◆REMOTE CONTROL story9◆
潜水艦内のルルーシュとC.C.しか知らない通路を通り、ルルーシュは自室へと辿り着く。
少し大きめの荷物を抱えるルルーシュをC.C.は存外な姿勢で迎えた。
「お帰り、ルルーシュ」
相変わらず自分のベットを占領しているC.C.にルルーシュは顔を顰めながらも、彼女にピザのチラシと携帯を手渡す。
「此処で受け取るなよ」
「そんなヘマはしないさ」
チラシと携帯を受け取り、C.C.はご機嫌な様子でピザを選ぶ。
そんなC.C.を尻目にルルーシュは私服からゼロの衣服に着替える。
しかし、視線を感じてルルーシュはC.C.を振り返る。
「女の身体をジロジロ見る趣味でもあるのか、お前」
「いや、歳のわりに胸が小さいなと思っただけだ」
サイズからすればAあるのかも怪しいルルーシュの胸にC.C.は視線を送る。
「・・・女性ホルモンの分泌が異常に少ないからな」
小さな呟きであったが、狭い密室ではC.C.の耳にははっきりとその言葉が届いた。
女性ホルモンは二つの種類がある。
母体を守るエストロゲン、妊娠の準備をするプロゲステロン。
どちらも女性には必要不可欠なものであり、どちらもルルーシュには足りなかった。
特にプロゲステロンは分泌されていないと診断された。
それに伴い、生理が来ないのだ。
生理が起こるには卵胞期、排卵期、黄体期と続き、最期に月経期の生理が訪れる。
卵胞期に必要なエストロゲンは分泌されるが、著しくそれが少ないルルーシュには卵胞期が訪れることも稀(まれ)である。
アッシュフォード家の主治医から渡された薬で排卵期まで行ったが、プロゲステロンの分泌が必要な黄体期は訪れなかった。
その原因をC.C.はまだ知らない。
気付いてはいるだろうが。
苦い顔をしたC.C.にルルーシュは気にしていないとでも言うように小さく微笑む。
だが、C.C.は表情を改めない。
それはつまり、子供が産めない身体ということだった。
カレンは潜水艦の食堂で緑茶を啜っていたが、湯飲みをテーブルに置き、小さな溜息を漏らした。
何かぽっかりと空いてしまった心にカレンは気付いてしまったのだ。
ゼロが自分の兄ではないのか、そんな風に思い込んでいた。
兄は死んだのだと言い聞かせても、納得しかけていた事実はゼロに希望を見ていた。
自分勝手だな、と昨日のルルーシュとの会話を思い出す。
核心に触れていないルルーシュの口から語られたものはカレンにとって不十分だった。
けれど、不思議と深く聞く事はしなかった。
そのまま深い思考の渦に落ちていくのを向かい側の椅子に腰を下ろした人物に掻き消される。
「何か用?玉城」
面倒臭そうに頬杖をつけば、玉城はカレンに顰めっ面を寄越す。
何も言わない玉城を見かねて、井上がカレンの横の席に腰を下ろした。
「ゼロと何を話していたのか聞きたいのよ」
井上がそう言えば、カレンは視線を泳がすが、瞼を伏せることでそれを止める。
「・・・同級生なのよ」
それに周りの者は目を丸くした。
周りの者と言っても、扇を抜く黒の騎士団の初期メンバーしかいないのだが。
「ゼロと?」
玉城の言葉にカレンは頷きを返す。
それはつまり、ゼロがカレンと同い年であり、17歳ということだ。
そんな子供に今まで着いてきたのかと頭を抱えたくなる。
しかし、今や黒の騎士団はカリスマ的存在となって、此処まで大きな組織になった。
その黒の騎士団を創り上げたのは紛れもなくゼロというただ一人の人物なのだ。
「同じクラスで同じ生徒会役員で生徒会副会長」
淡々と告げられる言葉はカレンとかなり近い場所に居たと知れる。
玉城がそれに何かを言おうとするが、食堂に入ってきた人物に口を閉ざした。
ゼロが扇を伴って姿を現したのだ。
それにはカレンも驚く。
食堂にゼロが足を踏み入れる事など今まで一度も無かったからだ。
「あの、ゼロ、何故食堂に・・・」
カレンがそう言えば、ゼロは仮面を外し、マスクを下ろす。
「C.C.が俺の部屋でピザを食べているせいで息苦しいから此処に来たんだ」
何か問題でもあるのか?とルルーシュの視線にカレンはもう今更だな、と天井を仰いだ。
味方に素顔を見せるくらいは許容範囲になってしまったのだろう。
扇とはたまたま通路で会って、目的地が一緒だったので共に来たらしい。
ルルーシュは仮面と手袋をカレン達が席をついているテーブルに置いたかと思えば、そのまま食堂の台所に入り、驚きの顔を隠さない調理担当の団員と何か話して小さな鍋を用意してもらうと、調理担当の団員は曖昧な表情で休憩へと入った。
今度はジャガイモやら人参を取り出したルルーシュにカレンは目を剥く。
カレンは席から立ち上がり、台所前のカウンターから身を乗り出すようにルルーシュの手の中を見下ろす。
「ゼロ、自分で作るんですか?」
「料理ぐらい出来る。食べるなら人数分作るが?」
顔を上げたルルーシュは食堂に居る人数を確認し、七人か、と呟いて頭の中で自分も入れて八人分の量を計算する。
C.C.はピザを食べていたからいらないだろう。余ったら持っていけば良い。
カレンは元の席に戻り、そこからルルーシュの調理を傍観する。
カウンターが邪魔で手元は見えないが、迷いのない手順に関心する。
カレンが料理をすると言えば、魚や鳥の丸焼きぐらいだ。
包丁では無く、ナイフを使うタイプであり、男らしい料理なら作れる。
男だと思っていたルルーシュが女であり、料理も出来る事実を知り、何だか複雑な気持ちになった。
C.C.がピザを頬張っていると扉を叩く音にそちらに視線を送る。
「ラクシャータか。開いているぞ」
軽い音をたてて開いた扉から姿を現したのは、C.C.の宣言通り、煙管を手に持つラクシャータだ。
「幾つか持って来たけど、合いそうなのある?」
ラクシャータは紙袋から数着の服を取り出していく。
C.C.は紙タオルでピザの油が付いた手を拭き、ベットから降りてラクシャータが広げた服を一枚一枚手に取る。
「胸の所が大きすぎるな」
「そんなに小さいの?」
ラクシャータはこの部屋の主を思い浮かべるが、いつもマントをしているせいで胸のサイズまでは把握出来ない。
「ああ。パットを入れるにしてもな」
「私のお古じゃ無理ってことね。買ってくる?」
そう提案すれば、C.C.は他の服も手に取り頷き返す。
ラクシャータは成長期がかなり早かったようだ。
これならC.C.の服の方がまだマシかもしれない。
「そうだな。本人を連れていった方が早いかもしれん」
「連れていけるかしら」
黒の頭首はそう簡単に丸め込めないと、ラクシャータは煙管を口に含む。
「無理にでも連れていくさ。彼奴だって会いたいと思っているんだからな」
「キューピットは大変ね」
吹き出した煙がハートのような形を作ったのにラクシャータは口元に笑みを浮かべた。
「そんな可愛らしいモノじゃないさ」
C.C.は目を細め、金色の瞳を鋭く光らせる。
全ては共犯者の為。
何時か訪れるかもしれないギアスの暴走を止められる者を此方に引き入れる為の。
並べられるクリームシチューで満たされる皿にカレン達は言葉が出ない。
「どうした、食べないのか?」
カレンの横に座るルルーシュは既に自作のシチューを口に含んでいる。
多少の戸惑いと、多大なる好奇心にカレンはスプーンを手に取る。
「いただき・・・ます」
カレンが口に含んだところで、他のメンバーもスプーンを手に取り、シチューを口に含む。
「・・・美味しい」
カレンの一言にルルーシュは僅かに微笑む。
ナナリーの為に覚えた料理だが、喜んでもらえるのは作り手としては嬉しいことだ。
片付けまでするルルーシュをカレンは手伝う。
水道から流れる水の音に沈黙は掻き消され、会話は無かったが息が詰まる思いはしなかった。
インカムを外し、ユーフェミアはセシルに視線を合わせる。
「『あの場所』ってご存知ですか?」
「いいえ。私もそこまでは」
「そうですか・・・」
ならば黒の騎士団の居場所を探るのが一番手っ取り早いだろうかとユーフェミアは思案する。だが、黒の騎士団の情報は殆ど無いに等しい。
せめてスザクが言った『あの場所』がどこら辺なのか分かれば良いのだが。
「セシルくーん!新しいデヴァイサー見つかったぁ?」
間延びした声にセシルは振り返る。
「おや、お客さん?こんなところまで何かご用事でも?ユーフェミア皇女殿下」
「はい。ロイド伯爵もお元気そうで何よりです」
ロイドはニマッと口元に笑みを浮かべると、ひょいっとユーフェミアの手からインカムを取り上げる。
「あ」
セシルが声を上げるが、ロイドの耳には既にインカムが装着されており、リピートにしたままの会話はロイドの耳に届く。
「若いねぇ、デートのお誘いですか」
スザクとゼロの会話にロイドはそんな感想と共にインカムを外して、ユーフェミアの手元に戻す。
「・・・・・・デート」
ユーフェミアは呟き、ならばトウキョウ内のテーマパークに行くかもしれないと思い当たる。
「楽しそうだから僕も仲間に入れてくれない?」
そのロイドの言葉にユーフェミアは笑みを浮かべ、こう言った。
「シュナイゼルお兄様を裏切っても宜しければ」
◆後書き◆
C.C.は既にサプライズの準備中ですv
やっとルル様の身体についての設定が。
予定では4話までに書くはずだった・・・。
ナイトメア出てこないとつまらない!!
更新日:2007/03/26
ブラウザバックお願いします