【シャッターチャンスは一度だけ!】









「…つまんない」



 政庁内の一室で、スザクとジノ、アーニャが束の間の休息を取っていた時のこと。

 シャッターを押した後、アーニャがふと漏らした一言に、スザクにじゃれついていたジノが、何が、と問い掛けた。

「だって、いつも、このアングル」

 そう言って、アーニャは携帯の画面をジノとスザクに見せる。

 二人が画面を覗き込むと、画面には今撮られたばかりの、ジノがスザクの右肩に腕を回してじゃれついている写真が映し出されていた。

「あぁ…確かにいつもこんな感じだな」

「…だから、つまんない」

 ジノの反応に、アーニャは心底不満そうにそう漏らす。

「そう思うならもう撮らなきゃいいのに…僕らだからいいけど、あんまりやると、肖像権侵害だよ?だからさ…」

 苦笑しつつ窘めようとしたスザクの言葉を、

「…嫌。」

アーニャは二文字でぶったぎってみせると、幼い子どものようにそっぽを向きつつも、記録、と保存ボタンを押していた。

「結局保存するんだ…」

 スザクは困ったように笑う。

「じゃあどんなアングルなら満足するんだよ?」

 ジノはスザクの右肩に回していた手はそのままに、スザクの後ろに回って両肩に両手を添えるように置く。

 ジノなりにアングルを変えてみたつもりのようだが、アーニャは相変わらず不満顔で、ダメ、と首を振った。

 そして暫し考え込んだ後。

「…そう、たとえば…スザクの方からじゃれるとか」

「え、それは…」


  ――何で僕から?


 素直な疑問がスザクの口をついて出かかるが…

「いや?」

 それを遮るように、アーニャは上目遣いでスザクを見る。それは特に媚びたような表情ではなく、
いつもの彼女のポーカーフェイスなのだが…スザクは何故か良心がちくり、と痛むような感覚を覚えた。

「同じラウンズの仲間なのに、嫌?」

「えっと…別に嫌じゃないけど、その…照れくさいし、僕はそういうの柄じゃないし…」

「シャッターはいつでも準備万端だけど」

 アーニャはどうやら、「別に嫌じゃないけど」、までしか耳に入れていなかったらしい。

「俺もいつでもいいぜ♪」

 その上、手を離してスザクから離れ、さぁ来いとばかりに両腕を広げたジノのフォロー(のつもりで吐かれた台詞)が更にスザクを追い詰めて。

「いや、その…」

 スザクが、あまり回らない頭でぐるぐる考えながらゆっくりと後退する。

 名誉ブリタニア人であるとはいえ、精神的にはまだまだ日本人。

 友人とのこういったフランクな接し方にはまだ慣れていないスザクにとっては些か難しい「お願い」なのだ。


  ――ど、どうすればいいんだ…やるしかないのかな…?でも…


 と、その時だった。

「おや、若者ども。何やら楽しそうだな?」

 突然、どこから湧いて出たのか、いつの間にかスザクの背後にノネットが立っていた。

 うっかり背後を取られていた事に驚いたスザクは、思わず前方向によろけてしまい、

「ニャー!!!」

 そこにタイミング良く(尤も、スザクにとってはタイミング悪く、だが)さっきまで部屋の隅で大人しくしていたアーサーがスザクの脚に噛みついて…

「うわぁぁっ!」

「おっとぉ」

 完全にバランスを崩したスザクは、そのまま目の前にいたジノに抱きついて支えて貰う形になり、同時にシャッター音が鳴り響く。

「…記録」

 アーニャはいつもの表情より微かに表情を弛ませた。

「おぉ、いい写真撮れたか?」

 何が起こったのか解らず呆然として抱き付く形になったままのスザクを支えたまま、ジノはアーニャに視線を向ける。

「うん。…大成功」

 アーニャが画面をジノに向けると、スザクもゆっくりとジノから離れて振り返り、画面を覗き込んだ。

「ちょっ…これ…」

 スザクは画面を見て、漸く我に返ったように赤面する。

「ほぉ、珍しい一枚が撮れたな」

 その後ろから、ノネットも心底楽しげに画面を覗き込んだ。

「うん。あなたと、アーサーのお陰」

とアーニャがノネットに一礼すると

「おぉそうか、役に立てたのなら何よりだ」

 ノネットは心から嬉しそうにからからと笑った。

「ノネットさん…!いきなり後ろに立たないで下さいよっ」

 その様子にムッとしたのか、スザクがノネットを振り返って文句をつける…が。

「わたしに背後を取られるようじゃまだまだ、という事じゃないのか?」

「うっ」

 それについては口を噤まざるを得ない。考え事をしていたとはいえ…迂闊だった。

 その他に怒りを向ける矛先といえばアーサーなのだが…これまでも散々「噛んじゃダメ」と注意しても無駄だったので、スザクは諦めて溜め息をつくしかないのだった。

「それにしてもアーニャ…それ、またブログに載せるの…?」

 スザクは恐る恐るといった様子で尋ねる。

「ううん。スザクが嫌なら載せない」

「え〜せっかくいい写真が撮れたのに。なぁスザク〜?」

 ジノはまたいつものように、意味なく(というか最早彼の癖なのだろう)スザクにじゃれつきながら不満を漏らす。

「この写真見た人に変な誤解与えかねないから、い・や・だ」

「ちぇー」

「あははっ、確かにな」

 キッパリと言い放ったスザクに、明らかに不満顔のジノ、そしてその様子を楽しそうに見ているノネット。


 アーニャはその三人を視界に収めてから携帯に残した先ほどの写真を改めて見返した。

「…そう。これは記録だけで充分。今という瞬間は今しかないから。」


 アーニャの呟くような一言に、一同はそれぞれに思うことがあったのか、暫く穏やかな空気が静かに流れた。

「確かにその通りだな」

 暫くしてふ、と息をつくノネット。

「そうだね…」

 しんみりと穏やかな笑みを浮かべるスザク。

 そこまでは静かだった、のだが…

「じゃー今度は、エニアグラム卿とツーショットを…」

「ジノ!調子に乗らない!」

「わたしは構わんがな」

「あーもう、ノネットさんまで…」

 ジノの一声でまた騒がしくなる一同。

 そんな様をまた写真に収めながら、アーニャはぼんやりと考えていた。



 こんな時間はずっと続く筈はない。いつか終わりがくるのだ、と。

 でも、否、だからこそ、この楽しい時間を精一杯楽しんで、「記録」しておこうと。



 そして、無意識にしろそうでないにしろ、此処にいる誰もがそれを解っていながらも、こんな時間が少しでも長く続く事を、心の何処かで願うのだった。






  *Fin*






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柘榴たんのリクで「ナイトオブラウンズの皆さんでほのぼの」という事で書かせて頂きましたv

が、果たしてほのぼのして頂けたのでしょうか??
ギャグに走ってないか?と気になりつつ…ラウンズに愛だけは捧げております♪←あ、言い訳…
友情のつもりで書いてます(?)がこの中で好きなCPある方は取りたいCPに解釈して下さいませね!
あ、そういえばタイトルは迷いに迷った挙句、結局某不二先輩のキャラソンと同じになってしまいました…
が、今回その曲からのインスパイアとかではないです。悪しからず。
…ちょっと一部の歌詞をアーニャに被せようと思えば被せられるかもですが。
こんなブツですが読んで下さった全ての方と、こんな私にリクを下さった柘榴たんに、 少しでも楽しんで貰える事を祈りつつ、感謝と愛を捧げます…!!


by 実頼(さね/らい)