◆REMOTE CONTROL story39◆









グラスゴーを元に改良された警察用ナイトメアフレーム、ナイトポリスは円盤形の力場発生装置を地面に設置しようとしている無頼に攻撃を仕掛ける。

「クソッ、後少しだってのに!」

無頼はナイトポリスに背後から飛びつかれ、地面に倒れ伏した。
無頼の手から離れたゲフィオンディスターバーの力場発生装置が地面に落ちる。

ナイトポリスを退かそうと無頼は藻掻きながらも、円盤形の装置へと手を伸ばす。けれど届かない。

その手が装置へ後少しで届きそうな所で他のナイトメアフレームの無機質な手がその装置を取り上げる。
無頼が見上げた先には別の無頼が装置を持ち上げ、味方が助けに来てくれたのだと安堵感が広がる。

しかし、目の前の無頼は装置を真っ二つに破壊し、此方に銃口を向けた。






















「やられた・・・」

ラクシャータは煙管を口元から離す。

大画面のディスプレイには破壊されたゲフィオンディスターバーの力場発生装置の半数が赤く点滅していた。
これでは使いものにならない。

色相環のように円を描く丸い点が配置された画面ではlostの文字が広がる。
数えるのも面倒だとラクシャータは画面に背を向けた。

裏切り者は他のレジスタンスだろう。
ブリタニアの海域一歩手前で控えていた者達がブリタニアの大地に足を着いている頃合いだ。

ラクシャータはゼロに連絡する。
と言っても、携帯のバイブを鳴らすだけだ。
裏切り者が出たらそうしろとゼロから時前に言われていたから。

ラクシャータが裏切り者を割り出さなくて良いのかと聞けば、時間によって分かると言う。
大したテロリストだと思う。

ラクシャータは携帯を放り投げ、ディートハルトがキャッチする。

「私の携帯を粗末にしないで頂けませんか?」

「あら、ごめんなさい」

その答えにディートハルトは顔を顰(しか)めるものの、やはり予期せぬ自体となったことに呻る。
ゼロの行動が軽率過ぎる。

「貴女は軽率過ぎるとは思わなかったのですか?」

「何が?」

「ゼロがこんなにも早くブリタニアに攻めたことです」

「そうねぇ、でも、遅かれ早かれ裏切り者は絶対に居るわよ。人間の感情ほど移り変わりの早いものはないからね。例えばアンタとか」

「馬鹿なことを言わないで頂きたい。私はゼロが創り出す歴史を記録したいのですから」

「ふぅん。何だ、アンタ恐いだけなんじゃない」

生返事を返したラクシャータはあることに気付いたように呆れながらディートハルトを再び見れば、彼は眉を潜めて訝しげにラクシャータを見返した。

「恐がっている?私が?」

「そう。ゼロがいなくなるのが恐いのよ」

「ゼロがいなくなるなんて、そんな事はありえません」

「枢木スザク。アンタさぁ、彼のこと大嫌いよね」

スザクの名前を出した途端に表情が固まったディートハルトに更にラクシャータは困った子供を見るような視線を濃くする。
そんな視線にディートハルトは逃れるように視線を横に流した。

「それは・・・」

「否定出来ないでしょ。そうよね、ゼロの態度が明らかに変わるのは彼がいるから。それに、この戦いに勝てばゼロはゼロでいられなくなる。違う?」

「・・・・・・・・・」

沈黙したディートハルトにラクシャータは眉尻を下げた表情で溜息を吐く。
自分には彼がどう生きようと関係は無いのだ。
では、何故こんな事を言ったのか。自分に問い掛ければ、答えは他人を弄るのが好きだから。

取り敢えず、今出来る事をしようと、インド軍区からの付き合いである部下を振り返る。

「ソンティ、ユスク、至急に遠隔装置の準備をしなさい」

「え?し、しかしあれは作れないはずではッ」

焦ったユスクの声にラクシャータは余裕の笑みで振り返る。

彼女は煙管をもう一つ取り出す。
その煙管は依然C.C.に頼んで持ってきてもらったものだった。

「切り札なら此処にあるわよ」



























『伯爵、そっちはどうかな』

『楽しいですよぉ、飽きないですし』

『私が聞きたいのはそんな事じゃないよ』

『はいはぁい、分かってますよぉ。えぇ、貴方の言った通り、皇帝陛下が人と異なる摂理を生きているのであれば、明日の夜明けにはこの戦闘は終わるでしょうね』

『そうか。なら、今からでもそちらに向かうとしよう。コーネリアにも連絡を入れる』

『ご多忙ですねぇ』

『ああ、偶にはバトレーとお茶がしたいな』

『将軍なら泣いて喜ぶんじゃないですか?』

『ははは。それは楽しみだ』

通話を切る。
ロイドはふと背後に気配を感じて振り返れば、そこにはユーフェミアが立っていた。

「どうして・・・シュナイゼルお義兄様が・・・」

シュナイゼルはロイドの背後に立っていたユーフェミアに気付きながら、何も言わなかったらしい。
面倒事を全て押し付けるのは彼の悪い癖だ。

ロイドは溜息を吐いた後で笑顔でユーフェミアに声を掛ける。

「あの、皇女殿下?潜水艦に居たんじゃありませんでしたっけ」

「どういう・・・事ですか?皇帝陛下は何を・・・人と異なる摂理と」

核心を突いた問い掛けだ。
元々賢い子なのだろう。お飾りだったはずなのに。

諦めの溜息を吐いてロイドが説明しようと口を開き掛けたが、通信を知らせるアラームにディスプレイを見上げれば、ラクシャータからの連絡のようだ。
珍しい事もあるものだと、通信を開けば、少し焦った表情のラクシャータにおや?と首を傾げる。

『プリン伯爵、用件だけ言うわ。アンタが作ったゲフィオンディスターバーの発生装置を今直ぐにブリタニアに設置しなさい』

『何を言ってるんだ。あれはまだ完成していないし、第一、どうやって起動させるつもり?』

『リモートコントロールシステム。完成させたわ、ついさっきだけど』

『なッ・・・、分かった、やってみるよ。でも、それが必要って事はこっちが不利ってこと?』

『戦力的には勝ってるみたいだけど、長期戦になれば逆転されるかもしれないし、決定的なものに欠けるわね。だから、お願い』

『君からのお願いなら仕方ないね。叶えるよ』

『それはどうも。プリン伯爵』

画面は黒になり、ロイドはその場を後にする。
すれ違い様、ユーフェミアに一言残す。

「戦いが終われば、全て分かるよ」

皇帝の血を引き継ぐ者ならば。

「え?」

ユーフェミアは振り返るも、扉は閉められる。



























潜水艦の窓から神楽耶は深い海中を見つめる。
魚は平和だな、とそんなことを思う。

「どうした、神楽耶。ずっと海ばかりを見て」

「桐原殿、私は・・・役立たずです」

神楽耶は視線を窓の外に向けたまま答える。

戦う事すら出来ない。
自分と歳もそんなに変わらぬ者達も戦場に立っているというのに、この体たらく。

悔しかった。
何も出来ない、何も与えてはあげられない自分自身が。

「何を言うか、お前は帰ってくる場所であろう」

「え?」

神楽耶は桐原を見上げた。

「キョウトの者達も戦っておるのだ。その者達の帰ってくる場所はお主ではないか。違うか?」

「・・・・・・いえ・・・、そうなのでしょうか・・・」

「笑顔で迎えてあげるのがお前の役目だ、神楽耶」

その言葉に神楽耶は目を見開いて、桐原を見上げる。

自分の役目。
それは確かにあったと気付かされる。

力にはなれないけれど、それはとても大切なことのように思える。

「・・・はい・・・・・・はい!」

沈んでいた顔はもう無い。

言ってあげよう。
お帰りなさいと頑張ったことを褒めてあげよう。

大切な人達に。



























他の勢力には時間差を置いてブリタニアに上がってくるように指示してある。
そこから裏切り行為に出るはずはないだろう。怪しまれるからだ。
岸に上がり、ある程度味方のフリをしてから掌を返すのは・・・。

「K−7か・・・」

ゼロは手に持つ爆破スイッチに番号を入力して起爆ボタンを押す。
ブリタニア人が多く協力しているレジスタンスだ。
元々目星を付けていたグループだ。分かりやすい。

爆破スイッチを後ろへ投げ捨てる。
今頃、自分達の長が居なくなったことに慌てふためいていることだろう。

ゼロは銃を取り出し、両手を上げて自分の姿を見て怯えている皇子達に銃口を向ける。
緊急会議が行われていた部屋では大の男達が腰を抜かしてゼロを見ている。

「還って参りました、殿下」

ゼロは一度跪くが、銃は第一皇子のオデュッセウスに向けたままだ。

「な、何の事だ・・・」

「おやおや、私の顔をお忘れですか?」

ゼロは立ち上がり、銃を持つ手とは逆の手で仮面を外す。

「無理もないですね。あまり貴方と話した記憶はありませんから」

仮面から現れたのは漆黒の髪に皇族の多くが持つアメジストの瞳。
顔立ちは・・・マリアンヌに似ていた。

「まさか・・・ルルーシュ・・・・・・なの、か?」

しかし、そんなはずは無いとオディッセウスは首をゆるゆると左右に振る。
これは悪い夢なのだと。

だが、それは夢では無い。

「ええ。紛れもなく私はルルーシュ・ヴィ・ブリタニアですよ、殿下。幽霊などではなくね」

ルルーシュは銃を放ち、オディッセウスの左肩を撃つ。

「う、うああああ」

「肩を撃っただけだというのに、大げさですね」

「貴様!」

オディッセウスの護衛の男達がルルーシュに銃を向ける。
ルルーシュはそれに怯えはしない。

「死ね」

その一言で終わる。
男達の最優先事項は。

「Yes, Your Highness!」

ルルーシュに向けていた銃口を己の頭に導き、引き金を引いた。
赤い血が絨毯に染みて赤を赤黒くする。

「何を・・・したんだッ」

オディッセウスが左肩を押さえたまま、倒れ伏した姿でルルーシュを見上げれば、ルルーシュは表情一つ変えなかった。

「貴方は関わっていなさそうですね」

オディッセウスは第一皇子でありながら責任を取りたがらない人間だ。
C.C.の事も知らなければ、マリアンヌを暗殺した者も知らないだろう。

ならば、聞くことは一つ。

「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが問いに答えよ」

ルルーシュの左目が赤く、染まる。
オディッセウスは恐怖に見開いていた瞳を落ち着かせた。

「あぁ」

「皇帝陛下は何処にいる」




























◆後書き◆

オディッセウスさん登場終了。

あの煙管使うつもりではなかったのですが、ちょうど良いので活用。


更新日:2007/09/10








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