◆REMOTE CONTROL story37◆









赤い髪を掻き揚げ、カレンは格納庫で聞いた扇からの次の作戦の戦法を頭の中で繰り返す。
自分の役目の再確認完了。

次が最後になるのだ、戦いが。

ナオトの意志を継いでレジスタンス入りしてからもう何年になるだろうか、そんな風に考えることは今までも何度かあり、カレンは苦笑する。

見ててね、お兄ちゃん・・・。

カレンは胸の前に添えた右手をぎゅっと握る。
これが私の力。
カレンの手の中にあるのは紅蓮弐式の起動キーだ。

潜水艦の中で割り当てられた自室への扉をカレンは開き、絶句した。
彼女が自分の部屋に居るなんて前にもあったし、C.C.も前から住み着いてるし、桃色と黄緑色の頭が誰かのかいた胡座の上で左右に頭をもたげて寝ていようが・・・。

「すみません、此処男子禁制なんです」

「む。それは失礼」

ダールトンは素直に謝罪したが、動こうにも動けずにいた。彼の右足の上にはユーフェミアの頭があり、左足にはC.C.の頭。
二人とも寝ている。

まだゼロは格納庫に居たはずだ。
高温超伝導体を使用したヴァリスが完成し、ヴァリスとガウェインをアヴァロンへの収容作業でゼロも格納庫に足を運んでいる。

カレンは此処に居るように釘を刺し、来た道を戻る。
だが、息を切らして格納庫で見たのはどうにも話し掛けにくい空気であった。

ゼロがロイドに飛びかからん勢いで詰め寄っている。
ロイドも少し腰が引き気味のようだ。



「脱出装置が無いとはどういうことだ!納得出来る説明をしろ!」

「納得出来る説明と言われても、ランスロットに装備しているのは全て最新の新型で」

「脱出装置は後回しだと!」

「いえ、だからそのうち・・・ああ、後回しってことになりますねぇ」

「何を悠長なことを!まだ一日あるだろう、さっさと取り付けろ!!」

「そうは言われてもハーケンブースターのケーブルと隣接してる部分とかユグドラシルドライブとも隣接し過ぎていて一日じゃ無理なんですよぉ」

「巫山戯ているのか、貴様!」

「いやぁ、もともとこうゆう口調でしてぇ」

まだ口論は続き、ああ言えばこう言う状態である。

しかし、カレンもランスロットに脱出装置が無いなんて話は初耳で僅かに驚く。スザクはそれを了承の上で乗っていたのだろうと思うと。

カレンはゼロとロイドから少しばかり離れた所に扇の姿を見つけ、彼に駆け寄る。

「扇さん、どうしたんですか、アレ」

「ああ、カレンか。彼の助手の女性がおそらく白兜のチェックの為にPCを開いていてそれをゼロが覗き込んでいたんだが・・・」

扇の視線を辿れば、その先には肩を沈めているセシルを励ましているスザクの二人が居る。



「大丈夫ですよ、セシルさん」

セシルは沈んだ顔でスザクを振り返り、どんよりとした空気を纏うセシルにスザクは少し腰を引いた。だが、困り顔の微笑みは崩さない。

「でもスザク君も脱出装置が無いままなんて困るでしょう?」

「今更じゃないですか。それに取り付けてランスロットの性能が下がるのは僕としても遠慮したいですし」

「ちゃんと時間に余裕があれば性能を落とさずに取り付けられるのよ。それをあの人、フロートユニットに付きっきりで・・・前にも取り付けるって約束を・・・」

「セシルさんがそんなに気負うことないですよ」

「ごめんなさいね、スザク君・・・それにしても」

頬に手を添え、申し訳なさそうな顔をスザクからゼロとロイドの二人に視線を送るセシルと同じようにスザクもそちらに視線を向ける。

「大丈夫・・・じゃないわよね?」

「そうですね。僕、ちょっと行って来ますね」

「え、でも」

「何とかなりますから」

へ?と首を傾げながらセシルはスザクを見送る形になる。





「人命か機械どちらが大切かぐらい分かるだろうッ」

「もちろんランスロットですよぉ」

「〜〜ッ」

ゼロが右手を振り上げれば、ロイドは眉を下げて笑い、一歩下がる。暴力反対とばかりにご丁寧に両手を上げて降参のポーズ。
一歩下がっていった相手に対し、ゼロは一歩踏み出すが、振り上げた腕を取られてその間に立ちはだかる人物に右手の拳から力を抜く。

「スザク?」

「駄目だよ、ルルーシュ」

小さな子供がしてしまった間違いを正すような口調は苦笑混じりで、しょうがないという呆れも含まれていた。

「今はゼロと呼べと言ったはずだ」

「それは分かってるよ。でも、今言ったことも、ロイドさんを殴ろうとしたのも、ゼロじゃなくてルルーシュだろ」

「何を言って・・・」

仮面の奥でルルーシュはスザクから視線を逸らす。
スザクの言いたいことは何となく分かっているから。

彼女の纏う雰囲気が変化したことにスザクは目元を緩める。

ゼロは人命なんて気にしない。そうでなければならないのだ。
結果さえ良ければ、それを得る為の犠牲は苦にならない。そういう人間であると。
実際、今もその考えは彼女の中に根付いている。

しかし、彼女は一度懐に入れた人間にはかなり甘い。
その中に入れていることにスザクは嬉しく思うし、誇らしいとも思うのだが、彼女にとって自分はそんなにも頼りなく見えているのかとも思ってしまう。

そう簡単に死んでやる気は無い。
スザクの中での変化をスザク自身は気付かないまま。
『生きる』という事は最大の生命力だ。

「大丈夫だよ、ルルーシュ。僕は死ぬ気なんて無い」

ルルーシュはハッとするように目を見開くが、次には悔しそうに目を細めて瞳を揺らした。
仮面ではその表情はスザクに見えないだろう。

それで良い。これで良いのだろうか?
矛盾した想いが交錯した。

「お前は・・・死にたがっていたじゃないか」

馬鹿な質問だ。
こんな事、言うつもりじゃなかったのに、口から出た言葉はそれで嫌になる。
伺うようにスザクを見れば、スザクはゼロを睨んでいた。
怒らせてしまったな、とルルーシュは口元に笑みを浮かべる。

「あの男が言ったことを信じるのか?」

マオのギアスは人の心を読める。
少なくとも、あの時のスザクが死にたがっていたのは確実だ。それを捻曲げたのはルルーシュのギアス。

ギアスの力が無ければ知り得なかった事、生き方を変える事も無かった。
そう思うとぞっとする。
ギアスが無ければスザクは今頃戦火の中で死んでいたかもしれないという事に。

しかし、スザクにギアスを使いたくなかったのもまた事実。
プライド、友情をも越えてしまったのだ。

生きていて欲しいと願ってしまった事は罪だろうか。

「お前は彼奴の力を知らないからな。俺の力も」

「その左目?」

「!?」

見るからに動揺したゼロにスザクはその仮面の左目が奥にある表面に手を当てる。
肩を揺らしたゼロは右腕を取られたままでスザクから離れる事は出来ない。

「七年前は左目を気にするような癖、無かった」

「・・・・・・・・・」

出来ることならば。

願わくば・・・。

「聞かせて、と言いたいところだけど。君が言いたくないのならそのままで良いんだ。でも、僕にも譲れないものがある」

仮面が外され、硬質な音を奏でて転がり落ちる。

周りが無音であるかのような錯覚を起こして、ルルーシュの瞳は間近に迫るスザクの瞳を驚きながら見つめたまま。
お互いの額をくっつけ、碧の瞳は真剣な色を宿す。

「一人で背負い込まなくていいんだ。僕が守り抜いてみせる・・・必ず」

だが、その言葉はギアスのせいで言っている言葉ではないのかとルルーシュは疑う。
そうは思いたくは無いが、自分に都合が良すぎる事ほど疑念は深まって信じることに臆病になる。
離れていく額の体温にも。

「結果の出ていないものには興味無いな」

「約束も駄目なのかな?」

「・・・・・・やくそく・・・?」

スザクは捉えたままのルルーシュの右手を自分の右手の側に導く。
小指と小指を絡ませる動作にルルーシュはナナリーとの約束を思い出す。

ナナリーの目が見えるようになる頃には世界は優しいと。

「約束に結果は関係無いよ。約束は想いや願いを結ぶものだから」

「嘘を吐いたら針を千本飲むんだろ?」

「知ってたんだ」

スザクはルルーシュの発言に瞬く。彼女にこれを教えた記憶は無いのだ。
それが見て取れたルルーシュは説明を加える。

「ナナリーが咲世子さんに教えてもらったらしい」

「そっか。でも針千本は魚って由来もあって、げんまんは拳骨一万回の略なんだよ」

「そうなのか?」

今度はルルーシュが瞬く番だった。
その隙にスザクは約束してしまう。

「君と一緒に日本に帰る」

「スザク?」

「指切った」

お互いの小指は離れていく。
ルルーシュは自分の小指をじっと見つめたままで、スザクはルルーシュを覗き込む。

「ルルーシュ?」

この瞳は今、何を思って自分を見ているのだろうか。
何を映しているのだろうか。
切なさという疑問に答えは無く、ただ、愛しい人との約束は温かくて。

「・・・良いだろう。結ぶぞ、その約束」

だから、生き延びろ。





「お取り込み中のところ悪いんだけど」

第三者の声にルルーシュとスザクは揃ってそちらを向く。
あまりにも同時過ぎて、第三者のカレンは瞬くも溜息を吐いた。

カレンの登場にルルーシュはスザクとの距離がとても近すぎることを自覚し始めてスザクを突き飛ばそうとしたが、スザクは避けるでも無く、その手を掴んで喰い止める。

「は、放せ!」

「何で?」

「このッ天然!」

顔を赤くするルルーシュと首を傾げるスザクにカレンは呆れた口調で用件を話し始める。

「そのままで良いから聞きなさいよ。皇女殿下と部下っぽい男が私の部屋に居るんだけど」

ルルーシュはスザクとの攻防を止め、カレンを振り返った。

「何だ、カレンの所に居たのか。それならそのままユフィを君の部屋に置いてくれ」

「え、ちょッ、ちょっと待ってよ!皇女殿下まで連れてくの!?」

「お願いされたんだ。断れないさ」

ナナリーだけでなく、腹違いの異母妹も溺愛しているルルーシュにカレンは頭を抱えながらも、交渉を続けた。

















指切りの約束は果たされることはない。




























◆後書き◆

カレンたん受難。

次回からナイトメア戦へ突入出来そうです。
REMOTEを9月中に終わらせて、続編を書きたいですね(希望と予定)。


更新日:2007/08/31








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