◆所作事◆









鳥の人伝説の撮影協力に応じていたS.M.Sのメンバーは各自各々に割り当てられた仕事についていたのだが、広報の仕事を請け負っていたアルトはシェリルの付き添いをしている最中に映画監督に出演して欲しいとせがまれてしまっていた。
アルトは役者の世界からは降りた身であり、何度も断りの言葉を重ね、相手の方もアルトの口の悪さに参ってしまったようで渋々下がっていく。

無駄に疲れたアルトは勝手にさっさと何処かに行ってしまったシェリルを探し出すべく島をうろうろ歩き始める。
正直、シェリルが勝手に行方不明になったのだから自分は関係ないのだが、仕事はやらなければいけない為に彼女の行方を探した。
シェリルのことだ、こんな炎天下の暑い砂浜にいるとは思えず、休憩所の建物の中やパラソルの影をひっきりなしに探していたら案外早く見つかった。

「お前は俺の仕事を邪魔してるのかよ」

「アルトがいけないんでしょ?監督に捕まったのは貴方、私は蚊帳の外なんだもの」

パラソルの下で涼しい顔をしているシェリルは少し膨れっ面だ。
それは監督に言い寄られたのが自分ではなかったことではなく、アルトを振り回せる時間を減らされてしまったことからなのだが、それにアルトが気付く素振りは全くない。

「だったら助けろよ」

「奴隷を庇う主人なんて聞いたことないわ」

「俺はお前の奴隷じゃない!」

いがみ合っている二人の間に視線が注がれており、その視線が何だか居心地悪く、アルトとシェリルはそちらにそろりと視線を動かした。
その見下ろした先に居たのは、直ぐ側のVF-25に興味津々で群がっている子供達である。

この子供達も映画の出演者であり、今は休憩中ということでルカからVF-25についての説明を聞いていたはず。
まだルカの周りにいる子供も数人いるものの、殆どの視線がアルトとシェリルに向かっており、女の子二人がアルトの足下に近寄る。

「ひま?」

アルトが羽織っているS.M.Sのジャケットの裾を引っ張る女の子にアルトは困惑するものの、確かに暇と言えば暇になる。

「まぁ、今は特に・・・シェリルも暫く此処にいるだろ?」

「ええ、遊んであげれば?」

シェリルからの了承も貰い、アルトは女の子に頷きを見せた。
すると、女の子二人は顔を見合わせて笑顔になる。

「わーい、遊ぼー」

「お姉ちゃん、早くー」

「え?」

女の子二人に両手を引っ張られたアルトは固まった。
その様子を見ていたシェリルから「ぷ」という音が発せられ、近くにいたルカも一部始終見ていたらしく声を殺して笑っている。

「あははははははは」

とうとう堪えきれなくなったのはシェリルで、盛大に大笑いしているのがアルトには面白くない。

「笑うな!」

「だっ、だって、お姉ちゃん、お姉ちゃんだって!ふふ」

顔を真っ赤にしてシェリルを振り返って怒鳴ってみても効果は無く、ずっと笑いっぱなしで会話も出来そうにない状態だ。
アルトはシェリルに抗議するのを諦めて、女の子二人に向き直ると視線を合わせるために片膝をつく。

「俺はお姉ちゃんじゃなくて、お兄さんだ」

子供にまで口悪く言えるはずもなく、表情は硬かったが出来るだけ優しめの声を出しただけでも褒めて欲しいくらいだった。
女の子達に怯えた表情がなくてホッとするが、彼女達はアルトの言葉に納得が出来ないのかだんだん表情を曇らせておりアルトはまずったかと冷や汗を感じる。

「だって髪長いのに・・・」

「お母さんが女の人は髪の毛が長いんだよって教えてくれたもん」

親が嘘をつくはずがないとこの年齢の子供は思いがちであるし、母に教わったという事もそれほど間違いではない。世間一般の例というだけで。

子供の扱いに馴れていないアルトはどう説明すべきかと頭を悩ませる。
助けを求めようとルカに視線を送れば、まだ熱心にVF-25を見つめる子供に何やら説明しているし、シェリルは既に此方を見向きもせずに涼しげにジュースのストローに口を付けている。

先程よりも表情を曇らせている女の子に本格的にどうしようかと思ったところで聞き慣れた声が耳を通る。

「何してんの?アルト姫。女装は断ったわけ?」

登場台詞にしては腹立たしいが、女の扱いならこのミハエルの方が上手い。少々・・・かなり守備範囲の年齢からは下かもしれないが。

「そっちの話はどうでもいい、何とかしてくれ」

「姫からお願い事されるんて珍しい。で、何?」

小さな女の子二人とアルトの間にしゃがみ込んだミハエルは双方を交互に見やる。

「俺が男だとどう説明すればいいんだ?」

「・・・・・・ごめん、頭冷やしてくるわ」

「いやいや、待て。これには深い事情が」

毎日のように姫とからかってはいるが、まさか本人の口からそんな言葉が出てくるとは思っていなかった為、ミハエルは逃げるように立ち上がろうとしたが、アルトに腕を掴まれてその場に留まることになってしまった。
微妙な顔をすれば、アルトも微妙な顔を返してくる。

「・・・俺にも分かるように説明してくれ」

取り敢えず話を聞く態度を見せると、アルトは今度は結論だけではなく順序を掻い摘んで説明し始めた。
要略すれば、目の前の女の子達は髪の長い人は女の人であると認識しており、アルトをお姉ちゃんと呼んでくる。それをアルトは訂正したいらしい。

ミハエルが成る程と頷き、女の子達に向き直ると優しくにこりと笑った。
女の子達は頬を赤くしてもじもじし始め、こんな小さな子まで虜にしているミハエルはある意味恐ろしい。

「君のお母さんは髪の長い人は女の人だと言ったのかな?」

「うん」

「お母さんの言っていることは間違いじゃないけど、髪が短い女の人見たことない?」

「・・・えーと・・・ある、と思う」

「その逆で髪の長い男の人もいるんだよ。滅多に見掛けないだろうけどね」

後半は茶化すようにアルトに視線を送り、アルトは自分は別に悪くないのに罰が悪そうな表情をしてしまう。
ミハエルがアルトに視線を向けたことで、女の子達もアルトに視線を送る。

「お姉ちゃんじゃないの?」

まだ訊くかと、アルトは少なからずショックを受ける。
ミハエルは彼女達が髪の長さだけでなく、アルトの顔の作りも女性的な部分があるから納得出来ていないのだと解釈してみた。

「一つ良い事を教えてあげよう」

何か閃いたであろうミハエルの言葉に視線が集中し、ミハエルはアルトの肩に手を置くと清々しい顔でこうのたまった。

「この人はお姉ちゃんじゃないけど、お姫様だ」

「おいッ何言ってやがる!」

予想通りアルトはミハエルに殴りかかろうとしたのだが、視線の痛さに気付きおそるおそる女の子達を見やれば、彼女達は目をキラキラさせながらアルトに熱い眼差しを送っていた。

「お姫さま・・・」

女の子はお姫様というものに憧れるものだ。
してやったりのミハエルの顔にアルトは頭に血が上るものの、もう何だか全てが面倒になってきてしまった。

「・・・もう、どうとでも呼んでくれ」

まだお姉ちゃんの方がマシだったと思っても、時既に遅し。
アルトは女の子達に引っ張られ、子役の女の子達の輪に連れて行かれてしまった。

ミハエルは何とはなしにシェリルのいるパラソルの影にお邪魔することにする。

「良い子いたの?」

白い椅子に座り、足を組み優雅にミハエルを見上げたシェリルは悪戯っぽく笑って見せる。

「どこもガードが固くてね、お誘い出来そうな子は一人も」

「そんなことばかりしてると奪っちゃうわよ」

「はて、何のことやら」

シェリルの比喩に全く気付いていませんという言葉をミハエルは乗せるが、二人とも胸の内では会話が成立している。
その証拠に二人の視線はお互いを見ておらず、青い髪の持ち主に視線を送っていた。

アルトは女の子達の中心で座り込み、女の子の髪を三つ編みに結ったりしている。

「良し、出来たぞ」

「わあ、ありがとー」

髪を左右に三つ編みしてもらい、おさげを両手で掴んで感触を確かめる女の子の頭をアルトは撫でた。
すると今度は別の女の子に腕を取られて「わたしも」と縋られる。

「どの髪型にするんだ?」

「えーっとねぇ、お姫さまと一緒が良い!」

お姫様が定着してしまっていることに嘆きつつ、ゴムやリボンを持っている子はいないか探すが、もう誰も持っていないらしい。

しょうがないかとアルトは自分の髪を結っていた髪紐を解いた。
するりと髪紐が解かれると同時にはらりと癖のない髪が肩と背中に流れ落ちる。
その一連の動作を女の子はぱちくりしながら見つめており、アルトは首を傾げ、その動きに合わせて髪が緩やかに流れた。

「後ろ向いてくれねぇと出来ないぞ」

「う、うん」

女の子は素直に後ろを向き、高い位置に茶色い長い髪を結い上げてもらった。
尻尾のように揺れる自分の髪に満足したのか、女の子はとても嬉しそうな顔をしている。

「後で紐返してくれよ、俺が困るからな」

「はぁい!」

そしてその様子を偶然発見した監督にまたアルトが言い寄られてしまうのだが、スタッフを一人ほどアルトが殴ってしまったことでその話はまた零に戻った。
そうこうしている内に子役達の出番らしく、ポニーテールに結ってもらっていた女の子は髪紐を解いてアルトに返しに走り寄ってくる。

「お姫さまー、ありがとー」

「サイキュ、頑張って来いよ」

「うん!」

女の子に手を振り替えし、アルトは自分の髪を結い上げる為に髪紐を口にくわえながら髪を手で先にまとめようとしたのだが、誰かに腕を掴まれて邪魔をされる。
振り返ればミハエルの顔があり、喋れば髪紐が落ちてしまうので視線で何だと訴えかけた。

ミハエルは何も言わずにアルトの髪を一束すくい上げ、自分の唇に近づける。
潮の香りが鼻をくすぐり、ミハエルの息がアルトの首筋にかかったことでアルトは硬く瞼を閉じて震わせた。
熱の溜まる頬をミハエルはじっと見つめ、金瞳が開かれるのを待ち焦がれる。
















脈あり?




























◆後書き◆

髪が書きたかった。
やっとルカ君ちゃんと登場させれるかと思ったら台詞一つも無い・・・orz

更新日:2008/07/25





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