◆REMOTE CONTROL story40◆









「ラクシャータ、ゲフィオンディスターバーが使えなくなった場合、他の方法でナイトメアの第一駆動系を停止させることは可能か?」

「あら、また何で?」

「私の予想では裏切り者がいる可能性は百パーセントだ」

ゼロは肩を竦ませて見せ、ラクシャータは困った子だと眉尻を下げた。
ほんの僅かな可能性なんて目の前の少女は信じていないのだ。
そこがラクシャータにとっては好ましいものの。

「ふぅん。まぁ、あるにはあるんだけどぉ・・・」

「問題があるのか。資源が足りないなら」

「違う、違う。材料は全て揃ってるんだけどねぇ、影響力が大きすぎるから完成させて無いのよ。完成しても試しに実験も出来ないし」

「今から完成させる為に必要な時間は」

「一時間かしら。ロイドが協力してくれれば半分の時間で完成ってところね」

「その装置の名は?」

ラクシャータは口隅を持ち上げ、十分な時間を置いて、勿体ぶるようにゆっくりとその口を開いた。

「REMOTE CONTROL」

















遠隔装置はゲフィオンディスターバーの応用型だ。
ナイトメアフレームを囲まなくとも第一駆動系を停止させる事が可能であり、その作用範囲は国一つ分にまで及ぶ。

全てのナイトメアフレームが停止するのだ、敵味方関係なく。

ゼロはラクシャータの言葉を思い出す。
もうすぐリモートコントロールシステムが完成する頃合いだ。

戦闘不能になれば肉弾戦を強いられるだろう、だから屍の海にならないうちに早く。
ゼロは歩いていた速度を速め、マントが靡くほどに走る。

ゼロが足を踏み入れたのは、皇帝に謁見を願い出たあの日と同じ場所。
真っ赤な絨毯は真っ直ぐに伸び、先には大きな椅子。その椅子から立ち上がった人物は紛れもなく皇帝だった。

ゼロは仮面を剥ぎ取り、投げ捨てる。
怒りの炎をその瞳に宿し、銃口を皇帝に向けた。

皇帝は口を開く。

「生きておったか」

「生きています。貴方が死んでいると言ったこの命は、復讐の為に此処まで来た!」

皇帝、シャルル・ジ・ブリタニアは大柄な身体を動かし、絨毯の敷かれた階段を降りていく。

無言の威圧にルルーシュはビクリと震えるが、歯を食いしばり、恐怖では無いと言い聞かせる。
ただ、怒りだけを思い出し、銃を両手で構えた。

「母さんを殺したのは誰だ!!」

しかし、シャルルは立ち止まらない。
ルルーシュの左目はギアスを発動しているはずであり、それが効かない。
何故だと問い掛けようにも、焦る気持ちが先走る。

シャルルはルルーシュとの距離を多少保ち、立ち止まる。
ルルーシュを見下ろすその瞳はルルーシュが見たことの無い色をしていた。
懐かしむようなそれ。

「・・・マリアンヌに似たか」

「ッ!?」

「そこにおるのだろう、マリアンヌ」

シャルルが後ろを振り返れば、そこにはC.C.の姿があった。

「C.C.?」

ルルーシュは突然のことに銃を落とし、C.C.の名を呼ぶ。
彼女は未だガウェインに乗り、戦っているはずだと。

C.C.は悲しみの笑みを浮かべながら二人に近づいて行く。
シャルルの隣に立ち、ルルーシュを真っ直ぐに見つめた。

「私はC.C.による幻覚。私はC.C.じゃないの」

「まさか・・・」

「ええ。大きくなったわね、ルルーシュ」

「・・・母さ、ん・・・・・・どうして」

今、此処にいるのは。

「どうしてかしらね。私にも良く分からないけど、私はC.C.と契約してこの人とも契約したの」

C.C.は困った笑顔のままシャルルを見上げた。
それが意味することは、シャルルもまたC.C.と同じ存在。或いはそれに近い存在であるということ。
ギアスが効かなかったのも。

「契約?母さんもギアス能力者?」

「そう。そして私はこの人の願いを叶えてあげられなかった・・・」

C.C.は悲しそうに、悔しそうにその顔を歪める。
ルルーシュは何故こんな男の為に母がこんな顔をしなければならないのだと、視線を落とす。

「願いは・・・何だったんだ・・・・・・」

「この人の近くに居ることよ。でもね、私は騎士としての自分を捨てきれなかったから戦場に出た。そんな私がこの人は許せなくて、枢木ゲンブと私の暗殺を考えた」

「スザク、の・・・」

シャルルとゲンブがあの日の暗殺の首謀者なのかと問い掛けるルルーシュにC.C.は頷く。

「日本に戦争を仕掛ける為に」

「そんなッ・・・そんな事の為に母さんは!俺達は!!」

「この人を責めないで、ルルーシュ」

ルルーシュは首を左右に振る。
許せるわけが無いと、許せるような事では無いのだと。

「お願い、ルルーシュ。私は此処に居たいの」

C.C.はシャルルの手を取る。
愛おしそうなその視線にルルーシュは戸惑う。
何故自分を殺した男をそんな目で見つめられるのだと。

「殺したいほど好きになられたんだもの、私は守りたいほどにこの人が好きになったの」

「だからって、そんな男の為にッ」

「全てを投げ出せる。愛するってそういうことよ」

C.C.の表情は爆風の風に靡いた髪で見えなかった。

爆風は瓦礫の破片までも多く運んできた。それはガウェインがサザーランド達のタックルを受けてルルーシュ達のいる謁見の間に突っ込んできた為に起こったもの。
そしてアサルトライフルを撃つサザーランドによって、火の海となる。

直ぐ横での破壊音、苦戦を強いられているガウェインにルルーシュは叫ぶ。

「C.C.!」

C.C.はガウェインの中から見下ろす。
マリアンヌの姿に口元に笑みを浮かべ、逝くのだな、と。
ならば、この場は守ってやろうと、操縦桿を握り直す。

「私も一緒に行くからな、マリアンヌ。それから、さよならだ、ルルーシュ」

先に逝くなよ、マリアンヌ。

ガウェインはサザーランド達を押し返し、破壊された壁からは夜空が覗いた。
十本の鋭い金の爪がサザーランド達を貫通し、その場から離れるように、戦場を変える為に空を飛ぶ。
スラッシュハーケンで貫通したサザーランド達を地面に叩き付けながら引きずる。

夜空と風が流れ、炎が舞い上がり、月の光が射し込むそこで照らされるシャルルとC.C.をルルーシュは振り返る。

「皇帝陛下、貴方は母さんを愛していましたか?」

シャルルは答えず、ルルーシュに背を向けて立ち去ろうとする。

「待って下さい!私の質問に・・・、俺の質問に答えろ!!」

叫ぶルルーシュにC.C.が目の前に立つ。

「ルルーシュ、ごめんなさいね、もう私達は行かなければならないの」

「行くって、何処へ」

「ナナリーに宜しくね、さようなら。それから、守れなくてごめんなさい」

C.C.とマリアンヌの姿が重なり、C.C.の姿が青いドレスを纏うマリアンヌの姿に変わる。

「母さん・・・」

マリアンヌはルルーシュに背を向け、シャルルの隣に立つ。
炎の中でシャルルとマリアンヌはルルーシュを振り返る。

「母さん、待って!」

ルルーシュが一歩踏み出せば、マリアンヌは駄目だと首を左右に振る。

「こっちへ来ては駄目よ、ルルーシュ」

「どうして・・・」

「帰れなくなるわ」

「母さん達は何処へ!」

「遠いところよ」

マリアンヌはシャルルを見上げる。
その視線を辿り、シャルルは次にルルーシュを見て口を開く。

「すまなかった・・・ルルーシュ」

ルルーシュは目を見開く。
どうして貴方が今更そんな言葉を言うのかと。

許せるはずが無いと思っていた、どんな言葉を掛けてくれようとも、だが、同じ紫電の瞳は本当に此方のことを気に掛けてくれている色をしていた。
憎かったはず。いや、まだ許したわけでは無い。それでも。

「・・・父さん」

小さな呟きにシャルルは目を丸くし、次には微笑んだ。

炎に二人は包み込まれ、残るのはルルーシュのみ。
ルルーシュはその場に崩れるように座り込み、右手の拳を床に何度も打ちつける。



誰が敵だったんだ・・・。



























シャルルとマリアンヌが消えた瞬間、皇帝の血を継ぐ者達は過去を見る。

「え?」

ユーフェミアはアヴァロンの室内に居たはずだったが、今見えるのは、青い閃光を駆け巡る世界。
辿り着いたのは線だけの。

自分だけでは無い、皇子皇女が全てその場にいた。
コーネリア、ルルーシュ、ナナリー、シュナイゼル、クロヴィスの姿を見つけ、声を掛けようとするが、声は出ない。
動くことさえも出来なかった。

ただ一人だけそこを歩くのは、色のあるC.C.。

「真実を見せよう」

C.C.が天へ両手を広げれば、降りてくるのは薄い金色の長い髪を靡かせた一人の少年。
彼はC.C.の腕に抱き込まれる。

少年はC.C.の手を借りて、地面に足を着く。

「シュナイゼル以外は初めましてだね。僕はV.V.」

「そして、皇帝陛下だ」

「違うよ、C.C.。僕は皇帝の前世に繋がる者。僕が消えればシャルルもこの世に留まっていられなくなる」

どういう事だと、ユーフェミアは思う。
目の前の少年は皇帝陛下と同一人物であり、同一人物では無いと。

「僕とシャルルは同時に生まれた。時間をずらされたから」

V.V.がC.C.を見上げ、時間をずらしたのはC.C.だと知らせる。

「双子だった僕等はモルモットのように研究され、僕は時間が止まり、シャルルは僕を助ける為に権力を手に入れた。皇帝の座についた時、僕は自由になり、今度はC.C.が研究対象になってしまった。マリアンヌとC.C.の共犯をシャルルは知ってしまい、自分の命を聞かず、戦場に出ようとするマリアンヌの暗殺を命じたんだ」

ユーフェミアは呆然とその言葉を聞く。
他の兄弟姉妹もそうだ。そんな事、誰も知らなかったのだから。

C.C.はルルーシュに近づき、声色の無い言葉で口を動かす。
音がなくてもそれははっきりと聞こえた。

「さようなら」

世界は終わる。

ユーフェミアはアヴァロンの室内に座り込む。
あれは本当の事なのだろうかと、現実の境界線が曖昧に霞む。

本当なら、皇帝陛下はもういないということだ。

ユーフェミアはハッとし、立ち上がる。
行かなければ、戦いを終わらせなければとその場から華奢な足を動かした。




























◆後書き◆

前にV.V.を出した時にはもうV.V.は出さない予定でしたが、すみません、出てきました。直接な登場とはちょっと違いますが。

種明かしが上手く出来ている自信は無く、これで良いかな?と自問自答中。
噂話などを参考に色々辻褄合わせです


更新日:2007/09/10








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