる言葉である。
ロックオンはどう言ったかを思い出しながら刹那は視線を合わせないまま目の前にいるロックオンに問い掛ける。
「兄さんは『変わらなかった』って言ったんだな」
明るくも暗くもない声色だったが、やはり兄弟なのだろう。自分の兄ならそう言うだろうという確信を持った言葉だった。
「俺の、俺達の過去はどう足掻こうが変わりはしない。俺がロックオンの家族を殺した組織に所属していたことは事実だ」
「兄さんは憎悪を捨てきれなかったってことか」
「……」
死ぬつもりは彼には無かっただろう。
だが、ロックオンが刹那に向けた銃口は確かに憎しみが込められていた。それは簡単に拭えるものではない。
人一倍優しいあの男なら尚のこと。
認めてもらえたのに、許してはもらえなかった。あの日から何年も経っているのに、ようやくそれに気付いても遅すぎだった。
一緒に、隣で、共に、戦うことは出来ないから別れを選んだようなものではないか。
ロックオンも『越えられちまったな』と言われた意味を理解したようで、沈黙が流れるが、先にポツリと言葉を漏らしたのはやはりロックオンだった。
「刹那はさ、兄さんが死んだとき泣いた?」
「…泣いた、な」
彼の名を呼ぶのに必死で、泣いていることに気付いたのはプトレマイオスに帰投した後だった。
身体がひくりと震えて思い通りの動きが出来ず、視界もぼやけていたはずだと記憶を辿る。
一番新しい泣いた記憶。
ロックオンは残されていた兄の映像データを見た時、一緒に映っていた刹那があれくらいの子供だったから泣いて当然だろうなと思う。
「俺はアニューが死んだんだって実感しても泣けなかった」
いい大人だしなとそこだけ明るく付け加えれば、刹那はお前は子供だったから泣いても良いんだと言外に含めた優しさを理解する。
こういう不器用なところは似ているらしく、刹那はロックオンを見やる。
「アニュー・リターナーはお前のことを見守っている」
曖昧には言わず断言すれば、ロックオンは目を丸くして刹那を凝視した。
次いで目を細めて眉を下げた彼は自分の頭を掻く。
「あんた、甘やかすの上手いよな」
「ロックオン・ストラトス限定でな」
「うわっ、ここで惚気ちゃう!?」
「惚気ているつもりはない」
オーバーリアクションをするロックオンから刹那は視線を外して僅かに身じろぎする。
こういうところが可愛いと自分の兄は思ったのかと観察していたら、目線が此方を睨んできた。
そうやって威嚇してくるものの、本当に弱っている相手には手を差し伸べるものだから、包容力を求める兄にはたまらなかっただろう。自分の兄ながら恥ずかしいことこの上ない。
切実なまでに、ロックオンは兄を越えるのは勘弁して欲しいと思わずにはいられなかった。それに、こんなに想われてるくせに弟を頼るとは何事か。
今度化けて出てきたら文句を言ってやろうと、ロックオンがベッドから降りれば、刹那とロックオンの携帯端末が電子音を響かせた。
ほぼ同時に二人はそれを開けば、間もなくミッション開始との連絡がスメラギから告げられた。
ガンダムを駆れ
そして変革せよ
それが俺達の存在価値だ。
『raison d'etre』存在価値。
ショートストーリーのロックオン編でニールが「越えられちまった」という台詞に越えてなくね?と疑問に思った後。
刹那編のほうで「変わらなかった」という言葉が何か引っかかってまして。(ドラマCDだと「変われなかった」というふうに聞き取れたんですが、アニメ本編は「変わらなかった」と言っていたような気が…あれ、違いましたっけ?)
それをコンプリートベスト買ってからずっと考えてました。
バイト中(勿論暇な時です!)に妄想してある程度自分の中にあったものがまとまってきたので書いてみたんですが、シリアスを微妙に脱線して余計にモヤモヤがw
ニールいないのに、ニールと刹那がイチャイチャしてて困ったww
時間が全て解決してくれるわけじゃないけど、時間が解決してくれるものも確かにあると思うから時が流れることは悪い事じゃないというのが伝わったらいいな、と。
更新日:2009/08/01
追記2009/08/09
コンプリートベストのビジュアルブックを確認。
「変われなかった」って書いてありました。
いつかDVD買ってこよう。何年後になるだろうかw
ブラウザバックお願いします