◆折寺勝デクの初詣 オマケSS◆




『ハツユメ×ウタカタ』









「あ」
「お」
「チッ」

舌打ちに動じることなく、二人は何の天変地異だ? と勝己と出久に近付いた。

「珍しいじゃん」

ロン毛が指差してくるのに対して、勝己は眉間に皺を寄せながら答える。

「コイツのおばさんとうちのクソババアが一緒に行っちまった。じゃなきゃ、クソデクなんかといるかよ」
「……ごめん」

苛立つ勝己と蒼褪めている出久は、どちらも一緒に居たくなさそうな雰囲気だ。
わざわざ一緒に居続ける必要があるのか? と黒髪が洩らせば、勝己が目を吊り上げて「クソババアの言い付けだわ!」と返してきた。親の言い付けを守っているあたり、勝己もみみっちぃなと思う。中学二年生なら反抗期だろうに。

「じゃあ、俺らと行かね? 寒いし、甘酒もらいに行こうぜ」

黒髪からの誘いに勝己はベンチから立ち上がった。出久があからさまにホッとした顔をする。けれど、痛いほど視線が刺さって顔をあげた。

「行くぞ」
「ぼ、僕はいいよ。その、君だって迷惑だろ?」
「ア? てめェとはぐれてたら俺がクソババアにどやされんだぞ。さっさと立て」
「でも……」
「なんもしねェわ。早よ行くぞ」

勝己は出久の手首を掴んで引っ張り上げた。掴まれた手首を見て、出久は何かはしてるだろと内側で言葉にした。勝己の背中に困惑するしかない。

ロン毛と黒髪の二人は「緑谷も一緒なのか」と顔を見合わせる。別に嫌なわけではないが、中学生らしく反抗期に勝己を誘ったつもりだったので、当てが外れた感じだ。

「緑谷はなんか願い事したか?」
「え!? あー、内緒……」
「そっか。まぁ、誰かに言ったら叶わないって言うしな」

それにしても。と、黒髪は出久の手首を離さない勝己の手に視線を落とす。

「カツキは何お願いした?」
「神頼みだとかくだらねェわ」

ロン毛の問いに勝己らしい言葉が返される。

「何のために初詣来たんだよ」

出久が勝己以外の疑念を代弁した。頷きかけた黒髪とロン毛は動きを止める。勝己が目を吊り上げた形相で振り返ってきたからだ。標的は出久だ。巻き込まれないように二人はそっぽを向いた。

「あ!?」

勝己の罵声が出久に浴びせられた。
それでも尚、勝己の手は出久の手首を掴んだままだった。罵声の中に「人混みに攫われないようにしてやってんだろーが!」と含まれていたので、まあまあそういうことだろうと黒髪とロン毛は納得しておいた。

紙コップに注がれた甘酒を貰ってからも、勝己は出久を離さない。片手で甘酒を煽って「クソ甘ェ」と機嫌悪そうにしている勝己にロン毛は「抹茶入れると甘くなくなるらしいけど」と口を挟んでいた。

「でも、あったまっただろ?」
「ハッ」

勝己は黒髪に鼻息で返事した。だが、否定の言葉が返ってこないのだから、身体が温まったのは確かなようだった。
あまり寒さが得意ではない勝己を連れ出したのは正解だったと、二人が気を緩ませていると、更に緩ませた寝息が聞こえてきた。
こつん。と、肩に重みが来たことに勝己はそちらに目をやった。甘酒を飲み切った出久が頬をほかほかにして寝ている。
勝己は手の中にあった紙コップを個性の爆破で灰にした。

爆発音に参拝客達が何事だ? とこちらを注視し始める。黒髪とロン毛がすんません何でもないっすと頭を下げてやり過ごした。

「カツキ、こんな人が多いとこじゃ不味いって」

内申に傷が付くのは嫌だろ? と二人掛かりで肩を怒らせている勝己を宥めた。

「クッソ!」

勝己は行き場のない怒りを還元出来ないまま、出久の首根っこを引っ張り上げた。
目の前で暴行が始まってしまうと、黒髪とロン毛が目を覆う。不良の自覚はあるが、ど田舎の学校は他校とは縁がない。喧嘩なんて年に一回あれば金賞ものなくらいで、喧嘩慣れしているわけではなかった。
けれど、悲惨な音もなく、恐る恐る顔をあげてみれば、予想外の光景に目を丸くした。

「あア? ンだ、その面はア?」
「や、なんでもねーよ」
「おう」

勝己が出久を背負っていた。おんぶしている。
のどかな光景に胸を撫で下ろす二人だったが、意外と世話焼きな勝己にどんな顔をすればいいのか判らなくなっていた。

「あ! いた! 馬鹿息子!」
「馬鹿は余計だ! クソババア!」
「アンタはクソもババアも余計なんだよ!」
「うるせエ!」

そこへ、近所のママ友達との世間話を一段落させた光己と引子が自分達の息子を見つけて寄ってきた。

「あら、出久ったら寝ちゃったの? ごめんね、勝己君」
「……別に」

引子の前でしおらしくなる勝己に、黒髪とロン毛は猫被っているなと思う。ある意味、勝己の苦手とするタイプなのは、何となく判る気がする二人だった。

「良いわよ、緑谷さん。コイツ馬鹿力だから家まで送ってあげる。そんなに離れてるわけでもないし」
「でも悪いわ。うちの子重いわよね? おばさんが代わってあげるね」
「大丈夫ッス」

勝己は出久を背負ったまま、歩き出した。出久の母親は昔より恰幅がよくなったが、力があるようには見えない。それに、寝ていて体温の上がっている出久は温かかった。手放し難いと思ってしまっていた。

「何だかんだで仲良いわよね」
「小さい頃は何処行くにも一緒だったものね」

母親同士がのほほんと会話しているのを黒髪とロン毛は冷や冷やした面持ちで聞いていた。学校での普段の様子など、口が裂けても言えない。

「君たち」
「は、はい!」
「何でしょうか!」
「今年もうちの子とよろしくね。扱いづらい子だけど、仲良くしてやってくれたら嬉しいわ」

面倒だったら捨ててくれて構わないけど。と、笑顔で追加する光己に二人は愛想笑いを浮かべる。勝己の母親は相変わらず肝っ玉が強く、容赦がない。

「じゃあ、私らも行きましょうか」
「ええ。うちの子ともよろしくね」
「はい」

光己に返事をした後、此方を振り向いて頭を下げた引子に、黒髪は自分も頭を下げていた。
引子に気を付けて帰るように言われ、黒髪とロン毛は頷いた。



「かっちゃん?」
「ようやくお目覚めかよ。イイご身分なこった」
「夢、かな?」
「初夢には満足か?」
「うん。願い事叶ったから満足」

それから寝息が耳のそばで聞こえ、勝己は出久を落とさないように背負い直す。
目の前を母親二人が世間話をしながら歩いていたが、急に立ち止まった。上を見上げる母親達と同じように勝己も見上げる。
しんしんと、泡沫夢幻の雪が降ってきた。






























◆後書き◆

半熟ペーパー用に書いたオマケSSです。

最初はMARGINAL設定で大人かっちゃん視点の年明け話書いてたんですが、話が紙一枚分にまとまらなさそうだったので、急遽折寺勝デクに(汗)。
丁度ひろあかの再放送もBSで始まったので、中学の二人に興奮してしまいました。
書いたの出来上がったらほのぼのしてしまって折寺の殺伐感消失していますが、このときから既に幼馴染の物理的距離感が近かったらいいなと。

泡沫は読み方二つあったので、タイトルはウタカタ(泡沫)、最後の締めは泡沫(ホウマツ)にしました。





初公開日:2019/01/20(半熟名古屋7用無配ペーパー)
更新日:2019/02/18








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