※緑谷出久先天性女体化



・十五歳以上推薦
・折寺中の時に爆豪が緑谷♀を強姦(?)しています
・緑谷♀が子供を産めません
・おっぱい

15歳未満の方は目が潰れます































◆Gordius -act.2- ◆









わからないことは、わからないままだ。

右頬の痛みに顔を顰めた勝己は親に持たされた貼り薬を引っ張り出す。身体中にある絆創膏と湿布を一通り貼り替えた。

爆破の個性で掌の皮膚は厚くて頑丈だが、肌の色が薄めの勝己は掌以外はかぶれやすい。湿布などは適度に交換する。寝返りでもともと剥がれかけてもいた。
今から寮の共有スペースを掃除しなければならない。動くことでまた剥がれるだろう。勝己は固定のために両腕の湿布の上に包帯を巻いた。

包帯を巻き終えた手を目の前まで持ち上げて、指を開いたり閉じたりする。痛みは大分引いたようだ。
しかし、右頬は今も痛む。昨夜のことを思い出して、勝己は静かな顔で右頬を手で触った。

出久はいきなりギアを上げてきて、此方の反応速度を上回った。一瞬だけのことだとしても、事実に悔しさがある。しかも、足技に移行したと言っておきながら左拳を使った。
手を使ってきたのはズルではない。腕に爆弾を抱えているような奴が拳は使わないと決め付けたのは自分の視野が狭まっていたせいだ。馬鹿正直に蹴りだけで突っ込んでくる出久にそう思い込まされていた。
冷静になってみれば、出久が考えつきそうな作戦だと容易に想像出来るのに。

「そんなに切羽詰まってたんかよ」

俺は。と、勝己は溜息を洩らす。
気が付けば、仮免試験で出久は合格して自分は不合格だった。この開いた差は、自身の憧れが間違っていたせいなのかと、勝己は思い悩んでいた。

人から譲り受けたもの、いつか自分のモノにする。出久は自身の個性について訳のわからないことを言っていた。
初めての戦闘訓練で勝己が敗けたあの日に。あの日から、むしゃくしゃしていた。
しかし、思い返せばオールマイトがこの街に来てからだ。疑念を結び付ける決定的な根拠は神野の一件で辻褄を得た。
だからこそ、どうしようもなくなった。

家庭訪問に来たオールマイトに直接問い質したとき、彼は出久もただの生徒だと言った。
オールマイトが隠しておきたいことならばと考えないようにしてきた。けれど、何故、彼は出久を選んだのか腑に落ちなかった。ずっと、答えの出ない考えが頭の中で絡みに絡まった。

トドメを刺したのは自身の弱さだったからこそ、勝己はもう考えずにはいられなくなった。
オールマイトを終わらせたのは敵に攫われた自分のせいだ。
あれはオールマイトが自身の選択の結果だと断言していたことに納得はしたが、勝己はまだ自分を許せずにいる。個性を譲渡したオールマイトは力を衰退させており、いつかは失うものであることは避けられなかったのだとしても。自分があの時に攫われていなければ、まだもう少し先の未来の話だったはずだ。

オールマイトの個性が出久に引き継がれた経緯を聞き、出久への苛立ちは多少落ち着いた。考えても判らなかったことの答えも得た。
勝己がすっきりした朝を迎えるのは久し振りだった。悩みが解消した証だ。

しかし。わからないことがまだあった。出久が何を考えているのかわからないままで気持ち悪かった。なによりも、出久に対する自分の気持ちの変化がそれ以上に気持ち悪かった。

四階からエレベーターで下に降りれば、一階の共有スペースに既に出久がいた。

「あ。かっちゃん、おはよう。君の分の掃除機も出しといたよ」
「ん」

普通に出久の側を通り過ぎて、彼女が手にしていない方の掃除機を持ち上げる。
勝己は自分に刺さる視線に「なんだよ」と口にしながら出久を見遣った。ビクッとした出久は「ううん!」と首を横に何度も振って、室内の角に掃除機を持って移動する。
大方、怒鳴られるとでも思っていたのだろう。

なんとなく、出久の目が赤くなっていたような気もするが、勝己は気に留めずに掃除機をかけ始めた。

暫くすると、登校するためにクラスメイト達が共有スペースに降りてきた。
案の定、掃除機を手にしている出久と勝己は質問責めされた。昨夜、寮を抜け出して喧嘩をしたことと相澤から謹慎と清掃の罰を言い渡されていることを説明した。
芦戸と葉隠を筆頭にクラスメイト達から次々と呆れ返った言葉が飛んでくる。出久は彼らと視線を合わせられなかった。

「仲直りしたん?」

麗日から問い掛けられ、出久はどう説明したものだろうかと頭を悩ませる。

「言語化が難い……」

喧嘩というより、出久も勝己も決闘だった意識がある。仲直りは何か違うような気もした。
近くにいるのだから話が聞こえているだろうに、勝己は何も言わずに掃除機をかけ続けている。彼は何も言わないよな、と出久は視線を戻すが、同時に麗日が顔を覗き込んできて吃驚した。

「麗日さん!?」
「目が赤いよ。デクくん泣いた?」

麗日をはじめ、出久はクラスメイトの何人かからくん付けで呼ばれている。自分のことを僕と言っていることや、クラス内ではパワー系で男子と渡り合える女子と認識されているためだ。
と、思われるが、麗日の言い分では「デクちゃんよりデクくんって感じだね!」とのことだ。彼女は自分の感じたままを素直にそのまま表現する人だった。

そんな麗日が麗かな顔を少し曇らせて出久を心配そうに見つめる。

「う、うん……まぁ」

あの後、寮に戻って自分の部屋でさあ寝ようとベッドに入った出久だったが、一人になってから勝己に断られた現実が胸に突き刺さった。じわじわと涙腺が緩んできて、我慢出来ずに枕とシーツを涙で濡らした。
積年の想いを素気無くはねつけられたのだから無理もない。

「爆豪くんに泣かされたん?」
「ち!違うよ!これはかっちゃんにフラれたショックで僕が勝手に泣いただけで!」

勝己に喧嘩で泣かされたと勘違いされては、彼が悪者にされてしまうと早合点した出久は咄嗟に否定した。けれど、余計なことまで言ってしまって慌てて口を両手で塞ぐ。
目の前にいる麗日はぱちくりと瞬き、横の飯田も動きが止まっている。

クラスメイト達はまだ全員ここにいた。皆の視線が出久に集中している。
一瞬の沈黙の後、途端に騒がしくなる。

「はあああ!?緑谷コクったの!?」
「え!え!緑谷くんそこんとこ詳しく!」
「てか、爆豪フったのかよ!?」
「うわ酷ぇ!幼馴染なのに!」
「あれ?喧嘩してたんじゃなかったっけ?」

何があった!何があった!?と出久と勝己それぞれにクラスメイト達が押し寄せる。
しかし、クラス委員長の飯田がシュバッと手を挙げて号令をかけた。

「静かにするんだ!これから始業式だぞ!」
「そうですわ。緑谷さんと爆豪さんにご質問があるなら、今日の授業が終わってからにすべきです」

八百万が飯田の意見を引き継ぐように続ければ、一番騒いでいた上鳴と芦戸も「はーい」と従う。

「あとで覚えてろよ!」
「何をだ!」

此方を指差してくる上鳴に勝己は吠えた。

それを最後にクラスメイト達は校舎へ向かってしまった。共有スペースには勝己と出久の二人だけになる。
お互いに背を向け合ったまま、掃除機を動かしてゴミを吸う。

出久は背後の勝己を気にしていた。泣いたことが彼にまでバレてしまった。恥ずかしくて仕方がない。
そっと振り返り見れば、勝己の右頬に大きな湿布が貼られているのに目がいった。恥ずかしさがゆっくりと落ち着いていく。昨夜の、彼の激情と強さを思い出して。
出久は視線を掃除機の先に戻して口を開いた。

「シュートスタイルさ……」

どうだっただろうか。
あれは、勝己に通用したのだろうか。
それとも、勝者の勝己には取るに足らないものだっただろうか。
出久は駄目元で勝己の言葉を欲した。

「予備動作がでけぇ」

攻撃の一手を打つまでの動きが長かった。そのため、速度をあげた出久にギリギリ反応は出来た。相手の反応速度を確実に上回るのが理想的だ。
無駄が多い予備動作ありきでは、オールマイトが得意としていた乱打戦には到底向いていない。

「……そっか」

言葉が返ってきたことに出久は愕く。少し放心気味だが、勝己の声はしっかり耳に届いていた。
シュートスタイルはまだまだ突き詰めないといけない。勝己の指摘を出久は自身の糧とするために聞き入れた。

掃除の集中に戻ろうとしたが、勝己が息を吸う気配があった。まだ、ある。

「パンチと合わせんのは、腹立った」

出久は動きを止める。

振り返れば、勝己は背中を向けたままだ。掃除の手も止めていない。
けれど、出久は勝己に語り掛けるように眉をフラットに立てて頷く。

「そっか……!」

彼の腹が立ったは、認めてくれたと同義だ。
腕はもう酷使出来ないが、使えなくなったわけではない。最後の最後に左腕に五パーセントのフルカウルを巡らせた。
それまでに、勝己にシュートスタイルを強く印象付けておいて、だ。
それを、勝己は認めてくれたのだ。嬉しかった。凄い人に腹が立ったと言われるのは。

勢いで告白してしまった手前、勝己と一緒に掃除をしなくてはいけないのを実は躊躇っていた出久だが、案外大丈夫だった。
変な空気にならなくて良かったとホッとしていたら、トンッと背中に衝撃があって振り返る。それは向こうも同じで、出久の鼻先が触れそうなほど近くに勝己の顔があった。

ブワッと顔を真っ赤にした出久は慌てて俯く。

「剥がれてんぞ」
「え?」
「湿布」
「あ。ああ、ほんとだ」

勝己の視線を辿れば、出久の腕に貼られている湿布が剥がれかけていた。足の湿布もそろそろ剥がれてきそうだ。

「替えてないんか」
「うん。僕、かぶれにくいし。かっちゃんはよく赤くなっちゃってたよね」

出久が勝己のことを知っているように、勝己もまた出久のことを知っていた。だから、湿布も昨夜のまま貼り替えていないことは予想通りだった。

「手持ちの湿布は?」
「部屋にあるけど……」
「今は汚れるから朝の掃除終わったら此処に持ってこい」
「え?」
「湿布が剥がれないように包帯巻いてやる。どうせ一人で出来ねェだろ」
「う!うん!お願いします!」

勝己の申し出は先生からの言い付けを守るために違いないが、先程のシュートスタイルについてのアドバイスもあり、出久は勝己に嫌われているだけではないのだと思えて喜んだ。

しおらしかった出久の機嫌が目に見えて良くなっていることに、勝己は怪訝な顔をした。やはり、彼女の考えていることはわからない。
ただ、以前と違って、わからないことに勝己はそれほど苛立っていなかった。

朝の掃除を終え、出久は一度自室に戻って、小さな救急箱を持ち出した。共有スペースに戻ってくれば、勝己が片手に包帯を持ってソファに座っていた。

「そこ座れ」
「うん」

じゃあ、お邪魔しますと出久は勝己が指差した椅子に座った。少し離れた位置にいた勝己がソファから立ち上がって近付いてくる。

此方の足元にしゃがみ込んだ勝己に出久はヒェッと緊張する。彼を見下ろすような立ち位置になったことは記憶を辿ってもそうそうなく、珍しい状況にどう反応したものか判らなくなってしまう。

動かない出久の手から、昔自分の家にもあったオールマイト柄の救急箱を取り上げた勝己は中を開ける。勝手に湿布を取り出す。
未だに動けないでいる出久の左手を手にとれば、彼女はようやく反応を見せた。少し愕いた表情だ。

勝己は出久の手首の湿布を貼り替える。その上に包帯を巻いていく。
腕の処置を終えて、足を見る。膝の湿布を剥がし、貼り替える。

「膝は関節だ。包帯巻いたら動きにくくなるからいらねェだろ」
「そ、だね」

ちょっと引っ掛かる受け答えをした出久に勝己は顎をしゃくった。言え、と。

「……太もものとこ、巻いてもらって、いいかな?」

半ズボンを捲り上げた出久は右足の太ももを晒した。ズボンと擦れて湿布も捲れてしまっていた。

何故、遠慮しているのか出久の気持ちが判りかねた勝己だが、特に疑問することなく湿布を貼り替えて包帯を巻き始めた。そこでようやく、出久が躊躇いを見せた理由に気付く。
しかし、巻き始めておいて途中放棄もプライドが許さず、勝己は自分の手が出久の際どい場所に触れてしまわないように注意しようとする。だが、出久に気を遣っていることに苛立ちが募って、しまいにはギリギリと強く包帯を巻き縛りつけていた。

「いだだだだだだ」
「我慢しろ!」
「なっ、なんで腕はちゃんと巻いてくれたのに、足はこんな仕打ちなんだよ!?」
「デクの分際で文句言うんじゃねエ!」

結果。きつめに巻かれてちょっと痛いと出久は立ち上がった勝己を恨めしげに涙目で見上げる。
此方のチカラを認めてくれたような気がしたから、太腿に包帯を巻いてほしいとお願いしたのだが……下心を持っていたのが悪かったのか。

しかし、往生際悪く出久は勝己に駄目押しした。

「かっちゃん、背中の湿布さ……」
「剥がせってか」
「だ、駄目だよね」

背中は見えない場所だから昨夜は貼ってくれたのだと判っている。手が届かないわけではないから剥がすだけなら自分で出来るのだし、一蹴されてしまえばお終いだ。

「後ろ向けや」

しかし、勝己は剥がしてやると此方に指示を出す。出久はパッと顔を輝かせて、嬉々と背中を向けた。
椅子の座面に膝をつき、背もたれを手に掴む出久のシャツを勝己は掴み、上に捲る。

勝己の手によって背中が外気に晒されたことに出久はドキドキしながら、彼を振り返り見る。

「ムラムラする?」
「イライラすんわ」

蔑む目で勝己に吐き捨てられた出久は肩に重荷を背負った。後ろに捻っていた首を戻して大人しく前を向く。

「……そっかぁ」

溜息をついている間に湿布は次々剥がされる。
最後の一枚を勝己がペッと剥がしたところ。

「あ」

と後ろで間抜けな声がした。
ぐん!と下に引っ張られる感覚はシャツを下ろされたものだが、出久は勝己の行動に戸惑う。シャツが伸びるからやめてほしい。

「外れた」
「えっ、何が?」
「ブラのホック、外れた」
「あ。あー、うん。わかった」

言われてみれば、胸が緩くなっていた。ブラジャーのホックが外れて締め付けがなくなったからだ。
昨夜、出久は勝己にホックの上に湿布を貼られた。それを剥がしたらホックの金具まで引っ掛けて外れてしまったのだろう。
しかし、シャツを引っ張った意図が判らなかった。

「かっちゃん、なんでシャツの」
「背中はもう湿布いらねェだろ」
「え?うん……そうだね」

何故シャツを下ろしたのか訊こうとしたのだが、勝己の声が被さった。確かに、背中は殆ど痛みが残っていないから、湿布はなくても平気だ。
彼の言い分から湿布を貼る必要がないと判断されてシャツを下ろしたのだと出久は思い込んだ。

「かっちゃんは?」
「起きてから取った」
「だよね」

案の定、勝己は既に背中の湿布を全て剥がしてしまった後だった。彼の鍛えられたしなやかな筋肉がのった背中をもう一度堪能することが叶わず、出久は内心悔しがる。

気を取り直し。外れたホックを直そうと、出久はシャツの中に手を入れる。
後ろ手に背中を探っているので、腰より上までシャツも持ち上がる。出久のくびれが見えて、勝己は眉間に皺を刻んだ。やはりイライラすると。

あれを忘れているとは思えないが、出久は組み敷かれたことがなかったとでも言うような顔で此方に素肌を晒すのを躊躇わない。それがどうしようもなく勝己の胸をざわつかせた。
ずっと奥にしまい込んでいた記憶が、昨夜の勝敗を決した瞬間に思い出された。
その後はオールマイトから秘密を打ち明けられ、再び過去は奥にしまい込まれたはずだった。けれど、奥にはなかった。すぐ近くに置いて簡単に蓋をしただけだった。
いとも容易く思い出すようになってしまった。今朝から何度も。

女の抱き方なんて知らない。そもそも、抱きたくて抱いたわけでもない。中学の担任や野次馬の生徒達にムカついて、出久を元凶と決め付けた。だから、彼らが言っていたことが本当に事実なのか確かめるために出久をベッドに押し倒しただけに過ぎない。
しかし、誤算だらけだった。
出久が初めてではない前提で事を進めたのに、そうではなかったからだ。無理矢理組み敷かれておいて、初めてだったことを認め、笑った出久が理解出来なかった。

だから。なかったことにしようと、血が流れるそこに自身ではなく無機物を突き入れた。
あの時使った筆記具は家に帰ってすぐに捨てた。

自分には何も残らないはずだったのに、出久は相変わらず後ろにへばりついて来た。あれでも懲りない出久に気持ち悪さばかりが募った。
どうやっても出久が離れることなんてなく、その何をやっても無駄だと言わんばかりの彼女の目と態度が苛立たしくて仕方なかった。

ベッドの上で知らない顔をしたことにも。女らしさなんてカケラもなかったくせに。
そう思いながら見る先には、シャツの中でブラジャーのホックを留める出久がいて、その仕草は見慣れぬものだった。

三歳だか四歳の頃は男に混じって遊んでいた。だから自分のことを僕と言い始めもして。けれど、昔は髪が長かった。出久の髪が短くなった原因は勝己の一言だ。
遠い昔を思い出した勝己は出久から離れていく。

「何処行くの?」
「部屋で反省文書く」
「そうだった!僕も書かないと」

昼の間。二人はそれぞれの自室で反省文を書いたり、部屋で出来る自主トレーニングをして時間を費やした。

夕方、夜の掃除のために再び共有スペースに降りてくる。
今朝の質問責めが待っていると身構えていた出久は、寮に帰ってきて早々、皆が暗い顔をして授業内容の進み具合に項垂れているのを目の当たりにして怖気付く。更にはインターンという聞き慣れない単語まで聞こえてくる始末だ。飯田に謹慎くんと酷い言われようをされ、授業内容などの伝達は禁止されていると厳しいことまで言われる。出久は地団駄を踏みたくなるが、今の状況は自分に非があるのだから仕方がない。
近くにいる勝己もまた舌打ちをしていた。出久は三日だが、勝己は四日の謹慎だ。悔しいに決まっている。

出久と勝己はゴミ袋を持って、クラスメイト達に各々の部屋のゴミを持って来てもらうと、それらを回収していく。
そんな作業をしている間に、峰田が通路の端に歩み寄って人差し指を押し付ける。汚れた人差し指を勝己に見せつけ、峰田が「このホコリは何です?」と煽る。勝己は青筋を浮かべて「そこデクだ!」とまだゴミを回収している出久に掃除もまともに出来ないのかと怒鳴りつける。「わっ、ごめん!」と慌てて謝る出久は昔と変わらず鈍臭い。そのことに青筋を消した勝己はふいっと顔を逸らし、自分が手に持つゴミ袋を捨て場に持って行くために外に出る。

峰田と瀬呂が何だアイツと顔を見合わせる。
彼らより少し離れたところにいた上鳴は勝己の後を追い掛けた。

「爆豪!」
「…………」
「おーい、無視すんなって」

勝己に追いつき、その肩に手を置けば叩き落とされる。相変わらず、きっつい性格をしている男だ。クソを下水で煮込んだとは自分の発言だが、言い得て妙だと上鳴は自画自賛している。

女子の中で一番喋りやすい耳郎によれば、勝己は性格の部分で絶対にあり得ないらしい。それが女性陣の総意だが、幼馴染の出久からしたらあり得なくないようだ。
うちのクラスで告白しただのされただのは初めてだ。上鳴が興味津々になるのは必然である。
それに、さっきの。出久から顔を逸らした勝己の様子が気に掛かった。

「なあ、緑谷のこと意識してるよな?」
「ああ?」

心底不機嫌な顔で横目を寄越してきた勝己にオオ……と上鳴は一歩下がる。
凄まれてしまうと、何を言っても言い負かされるのが目に見えていた。

「目の敵にしてたのは爆豪のほうだろ?」

お手上げの上鳴の後ろから、切島が顔を出す。彼もまた、上鳴と同じく勝己が気に掛かって追い掛けて来たのだ。
上鳴ほど出歯亀精神はないが、友人の立場から言いたいことはある。勝己が出久を虐げようとキレている姿は、気になる子に悪戯するような可愛げのあるものではなかった。勝己は本気で出久を蹴落とそうとしていた。

期末テストで勝己は出久と不本意ながらペアを組んだが、ちゃんと協力し合ってオールマイトから合格を勝ち取った。
林間合宿中に敵連合に攫われた勝己を救い出そうと言い出したのは切島自身だが、敵に囲まれて身動きに制限のあった勝己を救出する作戦を練ったのは出久である。
それらのことで心境の変化があるかと思えば、勝己は相変わらず出久を目の敵にしていた。いつもよりは静かだったが、仮免試験の時に何度か睨みつけていたようにも思う。

それが昨夜、喧嘩したと聞けば黙ってなどいられない。

「爆破したら、ちったぁスッキリしたわ」

燃えるゴミ用のボックスにゴミ袋を突っ込んだ勝己が悪びれもなく言った。
切島と上鳴は同時に額に指をあてて悩み込んだ。喧嘩してぶちのめしたから清々したとは、ただの不良ではないか……。

「緑谷から告られたんじゃねーのかよ」
「はあ?」

気色悪いことを思い出させるなとばかりに勝己は眉間に皺を刻んで上鳴の横を通りすぎて行った。

「なあなあ、切島。女子に告白されたら甘酸っぱい気持ちになるのが普通じゃね?何あれ、告白って殺意が湧くもんなの?」

プルプル震えながら此方に縋ってくる上鳴をそのままに、切島は自身の両腕を組んで唸った。



出久は夜の掃除も終わらせ、みんなと夕食を済ませた。
今は女子だけで行動を共にしている。

「わあ!緑谷傷だらけじゃん!」
「それ、爆豪さんとの喧嘩のですよね?」
「ほんと、女子にも容赦ないよね、爆豪って」

上から芦戸、八百万、耳郎が口々に言う。寮内にある女子風呂の脱衣所で服を脱いでいた彼女らは、出久の裸を見て眉を顰めた。

「大丈夫?緑谷ちゃん」
「見た目ほどじゃないから、平気だよ。有り難う蛙吹さ、っゆちゃん」
「なら良かったわ。でも、お風呂は沁みるから気を付けて」
「うん」

と、返事したのだが、お湯が擦り傷に沁みた。
地味に痛くて涙目になりながら、湯船に浸かる出久に皆が顔を見合わせる。言わんこっちゃない。
暫くすると慣れてきたようで、出久の目から涙が引く。

「デクくんの目、もう赤ないね」
「あー、うん。今朝はごめん」

お騒がせしましたと出久は頭を下げる。両の掌を見せて、麗日は「ええんよ」と出久に顔を上げてもらう。
すると、出久の背後で湯船のお湯が波打った。瞬間、後ろから抱き締められるという奇襲に遭った出久は叫ぶ。

「わあー!わ!あ!葉隠さん!?な、なに!?おっぱい揉まないで!?」

透明の個性である葉隠は何も身につけていないと全く見えない。風呂場では濡れた足跡や湯船の揺れなどで何となく居る位置を把握している。だから、湯面が揺れたことに加えて姿が見えないということは、犯人は葉隠しかいない。

「ねえ!ねえ!爆豪に告白したんでしょ!どうだった緑谷くん!」
「その前におっぱい揉むのやめて!」
「デクくん、やっぱりおっきいね……」

葉隠の透明な手に揉まれていることで、麗日の目の前では出久の胸がひとりでに揺れ動いているように見えていた。
下から持ち上げられれば、大きく膨らむように上を向き。横から挟まれれば、深い谷間が出来る。柔らかそうな巨乳が自在に動く度にその大きさが強調されて、麗日は目を奪われてしまう。

「フラれちゃったならさ、良いもの持ってるんだし色仕掛けすればいいじゃん」
「いやー、それは望みが薄いといいますか……おっぱい揉むのやめて」
「望みが薄いって、どんな告白したんデクくん」
「えーっと。殴りながら好きだって言ったら敗かされて。付き合ってくださいって握手求めたらその手を叩かれました」
「…………」
「………………」

会話に加わっていなかった者まで無言になった。

「おっぱい揉まないで」

静寂の中でも、葉隠は手を止めずに出久の胸をずっと揉み続けていた。出久が同じことを言うのは四度目だ。

「どうして緑谷ちゃんは殴りながら告白したのかしら?」
「まだ喧嘩で闘ってたからだよ。かっちゃんの頬の傷がそう」
「爆豪さ、けっこうデカい湿布貼ってなかった?」

蛙吹の疑問に答える出久の証言に、耳郎は冷汗を顔に垂らしながら言う。皆も出久同様に傷だらけだった勝己を思い出す。
勝己は女子に容赦がないとは言ったものの、出久も容赦なく勝己に全力を振るったようだ。

「でも、肉体言語って好きだな!私!」
「お茶子ちゃんは目覚めたものね。私も緑谷ちゃんのつい突っ走ってしまうとこ可愛いと思うわ」

武闘派への道をも拓き始めた麗日は出久の告白方法を支持し、蛙吹は頷きながら彼女もまた出久を肯定する。
二人の後押しに出久はホッとして続けるのだが、余計なことを口走る。

「本当は告白するつもりなかったんだけど、かっちゃんの本音聞いたら、勢いで言い返しちゃってたんだ……おっぱい揉むのほんとにやめて」
「爆豪くんの本音って?」
「僕のこと気色悪くて目障りだ、て」
「…………デクくん、なんで告白したん?」

麗日の言葉は出久以外のこの場にいる全員の総意だ。

「彼が本音を言ってくれたから、僕も本音で返さなきゃって思ったんだけど……あれ?……違ったのかな?……おっぱい揉むのやめてね」
「違うって言うかさ、そこで好きだって言えちゃう緑谷がすごいよね」

気色悪いと目障りはどう考えたって嫌われている以外の何ものでもない。それに相反する好意を返すなんて自暴自棄になっているとしか思えなかった。
芦戸は呆れた顔で出久に近づき、そばかすを指でつついた。

「褒められてないって分かるよ!?おっぱい揉まないで!」
「葉隠〜、そろそろやめてあげたら?」
「だって気持ち良いんだもん!芦戸も触ってみなよ」
「ごくり……」
「あ、芦戸さん?え、ちょ、待って」

両手を持ち上げてわきわきと五指を動かして眼前に迫ってくる芦戸に後ろから葉隠にホールドされている出久は逃げられない。

「覚悟ー!緑谷〜!」
「うわあああああ!」

芦戸に前から胸を鷲掴みにされた出久は叫ぶ。

「もっと色気のある声出さないと爆豪萎えちゃうぞ〜」
「か、かっちゃんは今関係ないだろ!?」
「やーい!緑谷真っ赤〜!」

湯船に張ったお湯が盛大に揺れてバシャバシャと周りに飛び散る。
それを頭の位置まで持ち上げた手で防ぎながら、まとめ役である八百万が眉を立てる。

「葉隠さん、芦戸さん。緑谷さんが困っていらっしゃいます。それに騒ぎすぎたら私達まで謹慎にされかねませんよ」
「大丈夫だって!相澤先生が女子風呂に入ってくることはないし。仮に先生が来るとしたらミッドナイト先生でしょ?あの人なら許してくれそうじゃん」
「そういう問題では」
「ヤオモモも緑谷のおっぱい触ってみれば?」
「えっ?」

芦戸から誘われ、八百万は固まる。正直なところ、自分より大きい出久の胸は気になっていた。同じ女性であるが、以前よりその違いを確かめてみたくて堪らなかったのだ。
己の探究心に抗えなかった八百万は芦戸と葉隠に挟まれている出久に近付いた。

「すみません!緑谷さん!」
「嘘でしょ!?」

まさか真面目な八百万まで加わるとは思っていなかった出久だ。しかも触り方が上品で艶かしい揉み方をしてくる。

「ゃ、ぁん」

おかげで変な声を出してしまった。出久は顔を手で覆う。

「あら。す、すみません、緑谷さん」
「緑谷くん可愛い声出るじゃん!」
「ほらほら、もっとエッチな声出さなきゃ〜」

もう勘弁してくださいと半泣きになっている出久を助けようにも、麗日は動けずにいた。
そんな彼女の後ろに長い髪を湯に浸からないように結い上げている蛙吹がひょっこり顔を出す。

「混ざりたいのね」
「ええ!?なんで分かったん!?」
「そんな顔をしていたわ。いいんじゃない?仮免で色々大変だったのだから、息抜きも必要よ」
「でも、デクくん困っとるし」
「緑谷ちゃんのおっぱい揉みたいんでしょ?」
「ぐぬぬ……」
「明日、放課後に外出許可もらって一緒にアイス買いに行きましょう?緑谷ちゃんへのお詫びに」

麗日の良心に蛙吹は提案する。出久を困らせるのは彼女の本意ではないことくらい判っていた。

「……ううう、うん!そうする!我慢できひん!」
「実は私も触りたかったの」
「デクくん!明日アイス奢るから触らせて!」

麗日と蛙吹までもが迫ってきたことに出久は驚く。アイスがどうした!?と混乱するしかない。

いつの間にか、自分だけが外野になっていて耳郎は頬を掻く。イヤホンで音楽を聴いて一人の時間を大切にしている耳郎からすれば、同級生である彼女達は友達というよりクラスメイト止まりだ。だから、率先して話し掛けることは少ない。
林間合宿でA組とB組の女子だけで女子会をした時も自ら話題を振ることはなく、周りの話に合わせていた。

今も疎外感を感じているわけではなかったし、馬鹿をやっているなと俯瞰して出久達を見ていた。けれど、クラスメイト以上の友達になりたい気持ちを持っていないわけではない。
それに、と。耳郎は自分の平らに近い胸を見下ろす。

「緑谷」

麗日達にいいようにされていた出久は突然降りてきた耳郎の声に、彼女を見上げる。

「耳郎さん?」

助けてくれるの?と潤んだ大きな目に見つめられて耳郎の中に庇護欲が生まれたが、それも一瞬のこと。邪念には敵わなかった。

「ごめん!ウチもアンタの胸触りたい!」
「えええ!耳郎さんまで!?」
「うっわ。何これ、柔らかっ」
「も、もう無理だから!みんなで僕のおっぱい揉まないでよ!」

しまいには泣き出す出久に彼女達の嗜虐心が刺激され、余計に揉みくちゃにされた出久は悲鳴をあげた。

「助けて、かっちゃーん!!」

その声が共有スペースのソファに座っていた男子達の耳に微かに届く。
彼らは女子と同時刻に男子風呂に入りに行ったが、長風呂をする者は少ない。まだ風呂場にいるのは青山ぐらいだ。
だから、男子の殆どが風呂上がりで共有スペースに集っている。

「爆豪、緑谷が呼んでるぞ」
「あ?うっせェわ」

轟に言われなくとも聞こえている。だが、出久に呼ばれたところで勝己に駆け付ける意志などない。

「何言ってんだよ、爆豪!女子風呂に合法的に入るチャンスじゃねーか!」

背中に乗ってきた峰田を勝己は引っ掴んで、床に凄い勢いで叩きつけた。峰田が潰れた。上鳴が「うおおおお!峰田がぺしゃんこだああ!」と騒ぐが知ったことではない。
また「かっちゃーん!」と呼ぶ声がして勝己は舌打ちした。

その声が共有スペースに届かなくなった頃。
ようやく解放された出久は湯船の縁に腕と頭を預けてグッタリしていた。

「さ、さすがにやりすぎだったのでは?」
「ヤオモモだってノリノリだったじゃん」
「デクくん、ごめんな。大丈夫かな?」

眉を下げて申し訳なさそうな麗日に出久はへらりと笑い返す。

「うん。ちょっとビックリしただけだから」

麗日の手を借りて、出久は湯船からあがる。何となく、腕で胸を隠すようにガードしてしまうのは仕方ないだろう。

「あ!でもさ!緑谷くんの初めて私達がもらっちゃった感じ?」
「え?」

脱衣所で身体を拭き、寝巻きに着替えている最中に葉隠がハッとした様子で尋ねてきた。

「おっぱい揉まれたことないんじゃない?」

続けて言われた言葉に出久は勝己の顔を思い出して途端に真っ赤になった。

「え!何その反応!」
「緑谷のおっぱい揉んだことあるの誰!?」

芦戸が女子全員を見渡すが、みんな揉んだのは今日が初めてだ。誰も挙手しない。

「峰田ちゃんかしら?」

蛙吹は揉まれてはいないが自分も峰田に触られている。性欲の権化の仕業に違いないと皆も納得し始めるが、出久は首を横に振る。

「峰田くんじゃないよ!」

彼は全く無関係だと言う出久に麗日がぽつりと尋ねた。

「もしかして、爆豪くんなん?」
「っ!」

ブワワっと真っ赤だった顔が更に赤くなった出久に麗日は目を丸くする。もしかしてとは言ったが、本当に勝己だとは思わなかったのだ。

「はあ!?付き合ってもいないのにおっぱい触るとかあり得ないでしょ、爆豪最低」
「ち、違っ!僕が触らせたんです!!」
「え。そうなの?」
「あー。でも、緑谷くんならやりそう」

嘘をついてしまったが、自分の日頃の行いがアレなせいで疑われることはなく、出久は内心でガッツポーズをした。勝己の好感度を下げずに済んだ。

「てかさ、そんなに爆豪のこと好き?」
「う、うん」

こくこくと何度も頷く出久に皆、一様に微苦笑する。フラれても一途で一生懸命であると応援したくなるものだ。

「緑谷の場合は中身変えようがないし、見た目を爆豪好みにするってのはどう?」
「み、見た目?」
「髪伸ばしてみるとかさ」

自分のために髪を伸ばしてくれる女って男は好きらしいよと芦戸が耳打ちして教えてくれる。

出久は自分の短い髪を触る。しかし、それよりも持ち上げた右手を気にしてしまった。凸凹で歪になってしまい、傷跡はもう肩近くまで達してしまっている。

「右手?」
「うん……」

麗日に出久は頷き返す。授業でヒーロースーツに着替える時などに晒すから、この場にいる女子六人には既に見慣れたものとなっている。

林間合宿先に現れた敵との戦闘で更に酷い傷を残していたのを見た時には、麗日達も青褪めるほどだったけれど、ヒーロー科に在籍する彼女達からすれば傷は勲章でもある。
だから、醜いだなんて思ってはいなかった。
それは男子達も同じではないだろうか。その中でも特に。

「爆豪くんは気にせえへんと思うよ」
「そうかな……?」

右手について勝己からは何も言われたことがない。

出久自身はリカバリーガールが諭したように戒めとして傷を抱える覚悟をした。けれど、交際を申し込むために差し出した右手を勝己に叩かれてから、自信がなくなっている。
葉隠に色仕掛けを提案された時に望みが薄いと返したのは、それも理由に含まれた。勝己に素肌を晒しても、彼は全く動じないし、興味すらなさそうだった。

「異性として見られてない気がする」
「じゃあ、やっぱりイメチェンあるのみだ!」

芦戸が元気にぴょんぴょんしながら言うのに、出久も頷いていた。髪型を変えてみるのは良いかもしれない。

まずは、勝己に髪の長い女性は好きか訊いてみようと共有スペースに顔を出したところ、彼の方から歩み寄って来た。
おお!これはどんなシチュエーションだ!?と出久は期待したが、勝己の拳が頭に落とされて痛い思いをした。

いきなり出久の頭を叩いた勝己に女子からブーイングがあがる。

「爆豪ヒドーイ」
「喧嘩は昨日済んだのでしょう?」
「女子叩くとかあり得ないんだけど」
「爆豪ちゃん、理由も言わずに叩くのはよくないわ」

彼女達の言い分に勝己以外の男子も頷いている。だが、男子は誰一人として勝己に後ろ指を指さなかった。

「風呂から人のこと呼び付けてんじゃねェよ!今度やったらブッ殺すぞ!」
「え?聞こえてた?」

出久はまさか此処まで声が届いてしまっているとは思わず、痛い頭を押さえながら顔を赤くする。

「ずっと聞こえてくるからさあ、峰田が女子風呂に行け行け煩かったよな」
「爆豪が何度も床に叩きつけていたぞ」
「お陰様で峰田はこの有様です」

切島がだから許してくれと一番に口を開き、常闇が状況を説明して、上鳴が峰田を指差す。
見せしめのように、轟が個性で作った氷の十字架に勝己によってボロキレにされた峰田が括り付けられている。その十字架は障子の複数腕の一つに持たれていた。

「峰田くんにも困ったものだ。相澤先生から彼の監視も委員長として頼まれているが、手に負えない」

飯田からも今回ばかりは勝己を責めるのは筋違いだと窘められ、芦戸達は顔を見合わせる。そもそも騒いでいた自分達のせいだ。

「ごめん…….爆豪……」
「ケッ」

峰田の暴走を止めてくれていたのは女子達からすれば有り難いことだ。言い過ぎましたと謝る。

「けど、デクくんを叩くのはあかんよ」
「コイツは言っても聞かねェだろうが!」

だから叩くと強気に出られて麗日は身を引いてしまう。体育祭で一対一で闘った前でも後でも勝己の迫力には勝てる気がしなかった。

「ごめん、かっちゃん。気を付ける」
「死ねカス」

出久は反省したのに、今度やったら殺すとワンチャンあったはずだったのがなくなった。

「それよりさ、なんで緑谷は爆豪のこと呼んでたんだ?」

上鳴が首を傾げて尋ねてくる。
出久は頭を押さえていた手を下ろして、自分の胸を抱える。

「……みんなにおっぱい揉まれて」
「おっぱい!」

峰田が覚醒するが、彼の目を耳郎がイヤホンジャックで貫いた。

「緑谷のおっぱいすごいんだよ!」
「ええ。とても柔らかかったですわ」

芦戸と八百万の報告に瀬呂と切島が赤くなり、その後ろにいた砂藤や口田も顔を覆う。尾白が後ろを向いた横で上鳴はテンションを上げている。

「爆豪だってさわ」
「わあああ!ストップストップ!葉隠さん待って!口ここですか!?」
「?」

葉隠の口だと思われるところを手で塞ぎ、慌てている出久に勝己は首を傾げる。

「緑谷くん、そこ目。何も見えないよー」
「わ!ごめんね!」

口ではなく目を塞いでしまっていた。出久は慌てて手を離した。
出久の様子に葉隠はちょっと考えてから言い直した。

「爆豪は緑谷くんのおっぱいどう思う?」

それ聞いちゃうの!?と出久は愕くが、正直なところ自分も気になっていた。
ハラハラしながら勝己の答えを待つ。

「デカすぎて気持悪ぃ」

出久は頽れた。
ありゃりゃ。と、葉隠はしゃがみ込んで出久に手を合わせる。見えないだろうけど雰囲気で察してもらえれば幸いだ。

「蹴りに出るとき予備動作でけぇのはそれが邪魔してるからだろ」

続く勝己の言葉に出久は顔をあげる。
周りが何の話だ?と疑問する中、勝己は出久から背を向ける。

「どうにかしとけ。寝る」

自室に向かうため、勝己はエレベーターに向かう。出久は慌てて勝己を追いかけ、エレベーターの扉前に立つ彼の腕を掴む。

「ま、待って。訊きたいことがあるんだ!」
「ああ?」
「髪、長いほうが好き、かな?」
「…………」
「か、かっちゃん?」
「覚えとらんのか」
「え?」
「髪切ったこと」
「ええっと……」

勝己は溜息をついて出久の手を振り払う。扉が開いたエレベーターに乗り込む。
そのまま上にあがるのを待っていたが、閉じようとする扉を出久が往生際悪く両手でこじ開けてくる。彼女の腹に蹴りを入れた。

「ぐおっ」

腹部の痛みに蹲る出久に向かって、勝己は扉が閉まる直前に中指を立てた。
出久は涙目で痛む腹をさすりながら名残惜しげに閉じられたエレベーターを見つめる。

「僕、何か忘れてる……?」

勝己に尋ねるも、彼はもう目の前にいない。フラフラと立ち上がった出久は下唇を指で摘む。

ええ、なんだろう。かっちゃんの口ぶりからして最近じゃなさそうだ。うんと前だと小学生かそれより前ってことか?小学生のときはもう髪短くしてたから幼稚園かな?幼稚園の時に何かあったっけ。幼稚園幼稚園幼稚園……駄目だ思い出せない。

「また緑谷のブツブツ始まったな」
「その前に緑谷の腹蹴った爆豪にはもう誰もツッコまねーのな」

自分の世界で喋り続ける出久に切島は少し引きつつ、飲み物をコップに注いだり保湿クリームを顔に塗りだす女子達を上鳴は一瞥した。

「デクくんのブツブツ始まると邪魔できへんし」
「緑谷ちゃんも爆豪ちゃんもいつも通りなのだから、上鳴ちゃんも見守ってあげて」

オレンジジュースを乾杯する麗日と蛙吹がそれぞれ受け答える。
切島と上鳴は顔を見合わせてそれもそうだなと頷いた。勝己にはまだ言い足りないことがあるのだが、暫く様子を見てみるべきだ。

意中の相手に中指を立てられても動じていない出久は皆が自室に戻って行く中、共有スペースで最後の一人になるまでずっと記憶を掘り起こそうと躍起になっていた。

四階で降りて自室のベッドに背を預けている勝己はむすりと顔を歪めていた。
出久が無神経なのは今に始まったことではないが、彼女はいつも大事なことを覚えていない。それが無性に腹立った。





言い忘れていたが。
これは俺が最悪な幸せを手に入れるクソ話だ。





























◆後書き◆

今回はかっちゃん目線で。
シュートスタイルの考察とおっぱいの話になってしまいましたね。葉隠さんが透明なのは大変美味しい感じです。
A組みんな名前だけは全員書き込めたと思うんですけど…誰か忘れていませんように…。
人多すぎてわっちゃわちゃしてきて書いてて大変でした。でも楽しかったです。A組賑やかで。
次回はショタロリ勝デク♀書ければ。





更新日:2018/01/15








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