※緑谷出久先天性女体化



・十五歳以上推薦
・折寺中の時に爆豪が緑谷♀を強姦(?)しています
・緑谷♀が子供を産めません

15歳未満の方は目が潰れます































◆Gordius -act.8- ◆









自分と同じく烏龍茶を注文する塚内にオールマイトは頭を下げる。

「ごめんね。塚内くんは飲めるのに」
「今更だろ?君と飲む時はノンアルコールだって決めてるんだ」

オールマイトにとって塚内は気心の知れた友人だ。秘密を多く抱えているオールマイトは自分の事務所の事務員達とも距離を置いていたが、ごく僅かにオールマイトの秘密を知る者がいる。警察官である塚内はそのごく僅かに入っており、友人として近しい存在だ。

下戸であるオールマイトに付き合い、塚内は座敷に運ばれてきた烏龍茶のコップを手に取る。

「乾杯」
「うん。乾杯」

コップが重なり、深い色が揺れる。

手元に戻したコップの揺らぎが落ち着くまで見つめていたオールマイトは、塚内が烏龍茶を口に運ぶのを目にして、自分も飲み始める。

「けど、イレイザーヘッドは遅いな」
「あ、いや、相澤くんは遅れてないよ。私が君に早めの時間を教えたから」

つまり、オールマイトは二人だけで話したいことがあるのだと、塚内はすぐに理解した。今までにもこのようなことはあったからだ。
彼の本来の姿は世間に知れ渡ってしまった。だから、死柄木弔……またはオール・フォー・ワンに関してだろう。

席もカウンターではなく、座敷を選んだのも他の客の目と耳を忍びたいからに他ならない。
ここの店員は店の名前通り見ない言わない聞かないを厳守するが、貸し切り状態ではないため、警戒しておくべきと塚内も納得する。

「それでね」

手を組んで神妙な面持ちで口火を切るオールマイトを前に、塚内はコップを置く。
オールマイトの窪んだ黒い目元に隠れていた蒼い瞳が覗き、グッと力が込められる。両手を握り、塚内は背を正す。

「恋愛相談ってされたことある?」

ガクッと塚内が姿勢を崩した。

「あれ?塚内くん?どこいったの?」
「ここにいるよ」

テーブルの下にまで倒れ込んでいた塚内はオールマイトからは姿が消えたように見えていた。焦っているオールマイトに手をあげて見せながら塚内は身体を起こす。

「その、オールマイトは結婚でも考えているんだろうか」
「あ。私のことじゃなくて、生徒のことなんだ」
「生徒か、吃驚したよ。しかし、教師は大変だな」

それに。やはりオールマイトに教師は似合わないと塚内は今でも思う。
象徴だった彼は人々の上に立てる人物だが、人に教えを説く立場には不向きだ。

当初は彼が学校の教師になることで生徒に危険が及ぶ可能性が出るからやめておくべきだと思っていた。案の上の結果も何度かあった。
ナンバーワンヒーローの引退でその心配は減ったが、オールマイトの元々の性格の面を鑑みても教師の器ではない。直接、本人に君に教師は向いていないと面と向かって言ったことだってある。

しかも、ヒーロー以外の相談事なんて未知の領域だろうに。

「それでさ、塚内くんは恋愛経験あるんじゃないかな」
「いや……人並みだし、アドバイスなんて出来ないよ。話なら聞いてあげるけどね」

塚内はコップを手に取り、飲みかけの烏龍茶を再び飲み始める。
頼んでいた串焼きも運ばれてきた。

「そっか。でも、話だけでも聞いてもらえたら有り難いよ。正直、私も持て余してしまっていて、どうしたらいいのか分からなかったんだ」

にっこりと笑うオールマイトはほっとしたようで、塚内も肩の力を抜く。
串焼きを持って来た店員が去ったのを見計らい、塚内は尋ねる。

「けど、わざわざ座敷を選んだってことは、込み入った話なのかい?」

恋愛相談なら、カウンター席でも良かったのではないだろうか。そんな疑問を口にする。

「うーん。そのあたりは難しいところだけど、念のためかな。緑谷少年の話だから」
「緑谷君か」

出久を平和の象徴の後継に選んだことはオールマイトから直接聞いていた。
出久本人と会う前に話を聞いていた塚内はオールマイトが少年と呼ぶものだから、男の子だと思っていたのだが。体育祭前の、敵連合が雄英に初めて襲撃を仕掛けてきた事件後に会ってみれば女の子だったのだから、ひどく愕いた。

オールマイトが出久を少年と呼んでいる経緯を聞いて成る程と腑に落ちたものの、女の子と知っても尚、彼が迷わず彼女に個性を受け継がせたことには意外を持っている。
塚内個人の意見として、出久はヒーローたり得る人材だと評価していた。林間合宿前に偶然遭遇した死柄木に冷静に対応した彼女のおかげで犠牲者はゼロだった。しかし、だ。

オールマイトの師匠が女性であったことを思えば疑問を抱く必要はないのかもしれないが、ワン・フォー・オールは受け継がれるごとに力を増す個性だ。オールマイトが受け継いだ時にかなり強力なものになってしまったと思う。それを女の子に譲渡するのは酷だ。実際、出久は腕を殆ど壊してしまっている。
怪我ばかりさせてしまっていることをオールマイトが反省しているのを知っているだけに、倫理観から反している気がしてならない。けれど、オールマイトが後悔している素振りはないのだ。平和の象徴の後継は出久だと、見定めたことを一切曲げていない。

今はその話ではないが、その点を踏まえて座敷を選び、相澤がいないうちに二人のみで話したかったのだろう。それにしても。

「お年頃かな。まあ、女の子なら恋の一つや二つはしたいと思うんだろうね」
「うん。私も応援したくてさ。初恋だって聞いたら余計にね」

初恋は叶わないってよく言われているけど……とは口を挟めず、塚内は串焼きの皿からねぎま串を一本取る。

「オールマイトは彼女からどう相談されたんだい?」
「相談されてないんだよね」
「え」

ねぎま串を食べようと口を開いた塚内はそのまま固まった。

「それがね。最近さ、緑谷少年あんまり相談してくれないんだよ」

トホホ……と、オールマイトは右と左の人差し指をツンツンし出す。

「もしかして、私嫌われちゃったのかな」
「何か思い当たることでも?」
「う、ん。緑谷少年の初恋相手に厳しいことを言ってしまって。それだと思うんだけど」
「君がね。それで、なんて言ったんだ?」
「ご、ごめん。それはちょっと」

全て洗いざらい話せないオールマイトは冷や汗たっぷりに首を横に振る。
塚内に直接尋ねたところ男女間の問題はやはり専門外のようだし、出久と勝己の間にあったことはそれを差し引いても口にするのは憚られた。
相澤からも干渉は程々にするよう言われていたため、塚内に相談するつもりも最初はなかったが、こうやって会う機会が出来てしまっては相談せずにはいられなくなったのだ。自分の不甲斐なさも含めて。

頭を抱え出すオールマイトの様子に苦笑いして塚内は「君も食べなよ」と勧める。オールマイトは勧められるがままにハラミ串をいただく。舌鼓を打ち、オールマイトの頬が緩む。

「ここの串焼きどれも美味しいよね」
「ああ。東京にも良い店はあるけど、三猿の串焼きは脂がアッサリしてて食べやすくて好きだよ」

東京周りでの仕事が多い塚内だが静岡方面には度々顔を出している。
オールマイトが東京を拠点に活動していた頃は、書類処理などを彼の代わりにしていた経緯もあって、上司からオールマイト担当とされている。それはオールマイトが雄英の教師になってからも変わらず、何かあればこちらに飛んでくる。

現在は、敵連合の捜査を主とした特別捜査本部に身を置いているため、雄英襲撃や保須事件、神野事件など雄英絡みにも多く関わっている。
今日は相澤から学生のインターンについて相談があるとして、オールマイトから連絡を受け取って足を運んで来たのだ。
だから、まさか先に生徒の恋愛に関して相談されるとは思っていなかった。

「そうだ。話を聞くとは言ったけど、肝心なことを聞き忘れてた。緑谷君が好きな子って、雄英の生徒なのかい?」
「うん。爆豪少年だよ。爆豪勝己くん」
「ああ、彼か」

塚内は神野の事件後に保護した勝己と顔を合わせて事情聴取をしていた。攫われてさぞ嫌な思いをしただろうと思われたが、精神的に参っているような様子はなかった。勝己はとても冷静に拿捕されていた間のことを詳らかに語ってくれた。 体育祭は塚内も視聴していた分、勝己のイメージは覆されている。

聴取が終わった後に勝己からヒーロー達がどうなったか尋ねられたので、塚内は包み隠さずヒーローが被った被害を伝えた。ベストジーニストが活動停止するほど負傷したことを聞いた瞬間、表情を歪めたのが印象に残っている。本人は顔に出さないようにしていたが、抑えきれないものが滲んでいた。
職業病故に調べてみれば、勝己が職場体験で選んだのがジーニアス事務所だった。辻褄が合う。

「この間のことで、保護したときに少し話したから知ってるよ」
「体育祭のときと大分印象が違ったんじゃないかい?彼、思った以上に冷静に周りをよく見ているから」

当たりだと、塚内は肩を震わせて笑う。
一見、ヒールな素行が目立つ少年だが、洞察力や判断力など大人顔負けの才を持っていると思う。雄英の記者会見で相澤が語った言葉は現場にいたためにリアルタイムで聞かなかったが、後から聞いてすごく納得がいった。勝己の粗暴の悪さを隙と捉えるのは浅はかだと。

「緑谷君と彼の仲はどうなんだい?」
「口で説明しようとすると難しいな……二人は幼馴染なんだけどね」
「へえ。幼馴染なら普通に仲良いんじゃないか?」
「それがちょっとね。一般的な幼馴染とは違うというか何というか……どちらかといえば仲が悪いと思う。相澤くんにも言われたし」
「幼馴染って、仲が良いから幼馴染って言うものだろ?」
「うーん。小さい頃は本当に仲良かったんだと思うよ。でも、今は違うみたいでね、だから困ってるんだけど」

頭を悩ませているオールマイトを見遣りながら、塚内は首を傾げる。仲が悪いとは、どう悪いのだろうかと。

「他人から見ても仲が悪いって分かるほどなのか?」
「そうだね。爆豪少年は緑谷少年に怒ってばかりだし、緑谷少年も爆豪少年の機嫌に触れないようにしてる感じだから。あ!でも、喧嘩して大分変わったよ。ライバルっぽくなった」
「……ごめん。恋愛相談だったと思うんだけど、中身が飛躍し過ぎて整理が追いつかない」

塚内は待ったと手で制して、オールマイトの言葉を止める。それ以上情報が増えると頭がパンクしそうだ。
少しオールマイトに待ってもらってから、話を再開させるために尋ねる。

「仲が悪いのは察したけど、喧嘩って?」
「そうだった。塚内くんにはまだ説明していなかったね」

座敷の襖を閉め直してから、オールマイトは出久の個性について疑っていた勝己が彼女を呼び出して喧嘩をふっかけた話を語り出す。

「それで、爆豪少年も私の秘密を知ることになった」
「軽率……とは言い切れないな。爆豪君なら気付いても不思議じゃないよ」
「緑谷少年の口の堅さは信用してるんだけど、嘘をつけない誠実さが裏目に出る可能性はあったからね。そのあたり、爆豪少年が上手くフォローしてくれて助かってる」

勝己は出久の性格をよく理解している。だからこそ、出久に苛立つ様子はある種、謎に感じる部分がある。オールマイトはそれを焦りと当て嵌めているが、実際に勝己がどう感じているかは測り切れていない。
あくまで客観的な考察にすぎないし、本人達にとってはもっと複雑な感情であるはずだ。

昨日、勝己が出久と闘いたいと申し出たのを思い出し、変化はしつつあるとオールマイトは感じている。

「そうだ。相澤くんに相談しないと」
「相談って何です?」

新たな声にオールマイトと塚内がそちらを見遣る。黒い出で立ちに、捕縛布をマフラーのように首元に巻き付けている相澤が座敷の襖を開けて、そこに立っていた。

「やあ、相澤くん。タイミング良いね」

僅かにギクリとしたが、相澤の様子に変わったところはなく、前の会話までは聞かれていなかったことにオールマイトは安堵の息を内心吐いた。

座敷に上がり、相澤はオールマイトの隣に腰を下ろす。

「爆豪少年が緑谷少年と授業で手合わせしたいって言ってきてね。相澤くんに相談しようと思ってたんだ」
「…………」

相澤は視線を落としていたが、ゆっくりと持ち上げた。

「いいんじゃないですか。仮免取得前からずっと必殺技の授業で、そろそろ飽きてきた頃でしょうし」
「え!?いいの!?そんな簡単に決めて」
「まあ。似たようなことは考えていましたから。それに、爆豪がわざわざオールマイトさんに言ってきたってことはよっぽどでは?」
「確かに」

深くは考えていなかったオールマイトは改めて勝己からの要望を振り返る。

「緑谷少年との接し方が分かってないだけかなって思っていたけど、それ以外もあるのかな」
「どっちにしろ、決着つけてもらわないとこっちも先に進めませんよ。インターンもあるし、爆豪の方は仮免の講習がありますから」

インターンと口にして、相澤は塚内を見遣る。今日はその件で塚内を呼んだのだ。
しかし、塚内は不思議そうに此方を見ていて、相澤は「何か?」と疑問した。

「イレイザーヘッドも緑谷君と爆豪君のことは知っているのかな、と」

言われ、相澤はオールマイトを目を細くして振り返る。
オールマイトはあの件、二人が中学生の時にあったことまで話していないと首を横に大きく振る。

「知っているも何も。クラス巻き込んで騒がしいことこの上ないですよ。面倒臭い」
「ははは」

塚内は乾いた笑いを洩らす。オールマイトも教師は不向きだが、相澤も不向きではないかと思ってしまう。生徒の面倒を見るのが面倒臭いと悪びれもなく口にするのだから。
けれど、相澤が生徒を大事にしているのは、雄英が事件に巻き込まれる度に彼の姿勢から実感している。
厳しいのも愛情の裏返しなんだろうなと、塚内は思いながらメニュー表を差し出した。

「何か飲むかい?」
「お二人は何を?」
「烏龍茶だね」
「じゃあ、俺もそれで」
「いいの?相澤くん。お酒じゃなくて」
「真面目な話をしに来てるんで」

飲酒するなら最後の帰り際でいいと、相澤は店員を呼んで烏龍茶と軟骨を注文した。ついでにオールマイトが自分と塚内の分の烏龍茶を追加注文する。
程なくして注文した品が届き、相澤はインターンの件を口にする。

「現在、インターンを希望しているのは四名。蛙吹、麗日、切島、緑谷です。蛙吹と麗日がリューキュウ事務所、切島がファットガム事務所、緑谷は希望を出しているだけで事務所は決まっていません」
「リューキュウもファットガムも実績が多い事務所だから問題ないよ。雄英の三年生もいるからね、そこの事務所は。一年生も先輩がいるなら心強いはずだ。警察とも連携が取れるよう此方からも働き掛けるから心配しないでくれ。生徒の希望を優先させてあげてほしい」

蛙吹も麗日も切島も職場体験先の事務所に一度申し入れしていたが、断られている。リューキュウ事務所には波動、ファットガム事務所には天喰が既にインターン生徒として世話になっていることもあり、学校側からはゴーサインを出したいと踏んでいた。

「そう言っていただけると助かります。それで……」

インターンについて細かい話を進める相澤と塚内に少し疎外感を感じながら、オールマイトはちびちびと烏龍茶を飲む。
力を失ったら、発言力もなくなる。主張の仕方も一瞬で忘れてしまった。



演習授業のため、相澤はチェック表を手に轟と八百万の採点をしていた。
三人が立つ場所は期末試験のステージに使われた住宅街を模した演習場だ。

轟と八百万が対戦しているのは、期末試験で組んだペアだからである。同じく、他の生徒も期末試験で組んだ者同士で手合わせしている。
蛙吹と常闇、砂藤と切島、麗日と青山、耳郎と口田、瀬呂と峰田、飯田と尾白、上鳴と芦戸、葉隠と障子。そして、勝己と出久だ。
期末試験で対戦相手だった各教師が監督を担い、採点している。今回は試験ではないが、小テストといったところだ。

住宅街であるため、家への被害を出さないために轟は氷の最大威力を出すわけにはいかず、火事を避けて炎も存分に出せない。体育祭のような障害物のないステージであれば、八百万は瀬呂と同じように瞬殺だっただろうが、狭く入り組んだ路地を上手く利用出来れば勝算はある。

「轟も警戒してるな……」

自身の力を無闇に過信していない。体育祭の時は苛立ちが表立っていたが、その辺りはもう心配いらないだろう。
足らないのは発想だと、相澤はチェック表に書き入れる。咄嗟の判断は及第点だが、機転はまだ未熟だ。

「個性に頼り過ぎていたら、いずれ自滅するぞ」

だが、

「個性は使いようだ」

相澤はニヤリと口元を動かした。

八百万は凍っている塀と地面を発見し、息を潜めた。轟を探す手間が省けたが、罠の可能性も高い。
ひとまず、寒さ対策に防寒具を創造で創り出した八百万はヒーロースーツの上に羽織る。住宅に被害が出ない程度の氷ならこれで充分のはずだ。長期戦に持ち込まず、即決してしまいたい。

八百万は細道を覗き込み、轟の後ろ姿を確認する。この距離で轟が此方の気配を察知していないのは不自然だが、近付かなければ彼を捕獲出来ない。八百万は今が仕掛ける時だと、駆け出した。

「轟さん!お覚、悟!?あ、あらっ!?」

すてんと足を滑らせて転んだ八百万が、愕いて閉じた目を開ければ、轟が目前にいた。咄嗟に彼の手首を掴むが、氷で手首と足首を拘束された。

「あらかじめ、氷を炎で溶かして滑りやすくしておいた。すまねえな、頭打ってねぇか?」
「ええ。受け身は取りましたから。早計だった自分が不甲斐ないですわ」

早く仕留めたい気持ちの焦りがアダとなり、完全にドジをしてしまった。対戦相手に心配させてしまうとは、まだまだ研鑽が必要であると八百万は決意を新たにする。

「決着ついたな」

家の屋根から二人を見ていた相澤は地面に下りて、轟と八百万の元にやってくる。

「引き分けだ」
「え?」

愕いている轟の左手首を相澤は指差す。

「あ」

八百万の手はグローブで覆われていた。グローブの掌には何かが付着しており、轟の手首とくっ付いているのだ。

「衣服用の瞬間接着剤ですわ。峰田さんのもぎもぎから発想を得ましたの」
「完全に相手の動きを封じた轟に分があるが、アイデアは八百万に軍配が上がるな。採点チェックでは同点になった」

結果に不満があるかと、相澤は轟に目配せした。轟は何もないとかぶりを振る。採点結果に納得している様子に相澤は面倒臭くなくて楽だと、チェック表を閉じた。

「モニタールームに移動だ」

相澤は轟と八百万を引き連れて、リカバリーガールが待機しているモニタールームに向かう。

「リカバリーガール、治療を頼む」
「あいよ」

リカバリーガールは椅子に座った八百万の霜焼けを個性の癒しで治した。

「有り難う御座います」
「はい、これ食べな」
「いただきます」

シンリンカムイケースからペッツを取り出すリカバリーガールに八百万は手を差し出した。

「アンタもお食べ」
「……いただきます」

轟も貰った。

「イレイザーヘッドもいるかい?」
「授業中なんで」

相澤は断った。
貰ってはいけなかったかと、八百万と轟の視線にお前らは食っとけと相澤は掌をひらひらさせる。
それから各ステージを映すモニターに視線を向けた。

「他のとこも終わったみたいだな」
「緑谷と爆豪以外はね」

リカバリーガールの言葉に相澤は二人のステージが映るモニターを視線で探し、見つける。

「まだ始めてないのか?」
「そうさね。さっきまでここにいたからね」
「ここにいた?」

首を傾げて此方を振り返る相澤にリカバリーガールは大きく頷く。

「サラシ巻くか巻かないで揉めてたよ」
「ああ。この間も揉めてたんで納得です」
「そうかい?まあ、爆豪が緑谷に巻いてやって事なきを得たよ。それにしても、爆豪は緑谷の扱いが雑だね」

サラシは綺麗に巻いてやっていたけれどと、リカバリーガールは悩ましげな顔をする。彼女は期末試験で仲が最悪なところを見ているのだから無理もないと相澤は肩をすくめる。

「この間も喧嘩したんだろ?闘わせて大丈夫なのかい?今のオールマイトじゃ二人を止められないだろうに」
「そこは俺も心配してますが、まだ始めていないなら都合がいい。いざとなったら、俺が止めに入ります」

力を失ったオールマイトが力付くで二人を止めるのは難儀だ。
元々、この対戦授業の立案はオールマイトからの進言によるものだった。勝己が出久との対戦を望んでいるらしいことが判ったので、相澤は二つ返事で引き受けた。
カリキュラムはB組とも合わせないといけないため、ブラドキングにも話を通す必要があったが、彼は融通の利く男だ。実際、今回の立案も了承を得ている。

ヒーローは同業者と組んで闘うことも多い。そこを鑑みて、複数人でのチームバトルを考えていたところだが、体育祭のトーナメントのように一対一での対戦は原点に帰ることが出来る。期末試験で組んだ相手なら、長所と短所の見極めにも繋がる筈だと踏んだ。
それに、殆どの生徒が必殺技を会得している。対戦すれば技の使いどころも見えてくることを考えれば、悪い提案ではなかった。

懸念があるとしたら、オールマイトが気を回しすぎて止めに入らないことだ。だから、相澤は自分が割って入れるよう、事前に出久と勝己の対戦開始は遅らせるようにオールマイトに言いつけていた。それはサラシ問題で杞憂に終わったので、気にする必要はなかったわけだが。

「緑谷には大怪我させないように頼むよ。あの手はあれ以上悪化したら、もう手遅れだからね」
「分かってます」

リカバリーガールと相澤の会話に轟と八百万は汗を浮かべる。

「あの、緑谷さんの手はそれほど重傷なのですか?」
「重傷ってもんじゃないよ。内側が粉々になってたのを無理矢理繋げたんだ。筋繊維を壊して再生で作り直すってレベルじゃないからね、あれ。林間での緑谷の功績は大きいけど、捨て身は褒められたもんじゃないよ」

林間の言葉に轟が反応する。勝己と合流した時には既に出久は動いていい状態ではなかった。気絶していてもおかしくない状態で、それでも意識を保っていたのは勝己を敵に取られたくない一心だったからに他ならない。

「アイツ。緑谷は、あの手で料理出来ますか?」
「料理?まあ、お味噌汁とか卵焼きなら簡単だし、やれないことはないと思うよ」
「そうですか」
「けど、なんでまたそんなことを聞くんだい?」
「爆豪が料理してほしいみたいだったんで」

発言者である轟以外が豆鉄砲を食らったような顔をする。

「と、轟さん?それは、爆豪さんがおっしゃっていたんですか?」
「言ってたっつうか、子供の頃に飯作ってくれる約束したんだろうな」
「子供の頃のお話ですか。ビックリしましたわ」
「爆豪のやつ、根に持ってる」
「それは……なんと言ったら良いのでしょう」

頬に手をあてる八百万の微妙な面持ちに同感だと、相澤は頭を抱える。根に持っているとは、勝己は出久を心配しているのではなく、恨みがあるからに他ならない。本当に根っこから拗れている。

「けれど、轟さん。それは緑谷さんにお伝えした方がよろしいのでは?」
「いや、爆豪に余計なこと言うなって口止めされたから、緑谷には言わねぇ」

もしかして、私は重要なことを聞いてしまったのでは?と冷や汗が止まらなくなる八百万だった。

「まあ、男は胃袋掴めばイチコロだよ」

リカバリーガールが楽しげに笑い、相澤は他人事だと思って……と溜息を零す。
モニターに視線を戻せば、オールマイトが何か出久に説明している。音声は拾っていないので、ただ会話している可能性もあるが、授業中に世間話はするまい。

まだ始まりそうにないなと相澤が腕を組んでいると、対戦が終了した生徒達が続々と集まって来た。教師達も集まり、チェック表を担任の相澤に見せながら各班どうだったか報告をし合う。

「有り難う御座います。あとはモニターを再生して確認します」

軽く頭を下げる相澤から周囲を見渡したミッドナイトは頤に指で触れる。

「あら?オールマイトの姿が見えないわね」

それに、勝己と出久の姿もない。

「まだ始まってもいませんよ」

モニターを親指で差す相澤に教師達が一斉にそちらへ目を向ける。
それぞれどんな闘いをしたか会話を弾ませていた生徒達も、二人がいないことに気付いてモニターを見つめ始めた。

「何かトラブル?」
「トラブルといえばトラブルですかね。サラシ巻くかどうかで揉めてたそうですよ」
「それ、毎回続いたら厄介ね。授業進まないし」

ミッドナイトからの指摘に、相澤は頭を掻く。それに、そろそろ始めてもらわないと時間的にも問題だ。相澤はケータイを取り出した。



市街地を想定した演習場で出久はオールマイトから事の経緯を聞いていた。

「つまり、今日の対戦はかっちゃんが僕と闘いたいから組まれたものってことですか……」
「まあ、そうなるね。相澤くんにちょっと相談してみたらあれよと話が進んでしまったんだ。その前に緑谷少年にも闘いたいかどうか意見聞こうと思ってたんだけどさ」

冷や汗だらだらなオールマイトに出久はぶんぶんと顔を横に振った。
勝己と闘えと言われた時はどうしたものかと思ったが、彼とペアを組んでオールマイトに挑めと言われた時ほどの焦りはない。

開始が遅れたことで、自分を落ち着ける時間も得られた。今この瞬間は、勝己に立ち向かおうと気持ちも上向きだ。

「あ。ちょっとごめん」

オールマイトはポケットから呼び出しコールを繰り返すケータイを取り出す。

「相澤くん、なんだい?」
『なんだいじゃありませんよ。他の先生方は全員チェック表を提出してくださっているんです。どういうことか分かりますよね?」
「え!嘘!?私だけまだ終わってない!?」
『早く始めてください。B組も次の時間からやるんですから』
「はい!始めます!」

ケータイを閉じたオールマイトは出久の肩を軽く叩いて送り出した。
後ろにいた勝己も前に進む。

「オールマイト」
「どうした、爆豪少年」
「俺ら以外には会話、聞こえてねェんだよな?」
「モニタールームも音声は拾わない仕様だからね。私達以外は聞く術はないけど」
「分かった。アンタの秘密口走っちまうかもしれねェから確認したかっただけだ」

律儀な勝己にオールマイトは苦笑する。きっと、こういう形でなければ、勝己は出久と話そうと思えないのだ。彼の背中を叩き、オールマイトは勝己を送り出した。

道路上に向かい合って立つ勝己と出久を交互に見遣る。オールマイトは片手を上に真っ直ぐ挙げ、首から下げている笛を鳴らした。開始の合図だ。

合図と同時に飛び出すのは勝己だ。出久は後ろに足を引くが、それでは過去と変わらない。下がるのをやめ、出久は身を低くして勝己の右側に飛び込むようにして爆破を避ける。
右の大振りは相手が右近くにいれば、振るえない。それを想定しての出久の判断は正しかったが、功を奏することはなかった。

勝己は右腕を出久の首に絡めて前に押し出す。
勢いに飛ばされた出久は建物の壁に背中を打ち付け、喉の痛みに咳き込む。早く動き出さなければ勝己が連続で仕掛けてくる。立ち上がりかけたその時、勝己はもう目の前にいた。

息を呑んでガードの体勢に入る出久だが、勝己は何もしてこなかった。

「かっちゃん?」
「……本気で来い。それでなきゃ、意味がねェんだよ」
「ほ、本気だよ。君相手に手なんか抜けるわけないだろ」

勝己と出久は同じくヒーローを目指している。だから、敵ではない。そう思うから、闘わなくてはならない立場ではない。
しかし、大喧嘩をした時、勝己の強さを肌身に感じて高揚した。張り合うつもりはないと逃げてきたが、もう出来損ないではない。さっきだって、後ろに下がることはしなかった。

本気だと訴えかけるのに、勝己は信じた顔をせず、眉を歪ませる。

「クソナードなら知ってるよなァ。俺がどんなヒーローになりてぇか、あのクソノートに書いてあんだろ」
「オールマイトをも、超えるヒーロー」
「そうだ。オールマイトに勝つことはもう出来ねェ。だが、オールマイトの力を持ったてめェがいる。その個性は受け継がれるごとに力を増幅してくんだったな。なら、力を自分のもンにして掛かって来い!てめェに勝てば俺は俺のなりてぇヒーローになれんだよ!」

勝己は右手を大きく振り上げた。

これを言う気などなかった。誰にも、出久にも。だが、ずっと、何処かで吐き出したかった。殴るように出久にぶつける。

「俺は認められたかった!オールマイトじゃねェ……てめェに、あの日から!ずっと!いいか!ずっとだ!」

頭をガードしながら、出久は咄嗟にしゃがみ込み、爆破の直撃を避ける。

「何、言ってるんだよ。僕は君にずっと憧れてた。とっくに君の強さを認めてる」
「俺を騙すな!てめェは何一つ俺を認めてなんかいねェ!助けを求めてる顔してただァ?見下すのもいい加減にしろや!!」

あの時も、ヘドロの時も、もっと遡れば川に落ちたあの日からずっとだ。
出久は此方を認めない。勝己はずっとそれが許せなかった。

勝己の蹴りが入り、転がりながらも出久は体勢を立て直す。

「見下してなんか……!ただ、君を助けなきゃって」
「それが見下してんだろが!俺はここで一番になってやるんだよ!てめェの助けなんざ必要ねェ!」
「……嫌、だよ」

蹴られた脇腹を押さえながら、出久は立ち上がる。
よろけたが、顔をあげて勝己の姿をその目に映し、出久は息を吸う。

「あァ?」
「嫌だよ!君を放って置くのは嫌なんだ!あの時、君が僕を助けようとしたのを拒絶して、君を傷付けてしまって、助けを求めてる君に何もしてあげられなかった!もう、あんな思いはしたくない!」

身勝手な出久の言葉の羅列に勝己は苦虫を噛み潰し、怒りを露わにする。
何もかもを自分で決めつける出久に、腹の底から煮えくりかえる。此方の都合さえ無視する目の前の存在に勝己は苛立ちのままに怒鳴りつけた。

「てめェの都合だろ、そりゃ。俺に押し付けんな!」
「押し付けてなんかない!君は君の思う通りにすればいい!僕だって勝手にする!」

言い返してくる出久に更に苛立ち、勝己は青筋を浮かべる。
彼女の言い分は殆ど子供の癇癪で、筋が通っていない。無個性なのにヒーローになりたいと抜かしたのと変わりない。
今更、ヒーローになりたいと抜かす出久を出来もしないくせにと罵る気はないが、思考回路に全く成長が見られない。本当にあのままだ。
あのままなのに。と、勝己はギリッと歯を食いしばってから大きく開いた。

「わけのわかんねェこと抜かすな!クソが!」
「わかんないことなんか言ってないよ!君はいつだって強くて、凄い人なんだ!僕以上に君を認めてるヤツなんかいない!ここで一番になるんだろ!?だったらそうしろよ!勝てよ!僕に勝ってよ、かっちゃん!」
「言われなくてもそうするわ!」

突っ込んでくる勝己に出久はフルカウルを纏った足で蹴りを放つ。それよりも爆破が早く、煙を蹴った出久は手応えの無さにしまったと悟るが、もう足首を勝己に掴まれていた。

振り回され、飛ばされた出久の身体はビルの壁に叩きつけられた。高さは五階だ。
普段の身体能力でこれだ。腕力だけでこれほどまでの高さに人ひとりを投げ飛ばすなど並大抵ではない。
出久は無意識に笑っていた。

「笑ってんじゃねェ!A・Pショット!!」

しかし、勝己の方は眉間に皺を刻んで、更に攻めに入る。

一点集中の起爆を避け、爆風に背中を押されている間に出久は全身にフルカウルを巡らせて、ビルからビルへ跳躍した。彼女の軌道は勝己の動きを模したものだ。簡単に勝己に追い付かれる。

「猿真似なんだよ!」

出久が足場にしたビルとは反対側のビルに足をついた勝己は、並んだ時点で並走の選択はしない。スピード勝負なら此方が有利だからだ。

五指を振り上げて向かいくる勝己に、出久もまた同時に瞬発し、加速を上乗せで向かう。
ビルの壁を足場にしているため、重力の方向的に踏ん張りは地面より落ちるが、今までより身体の安定感はいい。胸の重みを気にしなくて良くなったのは勝己のお陰だ。

本気で行く。

「真似だけじゃッ、ないよ!」

跳躍し、空中での前転で勢いを乗算した出久は右足を振り抜く。右足に十パーセントのフルカウルを集中させる。オーバーヒートは覚悟の上だ。
自分の身も守れていなければヒーローは務まらない。だから、ぎりぎり出せる出力は先日の喧嘩で試した八パーセント。それを越えている。越えていなければ、勝己と向き合うなど出来ないから。

それでも、出来る範囲内である必要がある。無茶をして、無理をして、血狂いマスキュラーには出来る範囲をはみ出た。運良く、怪我だらけで生きていたに過ぎない。
だから。
調整、上手くいけよ……!と、出久は強く念じながら、勝己を見据えた。

この間の喧嘩よりもスピードが乗っている。予備動作も少なく、最小限。全てが今までで一番洗練されている出久の動きに勝己はようやく口端を上げる。
身体に捻りを入れながら、掌の発汗から爆破を連打する。

「最大火力だ!ハウザーインパクトォ!!!」
「スマアアアアアッシュ!!!」

光の奔りと爆煙の混ざり合いにオールマイトは慌てて駆け寄る。授業だというのに、どちらも最大威力を互いにぶつけたのだ。
お互いに手加減を知らないのは危険だ。

「二人共!流石にやりすぎだ!」

熱気と煙が空気に散り、二人の姿が見えた。
勝己の右腕の籠手は半壊しており、アイマスクも剥がれて頬に赤い一線傷をつくっている。出久はスーツが全身煤け、軽い火傷を額に残していた。
顔も身体も傷だらけの二人にオールマイトは叱責したが。

「邪魔だ!オールマイト!」
「退いててよ!オールマイト!」

勝己と出久が同時に吠えた。
二人に怒鳴られたオールマイトは「うわ」と愕いて下がってしまう。

「まだ終わってねェぞ!!」
「僕だってまだやれる!!」

オールマイトに向けていた顔を戻し、互いを睨み合う勝己と出久は臨戦態勢に入る。

間に入る隙もなく、次の一撃に力を込める二人を見ているしかない。
オールマイトは何も出来ない自身の両手を見下ろす。個性を授けられる前の、無個性の自分は、これほど無力だったのだ。

「マシになったじゃねェか!無個性だったくせに!」

出久に向けた勝己の言葉にオールマイトは顔をあげる。

「ずっとムカついてたんだ!俺が追い越す奴らはみんな違う顔だっつーのに、後ろを振り返ればいっつもてめェだ……!」

そんな道端の石っころが横に並ぼうとして来て、むしゃくしゃする毎日が続いた。

「張り付いてくるくせに、ちっとも俺を認めねェその態度が気に食わねエ!!」

勝己は使い物にならなくなった右の籠手を出久に投げつける。それを慌てて避けて、出久は反論した。

「だから!認めてるって僕は!」
「忘れたままなんだろ!てめェは!だったら同じことなんだよ!」

顔を合わせても、出久はすぐに視線を逸らす。それと同じで、出久は此方を見ていないのだと、勝己は長年苛ついてきた。
約束だって忘れたのだ。あの、出久が髪を短くした日の前日のことだったのに。

周りの遊び相手達が女である出久と虫取りに行きたくないと言ったのを跳ね除けてまで、出久を一緒に森に連れて行ったのは大人になっても傍にいると約束したからだ。
あの頃は、出久の目は真っ直ぐに自分を見てくれていた。それが、今はどうだ。

「てめェは俺から目を背けてんじゃねェか!」
「ッ、」

目を背けている。そう言われて、出久は思い当たることがあった。
勝己との思い出をいくつか忘れているのは、彼の良いところ、優しさから目を背けていたからだと気付いたばかりだった。勝己からしたら、認めていないのと同義だったのだ。
自分勝手に勝己はこういう人だと決めつけて、優しい勝己は勝己らしくないと決めつけていた。あの時、勝己が迷子のような顔をしたのは、自分が彼を見ていなかったからだ。

ようやく、本当の意味で理解して、出久は後悔に顔を歪ませる。勝己が此方を振り返るとき、彼は一度だって目を逸らさず、真っ直ぐに見てくれていたのに。

動きの鈍くなった出久に勝己は飛び掛かる。
勝己は出久の頭を押さえ込み、地面に伏していた。喧嘩の夜と同じように。
脳裏に、再び、あの時のことが蘇った。染まる赤い色に勝己は顔を顰める。

「俺が欲しいのは、てめェじゃねぇ」

幼い日に「おっきくなったら、かっちゃんのために頑張ってごはんつくるね!」と自分とは比べものにならないほど下手くそな泥団子を手に約束したアイツが良かった。自分よりも要領が悪くて、何も出来ないアイツが良かったんだ。

「デクだ」
「かっちゃん?」

勝己の手から力が抜けたこともだが、彼の言葉の意味が汲み取れなくて出久は疑問を抱く。
彼の言うデクは自分以外にいないはずだった。
出久の疑問に答えるように、勝己は続ける。

「出来損ないのデクだ。今のてめェは……違ェ……」

勝己は出久から手を離し、後ろに数歩下がる。今の出久は自分にはいらないのだと。

出久がわからなくなっていくのが厭だった。轟に言われた言葉が蘇る。わからなくて当たり前だと。最初からわからないなら、それでいい。
しかし、違うのだ。

出久がどんどんわけのわからないものになっていくのが、怖かった。麗日に言われた言葉が巡る。怖いから遠ざけようとしている。
その通りだった。

出久でいてほしいのに、出久にいてほしくない。

意識していないのに、目から勝手に流れるそれが邪魔をして視界が霞む。勝己はグローブ越しの手で目をこすった。
手を退かせば、倒れていたはずの出久が眼前にいた。しかし、出久は攻撃を仕掛けるわけではなく、予想外の動きをしてみせた。

唇に触れた感触に、勝己は「は?」と口に出来ない。触れたそれに塞がれているからだ。
出久が自分のそれと此方のそれを触れ合わせてきたと理解した瞬間、勝己の頭に血が上った。

ガリッと厭な音がした。
出久は咄嗟に勝己から離れる。

「痛っ」

手で唇に触れれば、白いグローブに血が大量に付いた。うわっと、出久が此方の唇を噛んだ勝己に目を向ける。

「ペッ」

勝己は唾を吐き捨て、口元を心底嫌そうに手で拭った。
余りにも酷い反応に出久の心は折れかける。けれど、勝己が「欲しい」と言ったのだ。

泪を流す勝己に、胸の奥がぎゅっとして、気付いたら彼に口付けていた。
気持ちが急いてしまった。だから、ゆっくり、言葉を紡いでいく。
彼にも伝わるように。わかってもらえるように。

「今は、今の僕を捨てられないけど、君に追いついて追い越したいから」

勝己が求めているのは、今の自分ではないのだと、痛みと血の味に無理矢理にでも思い知らされた。
それでも、いつかは来るのだ。

「けど、僕だって、いつか、オールマイトと同じようにこの個性を譲渡しなくちゃいけない日が来る。そしたら、無個性に、君の言う出来損ないに戻るんだ。力を失ったオールマイトを見て、その日が来るの怖いって思った……思っちゃったんだ。でも、君が、木偶の坊の、出来損ないのデクが良いって言ってくれるなら、僕は……!」

この先が怖くないって、思えてしまったんだ。

嫌な渾名だった。意味もすごく嫌だった。
お前は何も出来ないんだと、決め付けられているようで。けれど、勝己は決め付けていたのではない。彼が、そうあってほしいと望んで呼び続けていたなら……嫌だと思えるわけがない。

もう一度。もう一度だけ、言ってもいいだろうか。

「君が、好きなんだ」

右手を差し出し、出久は勝己を見つめる。目を逸らさない。これからは、逸らさないから。

「付き合ってくれないかな」

出久の右腕を掴み、勝己は投げ飛ばす姿勢を取った。

「死ねええええ!」

死ね!?
デジャヴを感じた出久だが、期末と同じように遠くにブン投げられることはなく、地面に背中をしたたかに打ち付ける。

「ッ」

背負い投げされた痛みに涙目になる。

反撃しなければまた自分の敗けだと次の行動を選択し始めるが、勝己は此方の手を掴んだまま離さない。
攻撃を仕掛けてこない勝己に出久は選択肢からどれかを選びきれなかった。相手の動きを予測出来る僅かな初期動作が見当たらないからだ。

「離さねェ意味、分かんよなァ!」
「ぇ……あ…………えと」

出久の頭の中で選択肢が全て霧散した。
手を離さない。それには意味があると勝己がわざわざ口にしている。

出久は結び付いた意味に痛みとは違う想いで瞳を潤ませる。真っ赤な顔で唇を震わせた。

「付き合って、くれるの?」
「……」

返事はなかったが、勝己が掴んでいる手に力を込めた。顔が歪むほど痛かったが、それ以上に出久の顔は緩んでいく。

「一番じゃなくていい。君にとって、都合の良い女で良いんだ」
「笑わせんな。てめェが俺に都合良かったことなんざ一度もねェんだよ」

ハッ、と吐き捨てた勝己はまだ出久はちゃんと理解していないようだと、出久を抱え上げ、投げ飛ばした。

瓦礫の山に突っ込んだ出久は彼方此方を打ち付けて、咄嗟には立ち上がれない。身動き出来ないでいる出久へと、勝己は一歩一歩踏みしめて近付く。
瓦礫を登り、勝己は倒れ込んでいる出久を睨み付ける。

出久は此方が欲している出久に戻る日が来ると言う。だが、それを決める日が出久の意思であるのは癪に触った。

「いいか。見下すのはやめたが、俺はてめェに追い抜かれるつもりはねェし、抜かさせねェ。てめェを出来損ないの木偶の坊にすんのは俺だ。俺は俺をてめェにくれてやる気なんざねェかんな!」
「えと、つまり……」
「デクの手なんかいらねェんだよ。俺はてめェの助けは待ってねェ!」

いつかを待つ気はない。

「てめェが俺の手を掴め」

差し出された勝己の手を前に出久は言葉をなくす。
全身にある怪我の痛みは関係なく、ただただ愕きすぎて動けないでいる出久に勝己は舌打ちした。

「掴め!」
「う、うん!」

繋がれた手を引っ張り、勝己は出久を立たせ、引き寄せる。抱きしめれば、出久が青い顔をしたが、彼女が想像するようにへし折る気は無かった。
勝己が力を込めてこないと判った出久は蒼白な顔を赤らめ、おずおずと自分も彼の背中に腕をまわした。
出久からの応えに満足する気持ちがあり、勝己はずっと求めていたのは、やはりこれだったと腑に落ちる。けれど、欲しいのは今の出久ではない。無性に腹が立ってきた。

抱擁する勝己と出久に、オールマイトはようやっと胸を撫で下ろした。
これでハッピーエンドかなと、ニコッとした顔の横を緑色の何かが飛んでいった。

「え」

後ろを振り返れば、今度は勝己の背中が此方を追い抜いて行った。

「完膚無きまでにてめェをブッ潰して、俺は一番になる!ついでにてめェは出来損ないのデクだ!」
「ま、まだ、戻る気なんかないよ!君を越えてからじゃなきゃ!」
「生意気なこと言ってんな!そんな日は来ねェんだよ!」

闘うことをやめない勝己と出久にオールマイトは慌てて二人に駆け寄る。ひとまず二人の確執に決着がついたのだから、これ以上体力を擦り減らす必要はないはずだ。勝己も話し合いを重視して、持ち掛けてきた対戦ではなかったのか。

「爆豪少年、待ちたまえ!緑谷少年も!決着はついたはずだ!?」
「はア!?ついてねェわ!」
「勝負はまだ終わってません!」
「いや、でもね、そろそろ時間が」
「そうだ。時間がない」

四人目の声にオールマイト、出久、勝己がハッとする。気付いたときには、出久と勝己は拘束されていた。

「あ、相澤くん」
「終わりそうにないんで、止めに来ました」
「手を煩わせてしまってすまない」
「いえ、別に。モニターの映像から話はついたように見えましたが……」

横目に勝己と出久を見遣る相澤にオールマイトは何度も縦に頷く。

「ついてる!ついてるよ!」

勝己から不満そうなオーラが出ているが、オールマイトは相澤に気にしないでと身振り手振りする。

「じゃあ、お前らも引き分けな」
「も?」

相澤の拘束を解かれ、出久が首を傾げる。

「轟と八百万も引き分けだった。他の奴らも引き分けが多かったな、全体的に」
「そうなんですか。あ!あとでみんなの映像って観られるんですか?」
「いつも通り、授業の映像は閲覧可能だ。……にしても……酷い顔だぞ、緑谷」
「あー」

出久の頬には火傷や殴られた痕が幾つもあり、腫れている。それに、鼻血も出ていた。
特に、切れた口から流れている血の量が尋常ではない。

「爆豪も噛むことないだろ。たかがキスされたくらいで」

まだ拘束を解かれていない勝己は相澤に納得出来ない目を向ける。

「ま、待ってください!相澤先生が見てたってことは、轟くんと八百万さんも……」

僕がかっちゃんにしたとこ見てたのか?と出久は声に出せず、パクパクする。
それを前にして、相澤は頭を掻く。

「まだ始めてすらいなかったのはお前達だけだ。クラス全員見てる」
「ひゃ!」

顔を真っ赤にする出久の胴をぐるぐる巻きにして相澤は引っ張る。全身をぐるぐる巻きにしたままの勝己はオールマイトに任せた。

「よし。じゃあ、みんなのとこに行くぞ」
「ままま待ってください!今はまだ心の準備が!」
「大丈夫だ。全員、お前にドン引きしてたよ」
「違う意味で準備出来ない!」

相澤と出久の応酬が遠退き、オールマイトは苛ついている勝己を冷や汗たらたらで見遣る。

「解くよ、爆豪少年。噛まないでね」

猟犬のように唸っていて今にも噛み付きそうな勝己の全身を覆う捕縛布をおっかなびっくりで解いていく。
勝己は噛み付いてくることなく、すでに姿の見えなくなった相澤達が去った方向に進む。その背中にオールマイトは言葉を掛けていた。

「私のせい、だろうか」

オールマイトからの言葉に勝己は足を止めていた。振り返らず、ただ、そこに止まる。

「……なんでだよ」
「君は、個性のなかった緑谷少年が良かったんだろう。私が力を授けたことで、彼女は雄英に合格した。だから君は彼女を襲った。違うかい?」
「違わねェ。けど、オールマイトのせいだってのは結果論にすぎねぇ。切っ掛けはどうあれ、俺は最初っからアイツにムカついてたんだ」

だから、オールマイトが責任を感じる必要は何一つないと、勝己は止めていた足を前に進めた。

「結果論、か……」

オールマイトは自分の両手を見下ろし、グッと握り込んだ。
それから、勝己を追い掛けて隣に並ぶ。
見上げてきた勝己と視線を合わせれば、顔を逸らされてしまった。オールマイトは少し悲しくなる。

沈んでいるオールマイトに勝己は微妙な顔をしながら暫く無言だったが、不意に口を開いた。

「認めてたんだ」
「爆豪少年?」
「ガキん頃、川に落ちた。浅かったから平気だったのに、アイツだけが大丈夫かって手を伸ばしてきやがった。そのとき、コイツはヒーローなんだと認めちまった。認めた俺自身を認めたくなくて、ずっと苛ついてきた」

勝己の自尊心に繋がる根幹はそこだったのかと、オールマイトは内心で唸る。勝己の中で出久を認めたくない気持ちが大きくなるにつれて、自尊心も膨らんでいったのだ、と。

「認められねェ弱い自分を認めんのも嫌だった。俺は自分さえ、認められずにいた」

出久には上手く言葉にして言えなかった。まだ、彼女に対してもやもやとした感情がある。
オールマイトに伝えるために口にしているわけではなかったが、オールマイトになら胸の内を言葉に出来た。きっと、出久と重なって見えるときがあるからだろうと、勝己は何となく理解していた。

ほとんど独白で、聞くようなものではないのに、勝己の言葉一つ一つをオールマイトは聞き逃さないように深く頷く。

「君は強くなっている。大丈夫だ」

認めているのに認められなかった矛盾を正そうとしている勝己は強い。自分を弱いと認められる人間ほど強いものだ。
勝己がこの先、間違った道に進むことは決してないだろう。敵に捕まっても屈しなかったのがその証左だ。

歩く速度を速めた勝己にオールマイトは照れているのかなとそわそわし出す。

「爆豪少年も緑谷少年のことが好きだったんだな」
「ハ?」
「え?」
「何言ってんだ、オールマイト。寝言は寝て言ってくれよ」
「え?いや、え?違うの?」
「……オールマイトは愛とか勇気とか信じる派かよ」
「うん。平和の象徴だったからね」
「なら、説明するけどよ。好きだとか嫌いだとか曖昧な感情、気に入らねェ。俺は勝ちたい。それだけだ」

実にシンプルな勝己の言い分は気圧されるほどしっかり筋が通っていた。勝己の考え方とは違うが、否定の余地がないほどにオールマイトは納得させられてしまう。

「なら、緑谷少年は……」
「デクに勝ちてェってだけだわ」

今の、オールマイトの力を持った出久を勝己は欲しいと思えないが、自分が強くなるためには必要だと認めた。矛盾が一つ消えたら、また別の矛盾が増える。出久のことは勝己にとってわからないままだ。その中で確かなのは、彼女に勝ちたい感情に尽きる。

勝己らしい認め方にオールマイトは苦笑し、一呼吸置く。

「爆豪少年、一つお願いがあるんだ」
「あ?」

畏るオールマイトに勝己は僅かに首を傾げる。

「緑谷少年が今の私と同じようになった時、傍にいてやってほしい」
「……なんでそれを、オールマイトが言うんだよ」
「私は力を失って、守られる側になった。君に気イ付けろって言われた時に実感したよ、無力な自分を。虚無ってやつだ。誰かを救えない虚しさ、無個性に戻って痛感した。そして、私は緑谷少年に力を譲渡した時、これから更に先のことを考えてはいなかったんだ。私と同じ道を辿るのは避けられない」

自らの終焉が見えていたオールマイトだが、早く後継を見つけなければいけない思いの焦りもあった。出久を選んだことは早計ではなかったと断言出来るが、先の先まで考えて選んだのかと問われれば否だとしか答えられない。

家庭訪問で緑谷家を訪れた際、出久の母である引子に娘が貴方と同じ末路を辿るのを見たくないと吐露された。あの場で、オールマイトはそうならないように見守り育てると誓った。誓ったが、出久と自分の過去が重なり見える時が何度もあった。恩師であるグラントリノからも指摘された。出久はお前に似ていると。

「ハッ」
「爆豪少年?」

鼻で笑い飛ばした勝己にオールマイトはパチパチと目を瞬かせる。そんなオールマイトに、勝己は宣言する。

「オールマイトも聞いてたんだろ。俺は出来損ないのアイツが良かったんだ。力使い果たしやがる前に俺がブッ潰して貰ったるわ」

ズンズンと前に進んで行く背中をオールマイトはその場でポツリと見送る。
勝己の言葉は頼もしいものであったし、嬉しいとも思う。けれど。

「なんだろう。この切ない気持ち……」

オールマイトはとぼとぼと歩き始める。
勝己の歩く速度は速く、オールマイトは置いていかれる形になっていた。姿が見えなくなるほどだったが、モニタールームの建物が目に届くところで勝己は佇んでいた。待っていたのだろうかと、オールマイトが近づけば。

「オールマイト!」

勝己が唐突に振り返ってきた。その紅い瞳には決意が強く現れていて、燃える色を携えている。

「さっきの、虚しいってやつだがな!そんなこと言うんじゃねェ!俺はどんなピンチに陥っても必ず勝つオールマイトの姿に憧れた。アイツも、理由は違ェが、オールマイトに憧れた。それさえも無かったことにされんのは御免だ!いいな!」

前に向き直った勝己は歩みを再開し、オールマイトは距離が離れていく彼をぽかんとその場で見つめるはめになる。
生徒に励まされてしまったと、オールマイトは頭を抱える。しかし、その顔には笑みが浮かんでいた。

誰かを救うと、他人のことばかり考えていた自分が、力を失った途端に自分本位になっていたとは。そして、自分は救うだけでなく、誰かの道標になれていたのだと。救われた思いだ。

仮免試験で救助の判定で落ちた勝己だが、彼は今のように誰かの心を救える。救ってくれる。
命を救うだけがヒーローの在り方ではない。心を救うのもヒーローだ。
オールマイトは自分の先代である志村菜奈の言葉を思い出していた。心も救ってこそ、ヒーローなんだと。



モニタールームに姿を現した勝己に一斉に視線が集中する。皆、何か言いたげだが、勝己は完全に無視している。視界の端に治療を受けてそこそこ回復している出久が医療ベッドに腰掛けているのが見えたが、勝己は気にしなかった。

「爆豪、アンタもこっち来な」

治癒してあげるからとリカバリーガールに手招きされる。

「大した傷じゃねェ」
「そうかい?かなり派手にやってたけどねぇ。ああ、婆さんのチューに上書きされるより、やっぱり若い子の方が良いかい。お年頃だしね」

勝己の血管がブチ切れた。

「はア!?クソデクよりババアのがマシだわ!」

勝己は大股でリカバリーガールの前にまで行き、診察椅子にどかりと座った。

「おや。良いのかい?じゃあ、遠慮なく」

チュウウウウウ。と、リカバリーガールの唇が勝己の頬に触れ、癒しの個性が発動する。頬の傷に絆創膏を貼られ、治癒を終えた勝己は椅子から立ち上がり、相澤を見遣る。

「講評は期末の時と同じように、後日時間を設ける。もうチャイムも鳴る頃だ。各自、制服に着替えて教室に戻りなさい」

言い切ったタイミングでチャイムが鳴り響き、オールマイトがモニタールームに顔を出した。オールマイトからチェック表を受け取った相澤は「ご苦労様です」と教師一同に軽く頭を下げる。
その間に勝己はモニタールームを出て行き、男子達がぞろぞろと更衣室に向かう。

「デクくん、立てる?」
「うん。大丈夫」

ベッド脇に座っていた出久は立ち上がったが、一歩目でふらついた。慌てて麗日が支える。苦笑しながら麗日に礼を言っている出久にリカバリーガールが自分の腰を叩きながら寄ってくる。

「軽めの治癒にしたから眠気はないだろうけど、平気って怪我でもないのは自覚しときな」
「すみません……」
「麗日、肩を貸してあげな」
「は、はい!」

女子がモニタールームを出て行き、最後に麗日と出久が出入り口を潜るが、先に行っていたはずの蛙吹達がその場に留まっている。

彼女達の視線を出久が振り返れば、建物の壁に背を預けている勝己がいた。
目が合う。

「死ね!」
「二度目!?」

出久がビクッとした振動が麗日にも伝わって彼女まで愕かせてしまった。麗日に謝っている間に勝己は鼻を鳴らして去って行った。
一体何だったのか、出久は首をかしげる。

更衣室に向かう道中、出久は芦戸達から質問責めにあっていた。モニタールームでは皆一様に静かだったが、授業中だからと口を閉じていたようだ。

「それで、キッスのお味は!?」
「血の味しかしないよ……」

まだ、切れているところから血の味がすると出久は顔を歪ませる。
リカバリーガールのお陰で顔の腫れは引いているものの、痛みはまだ残っていた。

「緑谷くんが爆豪にチューしたとき私達キャーって騒いだんだけどさ、爆豪が噛んだじゃん。それ見た男子達がギャーって叫んでたんだよ。で、相澤先生に静かにしろって怒られちゃった」
「お、お騒がせしました」
「でもさあ、爆豪も噛むことないよねー」

始終、その話ばかりだった。

勝己と出久の会話が聞こえていなかった皆には、二人がどう決着したか知る由も無いからだ。しかし、麗日だけは出久がふわふわしているのを感じ取っていた。

「あのな、デクくん」
「何?麗日さん」
「爆豪くんとは、上手く、いったんかな?」

その一言で、出久は顔を真っ赤にした。
肩を貸してくれていた麗日から咄嗟に離れてバタバタと謎の身振り手振りをする。

「あ、あああ、いや、なんといいますか!えと、かっちゃんとは!その!」

女子達の注視に出久は言葉を止める。ごくりと唾を飲み込む。
思い出すのは、此方を抱き締めてくれた勝己の温もりだ。頬に熱が溜まる。
俯き気味にぼそりと、恥ずかしさを含んだ声で出久は言う。

「付き合って、くれるって……」

言い切ると、シーンと静かになった。
出久が恐る恐る顔を上げると、麗日達は豆鉄砲を食らったような顔をしていた。そして、一抹の静寂の後に、騒ぎ出した。

一方、その頃の男子更衣室では、最後に更衣室に現れた勝己に何も言えず、誰もが口を閉ざしていた。

切島と上鳴と瀬呂が目で会話し、他の男子も目で会話しては、勝己をちらちらと窺っている。
黙って着替えていた勝己だが、制服に着替え終わった途端にグン!と後ろを向いて男子全員に吠える。

「うるせエ!!」
「いや、俺ら何も喋ってないじゃん」

上鳴が萎縮しながら、腫れ物を触るように勝己に言葉を投げる。

「目がうるせェんだよ!クソデクみたいでムカつくわ!!」

上鳴がイエッサー!と退がる。
代わりに切島が勝己を覗き込む。反対側からは瀬呂が。

「その緑谷とは上手く行ったのか?」
「付き合っちゃうとか?」

最初にモニタールームを出て行きながらも、最後に更衣室に来たということは、出久のことを外で待っていたのではないか。そんなふうに込めて二人は尋ねたのだが、勝己は心底厭そうに顔を歪めた。

「付き合ってねエ!!」

男子全員が退がった。



1年A組の教室ではちょっとした大混乱が起こっていた。

出久は勝己と付き合っていると言うのだが、勝己は出久と付き合っていないと言う。
前者が女子の認識で、後者が男子の認識だ。同じ教室内にいる出久の耳にもそれは聞こえていた。だから、出久は前の席に座る勝己の肩を叩いたのだが、睨まれて話にならなかった。見兼ねた切島が代わりに訊いてくれた。

勝己曰く、今の出久は癪に障るから付き合わないそうだ。成る程。と、納得しそうになった出久だが、いやいやいやと勝己に縋り付く。

「待ってよ!かっちゃん!手を掴んだり、抱き締めてくれたのはオーケーの返事じゃないの!?」
「誰がはいって返事したよ」
「うん、言ってない。言ってないけど、君はそういうこと言わないから、あれがイエスって意味だと思うじゃないか!」

あれ?今までと何も変わってないな。と、クラスメイト全員は二人を眺めていた。
出久との話し合いに拉致があかないと勝己は席を立つ。

「半分野郎、デクもらう気ねぇか」
「悪ぃ。遠慮させてくれ」

一人の女を取り合うのではなく、一人の女を押し付け合う光景に無言になるしかない。

「じゃあメガネ!」
「む!俺か?緑谷くんは女性として申し分ないが、断らせてもらおう。俺は緑谷くんとは友人として良きライバルでいたいんだ」
「真面目や!けど、拒否なんだね飯田くん!」

麗日のツッコミが入り、飯田は終了した。

「なら切島!」
「すまん!緑谷はパス!」

切島は力強く頭を下げる。

「次!アホ面!」
「地味巨乳は捨て難ぇけど、緑谷はなぁ、ねぇかな」
「しょうゆ顔!」
「ごめん。緑谷は良い奴だけど、家庭は任せらんねぇわ」
「尻尾!」
「え!?俺まで!?え、ええっと、ごめんなさい!」
「トリ頭!」
「修羅の道」
「岩!」
「!」

口田が標的にされ、彼は全力で顔を横に振った。舌打ちをした勝己は次々にクラス内の男子を大声で指名していくが、返ってくる答えは全てノーだった。障子も砂藤も青山も首を横に振る。

「か、かっちゃん!もうやめてよ!僕が男子みんなにフられてるみたいじゃないか!」
「うっせェ!てめェはその程度なんだよ!自覚しやがれ!」
「最低だよ君!」

と、出久と勝己が喚く中、一人、まだ勝己から指名されていない男子が二人の足元にフラリと顔を出す。

「オイラはいいぜ!緑谷のおっぱいなら大歓迎してやるよ!」

峰田が出久の胸に飛び込もうとした。が、その前に勝己が峰田の顔面を掴んで窓の外に投げ捨てた。
自分のイヤホンジャックの出番がなくなり、耳郎は前に出ていた足を引っ込めた。
出久だけが窓の外に捨てられた峰田を心配していたが、他の一同は「峰田だけは駄目だ」と心の声を一つにして勝己の行動に賛同していた。

心配して窓から下を覗き込む出久を見かねて蛙吹が舌を伸ばし、自分のもぎもぎをクッション代わりに受け身をとって無傷だった峰田を拾い上げた。

「おお……!これはなかなか、へぶち!」
「爆豪ちゃんの判断は正解よ。峰田ちゃんは誠実さに欠けるわ」

峰田に胸を触られた蛙吹はほっぺたを赤くして、助けた峰田を舌で弾き飛ばした。峰田は窓の外へ再び落ちた。もぎもぎで無事だろうと、もう誰も峰田のことは気にしていなかった。

そのとき、ガラッとA組の教室の扉が開いた。

「もう帰る時間なのに騒がしいよね!あー、嫌だ嫌だ!A組の頭の悪さが感染したらどうしてくれるのかな!?」

B組の物間だ。
今日もまた難癖を付けてきた。そして、勝己を視界に入れると愉悦に顔を歪めて口を開くが、それよりも先に勝己が前に出る。手に出久を掴んで。

「モノマネ野郎、丁度良いところに来たな」
「うわ!何!?暴力反対だよ!これだからA組は怖いよね!」
「コイツを嫁にもらえや!」

出久を眼前に突き出された物間は表情をそのまま固まらせる。ゆっくりと無表情になっていき、A組の扉を閉めた。
あの物間が難癖を途中で放棄して静かに帰っていった。

「地味に一番ショックなんだけど!」

クラスメイト達は何処かやんわりと断ってくれたが、物間は完全拒否だった。自分から行ったわけではないが、あからさまな反応に傷付く。

「クソッ、アイツも駄目か」
「かっちゃん!僕は君のものなんだけど!」
「なんだそりゃァ、気色悪ぃ」
「うわぁ……」

そこへ、峰田を小脇に抱えた相澤が現れる。帰りのホームルームの時間だった。

「取り敢えず、峰田を外に出したヤツは誰だ?」

勝己と蛙吹が手を挙げた。

「分かった。峰田は反省文書いて明日までに提出しなさい」
「なんでオイラが!?」

先生は良く判っていらっしゃると、生徒達は相澤の正しい即判断に拍手を送る。

「はい。じゃあ、全員席に着きなさい」

生徒達が自分の席に戻る中、珍しく勝己が動かなかった。粗暴な態度が目立つが、教師の言葉に勝己が逆らったことは今までにない。相澤は首をかしげる。

「どうかしたか?」
「先生、独身だよな?」
「それが?」
「デクもらえや」
「あー……教師と生徒ってのは不味いからな。先生は援助交際で捕まりたくありません。以上」
「遠回しに言ってくれたけど、顔が正直です相澤先生!」

勝己からの提案を聞いてから、みるみる表情を苦いものに変えた相澤に出久のダメージが蓄積される。

当てが外れたとばかりに、ふて腐られて自分の席に戻った勝己を視界に入れた相澤は次に後ろの出久を見遣る。オールマイトの話によれば二人の関係に決着がついたとのことだが、まだ拗れているように映った。

何か良い方向に変化があったようには見えず、相澤は切島と芦戸あたりに目配せする。二人共、両手を軽くあげて肩を竦ませた。やれやれといった動作に相澤は深い溜息をつく。

「爆豪。緑谷のことだが、別れるまでは自分で責任持ちなさい」
「別れるの前提で話を進めないでください!」

出久が席から立ち上がったので、相澤は静かにしなさいと問答無用で座らせる。

「別れるも何も付き合ってねェかんな」
「どうして君の中では付き合ってないことになってるんだよ……」

ホームルームを始めるから私語は慎めと相澤から睨まれて勝己は黙り込み、出久も口を閉じた。



寮に帰ってきて、広間で各々寛いでいる中、出久は必死に反省文を書いていた。
この間相澤から注意されたにも拘わらず、サラシの件で授業中また遅れたため、帰りのホームルームで明日までに提出とペナルティが付けられたのだ。別件だが、同じく反省文を書いている峰田が向かいの席で忙しなく手を動かしている。

広間で寛ぐ皆の邪魔になるからと自室で反省文を書こうと思っていた出久だが、峰田に一緒にやろうと誘われた。峰田の部屋に入る勇気はないし、彼を自室に入れる勇気もなく、広間でとなったわけである。

「デクくん、終わりそう?」
「うん!枚数少ないし、もうすぐ書き終わるよ」

隣に座った麗日に出久は大丈夫と微笑んだ。それに麗日も良かったと微笑み返した。

「しっかし、反省文書かされる回数さ、緑谷がぶっちぎりで一位だよな」
「嬉しくないね、その一位……」

ソファの方に座っている上鳴から指をさされながらの言われように出久は肩を落とす。だが、事実であるから受け止めなくてはならない。

峰田もやらかすので反省文のペナルティが付くこともあるのだが、出久ほどではない。それは、彼に反省文を書かせると官能小説が提出されるので相澤が回避に努めているからだ。今日の帰り際に峰田に散々真面目に反省文を書くように脅していた。

「爆豪くんが免除されているのは何故なんだ?」
「連帯責任ってわけじゃねえからだろ」

飯田の疑問に轟が答え、飯田は深く頷く。サラシの件で出久が授業に遅れを出したのは二度目だ。次があったら判らないところだが、勝己は手伝った側なのでお咎めがない。
今回はオールマイトの采配にも問題があったということで、出久に課せられた反省文の規定枚数もいつもより少なめだ。

「その爆豪はどこいった?」
「すぐ部屋に行っちまったぜ。俺らになんやかんや言われるの嫌なんだろ」
「ああ。まあ、分からないこともないけどな」

広間を見渡していた瀬呂に切島が肩を竦めて答えていた。瀬呂は出久へと視線を向かわせる。

「え!僕!?」

反省文を書き終えた瞬間に視線を感じた出久は自分を指さす。

「いや、そこ驚くとこじゃないだろ」
「どう考えても緑谷しかいないって」

うんうんと、この場にいるクラスメイト全員が頷いていて、更に出久は目を丸くする。

「緑谷も俺らにあんま話したくないとかだったら無理しなくていいんだけどさ、話せる範囲でいいから何があったか教えてくれねぇか?」

切島からの言葉に出久はううんと呻り、湿布が貼られた頬を掻く。皆には色々と迷惑を掛けてしまったとも思うし、少しだけなら言っても構わないかな……と、出久は口を開いた。

「昔の僕が良かったって言ったんだよ、かっちゃん。だから、全く望みがないわけじゃないんだって思って、告白し直してあれだったんだけど」

モニターで皆が見た一部始終があれだ。

「情報が薄すぎて呑み込めないぜ緑谷」
「え?そうかな……ごめん」
「謝まんなくてもいいけどさ。まー、つまり、爆豪的には昔の緑谷がいいってのは、具体的にどのへんなんだ?」
「うーん。多分、小さいときから中学生あたりまでじゃないかな」
「だから今の緑谷とは付き合わないってことか」
「…………うん……」

重苦しく頷いた出久に慰めの言葉が見つからず、静寂が訪れる。
何も言えなくなっている周囲を見回した八百万が前に進み出て、出久を覗き込んだ。

「そうですわ、緑谷さん!今日からお料理を始めませんか?まずはミソスープから!」
「ミソスープ!」

セレブな言い方に皆がミソスープを合唱してしまったが、要はつまり味噌汁だ。
しかし何故、料理を提案されたのか判らず、出久は首を傾げた。

「お味噌汁作ってどうするの?」
「そのですね、リカバリーガールがおっしゃっていたんです。殿方は胃袋を掴めばイチコロだそうで。それに、爆豪さんは緑谷さんの手料理を期待しているはずですから」

話が全く見えない出久はぽかんと顔にするしかなかった。どういうことなのか、八百万に疑問をもう一度投げかけようとすれば、エレベーターの扉が開く音がした。姿を現した勝己へと一斉に視線が集中する。

「かっちゃん」
「ア?」
「僕がお味噌汁作ったら飲んでくれる?」
「ッ」

カッと目をつり上げた勝己に出久はヒィ!と悲鳴を上げたが、勝己は此方に向かってくるのではなく。

「轟ィ!」

轟に掴み掛かっていった。

「かっ、かっちゃん!轟くんは何も悪くないよ!?」
「緑谷、爆豪は間違ってねぇ。八百万に言ったのは俺だから、爆豪が俺に来るのは普通だ」
「普通なの!?」

勝己に胸倉を掴まれているのに冷静すぎる轟に出久は愕くしかない。

「半分野郎!俺を無視してんじゃねぇわ!てめェ余計なこと言ったろ!!」
「緑谷には言ってねえぞ」
「デクの耳に入ったら同じだろーが!」
「そうか。悪ぃ」

相変わらず抑揚のない轟の返事に勝己の怒りは溜まる一方だ。しかし、勝己は轟の胸倉から手を離して、 ソファの空いている場所に座った。
勝己の横顔に出久は声を掛ける。

「かっちゃん、あのさ」
「勝手にすんだろ」
「え?」
「なら、勝手にしろ」

闘った授業中に出久は勝手にすると言った。自分が啖呵を切ったのは覚えている。
此方の言い分に勝己は苛立っていたのに、今はそれで構わないと受け入れてくれていた。
出久はいてもたってもいられず、食事スペースにあるこぢんまりとしたキッチンに向かう。麗日達も手伝うと言って、女子が広間から消えた。

男子だけになり、切島は勝己を見遣る。

「爆豪、ちょっといいか?」
「クソデクのことだったらブッ殺す」
「じゃあ、やめとく」

勝己が顔を上げれば、切島はそっぽを向いた。

眉間に皺が寄る勝己に誰も近寄れないでいたかと思えば、上鳴が自分の場所から立ち上がってソファの後ろからフランクに勝己の肩に腕をまわした。

「でもさぁ、ぶっちゃけ爆豪の本命は緑谷だろ?昔の緑谷が良いって本人に言っちまうくらいにはさ」
「……アホ面、歯ァ食いしばっとけ。舌切らねぇようになァ」

凶悪な面構えになった勝己の拳で上鳴が沈んだ。
やめとけばいいものを……と、周りが上鳴に哀れみの視線を送る中、切島は意を決した。上鳴の犠牲を無駄にするのは漢ではないからだ。

「俺らも詮索するようなことして悪かった。けどさ、お前ら二人見てるとやきもきするんだって。だから、これだけ教えてくれよ。昔の緑谷って、いつのときの緑谷なんだ?」
「…………」
「緑谷は小さいときから中学生までかなって言ってたぜ。本当のところどうなんだ?」
「…………」
「ダチからの一生のお願いだ!」

パン!と両手を合わせて頭を深く下げる切島の懇願に勝己は少しばかり身を引く。そこまで親身に、真剣になって聞くようなものではない筈だ。
暫く、勝己は切島の頭を見下ろしていた。なかなか頭を上げない彼に根負けしたわけではないが、頑なに口を閉じなければいけない話でもないと思った。

「……ようちえん」
「…………」
「……んだよ!」

吠える勝己に切島は口を押さえる。その顔は何かを堪えていて赤い。他の皆もそうだ。
まさか、勝己の口から幼稚園の言葉が出てくるとは思わなかったのだ。そのあたりの時期を指すにしても彼ならガキの時と言いそうなものなのに、具体的に言ってくれた。正直な感想として、勝己の口で幼稚園は似合わなすぎる。

彼らの反応にいちいち喚くのも癪で、勝己はもう話し掛けてくるなとソファにふんぞり返った。
周りの反応を意に介さず、我が物顔で宙を睨み据える勝己に誰かが「爆豪らしいな」と呟いたことで、この話題はお終いとなった。

「お。良い匂いする」

沈んでいた上鳴が顔を持ち上げて鼻をひくひくさせた。

「出来た!かっちゃん、飲んで!」

出久の手にあるお椀になみなみ注がれている味噌汁は具が無かった。寮での食事はランチラッシュが全て用意しているため、キッチンに常備されているのは調味料ぐらいで、味噌があっただけでも奇跡だった。

差し出されている味噌汁を勝己は眉間に皺を寄せながらも受け取った。女子も全員が広間に戻ってきていて、男子達に混ざって二人の様子を固唾を呑んで見守る。
一口、味噌汁を啜った勝己は眉間の皺を増やした。

「違ェ」

お椀を突き返され、出久は殆ど減っていない中身を見て沈む。

上鳴が近寄ってきて味見したいと言うので、出久はお椀を手渡した。飲んだ上鳴が「辛!」と叫び、切島達も順に一口ずつ飲ませてもらえば、全員が同じ感想だった。出久も作りながら味見し、勝己に噛まれた唇に辛さが沁みるほどだった。実はまだピリピリと痛い。

勝己は辛い物が好きだからと彼好みに仕上げたつもりであった出久からすれば、辛いの評価は正解なのだが、当の勝己は不正解だと機嫌が悪い。
ただ、クソ不味いと言われるのを覚悟していた出久には少し意外でもあった。違うということは、飲めないほど不味くはないということではないかと。

勝己は立ち上がり、出久に向かっていく。ドン!と肩をぶつけられた。そのまま勝己は通り過ぎていく。

出久にわざと肩をぶつけていったことを飯田が勝己の背中に説教していた。真っ直ぐ歩くべきだと。勝己はあれで真っ直ぐ歩いていると出久が良く判らない訂正を入れるために飯田に手を伸ばしたところで、出久は自分の手元に戻ってきたからっぽのお椀がないことに気付く。

キッチンから水道の音が聞こえ、勝己が洗っていると判った。それには麗日達も気付いていて、出久はみんなに向かってはにかんだ。

肩をぶつけられた瞬間に交わした会話を思い出して。





――――てめェとなんか最悪だ。
――――君となら最高だよ。





























◆後書き◆

最終回です。最後までお付き合いいただきまして有り難う御座います。
付き合うとこまで書こうとしたのにかっちゃんが拒否るので彼を攻略できないまま最終回を迎えてしまいました。勝デク♀難しい。
あと、お味噌汁は一生かっちゃんから合格点もらえないんじゃないかと思う。

お互いの本音を言い合う13巻14巻の二人の大喧嘩シーンが好きで書き始めたシリーズなので最後もそこを起源にして終結させたく、戦い合わせてみました。出久ちゃんのキックはV3キックモチーフにしてます。色合いもなんか近いし。乱打戦向いてないとなると必殺技複数持つのが一番向いてるのかな。

勝デク♀メインですが、オールマイトにも元気出して欲しいと出番多め。かっちゃんが後ろ歩くオールマイト気にしてるのは前に立っていた背中が後ろにあるのが落ち着かない。
前回のお茶子と今回のオールマイトに同じこと言わせてます。かっちゃんに出久ちゃんの傍にいてもらいたいってところ。一人じゃ駄目だって共通の認識がある。それはかっちゃんも感じている部分だからいずれ貰ったるって流れになりました。

それからかっちゃんが次々に男子指名していく順番は出久ちゃん任せても大丈夫な順です。障子君もうちょい上でも良さそうだけれど、かっちゃん障子君のことなんて呼んでたっけ?と詰んだので下の方になってしまった…。

二人の決着は一段落。しましたが、全部回収仕切れていないなって思うところもあり。
これから先を書きたい気持ちもあるので第二部に続きます。
長さ的にシリーズ連載の予定で、最後の辺りはR18になると思います。サイトでは今までR15でアップしていましたが、第二部から繰り上がることを何卒ご了承くださいませ。

それにしても、女体化したら雄ゴリラになる子は出久君がはじめてだった。






更新日:2018/08/09








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