※緑谷出久先天性女体化



・十五歳以上推薦
・折寺中の時に爆豪が緑谷♀を強姦(?)しています
・緑谷♀が子供を産めません

15歳未満の方は目が潰れます
(今回、年齢制限シーンやセクシーシーンがないので潰れないかもしれない)































◆Gordius -act.3- ◆









まだ四歳になる前。出久は勝己と一緒に遊んでばかりで、彼の男友達に混ざっていた。

ある日、近くの山まで虫取りへ遊びに行った。
草むらの中を進む彼らの一番後ろで出久は虫籠を持ってついていく。しかし、草だらけの中を無造作に進んでいくものだから、途中で出久の長い髪が草枝に絡み、引っ掛かった。

「かっちゃーん!」

勝己を呼ぶ出久に彼女の前を歩いていた小太りの男の子が気付く。
男の子がおや?と振り返れば、身動きが取れなくなっている出久がいた。

「おーい!かっちゃん待ってよ!あいつ引っかかってる!」

先頭を進む勝己に知らせてくれるが、近くにいた他の友達がその子を小突く。
皆、虫取りに出久を連れて行くのは反対だったのだ。公園で遊ぶならまだしも、虫取りは男の遊びだ。女を入れたくはなかった。

「女と一緒に遊べるかよ」
「そうそう、置いてこーぜ」
「……うーん。そうだな」

迷ってくれていた彼も周りに押されて先に行ってしまった。

「ま、待って!置いてかないで!」

彼らの姿も見えなくなり、出久はツツジの枝に絡まってしまった髪をどうにかしようと引っ張る。けれど余計に絡まるばかりで全く取れない。

虫の鳴き声と風に揺れる草木の音だけが周囲に響き、出久は心細くなる。このままずっと此処に一人きりで過ごすことになるのではないか。漠然とした不安に襲われる。
ボロボロと大粒の涙を流して出久はわんわん泣き出した。

「ぅ、ふえっ、あ、うあああああ」

誰か来て。誰か。
かっちゃん!

「なに泣いてんだ」
「う、え、かっちゃん?」

鼻水を啜りながら出久は手で涙を拭く。それでも涙はまだまだ溢れ、スカートまで持ち上げて拭う。

「オールマイトのキャラぱんつかよ」

勝己はスカートが汚れるからやめろと、出久のスカートを下ろして母親から持たされたハンカチで出久の顔を拭いた。

「ど、して」
「いずくがおっせーからだろ」

バクゴー事務所のサイドキック達には、明日幼稚園で報告書を提出するように言ってある。だから、勝己は出久を探しに来たのだ。
出久のもさもさ髪がツツジの枝に絡まっているのを見て勝己は溜息をつく。

「ほんとに鈍臭ぇな。今取ってやるからじっとしてろよ」
「う、うん。ありがとう」

後ろにまわる勝己に出久は礼を言うが、ポキッと音がして吃驚する。
枝を折る音に出久はまた泣き出す。

「かっちゃん!ダメだよ!折ったら可哀想!」
「馬鹿か?いずくのもじゃ髪取るなんて夜になっちまうだろ」
「でも!ダメ!」
「うるせー!」

ポカっと頭を叩かれて出久は大泣きした。

髪にツツジの枝と葉を絡ませた出久の手を引いて家に帰ってきた息子に光己は愕く。すぐに引子に電話をして来てもらうと、彼女は出久の髪の有様に大変困惑した。

「これもう取るの難しいね。切っちゃおうか」
「や、やだ!」

出久は腰まである髪を切りたくなかった。大好きな母と同じように長い髪が良いのだ。

「でも、ねぇ……」
「お母さんと一緒がいい!」

駄々をこねて泣き出す出久に引子はどうしようかしらと頬に手をあてる。
それまで黙っていた勝己は出久の手を引っ張る。此方を向いた出久に勝己は怒鳴った。

「枝折るなって泣いてたのはいずくだろーが!なら、お前も髪切れば同じだろ!」
「勝己!そんな言い方しなくてもいいでしょ!」

パシン!と光己が勝己の頭を叩く。勝己は目に涙を溜めて母親を睨み付ける。

「いってーな!ババア!」
「親に向かってババアとは何だ!クソガキ!」

また勝己が叩かれた。
出久は慌てて勝己の前に出る。

「かっちゃん叩かないで!」
「本当に良い子ね、髪こんなになったのうちの子のせいでしょ?」
「かっちゃん悪くないもん。だから、髪切る」

娘の宣言に引子は目を丸くする。さっきまで嫌だと言って聞かなかったのに。

「良いの?切っちゃって」
「うん。切って、お母さん」
「散髪用のハサミとかは家にあるから今出してくるわ」
「すみません、いつも」
「いいのよ。困ったときはお互い様だものね」

光己と引子は髪を切る準備をして、奥の部屋に出久を連れていく。

勝己は光己に入ってくるなと言われて、リビングでテレビを見ていた。教育アニメが終わってニュースが始まると、リビングの扉が開いた。
光己と引子に隠れている出久が見えず、勝己はとてとてと彼女達に近寄る。

「いずく」

呼べば、出久が少しだけ顔を覗かせる。けれどなかなか姿を見せようとしない。

「ほら、出久。勝己くん呼んでるよ」
「うぅぅ、でもぉ」
「変じゃないから、見せてあげなさい」

娘の背中をトントンと小さく叩くが、出久は引子の服を掴んで離れない。髪型が変わったのを勝己に見られるのが恥ずかしいようだ。

「いずく!今日はもう遊ばないのか?」
「やだ!遊ぶ!」

しかし子供だ。まだ遊び足りない出久は勝己と遊びたいと前に飛び出した。

腰まであった髪は肩よりも短くなり、一見男の子に見間違うほどだったが、勝己は見慣れない出久の雰囲気に瞬く。
それから、ニッと笑った。

「似合ってんじゃん!」
「え!ぁ、ありがと……」

かああっと真っ赤になる出久に引子と光己は顔を見合わせて、あらあらと口に手をあてる。

引子は出久と視線を合わせるために床に座り、娘に尋ねる。

「出久、どうする?髪はまた伸ばす?」
「ううん!このままが良い!」
「そう。じゃあ、また伸びてきたらお母さんが切ってあげるね」
「うん!」



がば!とベッドから飛び起きた出久は布団を握りしめる。かああと顔を火照らせる出久は掛布団を引き寄せて鼻まで隠す。

「思い出した……」

小さい頃。三歳までは髪を伸ばしていたのだ。母である引子の長い髪に憧れて伸ばしたがった。 けれど、森で遊んでいるときにツツジの低い木に髪を引っ掛けてぐちゃぐちゃにしてしまって、切るしかなくなった。

本当は切りたくなかったけれど、自分のせいでツツジの枝を折ってしまったのが悲しくて、それならお前も髪を切ればツツジへの報いになるだろと勝己に言われたのだ。子供の頃だからそんな言い方ではなかったが、そういう意味だった。
それが理解出来たからこそ、髪を切る決心がついた。あの頃は感覚だけで勝己の言いたいことが何でも判っていた気がする。

そんなことがあって髪を切ったのだ。引子と光己に髪を切ってもらって鏡を見たときは変だと思った。けれど、勝己に見せたら彼は似合ってると言ってくれて、それだけで短い髪が気に入った。
単純にも程があるが、本当に嬉しくてそれからずっと髪型を変えていない。

何で忘れていたのだろうか。

「髪、伸ばせなくなったじゃないか」

膝の間に顔を埋めて、暫く身動き出来なかった。

ちょっと落ち着いて、深呼吸をしてから部屋を出る。
朝の掃除をしなければと共有スペースに降りれば、勝己は既に掃除機を手にしていた。

「てめェの分は出してねぇぞ」
「うん、いいよ」

出久は掃除道具入れから掃除機を出してくる。それを持って勝己の近くに下ろす。

「おい。もっと向こうからやれ」
「ちょっと、お話がありまして」
「……んだよ」

端と端から掃除機をかけた方が効率が良い。だから、近くで掃除をするなと貶したのだが、出久は掃除の前に話がしたいと言い出す。
逡巡した勝己だが、聞いてやらないこともないと顎をしゃくって先を促した。

「髪のこと思い出したんだ」
「いつ」
「えと、夢で視て」
「確かか?」

妄想ではないのかと疑ってくる勝己に出久はブンブンと大きく顔を横に振った。
それから、幼い勝己が笑って似合っていると言ってくれたのをまた思い浮かべてかああっと顔を真っ赤にする。

あの時と同じ顔をする出久に確かに思い出したようだと、勝己は納得した。しかし、今更思い出したところで、出久が今まで忘れていたのは事実だ。勝己は出久を睨み据える。

クラスメイト達が共有スペースに降りてくると、顔を向き合わせている勝己と出久がいた。勝己は出久を目を吊り上げて睨みつけており、出久は勝己を前にして恥ずかしいとばかりに顔を赤くしている。互いの温度差が激しい。皆、訳が分からない顔をするしかなかった。

登校までにまだ時間はあるので、話し掛けやすそうな様子の出久に何人かが押し寄せる。

「緑谷どうした!爆豪に何言われた!?」
「また爆豪くんに叩かれたん?」
「ち、違う違う!」

一様に心配されて出久は全く違うのだと訂正する。

「髪短くした理由思い出したんだ」

言いながら、出久は頬を染めて勝己を見遣った。彼は舌打ちした。

「えー。聞きたい!まだ、十五分あるし教えて〜」
「ええっ、でも」

出久が勝己を窺えば、勝手にしろとばかりに掃除機をかけ始めた。
言ってしまっても良いようだ。出久も秘密の思い出でもないからと、夢に視た過去を興味津々になっている芦戸達に口伝えた。

聞き終えた皆は意外な顔で勝己に視線を集中させた。

「爆豪優しいじゃん」
「今の爆豪からは考えられねぇな」
「爆豪くんも人の子やったんだね」
「見直しましたわ、爆豪さん」
「昔の爆豪だから見直したは違わねぇか」

芦戸、上鳴、麗日、八百万、轟が順に口に出す。
彼らの声が耳に届いている勝己は眉間に皺を刻み、青筋を立ててクラスメイト達を振り返る。

「遅刻すんぞ」

ゾッとするほどの凄みに数人ほど身震いした。
飯田は掛け時計で時刻を確認し、確かにそろそろ出なければいけない時間だと号令をかける。

「いってきまーす!」
「いってらっしゃーい!」

みんなの背中を送り出し、出久は手を振った。
時間を確認すれば、朝のホームルームにはみんな間に合いそうだとホッとする。勝己が言わなければ遅刻していたかもしれない。
へらへら笑っている出久を勝己は睨み付ける。

「掃除しろ」
「うん!」

出久は掃除機を持って、昨日と同じように部屋の角まで移動する。

掃除機をかけ始める出久の背中を見遣り、勝己は溜息をつく。出久がクラスメイトに説明した内容は勝己の記憶と同じものだ。だから、本当に思い出したのだと確信した。
何故、自分は安堵しているのか。勝己はよく判らないまま掃除に集中する。



相澤は自分のクラスの前まで来て、今日は一段と騒がしいなと扉に手を掛ける。

「お早う」

一瞬にして騒めきが静まり、全員席につく。
判ってきた生徒達に満足する相澤だが、外の廊下まで聞こえてきた彼らの話の内容には少し気に掛かるものがあった。

「緑谷と爆豪がどうかしたか?」
「先生聞いちゃいますか!?それ!?」
「あいつら問題児だからな。謹慎中にも何かあったら面倒臭い。俺が」
「わー!教育放棄だー!」

相澤は静かにしなさいと手を叩く。
生徒達は黙る。

「だから面倒なことになる前に大人しくさせておきたい」

と言う相澤に生徒達は顔を見合わせる。
内容的に相澤にも伝えてしまって良いものか悩みどころだ。

「先生は緑谷が爆豪に告白したの知ってんの?」
「ああ。知ってる」
「え!?何で!?」

生徒達が騒めき出す。相澤は「あー」と面倒そうに前置きしてから、答えた。
喧嘩の後すぐに勝己に話があると言い出した出久に、言いたいことがあるなら今言えと強要したのは相澤だ。また喧嘩を始められては堪ったものではなかったからだが、そのせいで出久には恥をかかせる結果になってしまった。

「俺とオールマイトさんの前で交際を申し込んでフラれていた」
「相澤先生……それは酷すぎますわ……」
「まあ、俺も無神経だったことは認める」

恋愛相談はしたこともされたこともない相澤だ。正直、対処には不慣れだ。
しかしながら、不安材料がある。

「少し心配なのは緑谷なんだが。あいつ、爆豪の部屋に夜這いとかしてないか?」
「あはは!相澤先生心配しすぎだよ〜」
「さすがにデクくんもそこまでせえへんと思いますよ?」
「そうか。ならいいんだが」
「それより先生!今朝の爆豪と緑谷の話聞いてよ!」
「いや、問題なさそうなら言わなくていい」
「アタシらが共有スペースに降りてきたら、お互いに見つめ合ってたんだけど」

遠慮したのに芦戸が喋り始めてしまう。止めるべきか迷ったが、相澤は今後の対処の参考になるかもしれないとホームルームの時間が許す限り話を聞いた。

ホームルームを終え、職員室に戻って来た相澤は「う〜ん」と唸る。そんな相澤の様子に隣の席に座るミッドナイトが気付いて声を掛ける。

「珍しい。相澤先生が悩んでいるなんて」
「まあ……」

目に見えて悩んでいるのが判るかと、相澤は言葉を濁す。
今まで生徒を除籍する回数の多かった相澤は他の教師よりも生徒の相談事にのったりする機会は少なかった。たわいない相談を聞くのも面倒であり、生徒同士でどうにかするように指示してばかりだった。
明らかに他の教師よりもその点では経験不足を認めざるを得ない。

「ミッドナイトさんは生徒に恋愛相談とかされたりしますか?」
「あら?本当に今日はどうしたんですか?」

意外も意外だと、ミッドナイトは愕きに目を瞠る。

「尋ねてるのはこっちですよ」
「そうでしたね。恋愛相談は結構ありますよ。でも、相手とどうこうなりたいってのより、このままヒーロー目指せるのか不安で相談に来る子ばかりだけど」

思ったほど甘酸っぱい相談はない。ヒーローを目指す生徒はいっときの感情よりも将来を見据えている子ばかりだ。

「指導はしますか?」
「まだ子供ですから、憧れとか尊敬を恋と勘違いしている場合もあるわ。もう一度考えてみて、恋だって確信持てたらまた相談に来るように言ってます」
「……ちゃんと先生やってたんですね」
「私を何だと思ってたの?」
「…………」
「無言でその顔やめてくれないかしら?」

顔を向けなければいいのかと、相澤はミッドナイトから視線を外して自分のデスクにあるパソコンを見つめる。
暫し、ミッドナイトの言葉を自分の生徒に当て嵌めて考えてみるが、あの二人は幼馴染だ。いっときの感情なんてものではないだろう。ホームルームで生徒達から聞いた幼少期の話からも察せられる。

拗らせることなく、最初からくっ付いていれば、こんな面倒ごとにはなっていなかっただろうに。

「生徒から相談を?」
「いえ、俺が無神経なことをしてしまったんですよ」
「成程、通りで。相澤先生がそんなこと訊いてくるなんて珍しいと思ったわ」

相澤の性格からすれば、恋愛相談しに来た生徒を問答無用で除籍しかねない。それなのに、恋愛相談について尋ねてくるから甚だ疑問だったが、彼自身に落ち度があると聞いて納得した。
しかし、相澤が失敗するとは本当に珍しいこともあるものだ。今回担当しているクラスの生徒達は今までにないほど気に入っているように感じていたが、それでも珍しい。

「大変ね。生徒の喧嘩に続いて、恋愛ごとなんて。喧嘩は爆豪くんと緑谷くんでしたけど、そっちは誰が?」
「…………」
「もしかして……そっちもあの二人」
「……問題ばっかり持ってきやがって」

組んだ両手に頭を乗せる相澤にミッドナイトはご愁傷様と言うしかない。
それにしても、あの二人だったかと、頤に指をあてながら思案してしまう。勝己も出久も妙に目立つ生徒だからだ。入試の時、かたやヴィランポイントのみで合格、かたやレスキューポイントのみで合格している。しかも同じ中学出身で幼馴染。

「でも、期末テストで二人を組ませたのは相澤先生でしょ?」
「だから今回の喧嘩に発展したんでしょう」

仲が悪いから。
特に勝己の方が顕著に拗らせている。何かと出久に対して癪に触ると暴力的になる態度が目に付くほどに。
しかしながら、出久も拗らせていた。恋愛絡みは得意ではないから、喧嘩後に彼女を一人残らせて話を聞いた後、さっさと放り出した。

一体、一教師にどうしろというのか。

「それがまたどうして恋愛に繋がったのかしら?」
「俺が訊きたい……」

長い溜息をつく相澤をこれ以上遊び心で突っつくのは気が引けた。根津校長に相澤を教師にと推薦したのはミッドナイドだ。生徒の恋愛絡みで悩ませることになってしまい、少しばかり責任を感じたミッドナイトは仕事を片付けるためにデスクに向かった。
のだが、相澤と向かいの席である13号と目が合う。彼は慌てて顔を伏せた。教師達の中ではまだ年若い13号は生徒らの恋愛事情にまだ疎い。

「13号先生も恋に興味があるのね」
「ち、違っ……わ、ない、ですけど。自分が担当する生徒達でもあるわけですし」

救助訓練の授業で一年生を主に指導する立場にある13号は、決して興味本位だけで聞き耳を立てていたわけではないと弁解する。
含みを持って笑んでいるミッドナイトに13号は辟易した様子で次の授業のプランを立てる仕事に戻る。

13号の隣に座すセメントスはお茶を啜りながら「青春ですねぇ」としみじみ口にし、そのまた隣のエクトプラズムが「我ノ青春ハ一陣ノ風デアッタ」と物寂しく呟いた。

項垂れている相澤の後ろを通りがかったプレゼント・マイクが「YEAAAAAAAAAAH!!ラブアンドピース!!」と煩い。腐れ縁の相手をする気力もない相澤は溜息を零す。代わりにミッドナイトが「山田煩い」と注意したが、余計に騒がしくなった。



昼休みになり、蕎麦を手にしている轟は先に席取りに向かった飯田を探していた。
雄英の全生徒を収容出来る食堂はとても広い。しかし、自分達がいつも座る場所はだいたい決まっていた。二学期が始まってもそれは変わらない。
飯田の姿を見つけた轟は彼の隣に座る。

静かに「いただきます」と手を合わせる轟の横で飯田が「いただきます!」と元気よく手を合わせる。

「轟はいっつも蕎麦なのか?」
「ああ」

テーブルを挟んだ向かい側に座る上鳴に訊かれて轟は頷く。

「何も乗ってないと味気ないぜ。エビの天ぷらやるよ」
「いや、悪ぃから」
「天ぷら嫌いか?」
「嫌いじゃねえけど」
「じゃあ、遠慮すんなって」

蕎麦の上に海老の天ぷらが乗せられた。

「そうだな。轟くん、それでは栄養が偏ってしまうだろう。俺も油揚げの卵巾着を献上しよう」

小鉢が蕎麦の横に置かれる。隣の飯田からもオカズを分けられ、轟はきょとんとする。
上鳴と飯田に続き、上鳴の両隣に座る切島と瀬呂もオカズを轟の蕎麦に乗せる。

「俺もアスパラのベーコン巻きやるよ!」
「俺はこのイカの刺身だ」

見た目は悪いが、賑やかになった蕎麦を見つめて轟は微笑む。

「ありがとな」
「くあー!イケメンってずりぃな!」
「?」

上鳴がテーブルを悔しそうに叩き、轟は首を傾げる。不思議そうにしている轟に切島は大したことではないから気にするなと手振りで伝える。

「そういえばさ、俺らが飯田と轟と飯囲むのって珍しくないか?」
「いつも爆豪いるしな。そっちは緑谷と麗日が一緒だろ?」

瀬呂と上鳴の発言に飯田と轟は同意する。

「謹慎中の緑谷くんがいないのは仕方ないことだ。それに、麗日くんは今日はあちらの席だからな」

飯田が通路を挟んだ斜向かいのテーブルへと視線を投げる。そちらにはA組の女子とB組の女子が固まっていた。B組の女子達から声を掛けられた麗日はあちらに座っているのだ。
ついでに言うと、飯田達のすぐ横のテーブルにはB組の男子が数人座っている。別に誘い誘われたわけではなく、こちらは自然にこうなってしまっただけだ。

「お前らのクラス大変そうだな。問題児抱えてて」

轟から一番近い席に座っている泡瀬が話し掛けてくる。彼は食事中も頭のバンダナを取らない。

「あの二人がなんかやらかすの、珍しくはねぇけどな」

切島が返事をする横で上鳴もだよなと頷き、しかし今回ばかりは度が過ぎていたとぼやく。
夜中に寮を抜け出し、雄英の敷地内といえども外で大喧嘩だ。先生に見つかれば罰は免れない。実際、二人は罰を受けている真っ最中だ。

「てかさぁ、アイツらも何でまた喧嘩するかねぇ。見つかったら怒られるだけじゃ済まないの分かってんだろうに」
「爆豪から手ぇ出したんなら、緑谷は応えるしかねえだろ」

轟の発言にB組が静まり返る。

「……轟、ちょっと言い方は考えような」
「うん。俺らにはそれで伝わるけど、誤解招くぞ。てか、今まさに誤解されてるぞ」

切島と上鳴からやんわり注意された轟は首を傾げる。

「なあ、それって告白したって噂のやつか?」

円場は体育祭の騎馬戦で爆豪に個性の空気凝固を破られた苦い経験がある。爆豪絡みのことには少し神経質になっていた。

「ほら、誤解されてる」

瀬呂から言われ、轟はさっきの言い方だとこう受け取られるのだと少しだけ理解した。

「あー、違う違う。喧嘩吹っ掛けたのが爆豪で、緑谷が売られた喧嘩買っちまったんだ」

切島が上手く訂正してくれたお陰で、B組の空気も緩む。

「じゃあ、告白がどーのこーのってデマか?うちらのクラスの女子がキャッキャ話してたけど」
「いんや。そっちも本当。ただ、それは緑谷からアピールしたっぽいよな」
「緑谷って、おっぱい大きい子だっけ?」
「それで合ってるんだけどな……」

昨晩の、女子達が風呂場で出久の胸をみんなで揉んだ話を思い出してしまい、切島と瀬呂が手で目頭を覆う。

「合宿のとき、女子なのに腕相撲に巻き込まれてた子って言えば、B組も分かんだろ?」
「ああ、いたな。女子なのに」
「今更だけど、なんでいたんだ?」
「峰田の差し金です」
「あの性欲の権化か」
「本当に問題児ばっかりだな、A組は」

憐れむ目を向けられて、切島は乾いた笑いを洩らす。

峰田は「緑谷はパワー系だから、俺たちに力を貸してくれ!」と何だかんだ理由を付けて腕相撲勝負に連れてきたのだ。個性の使用は禁止のルールだったから、それが使えなければ出久の腕力は普通に女子並みなのに。

「やっぱ女子だから、腕相撲には参加してないけどな」
「俺はレフリーとして正しい判断をしたぞ」
「枕投げはしたよな」

腕相撲勝負の発端は物間が勝己に発破を掛けて始まったが、決着がつかなかった。出久が枕投げならどうかと提案して、それは提案者の彼女も参加した。
レフリーを務めていた飯田は出久の参加は違うのではないかと最後まで粘っていたが、補修組が抜けている分、A組の人数がB組より少なかった。人数合わせもあるが、より多い方が楽しいかもと男子達は思ったのだ。それに、出久の幼少期は勝己を含め男の子と遊ぶことが多く、彼女が一緒にやりたそうにそわそわしていたからもある。

「すげぇ揺れてたのは覚えてる」
「おう。揺れてたな」
「ああ、すごかった」

B組の感想には同意しかないが、出久のクラスメイトとしては胸だけで判断するのはやめてあげてくださいと思う。

峰田は枕投げで弾み揺れる出久の胸を下から見上げ、鼻血を出しながらサムズアップしていたが。そこを狙われて、彼は飛んできた枕に吹き飛ばされた。光の眩さに消されるようにして。
うちのクラスにも胸で判断するやつ居たわ。B組だけを責めることは出来ない。

「でもさぁ、女子の話じゃ爆豪はないって意見ばっかなんだろ?」
「あー、そこなんだけどな。緑谷と爆豪、幼馴染なんだよ」
「色々あったし、林間合宿のことあんまり思い出したくないかもしんないけど。敵に狙われてるのが爆豪だって早い段階で気付いたの緑谷でさ」
「ああ、あれか。かっちゃんって誰だよって訳分からなかったやつ」
「それそれ」

敵に襲撃されたことは思い出したくないのではと切島は気にしたが、B組の彼らからは全くそんな気配はなく杞憂であった。彼らもまたヒーローを目指しているのだから当たり前だった。さっきのは自分が失礼な心配をしてしまった。
会話が進んでしまい、失言を謝るタイミングを逃した切島の背中を叩く手があった。

「俺達を見くびるなよ」
「鉄哲……」

体育祭と職場体験で友情を育んだ鉄哲から差し向けられた眼差しに怒りはなかった。彼は強く射抜くような目をした後、飲み物を取りに行った。
その背中に「おう!」と切島が拳をあげれば、鉄哲も応えるように拳をあげた。
お前ら暑苦しいよと瀬呂が呟いた。

「幼馴染なら、初恋ってことか?」
「あ。そういや、どうなんだろ。緑谷に聞いたことなかったし」
「初恋だと思うぜ。今朝の思い出話聞く限り、そうじゃん?」
「轟と飯田はどう思う?」
「俺は……」

口を開く轟にハッとした瀬呂がタンマだと手で制す。

「先に確かめておくことあった。轟は緑谷のことどう思ってるんだ?」
「友達」

即答に瀬呂は安堵する。しかし、意外でもあった。轟がクラスメイトの中で一番心を開いているのは出久だと思っていたからだ。職場体験以降は飯田とも一緒にいる姿を見るようになったが、それでも出久の隣にいることが多い気がしている。

「緑谷は俺を変えてくれた。体育祭でアイツが全力でぶつかって来てくれたことに感謝してんだ。だから、緑谷の力になれるなら、俺はアイツの力になりたい」
「漢だぜ!轟!」

切島が漢泣きをして感動のあまり立ち上がる。
落ち着け。と、瀬呂が切島を席に戻す。

「じゃあ、女の子として見てないんだな」
「そういや緑谷、女だったか」
「待て待てぇ」

女子として認識してなかったこの天然男。
平然と蕎麦を啜る轟のマイペースさに上鳴のツッコみが霞む。

「轟くん、流石に今のは緑谷くんに失礼ではないか?」

隣の飯田から指摘され、轟は口の中の蕎麦を咀嚼して呑み込んでから口を開く。

「緑谷はお節介すぎるとこあるけど、その直向きさはヒーローだって思ってんだ。だから、女とか男とか関係ない」
「成程、そういう意味だったか。疑って悪かった」
「いや。いっつも、女だって忘れてるから間違ってねぇ」
「轟くん?」

飯田も真面目すぎて周りの空気に構わないところがあるが、空気を気にしないことに関しては轟のが上手だった。
綺麗に着地しかけた話が轟によって再び宙に浮いた。

「緑谷のやつさぁ、個性の反動で怪我ばっかしてたけど、右手は体育祭で轟とやり合ったのがでかいじゃん?そこんとこ、責任は感じてねぇの?」

上鳴に問われた轟はゆっくりと飯田を振り返り、表情を曇らせる。

「俺が関わると手が……」

飯田、手怪我してんの?あ、ああ、左手を少し。轟関わってる?関わってはいたが、轟くんのせいではないぞ。
そんなやり取りをしている会話が聞こえているのかいないのか、轟の表情は更に雲っていく。

「お前らも俺が近くにいるときは手に気を付けてくれ」

深刻な顔で語る轟に切島達は互いに顔を見合わせる。余りにも真剣な轟を前にして、横から笑い声があがった。

「ははは!イケメンのくせに面白いなお前!」
「エンデヴァーの息子だから、もっと一匹狼で取っつきにくい奴かと思ってたけど」
「自分がいると手ダメになるとか超ウケる!」

B組の彼らが一頻り笑い出して轟は目を丸くする。自分が笑われているが、決して厭な笑われ方ではないことが不思議だった。

「確かに、最初は俺も取っつきにくいと思ってたんだよなー」
「喋ってみると、轟イイ奴だよな。マイペースすぎてちょっと掴み所ないけどさ」
「体育祭から話しやすくなったよな」

上鳴、切島、瀬呂は続け様に轟に楽しそうに微笑みを向ける。
やはり厭な笑われ方ではなく、内側が温かくなる感じに轟は少し俯く。

「おお。轟の照れ顔マジ貴重」

上鳴がニシシと笑いながら指差すので、轟は顔を逸らした。
余計なこと言うなよ、と瀬呂が上鳴を小突いた。悪い悪いと謝る上鳴に轟は別にと首を横に振った。その顔にはまだ照れが残っていた。

「俺も轟くんとは体育祭から話すようになったな。騎馬戦で組んだのもあるが、やはり緑谷くんと闘ってから雰囲気が柔らかくなった気がする」
「そう、か」

轟自身も自覚はあった。それまでずっと他人との間に壁を築いていたからだ。
期末テストで相澤から八百万の話を聞いてやれと指摘されて、自分の欠点にもようやく気付いた。自分以外の誰かのことを素直に考えられるようになったのは、飯田の言う通りやはり出久との対決が転換点であったと思う。

「飯田も、そうなんじゃねえか?」
「そうだな。緑谷くんにはいつも驚かされる。彼女のおかげで意識が変わったことも多い」

入試や実技、そしてヒーロー殺しの件を振り返った飯田は深く頷く。自身が持っていたヒーロー感を出久は何度でも上回った。
彼女のヒーローへの憧れの強さが、飯田の復讐心を霧散させたのだ。危うく道を踏み外すところであったのを出久に救われた。その思いは轟と同じように飯田の中にもある。

「緑谷よく分かんねーときあるけど、凄ぇなって思うわ」
「職場体験後の授業でも大分動き変わったよな」
「ああ、爆豪みたいになってた。アイツの動きってそうそう真似出来ねぇし、ずっと見てきた緑谷にしか再現出来ないよな」

轟と飯田の話を聞いていた三人もそれぞれ感想を口にする。
最後の切島の言葉に飯田も頷く。途中で落ちてしまっていたが、出久は強力すぎる個性を使いこなし始めている。勝己の動きをなぞらえるようにして、だ。

「緑谷くんに感謝してる立場から言わせてもらうが、爆豪くんが緑谷くんを毛嫌いしている理由は分かりかねるな」
「俺も飯田と同意見だけど、理屈じゃないってことだろ。爆豪の中では」

勝己と出久が幼馴染であることは入学当初からクラス内で少し話題になった。
体育祭で控え室を間違えた勝己が乗り込んできたとき、轟は彼に出久は昔からあんななのかと問い掛けた。勝己は何か思い当たることがある様子で一瞬身動きを止めていた。それから、苦虫を潰したような顔で怒鳴ったのだ。テーブルも蹴られて吹っ飛んだ。
だから、何かあるんだろうなと轟は感じた。勝己なりの葛藤があるのだと。

「なあ、話戻ったなら訊いていいか。今朝の二人の話って何だ?」

飲み物を取りに行って戻ってきた鉄哲はB組のクラスメイト達から自分が席を外していた間の流れを聞き齧っていた。A組の会話の軌道を見計らい、轟への質問で一旦隅に置かれていた話を引っ張り出すように彼は尋ねる。

「あ。それ聞いちゃう?」
「実はさ……」

男子達がA組の寮で今朝聞いた話を語る頃、斜向かいのテーブルを囲む女子達も同じ話題で盛り上がっていた。

「えー!なにそれ!」
「トテモ、キュンキュンシマス……!」
「幼馴染ってのは狡いわ」
「ん……!」

B組女子達の反応に芦戸と葉隠がテーブルに手をついて身を乗り出す。

「だよね!だよね!」
「キュンキュンするよね!」

軽くジャンプまでし始める二人に「食事中に行儀が悪いですわ」と八百万が注意する。芦戸は「ヤオモモお母さんみたい」と言いながらも、素直に従って座り、葉隠も座る。

A組の女子達は、告白の噂を聞きつけたB組女子達に誘われて食堂の同じテーブルを囲んでいた。

「爆豪って、物間がいっつも嫌味のターゲットにしてる人でしょ?」
「物間は心がアレだから」
「私、ちょっと爆豪は怖い感じなんだけど」
「んー……」

小大がちょっと考え、林間合宿の肝試しでお化け役をした時に、自分が脅かした爆豪の反応を思い出す。

「肝試し……驚いてた」

意外と普通だった。個人的には愕きのあまり「お」と口に出た轟の反応の方が面白かった。口元にほんのり笑みを浮かべる。
その笑みは轟に向けられたものだが、皆が勝己を馬鹿にして向けられたものだと勘違いする。しかし、話の進行の妨げにはならなかった。

「うんうん。おっかない男だとは思うけど、怖い感じはないかなー」

怖い怖くないの話になり、芦戸は天井を見上げ、考えながら言葉にする。未だに名前をまともに覚えてもらえず、黒目と呼ばれるのには腹が立つが、どの角度から考えても恐怖は感じない。

「ウチはまだちょっと苦手」
「私もまだ体育祭の時のこと思い出すと怖いんだ。この前も威嚇されたし」

呟く耳郎に麗日は両手を組み、肘をテーブルに乗せた姿勢で同意する。このポーズをすると威嚇された日が脳裏に蘇るのだ。

期末テストで生徒が二人一組になり、教師一人を突破する試練が課せられた。試験翌日に各自の映像を見ながら講評の時間が設けられ、その後の放課の時間だった。教室で勝己の不穏な空気を悟って、お手洗いに行った出久の代わりに彼女の席に麗日は座った。思った通り、勝己は後ろを振り向いて噛み付いてきた。が、出久ではないことに気付いた彼に微妙な顔をされた。

「威嚇って……何したの、麗日」

教室では勝己と隣の席である耳郎でも、威嚇されたことはない。怖いと言いつつも、勝己に話し掛ける麗日は不思議な存在だ。
体育祭の時だって、戦闘センスが格上の勝己に何度も真正面から突っ込んでいく麗日はヤケになっているようにしか見えず、痛々しくて耳郎は手で目を覆っていたくらいだ。ヤケに見えていたのは作戦のうちであったのが終盤で判ったが、やはり周囲の予想通り勝己の勝利で終わった。

高い壁を突きつけられたのに、勝己の強さに焚き付けられて職場体験では武闘派ヒーローガンヘッドの事務所を選んでいたほどだ。やはり不思議だと感じるが、耳郎は体育祭であの勝己相手に麗日は善戦したと思っている。

「いや〜。幼馴染でせっかく同じクラスなんだし、デクくんと仲良くしたらいいのにと思ってしまって」
「そりゃ頷かんでしょ」
「でも、それで威嚇するほど怒る?基本的に爆豪って緑谷本人にしか爆ギレしないし」
「あー、私が余計なこと言ったんかな。爆豪くんはデクくんが怖くて、自分から遠ざけようとしとるみたいだよって」
「そうでしょうか?私はそのようにお見受けしませんが……」
「私もヤオモモと一緒でそうかな?って思うよ。芦戸は?」
「うーん。アタシも爆豪が緑谷怖がるってのはちょっと。あ!でもさ、入学して最初のオールマイトの授業で二人が当たったとき、爆豪余裕なかったよね」

同じ中学出身の切島が横で言っていたから、芦戸はよく覚えている。
戦闘能力では勝己に分があった。今でこそ、出久は個性を使いこなしているが、入学当初は全くだった。勝己とは雲泥の差があると言ってもいいくらいに。
だから、そんな取るに足らない相手であるはずの出久を前に切羽詰まっていた勝己の様子は変だった。

「言われてみれば、確かにそうかも」
「そうですわね」

耳郎まで頷き、八百万も考え直す。最初の戦闘訓練の講評で発言した立場からすれば、勝己に私怨があったことは確かだと自分の見立てに自負している。創造という個性を持っているからこそ、八百万は分析力も磨いていた。

「緑谷さんが怖いと言われる部分には否を唱えたいですが。含むものが何であれ、爆豪さんが彼女に特別な感情を持っているのは認められます」
「その含むものが恋だって言えないのが爆豪だよね」
「まず爆豪に恋とか愛とか似合わないよ」
「あはは、それ言えてる!」

葉隠と芦戸に「人のことを笑ってはいけません」とまた八百万が窘めている横で、蛙吹が小首を傾げて麗日を見遣る。

「けど、お茶子ちゃんはどうしてそう思ったの?まるで緑谷ちゃんのことを怖いと感じたことがあるみたい」
「林間合宿のとき、自分も頑張ろうって思わせてくれる子だって言ってたよね?」

髪を片方に縛り上げている拳藤が蛙吹に続く。姉御肌な性格の彼女は恋愛話にはあまり興味がないが、切磋琢磨し合える同級生達には興味があった。

「うん。デクくん見てると、すごいな、私も頑張らなあかんなって思う。でも、頑張りすぎてるデクくんは心配になるんよ。それが……ちょっと怖い」
「ケロケロ……少し、分かる気がするわ。緑谷ちゃんは頑張り屋さんだけれど、自分の限界が見えていない節があるもの」

誰かを救えるなら自分の身など、どうでもいいとばかりに出久は突進する傾向がある。
柔軟な発想が出来て、最短で決める判断も理にかなっているものが多い。考えることが出来る人なのに、それより先に身体が動いてしまうのだとばかりに無茶をする。それは、彼女に危険が及ぶ自壊行為に繋がる。
怖いと表現した麗日に蛙吹も眉を下げて頷く。

「そうですわね。緑谷さんはちょっと心配になるくらい行動派ですから」
「右手もかなり傷痕残っちゃってるしね」

八百万と耳郎が眉を下げた顔で互いに目を合わせて頷き合う。制服からヒーロースーツに着替えるときに目に入る肌は日に日に傷だらけになっていた。寮生活になってから入浴を共にするようになれば、残る傷の大きさがはっきりと見て取れた。

「体育祭で右腕を損傷されていましたが、それが原因ですか?」

茨のような髪を揺らした塩崎が胸の前で両手を組み、慈悲深い表情で尋ねる。

「うん……体育祭で轟と闘ってから右手の形歪んでたけど、林間合宿で敵に一人で突っ込んでいったらしくてさ。そっちで負った傷のが酷いかも」
「ヒーロー目指してるんだし、アタシ達も他人事じゃないから可哀想なんて言ってられないけどさ。お洒落出来なくなるのは嫌だよね」

珍しく芦戸が至情を込める。ムードメーカーでもある彼女がしおらしく語ったことで、誰もが口を開けなくなった。
その空気を一番に察したのも芦戸で、彼女は慌ててしまう。

「ちょっと!何しんみりしてんの!?」
「いやぁ、だってさー。お洒落楽しめないのって女子にはかなりキツいよ?」
「そこはほら!緑谷のファッションセンスをツッコむ絶好の良い機会だったでしょ!」
「あー!確かに!」

ポン!と音がしたので、葉隠が手を打った音だと思われる。空気が明るい方向に向いて芦戸もホッとする。

「今日のデクくんのシャツ、マフラーって書いてあったね」
「この間なんてシーツだったわ」
「慣れてくるとそういうシリーズなんだなって思えてくるからタチ悪いよ、あのセンス」

実は今まで何も言えずにいた彼女達はここで一気に吐き出していた。麗日も蛙吹も耳郎も言えてスッキリした顔をしている。

「だいたい、今朝の話でもオールマイトのキャラパン穿いてたし」
「私もちっちゃい時はオールマイト普通に好きだったけど、パンツには手え出せへんかったなぁ」
「オタクってどうして自分の身なり気にしないんだろう。謎だわ」
「小さい頃の爆豪ちゃんも、緑谷ちゃんのパンツに対していつも通りすぎて塩対応って感じだったわね。話を聞く限りでは、だけれど」
「てか、爆豪は緑谷に対して常に塩対応だよね」
「あの、話を折ってしまって申し訳ないのですが、塩対応とは塩をどうかするのでしょうか?」
「塩対応は神対応の逆の意味だよ」
「え!神様の反対は塩だったんですか!?」
「ウチ、ヤオモモにはそのままでいてほしいかも」
「ええ。百ちゃんは今のままで充分に魅力的よ」

話が脱線する中、あれ?と一部を除いたB組の女子達が顔を見合わせる。

「一番恋バナに適してるのに、彼女、女子会に居なかったよね?」

左目が前髪で隠れている柳がB組を代表して不思議そうに尋ねる。
林間合宿の宿舎でA組女子の部屋に集まって女子会を開いた。なんとか恋バナをしようと奮闘したが、呆気なく撃沈したのだ全員。
そのとき不在だったのはB組の取陰、小森、角取。A組の出久だ。
B組の三人がいなかったのは訓練の注意点を教示されるために担任のブラドキングに呼び出されていたからだが、その三人を入れても恋バナは成立しなかっただろう。だから尚のこと、現在進行形で幼馴染みに恋い焦がれている出久がいなかったのが恋バナ不成立の原因ではないだろうか。自分達のことは棚に上げておく。

「峰田ちゃんに呼ばれてたから、居なかったのよ」
「緑谷がどこ行ってたか誰か知ってる?」
「私知っとるよ」

麗日が手を挙げた。

「男子の腕相撲大会に巻き込まれて、枕投げしとったって」
「色々ツッコみどころしかないけど、元凶は峰田か」

A組とB組の女子達の脳裏に性欲の権化が走り去った。

「けど、ウチらも峰田を責められなくない?」
「うん……昨日、デクくんに悪いことしてもうたし」
「何?A組どうした?」
「お風呂で緑谷くんのおっぱいみんなで揉みました!」
「……あの子、おっきいもんね」
「私らの中で一番大きいよね。何食べたらあんなに育つのかしら」
「それで、デクくんへのお詫びにアイス買いに行こうと思ってて。放課後に外出許可取りに行くんだ」
「え!いいな〜。私らもアイス買いに行こうよ、拳藤!」
「ええ!?そんなこと急に言われても」
「じゃあ!みんなで行こうよ!」

行く気満々になっているB組のみんなに拳藤は肩を竦める。

「そう簡単に許可もらえるとは思えないけど」

と、呆れ気味に言ったのだが、彼女は学校近くのコンビニにいた。

放課後、職員室でB組の担任であるブラドキングに外出許可を貰いに行けば、丁度A組も相澤に外出の申請をしているところであった。
ブラドキングと相澤が一旦話し合い、女子全員での外出は近隣の迷惑になると言われ、A組B組それぞれ二名ずつの四人にのみ許可が出た。
意外とあっさり許可を得られたことに拳藤は肩透かしを食らった気分だ。

A組からは最初の言い出しっぺである麗日と蛙吹。B組からはブラドキングによる人選で拳藤と小大の二人、真面目だからという理由で抜擢された。

「ええっと。一、二、三……七個で良いよな」
「ん」

カゴに入れたアイスのカップを数える拳藤に小大が頷く。二人と塩崎、柳、小森、角取、取陰でB組の女子は七人だ。

「私達も七人ね」
「そうだね!」

蛙吹に麗日が頷く。八百万、耳郎、芦戸、葉隠、それに出久を加えればA組も七人だ。
レジで三個と四個に分けてそれぞれ小袋に入れてもらい、一人ずつ手にぶら下げる。

学校の寮までの道のりを帰り歩くなか、麗日はぼんやりしていた。思ったことをすぐ口に出してしまう蛙吹は自分の口をぐっと閉じて、彼女の様子を見るだけに留める。

四人は寮の前に辿り着き、互いの寮へと別れる。拳藤と小大がB組の寮へ向かうのを麗日と蛙吹は手を振って見送る。
手を下ろしてA組の寮に向かう麗日の背中が急に立ち止まり、蛙吹はじっとその小さな背中を見つめた。

「緑谷ちゃんのことを考えているの?」

しまった。と、蛙吹は動かない自身の表情の裏側で思う。我慢しきれずに声に出してしまった。
麗日の背中がひくりと僅かに震え、すぐに止まった。

「……敵わんなぁ」

勝ち目のない勝負を闘う前から諦めるような声色だった。蛙吹は麗日らしくないと感じた。いつも、自分を信じて立ち向かうのが彼女だ。敵わない勝負にも挑める人だ。

「敵わんよ……」

体育祭の時を思い出し、麗日は目を伏せる。出久が憧れるほどの強さを真正面にして、全く歯が立たなかった。嫌な奴だと口では言いながらも彼女が惹かれる気持ちも痛いほど理解出来た。
だから、自分が格好良いと思った彼女の目標に向かう余裕の無さは、強い彼の存在があってこそだ。彼の背中を追う彼女の背中を、追うことは出来ない。

麗日は空気をいっぱい吸い込んで深呼吸した。全身で酸素を取り込んで、全身で息を大地に還した。

「しまっておこうって決めたんだから。ずっと、しまっとく!」

此方を振り返る麗日はいつも通りの笑顔だった。

「偉いわね、お茶子ちゃん」

蛙吹の言葉に麗日の笑みにくしゃりと涙が滲む。それでも、彼女は笑顔を絶対に崩すことはなかった。

寮を潜り、共有スペースに顔を出せば、芦戸が飛びつく。

「おっかえりー!」

芦戸を先頭にして二人の帰りを待っていた女子達が駆け寄る。口々におかえりの言葉を掛ける。みんなからの迎えに麗日と蛙吹は微笑む。

「ただいまー」
「ただいま」

麗日と蛙吹の姿が寮になかったのは、外に出掛けていたからだと男子達も理解し始める。

「何処行って来たんだ?」
「アイス買いにコンビニまでだよ」
「いいなー、アイス!俺らの分は?」
「ごめん!女子の分しかないんだ」

近寄ってきた上鳴に麗日は手を合わせて謝罪する。アイス代はコンビニに行く前に女子だけで出し合ったので、男子の分はなかった。

「男子は関係ないんだから、あっち行きなよ」
「ちぇ、つれねーの」

耳郎に追い払われた上鳴は男子の輪に帰っていく。

「アイス食いたいなら作ってやろうか?」
「マジか!砂藤!」

落ち込んでいる上鳴に砂藤が声を掛ける。浮かれる上鳴だが、小躍りを一時停止した。

「いや、待て!作らなくていい」
「え?何でだ?」
「あっぶねぇ、砂藤の株がまた上がるとこだったぜ!その手には乗らねーからな!」

部屋王決定戦で手作りシフォンケーキで女子の票を独り占めにした怨みは忘れていないぞ!と、上鳴は砂藤を両手で指差す。
そんなつもりは全くないと砂藤が弁解していると、男子風呂の方から勝己が姿を現わす。気付いた切島が声を掛けた。

「おお、爆豪。風呂掃除終わったのか?ご苦労さん」
「ああ」

勝己は男子が全員いることを見渡して視認すると、大口を開けた。

「ゴミある奴は持って来い!」

それを合図に男子達は自室のゴミを取りに散っていった。
大きなゴミ袋を取り出している勝己に麗日は近づく。

「爆豪くん、デクくんは?」
「女子風呂」
「まだ掃除しとるんだね」

教えてくれて有り難うと礼を言う麗日に勝己は訝しげな視線を一度やりつつ、共有スペースに置かれているゴミ箱のゴミを回収していく。

麗日が女子風呂を覗けば、掃除の仕上げに洗剤の泡をシャワーで洗い流している出久と目が合った。

「精が出るね〜」
「あ!麗日さん。どうかしたの?」

シャワーの水を止めて、出久は麗日に近寄る。麗日は手にしているビニール袋を広げて、中に入っているものを出久に見せた。

「なんと!アイスを買ってきました!」
「アイス?あ、昨日言ってたね」

袋の中を覗き込んだ出久は、昨晩のことを思い出す。

「デクくんの分もあるからね!昨日のお詫びだから、女子みんなからの奢り!」

遠慮したらいかんよ!とずいっと顔を近付けられて出久は吃驚する。最近は慣れてきつつあるが、女友達というものに無縁だった出久には麗日の天真爛漫さは眩しい。こうやって誘いに来てくれて、仲間に入れてもらえるのも嬉しいことだった。

だから、気になることがあった。

「麗日さん、無理してない?」
「っ、」

固まる麗日に出久はどうしようと視線を彷徨わせる。踏み込んではいけないことだったかもしれず、出久はわたわたと手を振る。

「ご!ごめん!僕の勘違いだからっ」

慌て出す出久に麗日は呆気にとられる。焦ってしまうところが彼女らしくて、麗日はくすりと笑う。いきなり笑い出す麗日に出久はピタリと動きを止めて、瞬いた。

「羨ましいなって」
「え?」
「爆豪くんが羨ましいなって、思った」

真っ直ぐに見つめ返してくる麗日の目が「デクくんは?」と問い返していた。出久は彼女の真意を理解出来なかったが、問われたことに答えはあった。

「うん……僕にないもの、たくさん持ってて羨ましいって思ってる。かっちゃんが凄いのは個性だけじゃないんだ。だから、彼に憧れて、ずっと追い掛けてた。当たり前だけど、もっと強くなってて、まだまだ足りてないんだって思い知らされた」
「……悔しい?」
「悔しいよ。オールマイトみたいなヒーローになるのが、僕の目標だから」
「爆豪くんみたいになりたいとは思わん?」
「それは、ないかな」

苦笑しながら、彼みたいになりたいわけじゃないと出久は言い切る。

「でも、デクくんの動き、爆豪くんみたいになっとったよね」

職場体験後の授業のことを言われているのだと、出久はすぐに気付く。
あれは真似しようと思って勝己の動きを再現したわけではなく、自分の中にある正攻法を選択した結果、彼の動きをなぞった。ずっと見てきた相手だから。

「それは、かっちゃんみたいに出来たらいいなって。かなり無意識で、だから意識してそうなりたいのとは、違う、かな」

口が悪くなってしまうのだって、本当は嫌なのだ。目標なんかじゃ絶対にない。
ただ、彼に惹かれるせいで、嫌な部分からも目が離せなくて、悪いところも全て見てしまう。目に焼き付いてしまう。

「そっか。じゃあ、今のデクくんがあるのは爆豪くんが近くにいたからなんだね」

優しく言われ、出久はドキリとする。麗日に気付かされたからだ。
勝己を追い掛けてばかりで、自分のことに目を向けたことがなかった。だから、彼が近くにいたから今の自分があると考えたことなどなかったのだ。

「そう……うん、そうかもしれない」
「爆豪くんもそうなんじゃないかな」
「かっちゃんも?」
「うん!爆豪くん、デクくんのこと見とるもん」
「へあ!?」

真っ赤になった顔を頭ごと両腕で抱え込む出久に麗日は笑みを深める。
そんなことないよ!と弁解する出久に追い掛けられながら、麗日は麗らかな笑顔のまま冷蔵庫まで小走りする。


冷凍庫に入れられたアイスはお風呂上がりに、共有スペースのテーブルの上に広げられた。
バニラ、チョコ、ストロベリー、抹茶、ティラミス、クッキーアンドクリーム、塩キャラメルの七種類だ。

「みんなの好み聞かずに買ってきたからバラバラになってしまった」
「苦手なものはあるかしら?」

あまり好きではない味があるなら、その人から選んでもらおうと麗日と蛙吹が女子全員を見渡す。

「ウチはなんでも」
「私もどれでも構いませんわ」
「気になるのはあるけど嫌いなのはないから大丈夫だよ」
「アタシも〜」

耳郎、八百万、葉隠、芦戸からの答えを聞いて、麗日はじゃあと出久を見遣る。

「デクくんが最初に選んで!」
「え、僕?いいの?」
「お詫びに買ってきたんだもん」

溶けちゃうから早く早く!と皆からも急かされてしまう。ちょっと慌てながらも、出久はお言葉に甘えてと食べたいものを選んだ。

「これ。いいかな……」

クッキーアンドクリームを指差せば、女子六人はいいよと笑顔で頷く。
有り難く選んだアイスを出久が手に取っている間に、麗日達はジャンケンで順番を決めて次々にアイスを手に取っていく。

A組の女子はサッパリした性格の者が多く、いざこざもなくスムーズにアイスが行き渡った。一方その頃のB組寮では壮絶なアイス争奪戦が繰り広げられており、拳藤が場を収めるのに苦労していた。

アイスカップの蓋を開けて、スプーンで掬い取る。口に含んで味わっていると、出久が座っているソファの後ろから勝己が口を挟んだ。

「相変わらず子供舌だな」

馬鹿にした言い草に出久は半目になる。言い返したいが、勝己の言う通りだからだ。あの中では一番子供が好みそうなのはクッキーアンドクリームだろう。
反論の言葉は思い浮かばなくて、出久は認めた上で勝己を振り返り見上げる。

「いいだろ、別に」

反抗的な目と言い方に勝己の血管が切れる。ブチッと不穏な音を聞き取った出久は風呂上がりで温まっていた全身を冷やす。

「か、かっちゃんも食べる?」

どう切り抜けるか焦った出久は血迷って、アイスを掬い取ったスプーンを差し出した。

幼稚園ぐらいの時はお互いのお菓子を分け合ったりした。アイスの食べ合いっこもしたが、今はない。絶対にない。こんなので勝己の怒りを反らせるわけがない。
そう思い込む出久は余計に血の気を引かせるが、勝己の顔が近付いて来て固まる。
パク。と、差し出したアイスを勝己が食べたのだ。

「クソ甘ぇ」

よくこんなもん食えんなとばかりに勝己が眉間に皺を寄せる。
しかし、場の空気がおかしいことに気付いて勝己は周囲を見渡す。全員が此方を見ていた。

「あ?なん……だ…………、ッ!」

口を手で塞いだ勝己は洗面所に駆け込んだ。水を流す音と共に「クソがああああああ!!」と叫ぶ声が聞こえ、シャコシャコシャコシャコシャコ!と歯を磨く音も盛大に共有スペースまで届いた。

音が一切聞こえなくなって数秒、勝己が静かに共有スペースに戻って来た。が、すぐにエレベーターに乗り込んだ。
扉が閉まる前に轟が乗り込んで来て、勝己は彼を振り返る。目が合い、轟が「お」と洩らすと同時にエレベーターの扉が閉じた。

もの言いたげな空気が共有スペースに充満している中で、出久は放心気味にアイスを口に含むが、スプーンを咥えたまま、じわじわと頬を染める。

「これは大好きな彼との間接キッスになるんじゃないか!よっしゃあ、ラッキー!」
「僕の心情音読しないで芦戸さん!」

心情当たってるのか。と、クラスメイト達が心の中で一斉にツッコむ。

「あはは!いーじゃん、いーじゃん。脈アリじゃん」
「うーん。小さい時は普通にやってたし、かっちゃんも昔の癖でってだけだと思うけどなぁ」

今日は昔話の話題にもなったし。と、出久はアイスをつつきながら自信なさげに零す。

「緑谷って大胆な行動とるのに、たまにネガティブだよね」
「うっ」

そう簡単に中学時代に培ったナイーブな性格は変わらず。ネガティブの言葉は出久の胸に痛く刺さる。行動派オタクといえどもオタク特有の卑屈さはなくならないものだ。

「もっとポジティブに行きなよ!」
「そうよ。頑張り屋さんな緑谷ちゃんらしく行けばいいと思うわ」

芦戸と蛙吹の声援に出久は元気付けられる。
高校デビューはそこそこ成功している筈だ。だから、前向きに行けば大丈夫。

「うん!頑張ってみる!」

残りのアイスを食べ終わるまで、出久は先程の勝己の反応を思い返していた。口を押さえる直前、顔が真っ赤になっていたと思う。一瞬のことであったし、誰も彼の顔が赤かったとは証言していないから自分の見間違いだったかもしれない。けれど、彼の瞳以外の赤色が瞬く度に瞼の裏にちらついている。

叶うことなら、もう一度見たい。

その欲求が膨れ上がった出久は空っぽになったアイスのカップに視線を落として、仰々しく言った。

「これはもう、かっちゃんを夜這いするしかない」

アイスを喉に詰まらせた八百万が咳き込み、耳郎と蛙吹がスプーンを落とし、芦戸と葉隠が固まる。男子達も微動だにしない。

青褪めていた麗日が正気を取り戻して、くわっと出久のほうに身を乗り出す。

「デクくん!それは駄目だ!ポジティプ履き違えとる!私らヒーロー志望なんだから、犯罪は絶対にあかん!」
「マジでか!」
「マジだよ!?」

何故そんな結論出した!?と麗日は出久の思考回路を疑う。

「ケロ……相澤先生の予感的中だわ」

蛙吹の言葉に皆が頷いた。

それから。勝己の部屋に乗り込もうとする出久の強行突破をみんなで取り押さえたりのすったもんだあり、夜は更けていった。





























◆後書き◆

ショタロリ。幼少期の話はもう少し引き摺ります。

男子から愛されている轟君書いてて楽しかった。イケメンで得してると同性から疎まれる系だけど、轟君の天然具合は男子に好かれる系だと思ってる。でも天然派生のミステリアスさは疎まれる。

お茶子が悲恋になってしまった…。仮免試験の時のお茶子のしまっとこうでもっとお茶子好きになりました。彼女は良い距離から勝デク♀を俯瞰してくれる存在です。

B組全員出すのは無理でしたが、女子みんなと男子数人は名前出せて目標は少し達成出来たかなと。オールキャラ目指す。

ウルトラアーカイブと小説版の雄英白書二巻と外伝のヴィジランテ三巻のネタも含んでおります。林間合宿の女子会とか相澤先生とかミッドナイトとかプレゼントマイクのあたり。

強姦(?)についての掘り下げは次の話から。





更新日:2018/02/25








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