◆ハロウィン勝デク オマケSS◆




『Treat me × Trick me』









えと。訳あって、人生をワンチャンダイブしてしまった中学生です。
たぶん死んじゃったんだと思うんだけど、生前の記憶があやふやで自分の名前を忘れちゃったんだ。親の顔も思い出せない。すごく大事だったって気持ちはあるのに、ふんわりしてる。

唯一はっきり覚えているのは、ダイブする直前だけ。僕は学ランを着ていて、学校の屋上から飛んだ。
はずなんだけどなぁ。

なんか、生まれ変わることを期待していた気がするのに、魂はまだ現世にいるみたい。どうやって自分で成仏すればいいんだろう。困った。

僕は一年以上、その辺をうようよしていた。その間に布キレに憑依したら、安定感があって気に入ったからそのまま過ごしてたんだけど、定着しちゃった。魂が布から離れられないって気付いた直後は焦ったけれど、ゴミとして燃やされたら成仏出来るかもしれない。僕は成り行きに身を任せた。

しかし。一向にゴミ捨て場に捨てられることもなく、街中を風に飛ばされ続けた。
晴れた日は野良猫の布団になり、雨の日は野良猫の雨避けになった。
これからどうしようかなって途方にくれていたある日。僕は僕に拾われた。

記憶があやふやだって言ったけど、僕を拾ったのは自分だって直感出来た。ただ、僕を拾った僕は高校生だった。ブレザーを着ているから。それと、見覚えのない傷が右手にある。
とても混乱しているけれど、僕は何故か感極まってしまい、泣いた。

「あれ? なんか濡れてる。乾かせば使えるかな」

僕を拾った僕がそう言って、僕を持ち帰った。何処かの建物に入って、洗面所でドライヤーをかけられた。
僕は乾いた。

人がたくさんいる一階の部屋からエレベーターに乗る前に、女の子が話し掛けてきた。近い!

「デクくん、その布で衣装作るのかな?」
「うん。道で拾ったんだけど、なんか放っておけなくて」
「助けちゃったんやね。良いと思うよ! デクくんらしい」
「そ、そうかな?」

僕は大事そうに僕に抱え直された。

エレベーターに乗って、二階にある小さな部屋に入る。僕の部屋なのかな……フィギュアがたくさんある。壁に貼られているポスターを見て、僕は無くなっているはずの胸をざわざわさせた。
何か思い出せそうで思い出せない。

「あー。やっぱり裁縫道具ないや。かっちゃん持ってるかな?」

僕はビクリとした。かっちゃんって誰かの名前に。
僕は僕を手に持って部屋を出て、またエレベーターに乗り込む。四階で降りると、一つの部屋の前でドアをノックした。

「ア? んだ、てめェ」

機嫌悪そうに出てきた部屋主を見て、僕は飛び上がった。かっちゃんだ!
無個性の僕にヒーローになりたかったら、来世は個性が宿ると信じてワンチャンダイブしろと言った幼馴染のかっちゃんだ。だから、僕は屋上からダイブしたんだ。

僕はかっちゃんを切っ掛けに殆どの記憶を取り戻していた。
だから、僕にここから離れようよと気持ちを訴える。僕の気持ちは僕に全く届くことなく、僕は僕と一緒にかっちゃんの部屋に入った。
生きた心地がしない! 生きてないけど!

「裁縫道具貸してくれるだけでいいんだけど」
「借りパクされたかねェんだよ」
「僕、君の物をパクったことないだろ?」
「勝手に人の動きパクった奴が言える台詞かよ」
「それとこれとは違うじゃないか」

僕はヒヤヒヤしていた。いつ、かっちゃんに怒鳴られてしまうんだろうかって。
けど、僕とかっちゃんは普通に会話していて、僕はあれれ? って疑問を持ち始める。

「ところでさ。かっちゃんもハロウィンの仮装大会出るんだよね?」
「参加するわけねェだろ」
「え? でも、切島くんがかっちゃんの分の衣装用意したって言ってたけど」
「クソ髮……! アイツ、またか!」

イライラし出したかっちゃんに僕はおろおろする。でも、僕が見上げた先にいる僕はおろおろするどころか、かっちゃんに苦笑を向けていた。
なんで、僕はそんな顔が出来るんだろう?
僕が疑問符を浮かべている間も、僕とかっちゃんは口数はそこまで多くなくとも会話を続けてた。

僕が僕に針を刺した瞬間はギュッと縮こまったけど、痛くなかった。なんだ、ビックリしちゃった。
けれど、僕の手元は覚束なくて、自分の指に針を刺して痛がってた。僕、そこまで手先不器用じゃないと思ってたのにって僕が僕の手を観察してたら、あの傷が目に入った。

「貸せや、クソデク」

僕はかっちゃんに手渡った。恐怖に染まって青褪める僕だったけど、かっちゃんは丁寧にアップリケを僕に縫ってくれた。昔からかっちゃんは何でも出来て、僕の憧れだった。
その想いが蘇ってきて、僕はじっとかっちゃんを見つめる。

「か、かっちゃん! やっぱり自分でやるから!」

熱い視線をかっちゃんに注いでいた僕は、僕の手に戻る。
僕が僕の様子を窺えば、むくれてた。嫉妬したのかな? 僕が僕に。

「てめェ、やれるんか?」
「やれるよ!」

僕は残りのアップリケを僕に縫い付けていくけど、めっちゃ失敗した。それを見てたかっちゃんがザマァ見ろと言わんばかりの顔をして、僕はちょっとムッとする。
でも昔、小さい頃一緒によく遊んでいたときを思い出してしまう顔だった。懐かしくて、嬉しくて、僕はまた泣いた。

「あれ、また湿ってる」
「……漏らしたんか」
「漏らしてないよ!」

いつのまにか僕は衣装として完成したみたい。

十月三十一日の夜、僕はオバケの布として僕に着られた。その日が来るまで、僕は僕の部屋にハンガーにかけられていたから、僕がどんな生活を過ごしているかはよく分からなかった。
毎日毎日、僕の部屋にあるオールマイトグッズを眺めて過ごしてた。幸せだった。

それでようやく外に出られた今日は、ハロウィン仮装大会を学校の敷地内でやるんだって。もうすぐ文化祭で今はその準備の真っ最中だから、仮装大会は参加したい人だけの自由参加。

かっちゃんは狼男の恰好をしてた。付け耳が気になるのか、ずっと獣耳をさわさわ触ってる。かっちゃんのああいうところは子供っぽい。
僕は他の友達と喋っていた。魔女の子と吸血鬼の子、それからロボット……? じゃなくて、フランケンシュタインか。魔女の子がツッコみを入れていて分かった。その中にいる僕も笑顔で、とても楽しそうだった。

かっちゃんも別のグループの輪にいたから、僕らが会話することはなかった。ここの僕とかっちゃんも友達ってわけじゃないんだなって僕は残念に思った。けど、ふいに視線が絡んだときに僕はかっちゃんに笑いかけていた。かっちゃんは笑い返してくれなかったけれど、怒っているようにも困っているようにも見える顔をしてて、僕はさらに笑ってしまった。

へらへら笑ってたのは流石に癪に触ったみたいで、目をこれでもかって吊り上げたかっちゃんが鬼の形相で僕に迫ってきた。僕は頭の三角帽子を握りつぶされ、縫い付けの糸ごと強く引っ張られて痛い痛いと訴える。
でも痛くなくて、そういえば痛覚がないのを思い出した。
五感を失ってしまったんだった。

僕は怖がらずに閉じていた目を開いた。そしたら、屋上にいた。中学校の屋上だ。
風が肌を撫でていく感触がある。さっきまで、失くしていたのに。

「生きてる……」

長い白昼夢を視ていたようだ。
今は四月なのに、ハロウィンの夢だなんて可笑しいし、不可思議極まりない。

何か、騙されたような。それでいて、胸のすく思いに満たされている。

なんだよ。かっちゃんに振り回されっぱなしじゃないか。
僕は飛び降りることなく、階段を使って下りていった。ヒーローを諦めずに生きると決めたからだ。

かっちゃんを追いかけるのをやめたりなんかしない。






























◆後書き◆

半熟ペーパー用に書いたオマケSS。ハロウィンが近い日のイベントでしたので、おばけデク主役の短いお話。
死にネタと見せかけて生きる話でした。騙されたのも自分でおもてなしされたのも自分だったおばけデクがかっちゃんを切っ掛けに蘇って戻ってくるよ的な。
おばけデクルートの出久君もかっちゃんと結ばれ(?)ますように。





初公開日:2018/10/21(半熟名古屋6用無配ペーパー)
更新日:2018/10/31








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