◆内密≠公然+MARGINAL◆










コンビニの店長になって三年。緑谷君がアメリカに飛び立って一年が過ぎた。
ただ、俺は東京のコンビニに戻って来ていた。

一年前、緑谷君に仲介人をしてもらい、東京の病院に入院している前インゲニウムの見舞いに俺は行った。その後、以前バイトしていたコンビニに立ち寄ってみれば、店長は健在だった。しかし、俺がそこでバイトをしている時から歳を召していた店長は更に老け込んでいた。重いものを持つのも困難になってきたし、若いバイトの子とは話が合わなくてほとほと困っていると打ち明けられたのだ。
困っている。俺が放っておけるはずもなく、此処の店長になりますと名乗り出すのに時間はかからなかった。

俺が店長を務めていた静岡のコンビニは、緑谷君がバイトをしてくれたお陰で雄英の卒業生がいたコンビニとしてちょっとした有名スポットになっていた。彼がバイトしていたのは二ヶ月だけだったのだが、流石名門校だ。
その知名度の恩恵で人手は充分に足りていた。バイトの一人に此処の店長にならないか持ち掛け、二日後に了承の返事をもらえた。すぐさま俺はアパートの荷物をまとめ始め、引っ越しの準備を整える。下の階に住む和歩に東京に戻ることを告げれば、めちゃくちゃ怒られた。なんで?

明日には引っ越し業者が来る。あとはテレビを段ボールに詰めれば終わりだが、詰めてしまう前に何かドラマでも観ようかなと電源を入れてリモコンでチャンネルを弄る。

「お。爆豪君だ」

ヒーローネームも覚えているのだが、心の中でそう呼んでしまっているから本名が口から漏れた。

プロヒーローはヴィラン退治だけが仕事じゃない。人気があればあるほど、テレビやコマーシャルのオファーが来るのだ。芸能人のようにマネージャーは付かないが、事務所がオーケーを出せば所属ヒーローに拒否権はない。まあ、俺は業界に詳しいわけじゃないから、これはあくまで一般市民達の認識だ。

「春のオールスタートップヒーロー大運動会?なにこれ」

俺はテレビ画面の右上に表示されているロゴ文字を読み上げて首を傾げる。スタジオアナウンサーが今年で三回目と言っている。去年もやってたのか知らなかった。

途中から見始めた俺みたいな視聴者にも判るようにアナウンサーが今までの概要をまとめて解説してくれる。
各事務所のプロヒーロー達を集わせ、個性使用可の身体能力テストを行い、運動会のように順位を決める特番バラエティらしい。

爆豪君の横には飯田君もいて俺はテンションが上がる。どっちも頑張ってほしい。二人ともヒーロースーツが様になってるなぁ。超格好良いぞ!

『現在の中間一位は昨年の優勝者キャプテン・セレブリティ!二位は去年デビューしたばかりのニューヒーロー爆心地!三位は同じくニューヒーローの二代目インゲニウム!』

アナウンサーが告げる中間順位を聞いて俺は一位のヒーローにげんなりする。あの人苦手なんだよなー。一度路線変更したが、やっぱり根っこは変わらなくてまたお騒がせセレブリティに戻っていた。

『クソが!俺が絶対ぇ一位だ!』
『君は相変わらずだな。ヒーローならば口を慎みたまえ』
『お利口気取りかよ!黙れクソ眼鏡!』
『全く君は……』

そっか。二人って同級生だっけ。緑谷君を中心にした接点で認識していたから結び付いていなかった。友達って感じではないけど交流はあるように見える。

それにしても、負けず嫌いの爆豪君は現順位に不満そうだ。視聴者ウケを取る為のお遊び番組なのに……。でも、そういう何事にも拘る向上心良いよな。格好良い。顔めっちゃ怖いけど。

『HAHAHA!吠えるな、吠えるな。ひよっこ達じゃあ、ボクの魅力にはまだまだ敵わないさ』

カメラがセレブリティに向き、俺はテンションが下がる。チアガール達と観客の女の子達が桃色の声をあげるのも正直理解出来ない。

『っざけんな!ケツアゴ!』
『け、けつあご』

ケツアゴ……!ブフゥ!
俺は腹を抱えて笑った。ナード顔やゴキブリ野郎と散々な渾名を爆豪君に付けられたが、これが他人のこととなるとこんなに面白いとは新発見だ。

『魅力だぁ?笑わせんな!そんなもんで敵をブっ飛ばせるわけねぇだろ!!ヒーローは実力で勝ちに行くもんだ!!!』

俺は笑いを引っ込めた。言葉の選びがアレだけど、爆豪君の信念は真っ直ぐで歪みない。観客の男性陣から雄叫びがあがっている。

『訂正したい部分もあるが、今日のところは俺も爆心地君と同意見だ』
『ヒーローネームに君を付けるじゃねぇ!眼鏡!』
『しかし、全国放送で本名を流すわけには』
『そんなことじゃねぇ!』
『最近落ち着いて来たから大人になったと思っていたんだがな』
『今は虫の居所が悪ぃんだよ!』
『ああ、もうすぐ帰国だったか』

最後の方はコマーシャルに入るため、会話の声がフェードアウトで遠退く。
何の話だったんだろう?

『次の競技の準備が整いました!雄英高校の協力を得て、巨大ロボ仮想敵をフィールドに解き放っています!』

コマーシャルが開けたら新しい競技が開始された。さっきの話が気になるけど生放送なら仕方ないか。

『雄英出身者に有利なのでは?とお思いの皆さん!ノープロブレム!この仮想敵は生徒用ではなくプロ用に一から設計し直して先月完成したばかりのニューロボット。威力などをテストするために貸してもらいました!』

歓声がテレビから聞こえるが、それ危なくない?運用テストまだだから、ここでプロヒーロー使ってテストしちゃおうって魂胆だよね?どっかの経費削減してるよね?
なんかビデオメッセージで子グマみたいなネズミが出てきた。見たことあるようなないような。うわ喋った。しかも校長かよ。「ごめんね!」って言ってる!

飯田君がむむむと腕を組んでいる横で爆豪君はなんだって良い!殺す!と息巻いている。
雄英出身者二人の様子に他のプロヒーローはガチなやつだと理解して構えをとった。

仮想敵に殴り掛かるプロヒーロー達が画面に映る間、解説しているアナウンサーは参加プロヒーロー達のプロフィールを紹介していく。誕生日とか好物とか休日の過ごし方とか。き、緊張感がない……。え。爆豪君って登山が趣味なの。

『ヒーロー紹介の途中ですが、速報です。先程、爆心地とインゲニウムが話していた内容ですが、皆さん気になりませんか?気になりますよね?どうやら、海外遠征に行っていた同級生が帰国してくるという情報を掴みました。生放送中に続報が入りましたらまたお知らせ致します』

おお。このテレビ局は良い仕事をするじゃないか。
そして、俺は「海外」「同級生」「帰国」のワードにもしやと思い至る。

仮想敵が再起不能になったころ、プロヒーロー達の紹介も終わる。

『プロヒーローの皆さん!お疲れ様でした!良いデータが取れたと電話が繋がっている根津校長先生からも感謝の声が届いています』
『ご苦労様。運動会のポイントにはならないのに本当に有り難う』
『は?』

は?
爆豪君と声が被ってしまった。

『中休みの余興はどうだったかな?じゃあ、後半戦も頑張って!』

ブツリ。通話が切れた。

呆然とするプロヒーロー達。最初に我に返ったのは爆豪君で怒り爆破を両手から出し始める。それを飯田君が落ち着くんだと羽交い締めで拘束するが、暴れる爆豪君の腕が当たってマスクが外れ、彼の髪が焦げてしまう。簡単に爆豪君の怒りは収まらない。「だ、誰か硬化の個性をお持ちの方はいらっしゃいませんか!?」と飯田君が周囲に声掛けしたところでコマーシャルに入った。
飯田君の必死な形相にお医者様はいらっしゃいませんかのシーンを思い浮かべてしまったのは俺だけじゃないはずだ。

コマーシャルが開けると爆豪君は誰にも取り押さえられていなかった。苛ついている態度だが、個性を出していないあたり彼基準で言えば冷静になっている……んじゃないか、な。

仕切り直しの後半競技一発目は百メートル走。王道過ぎて地味だなあと思ったのも束の間、個性使用可も相まって、誰もが2秒を切っている。肉眼では視認も難しいのでスローモーション映像も用意してくれていて親切だ。この競技のトップは飯田君だった。流石エンジンの個性だ。0秒代ってなんだよ、すげー。
俺もこの競技出たかったな。滑走のスピードならプロヒーローにも負けていないと思う。

二位は爆豪君だった。爆破って威力出せば跳躍も可能なんだよな。それに加えて爆豪君はセンスがあるのだと見ているだけで実感する。個性の爆破を自分の身体の一部として上手く使いこなしているのだ。
ヒーロースーツの上からでも視認できる筋肉はしなやかだ。きっと、爆破の個性に合わせた身体の鍛え方をしている。単純に力だけを突き詰めた師匠とは違う筋肉の付き方をしているから判る。師匠は重いけど、爆豪君は俊敏さを兼ね備えている。
爆破ってのはコントロールが出来なければ速さを競う競技で二位になれる個性じゃない。スピード系の個性持ちなら飯田君以外にも参加ヒーローの中にいるのだから。

百メートル走は飯田君が一位だったが、獲得ポイントを足しても爆豪君のが上のままだ。一番上もセレブリティのまま。
下の順位が少し入れ替わっただけだった。競技に見応えがあっただけに勿体無い。

更に競技は続き、五種目のうち四種目の一位を爆豪君が勝ち取った。
総合順位一位が爆豪君、二位が飯田君だ。おめでとう!

『悔しいな』
『だったらもっと本気出しやがれ!』
『バラエティだと思って侮っていたのは謝る。けれど、俺のライバルは君じゃないんだ』
『チッ』

へー。飯田君のライバルって誰なんだろ?お兄さんとかかな?
そうだ。東京に着いたらまたお見舞いに行きたい。こっちの名物お菓子を駅で買ってお土産に持って行こう。前は手ぶらで行ってしまったからリベンジだ。
あ。セレブリティは七位に落ちていた。ざまあみろ。

表彰式の準備をしている間に上位三人にマイクが向けられる。今日の大運動会についてのコメントを求められていた。
三位のヒーローは寡黙なため頷くだけ。
二位の飯田君は「私のような若輩者をご招待いただき有り難う御座いました」と空回りした真面目さでお辞儀して、おでこをマイクにぶつけていた。マスクオンのままだから振動で中が反響しているらしく、頭をぐわんぐわんさせてる。大丈夫?
初対面の時はもう少し怖そうな雰囲気があったけど、よくよく見ていると飯田君は面白い子だ。

一位の爆豪君は太々しい態度で仁王立ち、気怠い声で俺が一番強いと豪語した。男だけだった歓声に女性の声も混じっていた。あ、女性ファンがついたな。

強い男は格好良いからモテるよな。爆豪君は眉間に皺を寄せていなければイケメンだし。
最後の競技で爆豪君の目元を覆うマスクが外れてもいた。参加ヒーローの一人が口から針を飛ばし、それを避けはしたものの爆豪君の目尻を掠っていった。ヒーローデビューしてから滅多に素顔を公開していない彼だが、高校生の時から整った顔立ちが大人びてシャープさが増せば女性は放っておかないだろう。

セレブリティみたいに女の人達にちやほやされて鼻の下伸ばすようなタイプとは全然違うし、爆豪君なら可愛い女の子達にモテてもいいぞ!

三人のコメントが終わったあと、アナウンサーが続報です!と画面からひょっこり顔を出す。
爆豪君と飯田君のところにアナウンサーが向かう。

『お二人の同級生、ヒーローデクがアメリカから間もなく帰国する情報が入りました!是非、心境をお聞かせください!』

マイクを口元にぐいっと差し出された飯田君はマスクを取る。懐から眼鏡を取り出して掛けた彼は「俺のライバルで良き友人です」と口にするが、横の爆豪君の異変に最初に気付いて口を引き結んだ。やばいって顔してる。

『ば、爆心地は』

飯田君の視線を辿ったアナウンサーは凶悪顔の爆豪君を目の前にやらかした。

『俺の前でデクの話をすんじゃねぇ!あのクソナードは殺す!ブっ殺す!帰国しやがったら瞬殺だ!!!』

爆豪君が荒れ狂ったように暴れ出し、緊急事態発生でコマーシャルに切り替わった。
うわあ。放送事故じゃん。

十分もコマーシャルが続き、番組が再開されて画面に映るのは表彰台に立つ三人。真ん中の爆豪君は雄英提供の拘束具で両腕と口の自由を奪われ、身体は柱に括り付けられていた。両側に立つ飯田君は呆れ顔で三位ヒーローはドン引きしている。

番組の放送時間はもう僅か。三人が一瞬映ってすぐ提供の文字が出てエンディング曲が流れ始める。番組プレゼントについては当放送局のホームページをご参照くださいとのテロップが表示され、終わった。

さっきの爆豪君にすごい既視感がある。
スマホを開いて雄英高校体育祭表彰式の再来だとネットで騒がれているのを見つけた俺はやっぱりと呟いたのだった。

番組を思い返して飯田君のライバルは緑谷君だったのかー。と、俺は夕食を簡単に済ませ、緑谷君も元気かな?と眠りについた。日本に戻って来るなら、ヒーローニュースで顔を見ることが叶うかも。



朝を迎え、段ボールに詰めた荷物は引っ越し業者のトラックに渡して、俺は小さなリュック一つとお土産の饅頭を片手に新幹線で東京へ移動中だ。
カートを押すお姉さんからお弁当とお茶を買って、朝食兼昼食をいただく。

久しぶりの東京の空気に俺は懐かしくなる。
住まいは以前俺が住んでいた場所が空き家のままだというので、出戻りすることにした。
東鳴羽田駅で降りて、変わりない町並みに懐かしさが込み上げる。俺の第二の故郷って感じだ。

引っ越し業者が先に着いているはずだから、荷物はもう運ばれている頃かも。と、思ったが、引っ越し業者は俺の住まいがある古ビルにトラックを横付けしたままだった。
話し合っているスタッフ達に俺は駆け寄る。

「引っ越しを頼んだ灰廻です。どうかしたんですか?」
「ああ、灰廻さん。いやね、このビルだいぶ年季入ってるから倒壊しそうで怖いって下っ端がビビっちまって。まあ、それはケツ蹴り上げて黙らせたからいいんだけど」

うん。この古ビルって俺が前に住んでる時にあと数年で解体するはずだったんだよな。もう無くなってるかと思えばまだ残ってて俺も吃驚だった。しばらく見ない間にまたオンボロになって……。

「他に問題が?」
「そうそう。お家が屋上にあるでしょ?小さい荷物は階段上がればいいんだけど、ベッドとか大きいものは階段だと狭くてね。上から紐で引き上げようかと思ってるんだけど、構わないかな?」

そうだ。その問題があった。うわあ、全く考えてなかったぁ。
しかし、此処から静岡に引っ越したときはどうやって降ろしたんだっけ……あ、思い出した!

「困っているようだな!」
「師匠!」

ナックルダスターは普通の私服姿だった。普通のおっさん。筋肉隆々だけれど。
うん。師匠に運んでもらったんだ。力持ちだから。

「ベッドだな」

師匠はベッドを軽々と持ち上げ、古ビルの横の大きなビルに入っていく。そっちの方が階段が広いし新しくて丈夫な建物だからだ。大ビルの屋上に着いた師匠はベッドを担いだまま古ビルに飛び移った。
おおー。
引っ越し業者のスタッフ達も地面から空を見上げて俺の何倍も驚いていた。

「あの人、何か個性使ったの?」
「いや、師匠は無個性です」
「ええ!?普通じゃないよー」

大ビルに働きに来ているサラリーマンやOLが段ボールを抱えた大男が何度も出入りするから不審がっていた。俺は隣のビルに引っ越し中なんですと頭を何度も下げることになった。

全ての荷物を運び終わり、俺は四年振りに帰ってきた我が家に身体を横たえる。

「はああ〜、疲れた〜」
「お前は何もしてないだろ」
「してました!師匠の尻拭い!」

俺は起き上がって両腕を振るいあげる。
しかし。何故師匠がいるんだ?と今更疑問が浮かぶ。

「あれ?俺、師匠に戻ること言いましたっけ?」
「ポップ☆ステップから緊急連絡があった」

それ、和歩的にはただの電話だったと思う。緊急連絡なんて大それたものじゃない。引っ越しなんだから。
でも、そっか。此処から静岡に引っ越すことになったとき、彼女も手伝ってくれた。その時のことを覚えてて、家具の持ち込みを手伝ってくれるように師匠に電話してくれたんだ。感謝、感謝。

「活動拠点復活だぞ、祝わないでどうする」

師匠が高そうな一升瓶を取り出す。うわあ!お酒だ!
誘惑に勝てず、俺は段ボールの荷物を開けるのもそこそこに、師匠と祝杯をあげた。

朝を迎えれば師匠の姿はなく、俺は大欠伸をして起き上がる。二日酔いになっていなくて良かった。
昼になったら病院にお見舞いに行こう。それから、こっちのコンビニに寄って店長の引き継ぎだ。

松葉杖が二本から一本になった天晴さんのリハビリは順調だった。
インゲニウムと呼ぶと弟君と紛らわしいからも理由だが、俺が天晴さんと名前で呼ぶようになった切っ掛けがある。一年前、初めてお見舞いに行った時に彼から友人にならないかと握手を求められたのだ。俺の答えはイエス以外になかった。ヒーロー事務所に誘われたとき以上の高揚に俺は力強く手を握り返した。

個性使えばゴキブリみたいって女子ウケが悪く、俺って地味だから男友達も少なかった。大学デビューを失敗した過去を思い出して辛くなる。いわゆるぼっちだ。だから言わせてほしい。初めて年上の友達が出来たぞー!
あ、師匠は違います。勝手に絡んで来る変なおっさんであって、知り合いでも何でもない。身元も定かじゃないし。仕事の名刺にはNPO法人だとか何だとか書いてあったけど、正直胡散臭いよね。

初めて会ったときだってイカれてたよ、あの人。
と、俺はかつて働いていたコンビニを目の前にして思い出していた。でも、まあ、悪い出会いでは……なかったかな。
いいようにこき使われてはいたけど、師匠の正義感はこれでも尊敬している。

引き継ぎを済ませれば、翌日から俺はこのコンビニの店長だ。

早速だが、東京のコンビニ店長になった初日。俺は全く身構えていなかったため、かなりの間抜け面で客を出迎えてしまった。

向こうは俺の顔を見てもピンとこなかった様子で普通に店内を見て回り、缶コーヒーをレジに持ってくる。俺は表情を引き締めて商品をレジに通し、声を掛けずにいた。
この間の大運動会観たよとか言うべきか?いやいや、あんな終わり方だったんだから本人的には黒歴史なんじゃないだろうか?でも凄かったしなぁ。
あ。今日もお釣り無しなんですね。じゃあ、レシートもいらないな。

「ナード……」
「あー、ご無沙汰しております」

気付いてくれたようなので俺はへらりと笑って頭を下げる。しかし、俺の挨拶を無視して爆豪君は辺りを見回す。誰かを探しているような。
ここには店長の俺とバイト二人しかいない。バイトはおばちゃんと男子大学生だ。客は爆豪君だけ。

「どうかした、かな?」
「チッ、何でもねぇ」

爆豪君は缶コーヒーを袋なしでそのまま受け取り、コンビニの外へ出て行った。
何だったんだろう?

隣のレジに入っていたバイトの大学生君が「知り合いっスか?」と尋ねてきた。俺は「まあね」と曖昧に返事をした。大学生君は「そうっスか」と頷き、それ以上会話は続かなかった。さっきの客がプロヒーローだと気付いていない様子だ。おばちゃんの方ものほほんと商品の陳列を続けている。

確か、爆豪君が所属しているのはベストジーニストが経営しているジーニアス事務所だったはず。此処から近かったっけ?後で調べておこう。

そういえば、この間買ったヒーロー雑誌に新人ヒーロー特集が載っていた。どうして今の事務所に決められたんですか?の質問が各新人ヒーローに向けられ、爆豪君は『ベストジーニストに借りがある』と短く語り終えていた。一言では文面から感じ取れるものなど殆どないのに、とても惹きつけられたから一字一句覚えている。

何だったっけ。そうだ。オールマイトの最後の戦いになったあの事件で、多くのヒーローが負傷した。ベストジーニストもまた腹部に大きな傷を残され、今は復帰しているけれど長期の活動休止を余儀なくされたんだ。
そのことについての話題が前にあって、それから爆豪君のコメントの雰囲気が少し変わったと思う。勘違いかもしれないけど、俺はそう受け取った。



ある日。俺はヒーロー速報を住まいのテレビで目にする。
そこには、緑のスーツを全身に覆うヒーロー。成人男性にしては小柄な彼は負傷した一般市民を何人も背負い、瓦礫の山から救い出していた。強風にマスクが煽られ、素顔が露わになる。もさもさ頭にそばかす。
見知ったその顔は幼さが残っていて頼りなさそうに見えるが、ニッと振り絞るように笑顔を見せた。

『僕が、来た!』

渡米していたヒーローデクの日本帰国後のこの登場はオールマイトの再来と呼ばれ、語られるようになった。
俺も鳥肌が立つほど興奮した。動画何回も再生しちゃったよ。
元気そうで良かった。頭から血流してたけど。

それから数日後、俺がコンビニに出勤すると大学生君が話し掛けてきた。

「店長ってヒーローに詳しかったっスよね?」
「マニアって程じゃないけどね」
「さっきデクっぽい人来て」

え!?本当!?
俺は乗り出しそうになる身体を必死に引っ込める。年下の前でくらい大人の男でいたいのだ。

「そうなんだ。へえ〜」
「あ。でも、本物じゃないかもしれなくて」

そうなの?
大学生君はうーんと首を傾げて続ける。

「なんか、テレビで見たのと雰囲気違ったんスよ。おどおどしてて、ヒーローらしくない感じって言って分かります?買ってったのもヒーローウエハースだし。ヒーローがヒーローシール集めたりしないっしょ?」

それ本物です。緑谷君に間違いない。
大学生君の中のヒーローデクのイメージを壊さないほうが良いだろう。それに、それ本人だよって教えてもこの様子だと信じないと思う。

「まあ、そうかも、ね」

俺は曖昧に頷いておいた。大学生君はただ話を聞いてもらいたかったか、自分の疑問に同意してもらいたかっただけのようで。やっぱ違ったと一人納得してレジに並び始めた客から商品を受け取って対応し始める。俺も目の前の客が持ってきた商品をレジに通した。

ヒーローニュースで緑谷君の活躍を見ない日はない。そう言っても過言ではないほどにデクの名前を彼方此方で聞く。
ヒーロー事務所に身を置いていない彼は事件があれば何処へでも駆け付け、現れる。しかし、フリーランスのヒーローなんて殆どいない。給料がしっかり支給される保証がないからだ。事務所に所属していれば面倒な手続きや計算を賄ってくれるけど、緑谷君の場合は逮捕協力だとか人命救助の貢献度を自分で警察に申告しないといけない。俺だったら税理士雇わないと絶対無理。
だから。申請するかしないかの違いくらいで、ヒーローデクの行動はヴィジランテと大差ない。まあ、免許あるなしじゃ大分世間の目は変わるんだけど。

緑谷君は国に認められているヒーローだ。俺達みたいな非合法とは違うから職として成り立っている。わけだけど……今なんでそんな話をしているかって言うと、緑谷君が家にいるからだ。古ビルの屋上の俺の住まいに。

何で緑谷君がいるか経緯を説明させてもらうと、銀行強盗をして逃げたヴィランをこの古ビルの屋上で彼が捕らえたからだ。
捕まったヴィランを警察に引き渡した後、警察から今は何処のホテルに宿泊中か尋ねられた緑谷君はさっきチェックアウトしたばかりでまだ次のホテルを決めていないと返していた。ホテル住まいをしているらしく、警察もそれは把握しているようだ。
何処に泊まろう?と悩み始める緑谷君に俺が家に泊まらないかと誘った。驚きながら迷惑じゃないかと慌てる緑谷君に警察から俺の被害届けの処理もあるから連絡先が同じだと手間が省けると一押しされて、今に至る。

「す、すみません。お邪魔してしまって。しかも、お家も壊しちゃって……」

座布団の上で肩身を狭くする緑谷君に俺は気にしないでと気軽に手を振った。数日ではあるけどヒーローデクの連絡先となるため、俺の住まいが違法建築であることを警察に見逃してもらえたからラッキーだったし。まぁ、それよりも古ビルのボロさに憐れむ目を向けられて、早く引っ越したほうが良いよと忠告されたんだけどね。

俺の被害は家の屋根が削れたのと、窓ガラスが割れたくらい。段ボールとガムテープで補強したので、風は凌げている。雨もしばらく降る予報はないし大丈夫だろう。
ヒーローがヴィラン退治で破壊してしまった建物などは国から無償で修繕してもらえる。だから、お金の心配もないのだ。むしろ、ヒーローの方が損害賠償を請求される立場なので俺の方こそごめんって感じ。ヒーロー側も手当てがあるから何とかなっているとは思うけど。

「気にしなくていいって。せめて宿泊代浮かせてってよ。チャーハンでいいかな?」
「は、はい!お構いなく」

あまり贅沢なもの出せなくて申し訳ないんだけど、俺の料理の腕は普通だ。一人暮らしの経験は長いから自炊もマメにしていた。不味いものは出さない自信がある。
チャーハンだけじゃ味気ないからと、有り合わせでポテトサラダと卵スープ。あ、昼に買ってきた唐揚げもあった。
それらをテーブルに乗せれば、緑谷君はわっと嬉しそうな顔をしてくれた。

「こういうご飯久しぶりです」
「そう?遠慮せず食べてね」
「有り難う御座います!いただきます!」

若いだけあって良い食いっぷりだった。俺、これから料理も頑張ってみようかな。自分の作ったご飯をこんなに美味しそうに食べてもらえるってなんか嬉しい。

それから、緑谷君が日本に戻ってきてからヒーロー事務所に所属せずに活動していることについて聞いたり、俺のヴィジランテとしての働きを聞いてもらったりした。

「そういえばさ」
「はい?」

近くの銭湯からの帰り道だった。風呂も住まいにあるのだが、風呂場の上の屋根が削れているのだ。段ボールで覆っているとはいえ、隙間風も心配だし、段ボールが濡れてしまうのも避けたい。

緑谷君が僕のせいでえええ!と何度も頭を下げてくるのを必死に宥めて一緒に銭湯に行った。
幼い顔立ちに似つかわしくないほど鍛え上げられた筋肉に羨望を抱きつつ、それ以上に吃驚したのは緑谷君の右手の凸凹が腕まで達していたことだ。俺のギョッとする視線に緑谷君は申し訳なさそうに右腕をタオルで隠してた。
言葉を探した俺は「歴戦の勇者って感じがして格好良いよ」と口走り、緑谷君を困らせてしまった。もっと気の利いたこと言えよ俺!
逆に俺の右肘の古傷を緑谷君に心配されてしまった始末だ。これ、子供の頃に個性でスピード出し過ぎてザックリやっちゃったやつなんだよね。緑谷君に比べたらしょぼいしダサいよ。
色々面目ない感じになっちゃったけど、銭湯が初めての緑谷君に入り方を教えてあげて感動してもらえたから、名誉挽回出来た、かな。風呂上がりのコーヒー牛乳がめっちゃ旨いんだよ。

そんなわけで銭湯で火照った身体が冷めてきた頃、帰り道の途中で俺はふと、緑谷君に尋ねた。

「爆豪君と仲悪かったの?」

二人が中学生の時に裏で爆豪君が緑谷君を締めていたのを目撃しておいて今更と思われるかもしれないが、高校生からの二人は最初に見た頃より変わっていった。本人達が変わったのではなく、二人の間にあったものが変わったんだと思う。上手く、言えないんだけど。

それで、何で仲が悪いのかと俺が訊くのには理由がある。
この間。ヴィランがグループで暴れている現場に爆豪君が駆け付け、そこに緑谷君も遅れて駆け付けた。彼らを含め、数人のヒーローがヴィラングループを取り押さえて事件は解決。
すると、報道陣が周囲の安全を確認しつつ、ヒーロー達にインタビューしようと近づいていった。ターゲットは緑谷君だ。すぐ近くに爆豪君もいたから、同期の雄英卒業生が二人同時にいる画面を押さえたい思惑があったんだろう。

しかし、インタビューは叶わなかった。辛うじて二人の様子をカメラで撮らえるのが限界で、カメラに映った二人だけがお茶の間に流れた。
爆豪君が緑谷君に詰め寄り、怒鳴りつけ、暴力を振るった映像が。

ヒーローらしからぬ爆豪君の凶暴さと、ヒーローらしからぬ緑谷君の弱腰が全国放送された。
あの一件で世間では爆心地とデクは不仲だと噂されているのだ。

「仲は、悪いです」

苦笑いする緑谷君が嘘をついているようには見えなかった。

「友達じゃないの?」
「違います。ずっと昔はそうだったかもしれないけど、幼馴染ってだけですから」

俺と視線を合わせることなく、緑谷君は遠くを見つめて静かに事実を口にした。
それから、何かを続けようと口を開いていたけれど、息を吸うだけで閉じられた。

「アメリカ行ってるときに連絡したりは?」
「してないです。この間、そのこと怒ってきて……かっちゃん本当に理不尽だ」

思い出しているのか、緑谷君の表情が歪んでいく。この間って、もしかして俺がテレビで見たあれなのかな?報道陣も危険を感じて近づけなかったようで、二人の会話までは拾えていなかった。唯一、爆豪君の罵声だけ拾えていたが「クソが!」と言った後はピー音になっていた。規制に引っかかってしまったらしい。

爆心地デビュー直後は生中継だと何も対策が出来ていなかったが、一年もすれば学ぶようだ。生中継でもピー音を入れる準備が整えられている。
だから何言ってるかはさっぱりだったんだよね。

「でもさ、緑谷君って爆豪君のこと嫌いじゃないよね」
「そう、見えますか?」

ちょっと驚いている緑谷君に俺も驚く。俺、変なこと言っただろうか。
でも。だってさ。そうだろ?

「かっちゃん昔から何でも出来て、凄くて、強くて、僕の憧れでした。でも、嫌なやつでもあったから……馬鹿にされたこともたくさん」

はあ、と息を吐いた緑谷君は続ける。

「けど、彼の中では色んなことに悩んでたって知って、お互い様だったんだなって。僕、知らない間に傷つけちゃってて。ようやく分かって、えっと」

支離滅裂だ……と、言葉がまとまらなくなってきたことに緑谷君は口を閉じてぐにゃぐにゃさせた。

「あー、うん、何となく伝わったから大丈夫だよ」
「そ、そうですか?」
「好きってことだろ?」
「へあ!?」

日が沈んでいる時間だが、緑谷君は暗がりでも分かるほど顔を真っ赤にしていた。

「ち、違います違います!好きとかそんなんじゃなくてですね!?」
「人として好きなんじゃないの?」
「……え、あ」

緑谷君は俺の反応に何かを悟ったように、顔色を徐々に戻していった。

「人としては、イヤかなー」

そばかすの頬を指で掻きながら緑谷君は横を向いた。

「おいコラ、クソデク。それは俺のことか?」
「うわあああ!かっちゃん!こんばんは!!」

丁度、俺の住まいがある古ビルの下だった。
爆豪君は緑谷君の左腕をギリギリと掴み、緑谷君は痛みに涙を溜めて痛い痛いと喚いている。

「テメェ、俺から逃げるとか小癪な真似しやがって」
「いや、逃げるでしょ」
「俺のストーカーの癖に何言っとんだ。週刊誌のガセ記事までスクラップして保管してんじゃねーよ!クソナードが!!」
「何故それを!?」

ヒーロー雑誌でもない週刊誌にまで手を出して、あまつさえ切り抜いているとは。緑谷君はオタクの鑑だな。ちょっと行きすぎとも思わなくもないけど。

「何でもいい。帰んぞ」
「ちょっ、僕はまだ君のところには」
「まだなら、今でもいいんじゃねーのか」
「だから、そういうことじゃないんだって」

爆豪君が緑谷君を引っ張っていきそうになり、俺は今更ながら声を掛ける。

「もしもーし」

二人同時に俺を振り返った。

「モブは引っ込んでろ」

予想通りの爆豪君の台詞に俺はもう心に傷なんか負わない。

「俺です。灰廻です。って言っても覚えてないと思うんだけどね」
「あぁ?……………………ナード顔か」

はい!やっぱり名前覚えてませんでした!しかも顔思い出すのに時間かかり過ぎ!
で。かくかくしかじかだと説明して、緑谷君に続いて爆豪君も俺の城にお招きした。

「ヴィランのアジトみてぇにクソだな」

と爆豪君にケチをつけられたが、緑谷君が庇ってくれた。良い子だな、君は。
まあ、ヴィジランテのアジトでもあるから、強ち間違いとも言い切れないんだけど。

爆豪君は緑谷君に何か言いたいことがある様子だったから、口を割るかと思えば最初のアジトみたいでクソ以降喋らない。
こっそりと緑谷君に爆豪君はどうしたのか尋ねたが、彼は口数が多いほうじゃないからと答えが返ってきた。基本的には物静かなんだそうだ。口を開いたら煩いだけで。黙ってれば美人とかいうあれか。

爆豪君はただ緑谷君を睨み続け、緑谷君は痛い視線に辟易した様子で彼から少し離れたところに座る。
俺は師匠の寝泊まり用の敷布団を取りに行って、二人の近くに敷いた。師匠は大柄だから布団は二組あるのだ。一組だけだとあの人はみ出るから。ま、たいがい雑魚寝してたから敷き布団が活躍したのは片手で足りる数回だけど。

「有り難う御座います」
「ッス」

緑谷君と爆豪君がそれぞれ礼を言ってくれる。
なんだかんだで、俺って世話好きだったんだなーと自分でも自分の新たな一面を発見だ。
今大活躍のニューヒーローを前に烏滸がましいかもしれないけれど、後輩が二人出来たみたいで嬉しい。

「緑谷君は向こうにいる間もこっちのヒーローニュース見てたの?」
「ネットから見られるものはチェックしてたんですけど、やっぱり見られないのも多かったです。バラエティ系のは動画探しても一部だけだし、DVDになるわけでもないから」

悔しそうに語る緑谷君に俺は笑い、そんなに数はないけれど俺が録画したので良ければ観る?と訊いた。緑谷君は目の色を変えて立ち上がった。

「見たいです!」
「何がいい?爆豪君が出てるのがいいなら、途中からだけど春のなんたら大運動会が」
「おい、ちょっと待て。あれはやめろ」
「かっちゃんは黙ってて」
「んだと!口答えすんな、死ねクソが!」
「大運動会の爆豪君凄かったよ。駄目なの?」
「再生してみろ、ナード顔。テメェも殺す!」

わちゃわちゃと騒ぎつつ、あの大運動会なるバラエティ番組を三人で鑑賞した。爆豪君は始終苛ついた様子であったが、緑谷君が「かっちゃんすごい!」と言ったときだけ態度が軟化した。していたように思うんだけどな。

最後の最後は俺と緑谷君がドン引き。何度見てもあれはなー。緑谷君は「またなのかっちゃん」と憐れむ視線を隣に向け、爆豪君にキレられてた。
他にも録画したものを爆豪君中心に探し出して、見ている間に俺達は寝てしまっていた。

朝日が段ボールの隙間から差し込み、入り込んで来た小鳥に俺は突かれて起きた。

「いてて。お前どこから入って来たんだよ……あ、そこか」

小鳥をシッシと手で向こうに行くように払う仕草をするが、小鳥は首を傾げる。
糞とかしなければいてもいいけどさ。早く巣に帰れよ。
と、上半身を起き上がらせてから俺は客がいたんだと思い出した。並べた敷布団に入る緑谷君と爆豪君は互いの手を握り合って眠っていた。

どうしよう。超写メりたい。
幼馴染って言ってたしなー。幼稚園のお昼寝タイムがそのまま大きくなった感じだ。
スマホを構えて一枚だけ写メった。シャッター音で起きなくて良かった。セーフ。

俺は顔を洗って朝食の準備。三人分ともなるとキツイな。食パンなら数はあるし、トーストにしよう。目玉焼きとベーコン乗せれば腹も満たされるし。インスタントの春雨スープも出せばそれなりの見た目になる。

目玉焼きをフライパンの上で焼いている音と匂いで爆豪君と緑谷君がほぼ同時に起き出す。二人とも寝起きの頭で顔を手で擦り始めたから、お互いの手を繋いでいたのに気付いていないみたいだ。俺はくすりと笑う。

「おはよう。よく眠れた?」
「おはようございまぁふ」
「うす」

緑谷君は言葉尻が欠伸混じりに、爆豪君は立ち上がりながらの挨拶だ。

「灰廻さん、頭……」

緑谷君が俺の頭の上のものに気付いた。

「ぴ」

あの小鳥が乗っている。

朝食の席で俺と緑谷君の会話が弾むが、爆豪君は会話に入ろうとせずもくもくとトーストを口に運んでいく。文句を言われなくて良かった。
しかし、緑谷君との会話で俺がヴィジランテであると知ると一言。

「犯罪者」

やめて!プロヒーローに言われると冗談に聞こえないから!

俺が夜な夜なうろうろしていたことを知っていても、爆豪君には興味がなかったから非合法ヒーローだと結びついていなかったようだ。まあ、俺をヴィジランテと認識している人は少ないんだよね。最初の頃は親切マンと呼ばれていて、地域ボランティアの人だと思われてたみたいだし。
うーん。でも、プロヒーローからすれば目障りだよな、ヴィジランテなんて。

爆豪君は空になった全員分の皿を持って台所で洗い始めた。いや、それ俺がやるよ?立ち上がろうとする俺を緑谷君が引き止めた。

「かっちゃんは言い過ぎたと思ったんじゃないかな?」

確信はない口振りだったが、緑谷君がそう言うなら当たらずといえども遠からずってことだろう。俺は腰を下ろして、テーブルの上でぴょんぴょんする小鳥にパンくずを与えた。

洗い物が終わると、爆豪君は事務所に出勤するため一度住まいのマンションに帰っていった。
緑谷君が「いってらっしゃい」と送り出したとき、苦虫を潰したような顔をしていたのが俺は気になった。

緑谷君が俺の住まいに数日居候している間に警察から二度の呼び出し、俺は被害届けについて確認の電話が一度あっただけだ。壊れていた屋根と窓は二日後には直してもらえたので、今はもう元通りだった。

しかし。お世話になりましたと、緑谷君が出て行ってしまってから、一気に寂しくなった。

「ぴ」

まだお前がいたっけ。
それにしても、緑谷君がいる間は師匠来なかったな。ま、来られても困るんだけど。



俺は今まで通り、コンビニの店長として働いている。言いがかりのクレーム対応は面倒だが、客を観察するのはわりと楽しかったりする。静岡のコンビニは来る客が大抵常連だったけれど、東京だと常連は一握りで殆どの客が一期一会だ。

じっと観察していたら失礼だから、ちらりと何を買うのか一瞥したり、一緒に来た友人と何を話しているのかちょっと聞き耳をたてるくらい。
今の時期は何が売れ行き良いのかだとか、流行りなどを知れるので、商品の仕入れに活かせるのだ。仕事だよ?お仕事!すみません、多少は下心あります。
まあ、困っている人や事件の情報も得られるからやめられないんだよなー。

今日は若い女性二人が雑誌の棚のところで会話していた。
週刊誌を立ち読みしているようだ。

「ねえ、これ本当かな?」
「どれ?え!嘘!?私ファンなのにショック……」
「爆心地格好良いもんね。私も嫌いじゃないけどさ、性格ってテレビで見るのとまんまなの?」
「どうだろ。プライベート全然わかんないだよねー」
「なら、余計大スクープじゃんこれ」

爆豪君、週刊誌に撮られちゃったのか。根も葉もないこと書いてあるんだろうなと俺が感想している間も彼女達の会話は続く。

「同棲してる彼女って誰だろ?」
「同じ事務所の人かな?」
「ええー、やだぁ」

同棲している彼女がいるなら祝福してあげようよ。と、俺は心の中でツッコむ。
そこへ、来客を知らせる音楽が流れた。今は風が冷たい時期でコートが欠かせない。入り口からの冷たい空気に制服だけの俺は身震いする。

「いらっしゃいませー」
「あ。こんばんは」

緑谷君だった。彼はここのコンビニだったんですねと、ほわりと綻んだ。
こっちでもコンビニの店長をしていることは彼が家に泊まっていた時に伝えていたが、この辺りはコンビニが多いからだいたいの場所しか教えていなかった。

緑谷君の後ろには爆豪君もいた。さっきの緑谷君の様子だと彼に聞いていたって線はなさそうだ。爆豪君は素知らぬ顔で、温かい飲み物を探しに行ってしまう。

「肉まん美味しそうだなー。わあ、シンリンカムイまんがある!」
「今蒸してるの一つだけだから、お早めに」
「じゃあ、シンリンカムイまん一つ。と、かっちゃんは何がいい?」

缶コーヒーを片手に戻ってきた爆豪君に緑谷君が尋ねる。

「あ?肉まんか……一番辛いやつ」
「それなら、麻婆まんがオススメです」

俺は今月からの新作をお勧めした。唐辛子も多めで結構辛く、辛党上級者向けだと思う。

「ん。それで」

緑谷君が爆豪君の手から缶コーヒーを抜き取りレジに置いた。緑谷君がまとめて支払うようだ。
あれこれとレジに通している間にまた客が外から来て冷たい空気がわっと店内に入ってくる。入り口近くのレジだから緑谷君も爆豪君も冷たい風を浴びる。
身震いした爆豪君は緑谷君に覆い被さった……いや、抱きしめている。

「かっちゃん重い」
「寒ぃ」
「うん。だから肉まん食べようよ」

夏はイキイキしてるのに冬はこんなんなんだからと、緑谷君は慣れた様子でそのままレジ袋に入れた缶コーヒーを受け取り、麻婆まんを爆豪君に手渡して、自分はシンリンカムイまんを手にして満足そうに匂いを吸い込む。

「シンリンカムイまん、どのコンビニに行ってもなかなか見つからなくて。出会えて良かった〜」
「来週からは13号まんだよ」
「13号先生だって、かっちゃん!13号先生の個性はブラックホールだから中身黒いのかな!楽しみだなあ!七週連続の中華まんヒーロー企画なんだけど、具は発売日初日まで秘密なんだよな〜。ああ!早く月曜日にならないかな!」
「クソナード発言だな」
「かっちゃん暴言にキレがないね。寒い?」
「寒ぃ」
「じゃあ、早く食べよ」
「外行くんか」
「飲食スペースないんだから仕方ないだろ?ほら、行こ」

緑谷君は爆豪君を引っ張り、俺に頭を下げてからコンビニを出て行った。

雑誌の棚の前にいた女性達がちょっと呆然としていた。爆心地とデクだって気付いている様子で、しかし、半信半疑の顔をしている。

「爆心地とデクって不仲説あるよね」
「うん。人違いじゃない?」

週刊誌に爆豪君の写真でも載っているのか、コンビニの壁ガラスの向こうで信号待ちしている彼と見比べている。彼女達は違うと結論を出したらしく、爆心地とデクのそっくりさんと思い込んだようだ。

週が変わった日。緑谷君が一人でやって来た。先週より寒いからもこもこした格好だ。

「こんにちは。13号まん買いに来たんですけどありますか?」
「緑谷君、こんにちは。今蒸してる途中だから十五分くらい掛かるんだけど」

時間は大丈夫かな?と俺は尋ねる。緑谷君は十五分なら全然大丈夫だと、こくこく何度も頷く。

「待てます!」

肉まんが蒸し上がるまで緑谷君は店内を回り、今日が発売日のヒーロー雑誌とヒーローウエハースを二個持ってレジに再びやって来る。

「もう出来上がるよ。一つでいい?」
「あ。二つで」
「爆豪君?」

こくりと頷く緑谷君。

「13号まんの中身ピリ辛黒胡麻だからかっちゃん好きかなって。本当は一緒に来ようと思ったんですけど、寒いからやだって家から出たがらなかったんですよ」

早朝はどれだけ寒くてもジョギングに行くクセになー。と、緑谷君は頬を膨らませて文句を言う。それでも爆豪君が好きそうという理由で彼の分の肉まんも買っていくのだから微笑ましい。

…………あれ。

「もしかして、一緒に住んでるの?」
「!」

しまった。緑谷君の顔はそう書いてあった。
俺、余計なこと言っちゃった、よな?

「あ、あの!一緒に住んでるって言っても、ただそれだけで!まだ何もしてないし、されてないので!」
「え。何?落ち着いて、緑谷君」

一人暴走し始める緑谷君を前に俺の頭はクエスチョンマークでいっぱいだ。
だって、シェアハウスしてるだけなんだから、そんなに慌てる必要ないと思う。世間から二人が不仲だって認識されているイメージを壊したくないにしても大袈裟すぎる。

「あ、れ。その、大丈夫だったりしますか?」
「大丈夫も何も、男友達と一緒に住むなんて珍しくもないと思うよ」
「うーん。かっちゃんは友達ってわけじゃ……いや、でも、そういうことにしといた方が」

あ。そういえば、友達じゃないって言ってたっけ。仲悪いまんまなのかな。でも、他人の俺から見れば二人は仲が悪い印象ないんだけど。中学生の時と高校生の初めの頃を除けば。家に泊まったときなんて手繋いで寝てたし。

「ふ、ふふ」
「い、いきなり何ですか?」

思い出し笑いで肩を震わす俺に緑谷君は警戒しているようだ。そんなに身構えられるとお兄さん寂しいよ。

「君達が家に泊まった時、手繋いで寝てたからさ」
「え!?」

大きな目を見開く緑谷君に俺はスマホを取り出す。仕事中だが、他に客もいないし許してほしい。
スマホからカメラロールを呼び出して、あの時撮った画像を緑谷君に見せた。彼は驚いているのか、凍ったように固まる。
仕事中だし、俺はすぐにスマホを仕舞う。その間も緑谷君は動かない。

「どこにも売ったりしないから安心して」

マスコミに流出するのを危惧しているのかもと思った俺はそう言ってみたが、緑谷君の様子からして見当違いのようだった。
緑谷君の顔は真っ赤で、火照らせた頭から湯気が出ていた。顔の半分を傷だらけの手で覆った彼は「……まじでか」と小さく洩らした。

「なんか、ごめんね。大丈夫?」
「だ、大丈夫です!また来ます!」

買い物を済ませた緑谷君は頭を下げて、急ぐようにコンビニを走り出て行った。

「有り難う御座いましたー」

また来てくれるようだ。機嫌を悪くしたわけじゃないみたいでほっとする。
二人で仲良く肉まん食べてくれるといいけれど。……ん?先週の週刊誌に書かれてた爆豪君が誰かと同棲してるってあれ、相手緑谷君なんじゃないか?
なんだ。そっかー。
爆豪君に可愛い彼女が出来たならおめでとうの一言くらい言ってお祝いしてあげようと思ってたんだけど、早まらなくて良かった。
まあ、その代わりって言うのも変だけど、緑谷君がホテル住まいの根無し草生活じゃなくなったなら一安心だ。

爆豪君は何でも器用にこなしてしまいそうなイメージあるし。料理も俺より出来そうなんだよな。高校生の時にはもう自分でやれてたみたいだったし。
緑谷君は……ちょっと頼りない感じあるんだよね、私生活。ヒーローとしては誰よりも頼もしいんだけどさ。

だから、爆豪君と一緒に住んでるって判ってなんだか肩の荷が下りた。別に俺は緑谷君の保護者でも何でもないけれど、彼を間近に見ていると心配になってしまうのだ。
力じゃ俺なんか到底、緑谷君に勝てやしないの判り切ってるのに。何でだろう。
爆豪君はその辺、どう感じているのかな?

単純な力比べならパワータイプ個性の緑谷君に軍配が上がる。けど、戦闘センスで言えば爆破の個性をテクニックで如何様にも応用出来る爆豪君のが確実に上だ。緑谷君はなんか荒削りなんだよな。
ううん。どっちが強いって決められないなぁ。でも同じくらい強いとも言い切れなくて、俺は頭を悩ませた。



数日後。俺はブドウジュースをお土産に病院に行った。勿論、天晴さんのお見舞いだ。

病室に足を踏み入れれば、弟の飯田君もいた。お兄さんのベッドと窓際の間に座って、林檎を剥いて……いる?

「こんにちはー」
「やあ」
「ご無沙汰しています」

爽やかに手をあげる天晴さんに続き、飯田君はカクッと頭を下げて挨拶してくれた。

ブドウジュースを天晴さんに手渡せば彼は笑顔で受け取って、覚えててくれたんだなと紙パックにストローを刺して早速飲んでくれる。なんだか照れてしまう。

「兄さん!どうぞ、林檎です!」

剥けた!と、飯田君が皮をごっそり切り落とした四角い林檎を天晴さんに差し出した。天晴さんは本当にお前は不器用だなぁと苦笑気味に四角い林檎を受け取る。
え、そのまま食べるの?

「ストップ、ストーップ!」

天晴さんと飯田君がきょとんと俺を見る。
うん。兄弟の時間に水を差してる自覚はあるけど、常識考えよ?

「その林檎、切らせてもらっていいですか?」

俺は飯田君の隣に腰を下ろして、四角い林檎の角を果物ナイフで切り落とす。捨てるのは勿体無いから、それはそれで食べるとして。四角から丸に近づいた林檎をいつもの要領で八つに切り分けた。元がごっそり削れてしまっているからかなり小さいが、真四角まるごと林檎よりは食べやすいと思う。

「航一君は器用だね」
「そんなことないですよ。弟君の愛情には負けますから」
「いえ!後学のために俺に林檎の皮むきと切り分け方を教えていただけないでしょうか!灰廻さん!」

飯田君は新しい林檎を手に皮を剥いている俺の手元を真剣に見つめる。

「学校とかでも調理実習とか……あー、雄英はないかそういう授業」
「料理をする機会はありました。林間合宿はみんなでカレーと肉じゃがを作りましたから。意外にも爆豪君が一番包丁使いに手慣れていたのは、みんな驚いていて」

いいね!カレー。俺、大好物なんだ!
うんうん。爆豪君は料理できる男だもんね。柄じゃ無さそうなのにさ。

「あはは。爆豪君、見た目とギャップすごいよね」
「彼のこともご存知なんですか?」

あ。そっか。緑谷君繋がりで飯田君と知り合ったから、爆豪君と俺が顔見知りだって知られてないのか。

「俺が働いてるコンビニにお客さんで何度か来てるよ。あと、飯田君とテレビに出てたよね、春の大運動会」
「俺も観たぞ、あの番組。百メートル走の天哉は誰よりも輝いていた。流石、ターボヒーローインゲニウムだ」

飯田君はうぐっと口を引き締めて視線を彷徨わせる。あ。これ、恥ずかしがってる。

「に、兄さんの名に恥じないヒーローになるのが僕の夢だから」
「ぼく?」
「あ」

やってしまった。と、飯田君は自分の口を塞いだ。
お坊ちゃんな雰囲気あるもんね。本人はそれを良しとしていないようなので俺はへらりと笑う。

「ごめん、何でもないよ」

飯田君は安堵した様子で俺に頭を下げ、お兄さんの方を向く。

「好い人ですね」
「だろ」

おおう。俺が恥ずかしくなってきた。

しかも天晴さんは飯田君を煽るように「航一君はうちのサイドキックの誰よりも速いんだぞ」と耳打ちしている。驚いて口を四角く開ける飯田君からの視線が痛い。お、俺、飯田君とタイマンで百メートル走する気はないからね。みんなで楽しくあの競技に参加したかっただけなんだよ。

紛らわすために俺は話題を変える。わざとらしい咳払いを一つ。

「ごほん!ところでさ。爆豪君と緑谷君ってテレビで報道されてる通り仲悪いのかな?」

天晴さんにも通じるように、二人のヒーローネームも伝える。

「ああ、爆心地とデクか。天哉と同級生なんだよな」
「そうです。ただ、仲が悪いと一言で片付けられる関係ではないと思うので、俺がどうこう言えた立場ではありません。緑谷君とは、学内でもよく一緒に行動してましたが、爆豪君とは馬が合わなかったので」

飯田君は変な汗を掻きつつ、眼鏡を押し上げる。
高校一年生の頃、戦闘訓練で爆豪君とペアを組みヴィラン役としてヒーロー役側の緑谷君と対峙した時の話を教えてくれた。

「――そんなこともありました。入学当初は爆豪君の私怨がかなり酷かったです。俺も何度か注意しましたが、改善しなくて。爆豪君の態度に緑谷君は毎日怯えているのに、あれが彼の通常運転だからと注意を止められたこともあります」

俺は中学生の時の二人を思い出し、苦笑いを浮かべる。

「緑谷君って深入りさせない雰囲気出すときあるよね」
「!、そうなんです!分かっていただけますか、灰廻さん!」

立ち上がってずいっと顔を寄せてくる飯田君に俺は少し引いた。

「天哉」
「あっ。失礼しました」

飯田君は天晴さんの呼び掛けでシュタッと大人しく椅子に戻る。
微苦笑で俺に謝る天晴さんだが、素直な弟君を可愛がっている優しさが瞳に溢れている。兄弟って良いなぁ。

おっと。話が逸れてしまうところだった。

「それで、今もそんな感じだったりするの?」

俺の目からは飯田君が話していたような二人は現在の緑谷君と爆豪君にはちょっと結びつかない。

「いえ。ある時から爆豪君の態度が多少軟化して、お互いに会話らしい会話をするようになりましたね。爆豪君の口の悪さは相変わらずでしたが」

思い当たる節がある。けど、二人の間に何があったかは知るはずもないんだよね。飯田君は知ってるのかな。

「どんな切っ掛け?」
「個性使用の大喧嘩です」

はあああああ!!?
叫びたいのを我慢して俺は絶句した。だって緑谷君と爆豪君の個性って攻撃型に属するだろ?そんなのやったら二人とも大怪我は避けられないじゃないか。

体育祭のバトルと喧嘩は別物だ。体育祭はルールが敷かれているからある程度で見切りをつけて審判が下る。喧嘩は決着がつくまで終わりがない。とことんやる。だから、やり過ぎてしまうことだってある。

「二人とも傷だらけでしたが、先生方に見つかったようなので酷い怪我をしているわけではなかったかと」
「そう?それならまあ、良かったけど……良くないか」

喧嘩は良くないからね。
でも、あの緑谷君が喧嘩か。想像つかないや。
基本的には弱腰の態度だし、ヒーローの顔の時は強いけれど暴力と暴力をぶつけ合うタイプには見えない。
蹴りがメインの戦闘スタイルだからってのもあるかも。俺の中では喧嘩イコール殴り合いのイメージがある。

「ある意味、羨ましくもあります。遠慮がないのは」

歯痒そうな飯田君の声に俺は彼の手元を見つめる。指と指を組んだ両手が固く握り締められていた。

「緑谷君にとって、羨望の対象でありライバルなのは爆豪君であって、俺じゃない」

ゆっくりと手の力を緩めた飯田君は気持ちを切り替える吐息をもって、爽やかな面持ちで顔をあげた。

「つまらない話をしました。申し訳ない」
「いいよ、気にしないで。青春って感じがして俺は好きだな」

飯田君が「麗日君みたいな言い回しをしますね」と呟いて肩の力を抜いた。
麗日君って、さっき話してくれた戦闘訓練で緑谷君とペア組んでた子だよね。触ったものを浮かせる個性のヒーローが確かいたよな。ああ〜、喉まで出掛かってるのに顔とヒーローネームが出てこないっ。
住まいに帰ったら最近のヒーロー雑誌片っ端から探そう。それと昔の雄英体育祭の録画が残ってるか確認だ。 おお。なんか俺、オタクみたいな行動取ろうとしてない?緑谷君の影響かなぁ。

と。そうだ、緑谷君だ。緑谷君は自分のことに立ち入れられるの避けてるけど、それって自分に自信がないからじゃないかなって、俺は今思ってる。だから、助けてもらいたくないからって理由とは違うはずだ。
ヒーローも職業だから同業者同士の蹴落としとかもあるだろうけど、緑谷君はそんなことよりも助け合いの精神を大事にしている。そう感じるんだ。

「でもさ。飯田君は緑谷君にとって友達で仲間なんじゃないかな。彼、嬉しそうに君のこと話してたよ。アメリカ人って我が強い人が多いから、なかなかチームとしてまとまらなくて困ってたんだって。飯田君がいてくれたら良かったなって思うこと何度もあったって言ってた」

渡米した緑谷君は何かある度に同級生達のことを思い出しては元気づけられていたと教えてくれた。それを知ってほしくて、俺はちょっと早口に伝えた。

言葉を失っている飯田君を俺は微笑ましく思う。それは天晴さんも同じだったようで。

「お前も大切な友人だと思っているんだろ」

弟の頭を撫でて微笑んでいる。
俺は、以前貸してもらったハンカチを飯田君の手にそっと返した。





























◆後書き◆

灰廻さん視点の勝デク続きました。
勝デクのプロヒーロー編。
同級生の中でかっちゃんが一番最初にヒーローデビュー、出久くんが一番最後にデビュー(アメリカでひっそり宣言したので帰国するまで日本での知名度はあんまり)。

灰廻さんのお家に勝デクをお邪魔させてみました。かっちゃんは出久くんと一緒に住もうとするけど出久くんが拒否っていて、灰廻宅お泊まりを経て、その後なんだかんだで一緒に住み始めました。
ちなみに恋愛感情としての進展は何もありません。かっちゃんは何か知らんがデクを目の届く範囲に置いておきたいってなってるだけで感情に気付いておらず、出久くんは自覚してて色々したいけど黙り。という裏設定。

まだ続きます。





更新日:2017/12/21








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