◆REMOTE CONTROL story5◆









潜水艦内のミーティングルームには総司令官のゼロを初めとして、副司令官の扇、軍事総責任者の藤堂、広報・諜報・渉外総責任者のディートハルト、技術開発担当のラクシャータが席を連ねている。

そこで曖昧な表情を見せているのは扇とディートハルトだ。

ディートハルトも格納庫でのゼロとC.C.のやり取りを見ていたため、ゼロの素顔を見てしまった。
ゼロの仮面から現れた顔に驚きはしなかった。
何故なら、今は行方の知らぬところとなった軍人にゼロと干渉のあると思われる学生を調べて欲しいと言われた学生がゼロだったからだ。

しかし、性別は男であったはずだった、書類上は。
女である事を日常でまで隠している必要が何処にあると言うのか。

「しけた顔してるわね、男性陣」

煙管を肌身離さずのラクシャータはゆったりと大げさなまでにソファにくつろぎ座っているが、それを咎める者は誰一人としていない。

そして、彼女の言葉に扇は俯き、ディートハルトも顔を誰もいないところに背けた。
藤堂には特に変化は見られなかった。最も、元々渋面であるが。

「私に文句があるなら言え。使えない者は切り捨てる」

ゼロの言葉に扇は顔を上げ、ゼロの仮面を見つめる。

「ゼロ」

「何だ?」

「その、すまない。俺のせいだし」

「・・・・・・別に構わない。気にするな」

ゼロが女だとバレた事を自分のせいだと扇はゼロに謝罪するが、ゼロにとってはいずれはバレる可能性があった事実であり、既にその事に関しては諦めていた。

それに、女に付いていけないという輩がいれば即座に切り捨てるつもりだ。
使えない駒などいらないのだから。

「他の者は何かあるか?」

ゼロがそう言えば、次に名乗りを挙げたのはディートハルトだ。

「ゼロ、私は貴女の正体が何であれ、貴女の名声に従います」

「私が女でも構わないと?」

「はい。私は世界を変えていく貴女の力を歴史として見たい」

フッ、とゼロが笑う気配が室内に漂う。

「良いだろう、他に何も無いなら次の作戦を決める」

頷き返され、ゼロは仮面の奥で瞼を伏せた。

同時にディートハルトの携帯のバイブ音が響いた。
会釈を返したゼロにディートハルトは携帯を取り出す。

「失礼」

通信相手はディートハルトの情報網の一人であり、軍関係に詳しい人物であった。
キョウシュウのフクオカ基地が澤崎敦に占領され、独立日本を宣言したとの連絡だった。

通話を切り、ゼロに会話の内容を伝えれば、ゼロは少し考える素振りを見せた後に全黒の騎士団員の召集を命じた。






















第二次枢木政権の官房長官であった澤崎敦は日本がブリタニアに占領された後、中華連邦に亡命し、エリア11の情勢が崩れる機会を待っていた。

ゼロのテロ行為により、情勢が不安定になった今、覚醒剤であるリフレインの輸出ルート先であるキョウシュウは格好の占領地域と化した。

リフレインはイレブンがエリア11となる前の日本に戻りたいと願い、手を出した毒物であり、強い依存性を持つ。
そのリフレインは中華連邦からエリア11へと流れ、その輸出ルートはキョウシュウに繋がっていた。


澤崎が独立国家日本を宣言する前にコーネリアはその根元であるキョウシュウルート、即ち、リフレインの貿易が行われている場所に船を使って向かっていた。

それは今までキョウシュウブロックが暴風雨等でコーネリアが進軍する事が出来なかった為だ。
エリア11で総督としての仕事はそれだけでは無い為にキョウシュウは難を逃れていた。自然災害があちらに味方しているのならば、キョウシュウルートを先に潰してしまうのが最善の策だとコーネリアは考えたのだ。

だが、独立国家日本を宣言された今、頼れるのは特別派遣嚮導技術部のランスロット。
枢木スザクにしか頼めない役目であった。

「扱いに困る男だ」

呟くコーネリアはスザクの実力を認めていた。






















澤崎は中華連邦の曹将軍に軍事力を協力してもらう。
正し、中華連邦は日本の再興に伴い、日本を自国の傀儡(かいらい)にしようという思惑があった。

傀儡、それがゼロには許せぬところであった。
日本が復活すれば日本を自分達の操り人形にと、中華連邦は考えているからだ。

そして、キョウシュウブロックにあるフクオカ基地は断崖絶壁であり、海、地、空、どれを取っても最大の防衛力を兼ね備えている。
キョウシュウ全域を収めた澤崎が目を付けた基地は絶対防御の安全地だった。







「トウキョウに独立国を創る」

ゼロの言葉に誰もが息を飲んだ。

「日本をトウキョウにって事か!?」

誰かの声は波紋のように広がり、ざわめく声がブリーフィングルームに響き渡る。
それをゼロは片手を横へ凪払っただけで無音へと化した。

「騒ぐな。私達は独立の組識だ。中華連邦に協力する筋合いは無い」

「けど、日本を宣言したって事は」

黒の騎士団員の一人がそう言えば、ゼロは一歩前に出る。

「何も分かっていないな。中華連邦は日本を自分達の道具にしたいだけだ。日本が出来れば日本人は中華連邦共の言いなり、つまり、奴隷と同じ扱いになる」

喉を詰まらせた者は多い。
それでは日本人が本当の自由を手に入れる事は出来ないからだ。

澤崎とてそれは理解しているであろう。
それを了承の上なのは自分が自国を動かしたいからに過ぎない。

「私達は正義の味方だ!黒の騎士団の支持率が上がっている今、ブリタニアの総督が務める都心を私達が日本にすれば確実に黒の騎士団の規模は広がる」

誰もがその言葉に喜んだ。

そして、自分の目は節穴ではなかったと、ディートハルトは歓喜する。
ゼロこそ頂点に相応しい。

















一方、ユーフェミアとシュナイゼルはトウキョウ租界にある総督区に戻り、アヴァロンはランスロットを搭乗させてフクオカ基地へと向かっていた。
ランスロットはフロートユニットで単身でフクオカ基地に赴く予定だ。

フロートユニットはフロートシステムを搭載したランスロット用のアタッチメントであり、赤い飛行用パーツである。
しかし、これを使用するにあたってランスロット自体のエネルギーが大幅に減り、稼働時間が削られるのが難点だった。

フロートシステムはアヴァロンにも搭載されており、飛行が可能だ。
更にアヴァロンにはランスロットと同等のシールドが戦艦の下方に搭載されており、下からの攻撃を弾くことが可能である。

そのアヴァロンがフクオカ基地に直接攻撃出来ないのはこの大きさでは狙い撃ちされるからだ。
下方は防げるが側方は防げず、小回りが効かない。

ランスロットが単機で本陣を叩くしかなかった。







「ランスロット、MEブースト」


『発艦!』


アヴァロンから飛び立つランスロットは夜空を舞う。












アバロンはアーサー王とモルゴースの間に産まれたモルゴレッドから深い傷をおったアーサー王を黒衣を身に纏った三人の美しき王妃が小舟で運んでいった島である。

父親は違うが、モルゴースはガウェイン兄弟の母でもある。

そして、モルゴレットはアーサー王に背き、王位や権力を奪おうと兵を挙げた後、アーサー王と一騎打ちし、敗れ死んだ。

アバロンはウェールズ語で「りんごの島」。
アイルランド語で「島」を意味する。

アーサー王が傷を癒す地であり、そこで物語は幕を閉じる。

アーサー王が癒される島の名を持つ戦艦から円卓の騎士の名を持つランスロットが飛び立つなどと誰が想像出来たであろうか。












スザクは夜空の中、目的のフクオカ基地を確認する。

オープンチャンネルが開く音にスザクは上部の画面に視線を送る。
画面に現れたのは澤崎だ。

スザクは幼い頃にすれ違っただけで接点は特に無いが、記憶はあった。

『君は枢木の息子だな。ふむ、枢木にこんな子供が居たとは』

「投降してはくれませんか」

『君は分かっていないな、交渉は私の方からするものだ。今なら枢木の息子として手厚く歓迎するよ』

「自分は父の名を使いたくありません」

その返答は明白であり、澤崎は哀れな視線をスザクに送る。

『残念だ』

オープンチャンネルが切れると同時にランスロットの眼前にヘリが迫り、銃撃を受けた。






















「C.C.、フクオカ基地に行く。準備しろ」

「ピザは?」

「艦はそのままトウキョウに向かう。ガウェインだけで行く」

その言葉にC.C.は妖しげな瞳で口元に笑みを浮かべた。

「あの男が心配か」

「黒の騎士団がこれに関与すれば更に多くの支持が得られる」

「素直にあの男が心配だと言えば良いだろうに」

C.C.の言葉にゼロは表情を歪めるが、仮面の奥ではそれをC.C.に悟られる事は無い。だが、見透かされている視線にゼロは先に格納庫へ向かう。







ガウェインの両肩のハドロン砲は未完成であったが、ゲフィオンディスターバーをラクシャータは即座に完成させ、収束制御が可能になった。
フロートシステムがガウェインには搭載されており、単独飛行も可能。

ゲフィオンディスターバーはサクラダイトの力を阻害する事が出来、一定の範囲内であればナイトメアフレームの第一駆動系を停止させる事も可能だ。
更にゲフィオンディスターバーは装置の周辺にレーダーを避けるステルスも効果を発揮する。正し、持続時間は長くない。







C.C.はゼロが自室から出ていくと、与えられた白のパイロットスーツに袖を通した。

「女になれれば苦労はしないか」

その呟きは誰にも聞かれずに無になり、零となった。



























◆後書き◆

これ以上社会的な事は分かりませんッ
本編をもう一回見てもサッパリで、用語集なる素敵なサイトを参考にさせて頂きました。
それでも勝手な解釈も混じっているので変かもですが。

ゲフィオンディスターバーも良く分かってないです。
何が何だか滅茶苦茶に頭がグルグルして。

アバロン(アヴァロン)等はstory1を書くにあたって参考にした本と同じく。
これ以上の社会的文章はこれからの話には出てこないはず。

更新日:2007/03/19








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