◆REMOTE CONTROL story8◆









ルルーシュは必要な物を鞄に詰め込んでいく。
もしかしたら、もう帰ってこないかもしれないな、と困ったように口元に笑みを浮かべた。
思ったよりも荷物が少なくて自分でも驚く。
女は身支度に時間が掛かると言うが、自分は論外だとその考えも吹っ切るようにクラブハウスから出て行こうとするが、もうすぐで玄関に出るというところでダイニングに引き返した。

ダイニングの扉を開ければ、折り紙で遊んでいるナナリーがルルーシュを振り返った。

「お兄様?お出掛けですか?」

首を傾げるナナリーにルルーシュは眉を下げて笑う。

「ああ、ちょっと暫く遠出する予定なんだ」

「最近、秘密ばかりですね」

「ごめん。何時か話すから」

ルルーシュは荷物をその場に下ろしてナナリーに近寄り、ナナリーの薄茶色の髪を優しく梳いていく。

「それじゃあ、約束です」

小指を差し出したナナリーにルルーシュは自分の小指を差し出し、一瞬の戸惑いの後、ナナリーの小指と絡ませた。
指切りを交わす。







これが最期じゃないよ。







玄関を出たルルーシュを待ち構えていたのはミレイ・アッシュフォードであった。

「何処行くのかしら、ルルーシュ?」






















キョウシュウルートから帰ってきたコーネリアを副総督の衣装に身を包むユーフェミアは出迎えた。
兵士や親衛隊が立ち並ぶ中、ユーフェミアはコーネリアに微笑む。

「お疲れ様です、総督」

「ああ。副総督の方はどうだ?」

「はい。シュナイゼル殿下に色々教えて頂きました」

そうか、とコーネリアは愛しい妹に微笑んだ。

「あの、総督、お部屋でお話がしたいんですけど」

駄目ですか?と首を傾げて上目遣いをしてくるユーフェミアに妹を溺愛しているコーネリアが駄目だと言うわけも無く、コーネリアは頷き、部下に指示を出した後に自室へとユーフェミアと共に向かった。







暖炉の前の椅子に座れば、ユーフェミアは口を開いた。

「お姉様、私を第四皇女に戻して頂くことは出来ないのでしょうか」

何を突然言い出すのかと、コーネリアは目を見開いた。
だが、それも一瞬で押さえ、目を細めて足を組み直す。

「皇帝陛下が繰り上げたんだ。今更変えられぬ」

厳しい口調で言えば、ユーフェミアは眉を下げる。
コーネリアはユーフェミアにこんな顔をさせたいわけでは無いが、こればかりはどうしようも無い。

本当の第三皇女は日本占領時に第八皇女と共に命を落としたのだ。
日本がエリア11と名前を変えてから、第四皇女のユーフェミアは第三皇女に繰り上がり、その下の皇女達も一つ繰り上がった。

第三皇女と第八皇女の母、マリアンヌ皇妃はコーネリアにとって憧れの存在であっただけにその子供である二人の皇女とも良く遊んだ記憶もある。
苦い顔をしたコーネリアにユーフェミアは微笑みを取り戻した。その微笑みも完璧では無かったが。

「ごめんなさい、お姉様。出過ぎたことを言いました」

「いや、このエリア11に来て、ユフィも感傷気味になったんだろう。今日はもうゆっくり休め」

「はい」

失礼しますと、ユーフェミアは椅子から立ち上がり、扉の前でコーネリアを振り返る。

「お休みなさい、お姉様」

「お休み、ユフィ」

お互い微笑み返し、ユーフェミアは部屋を出る。
そのまま自分の部屋へと足を進めるが、その足取りは重い。

コーネリアはルルーシュとナナリーが生きているかもしれないとは思っていない。

ユーフェミアは河口湖ホテルジャック事件の時に初めて対面したゼロを思い出す。
勘でしかないとユーフェミアは一人俯くが、何処か確信に似たそれに強い意志を瞳に宿す。

憎んでいるんでしょうね・・・。

許されるのなら、一言でも謝りたい。
だから、ゼロと一番近いであろう特別派遣嚮導技術部が研究所として与えられた大学へ来たのだ。

















桃色のドレスのスカートを靡かせ、歩き、立ち止まる。

「それを私にもお聞かせ願えませんか?セシル女史」

セシルは目の前の皇女に実力行使で突破しようかと考えるが、ロイド以外は出来れば殴りたくなかった。
ましてや同じ女性に手を上げるなんて考えられない。

何か無いかと辺りを見回しても配線だらけ。
手の中にあるPCを閉じて抱きかかえる。

「これは特派の極秘情報です。皇女殿下であろうとお聞かせする事は出来ません」

セシルはユーフェミアを睨むが、そんな視線にもユーフェミアは微笑みを崩さない。

「スザクはゼロの所へ行ったのではありませんか?」

「え」

知っているのかと、セシルは目を丸くする。
しかし、やっぱり・・・と呟くユーフェミアに試されたのだと気付く。
冷や汗は止まらなかった。

「力を貸して頂けませんか?」

困った笑顔で首を傾げたユーフェミアにセシルの肩から力が抜けた。






















人の食えない笑みを浮かべるミレイにルルーシュは視線を外した。

「ちょっとした旅行ですよ」

鞄を抱え直してルルーシュは歩き出す。
ミレイの横で立ち止まり、お互い視線は合わせなかった。

「時間掛かるの?」

「ええ。ナナリーの事、お願いしても良いですか?」

「もちろんそれは良いわよ」

「有り難う御座います」

「無茶しちゃ駄目だからね」

ルルーシュを振り返ったミレイはルルーシュの横顔が皮肉げに笑ったのに顔を顰(しか)める。

「その顔、暫く見てなかったのになぁ」

「?」

ミレイの言葉の意味が分からず、ルルーシュはミレイを振り返る。
お互いに視線が混じり合えば、ミレイは優しく微笑んだ。

「ルルーシュが女の顔する時が来るなんて、今まで思ってなかったんだから」

願っていたが、現実には無いかもしれないと思っていたから。
スザクがこの学園に来てからルルーシュは新しい顔を見せてくれた事にミレイは喜んだ。

「何の事ですか?」

すっとぼけているわけでは無いルルーシュにミレイは肩を落とす。

「スザクのこと、好きなんでしょ」

指を突き付けてそう言えば、見る見る間にルルーシュが顔を赤くしたのでミレイは予想以上の収穫に満足すると同時にもう少し早くこれで遊んでおけば良かったと残念な気持ちにもなる。
そんな残念な気持ちに勝手に理由を付けてミレイはルルーシュの背後に回り込み、両手でルルーシュの胸を鷲掴んだ。

「〜ッ!!?」

荷物を落とし、ルルーシュは声にならない悲鳴を挙げた。

「あら、大きくなってないわねぇ。スザクったら手を抜いたのかしら?」

「放せ、会長!ミレイ!!」

「嫌よ。スザクが手抜きしたんだったら、代わりに私が揉んであげるから」

「代わりって何だ!?って、オイ・・・や、やめ・・・ぁ」

ミレイの手を引き剥がそうと彼女の腕を掴むが、上手く力が入らない。

「でも結構柔らかいわねぇ」

フフ、と笑うミレイは絶対楽しんでいる。
しかし、突然ルルーシュの胸から手を放し、後ろからルルーシュを抱き締めた。

「ミレイ?」

「振り返らないで」

振り返ろうとするルルーシュにミレイは駄目だと告げる。
それを守り、ルルーシュは地面を見下ろす。

「帰って来なかったら迎えに行ってやるんだからね。覚悟しときなさいよ」

「分かった」

了解の言葉を貰えた事にミレイは満足してルルーシュを解放する。

「振り向かずに行きなさい」

ミレイの言葉通りにルルーシュは荷物を持ち上げ、クラブハウスを、ミレイを振り返らずにその場を去った。












ミレイは理事長室へと足を運ぶ。

婚約者となってしまったロイド伯爵とはどうなったか、祖父が毎度毎度心配しているのだ。
親バカならぬ、爺バカとでも言うのだろうか。

しかし、ロイドはミレイよりもアッシュフォード家のナイトメアフレーム技術の方に興味があるらしく、親睦(しんぼく)を深める為と高級レストランで数回食事をしたが、話す事と言えばアッシュフォードが開発したガニメデ等についてだ。
色気の欠片も無い。
溜息を隠さずに吐き出せば、既に理事長室の前だ。

ミレイが扉をノックする前に「失礼しました」と聞き覚えのある声が扉の向こうから聞こえ、扉が開かれた。
相手も驚いたような顔を覗かせ、直ぐに人懐っこい笑みを浮かべたかと思えば、ミレイに別れの言葉を。

「さようなら」

『また、明日』の意味が含まれないそれにミレイは気付く。

「泣かしたら許さないわよ」

誰を、とは言わなくても分かるだろう。
一瞬表情を硬くしたスザクにミレイは笑って、彼の背中をバシンと叩く。
痛そうな顔をしたスザクにミレイは笑った。

「いってらっしゃい」

「はい」

私服姿のスザクをミレイは制服姿で見送る。

理事長室にノックもしないで入って来たミレイを理事長は溜息と苦い顔で迎えた。
理事長の机に規則正しく置かれた二枚の紙切れは退学書。

それにサインされている名前は












Lelouch Lamperouge





Suzaku Kururugi



























◆後書き◆

女性キャラ大活躍なお話に。

ミレイさんは今後関わってくるかは考え中です。
巻き込むとしたらロイドさんが手引きするかな?

ちなみにスーさんの軍の脱退手続きしたのはユフィたんです。
女性陣はスザルル応援!


更新日:2007/03/24








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