◆REMOTE CONTROL story36◆









「時間的にちょっとキツイわねぇ」

煙管を片手にラクシャータは肩を竦(すく)める。
時間に余裕が欲しいなんて思うのは何年振りだろうかと考えつつ、試しに起動スイッチを煙管でオン。

長方形の透明ガラスケースの中で球体の形をしたサクラダイトが高速で跳ね飛ぶ。
蛍光色を光らせているサクラダイトは夜空の下ならばとても綺麗に見えただろうが、生憎此処は潜水艦の一室。
実験室である。

「ラクシャータ、そっちの仕事は出来上がったかい?」

ロイドは格納庫から実験室へと、ラクシャータの進行状況を確認するために足を運ぶ。
昔は仲間と呼べた仲だったが、いつしか道を違え、また再び顔をつき合わせる羽目になるとはラクシャータもロイドも思っておらず、ラクシャータは嫌そうに眉を歪めながらも口元に笑みを残す。

最大限の嫌味を言葉に乗せながら毒づいてやる。

「やだ。馴れ馴れしく呼ばないでくれる?プリン伯爵」

「君にそのままそっくりその言葉を返すよ。話戻すけど、君の実験が成功しないと僕の仕事が息詰まるの分かってるでしょ」

「だったら手伝いなさいよ」

「僕と共同作業が嫌だって言ったのは君の方だろ?」

「まあね〜。でももうすぐ完成するからちょっと待ってなさいよ。それとも見てみる?」

ラクシャータが煙管で小さなガラスケースを示せば、ロイドは僅かに目を見開く。

「理論は完成していたものだけれど、此処まで応用させたのか・・・」

「高温超伝導なんて既に完成されているものがまだ応用出来るとはねぇ、ゼロも理系かしら?」

「シュナイゼル殿下がドルイドシステムに高温超伝導を利用したいと言っていたから理論的に問題が無いのは確実だとは思っていたけど・・・流石、皇族は皆頭が良いね」

「あら、あの子皇族だったの?」

「知らなかったのかい?ユーフェミア皇女殿下が姉と言っていたけど」

「興味無いわぁ、煙管と子供が居れば後は何もいらないし」

勿論、ラクシャータの言う子供は自らが創り上げた機械達だ。
だからゼロが皇族だとかそんな事は関係ない。素顔を隠す必要があるのはその為か、と納得はするけれど所詮は他人事。

ラクシャータはそろそろ止めるか、と煙管で制止スイッチを押してオフにする。

「あら?」

だが、球体のサクラダイトは止まることなく、ガラスケースに罅(ひび)を入れていく。

「ねえ、これやばくない?」

「可笑しいわねぇ、止まるはずなんだけどぉ」

「電気抵抗零から急停止は無理ってことか」

「車は急に止まれませーん」

ロイドとラクシャータはお互いに顔を見合わせて冷や汗を流しながらにへらと笑った。
うん。どうしようも無い。実験に失敗は付き物だ。

ガラスケースから嫌な音が響く。黒板を爪で引っ掻くようなあの背筋が痒くなるような音。
続いて破砕音。

ロイドとラクシャータは揃って頭を抱えながらその場にしゃがみ込む。
球体のサクラダイトは部屋中を飛び跳ねていく。
空気中に出れば、そのうち止まるだろう。

二人がじっと息を潜めていると、実験室の扉が開き、二人がそちらにしゃがみ込んだ姿勢のまま見上げれば、セシルが休憩のために最近凝っている手作りおにぎりと紅茶の用意を持って入ってくるところだった。

「少し休憩しませんか?」

「セシル君ッ、危ない!」

「え?」

ぱこん。

「いたッ」

軽い音の後にセシルは痛みの声を漏らす。
セシルの左側頭部にサクラダイトが当たり、跳ね返り、転がり落ちる。

だが、人に危害を与えるほどの殺傷能力の無いサクラダイトにも疑念が残る。

「あのサクラダイトは流体サクラダイトを何千倍も薄めてあるからスーパーボール程度の威力しかないわよ」

「それを早く言ってよ。焦ったじゃない」

「あはははは。流石のプリン伯爵もお世話係が大事なのねぇ」

ラクシャータは立ち上がり、セシルに歩み寄る。

「ラクシャータ?」

「一個貰うわよ。念のためにコブが出来てないか、そこのプリン伯爵に見てもらいなさい。それじゃ、小休憩といきますか」

おにぎりを一つ手に取り、ラクシャータは実験室を後にする。

「え、えぇ」

セシルが振り返れば、扉は閉められ、ラクシャータはおにぎりを一口。

「・・・・・・・・・まず」

料理の腕は相変わらず。
彼女の手料理から逃れるために彼らの側から離れたって言ったらあの二人はどんな顔をするのやら。

嘘だけど。
いや、ちょっとは原因だったりするかもしれない。

ラクシャータはおにぎりをもう一口食べる。
別に食べれないことは無い。



























ミーティングルームにはいつもの幹部に技術開発担当を引いた者達がゼロを中心に作戦会議を開いていた。

「ロイドとラクシャータは実験に缶詰か。まぁ、仕方ない。あちらは出来上がらなければ話が進められないからな。ディートハルト、他戦力は?」

「既に各地を出立しているとの報告がありました。ブリタニアにこの情報は一切漏れていませんし、EUと中華連邦にもこちらの情報は流れていません」

ゼロは足を組み替え、世界地図を広げる。
ブリタニア本国が中心にある地図は左隅にエリア11が描かれていた。

「ナイトメアVTOLの数は?」

「黒の騎士団内では五百機だ。しかし、他の勢力は各十機にも満たないだろう」

藤堂の答えにゼロは少し呻る。
搬送用の垂直離着陸機が足りない。
調達方法は約二百通りあるが、どれも時間が足りない。

ならば本陣を叩くのは黒の騎士団に集中させ、ブリタニア全体を海岸から囲んでいくか。
しかし、そのやり方では日本占領時と同じ手だ。敵に読まれやすい。
各レジスタンスごとに指示を出している暇は無い。他の者に任せるにしても荷が重すぎる。

他エリアも巻き込む形になるのは避けるべきだ。

太平洋側から集中的に攻撃を仕掛ければどうなる?
少々、固まりすぎるだろうか。
その場合の敵の戦法は七十八通り。殆どこちらが不利になる。

どうにか力を拡散出来ないだろうか・・・垂直離着陸機は各レジスタンスに十機程度。集まれば二百機以上にはなるか。

「では、始めに我々黒の騎士団がブリタニア宮殿に先制攻撃を仕掛け、混乱と同時に各レジンスタンスからナイトメアVTOLで出られる数のナイトメアを太平洋側から先に進軍、その後を船に残っているナイトメアが続く。各レジスタンスの船は混乱が起きてからブリタニアの海域に侵入しろ」

「宮殿に黒の騎士団全勢力がいるものなのか?」

「あそこの管理システムを嘗めるな。それに皇族に仕える騎士は全てエリート。何年どころか二十年以上は乗り続けている者も居る。そんな相手に数ヶ月前にナイトメアに乗り始めた奴らが一対一で勝てると言えるのか?」

「・・・・・・いや」

藤堂はやっと思い出していた。
ゼロが七年前に枢木家に預けられていた皇女であることを。

ファーストネームにずっと引っかかりがあり、スザクと共に立つ姿にこの間やっと思い出せたのだ。
藤堂自身はルルーシュとナナリーに一度も会ったことが無かった為になかなか引っかかりの意味に辿り着けずにいた。
ユーフェミアが黒の騎士団に亡命した理由も頷ける。

「後は高温超伝導だけか」

ゼロは仮面の顎に手を添え、隣に座るスザクを見やる。

「スザク、高温超伝導についてはどこまで理解した」

「・・・えっと・・・電気抵抗が無くなって、スピードが上がる?」

「上出来だ、馬鹿」

ゼロは明らかに怒っていた。スザクはその気配を感じ取り、項垂れる
上出来は馬鹿が上出来であって、スザクの知識に対してでは無い。

スザクの答えは決して間違いでは無いが、答えにしては言葉が足りなすぎる。
試験に出れば赤三角に更にマイナスで点数が削られることだろう。

「温度を下げれば電気抵抗がなくなる。その現象が超伝導と言われているのは知っているな?というか、授業で習ったよな」

「・・・・・・・・・うん・・・」

間のあいた返事にゼロは気にしない。スザクが理数系を苦手にしているのは分かっているからだ。
だが、サクラダイトの知識がその程度でランスロットをあそこまで動かしているのだから野性的な勘でなんとなくは感じ取っていると、思いたいところだ。

「では、低温にする為に必要なのは?」

「ヘリウム・・・だっけ?」

「正確には冷却剤の液体ヘリウムだ。それもかなり高価なやつ。だが、サクラダイトを利用した高温超伝導体は温度を低くする必要は無い」

つまり、とても経済的な物質なのだ。サクラダイトというものは。
利用価値は様々で、何処の国も咽から手が出るほど必要としている資源だ。

「サクラダイトってそんなに価値があったんだ」

「・・・スザク、お前は桐原公から有り難いサクラダイトの話を聞くと良い」

高温超伝導がランスロットのヴァリスに幾つか応用して使うことが可能であると判明してから、ゼロはロイドとラクシャータにはそちらを任せている。
高温超伝導体の凝縮方法をラクシャータが担当し、ヴァリス用に拡大してインパクトレール用に加工するのがロイドの担当だ。

インパクトレールはヴァリスの換装部分であり、これを用いることで様々なバリエーションの弾を発射させることが可能である。
Variable Ammunition Repulsion Impact Spitfire、可変弾薬反発衝撃砲の名の通りということだ。

当初はガウェインに応用出来ないかとも考え、ラクシャータに話を通せば、ハドロン砲の収束制御に使っているラクシャータが開発したゲフィオンディスターバーと反発する可能性が高いという。
証明されてはいないが、理論上ではハドロン砲が暴発するという結果が出た以上、崩壊範囲は島一つ分。

使えないと分かり、舌打ちをすれば、それを目聡く聞きつけたロイドがランスロットのヴァリスの話を持ち掛けてきたという訳だ。
直接の高温超伝導体使用は危険を要する為、凝縮と加工が不可欠であるが、それさえ完成すれば威力、距離を調節出来るたライフルの誕生である。












ロイドは愉悦の笑みを浮かべながら手に中にある小さな球体のサクラダイトを見つめ、その桜色にアイスブルーの瞳を細めた。
ランスロットの更なる進化は続く。




























◆後書き◆

ユフィたんが何処へ行っているかは次回書けるかと。

メカとかの文章書くのが一番楽しかったり。
しかし、自分で書いてるのに意味は全く理解していないという・・・(汗)
高温超伝導で参考にしたのはネットで色々。

40話で終わるかな?
その後の続編も書くつもりなんでそろそろこちらをクライマックスに向けて大好きなナイトメアの戦闘シーンをば。


更新日:2007/08/26








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