◆REMOTE CONTROL story35◆









コーネリアは船の展望台に立ち、青空になろうとしている空を見上げた。
明日の朝には中華連邦に辿り着くだろう。
既に向こうにも連絡は入れてある。未だにブリタニアと中華連邦は睨み合いを続けているため、何も無しで直接行けば襲撃に合うからだ。

コーネリアは海を見ていた身体を海を背にするように振り返る。

「我が騎士、ギルフォードよ。・・・昔話、いや、お伽話をしようか」

「姫様?」

いつもの気丈な表情では無いコーネリアにギルフォードは首を傾げる。
感傷深い彼女を見たことなど、数えるほどしかないからだ。

「私はシュナイゼル兄上に嘘をついた。お前にも」

「嘘とは、何です?」

「私は・・・マリアンヌ様がテロにあったその日、彼女の護衛を任されていたんだよ」

「ッ」

コーネリアはシュナイゼルに自分は他の国に攻め込んでいたと言ったが、それは真っ赤な嘘だった。
ギルフォードはコーネリアの騎士に任命される前のことであり、必然的な流れでコーネリアは彼にも嘘をつく形となってしまった。

「けれど、私はテロを間近に見ていない。他でもないマリアンヌ様が私に撤収を命じたからだ」

「マリアンヌ后妃はテロを予測していたということですか?」

「いや、それは無いだろう。それならば、自分の子供を安全な場所に隠したはずだ」

「では、何故・・・」

「もしかしたら、マリアンヌ様はテロでは無く、別の事を待っていたのかもしれないな。または向かっていたのか」

「確か、出掛ける直前でしたね、テロが起きたのは」

マリアンヌはナナリーを腕に抱き、純白の階段を降りていき、突然・・・。

思い出し、コーネリアは悔しそうに顔を歪める。
ギルフォードも痛ましそうに俯く。

「誰がこんな事をしたのか、お前にはまだ言っていなかったな」

「ご存知なのですか?」

「ああ」

シュナイゼルと共に調べ、導き出された答えに二人は言葉を無くした。
それも記憶に新しい。

「皇帝と・・・枢木ゲンブだ」



























ユーフェミアは総督府の滑走路の灰色のコンクリートの上を走る。

「ルルーシュ、待って!」

ゼロは歩みを止め、スザクも合わせるように立ち止まり、二人は振り返る。
此方まで走ってくるユーフェミアを待ち、彼女の後ろからゆっくりと歩いてくるダールトンの姿にゼロは仮面の奥で眉を潜める。

「皇女殿下には此処をお願いしたはずですが?」

「それはクロヴィスお兄様が引き受けて下さいました」

息を整えたユーフェミアは真っ直ぐに顔を上げ、ゼロの仮面の中、ルルーシュの瞳を真っ直ぐに見つめる。

「私も連れていって下さい。お願いします」

「駄目だ」

話は終わったとばかりにゼロはユーフェミアに背を向ける。

「待って下さい!」

ゼロは溜息を吐く。
振り返らずに彼女はユーフェミアに告げる。

「ユフィ、お前には見せたくないんだよ・・・」

人間同士の殺し合いなんてユーフェミアには見せたくないのだ。
憎悪も恐怖も、それに準ずる醜い感情が交錯する場に妹を立たせたくなどない。

ユーフェミアは瞳を閉じ、眉間から力を抜く。

「ルルーシュ、少しだけ時間を私に下さいますか?」

「・・・・・・どうしてもか?」

「はい」

「・・・分かった。スザク、先に行って、俺は少し遅れると言っておいてくれ」

スザクは頷き、その場から背を向けて歩き出す。
ユーフェミアは自分に追いついたダールトンを振り返り、口を開く。

「ダールトンは此処で待っていて下さい。私はゼロと少し話してきます」

「しかしッ」

「ゼロが私に何かすると言うのですか」

「いえ・・・それは・・・」

「私はゼロと話すだけです。此処で、待っていてくださいますね、ダールトン」

「Yes, Your Highness」

「それじゃあ、私に着いてきて」

ユーフェミアは晴れやかにゼロを振り返り、その手を取り、引っ張るように小さな駆け足をする。
軽いステップに着いていけず、ゼロは一度バランスを崩すが、直ぐに体勢を立て直してユーフェミアに引かれるままに続く。

「ユフィ、何処にッ」

「秘密。着いてからのお楽しみですから」

走りながらユーフェミアはゼロを振り返り、悪戯っぽく笑う。
きっと、ルルーシュは気に入ってくれると思うから。
仮面の奥で奇妙な表情をしているであろうルルーシュを思い浮かべるだけで、ユーフェミアはもっと楽しくなる。

優しい思い出を思い出して欲しい。
大きな夜空を満面に身体で感じた時を。

ユーフェミアとゼロは総督府の屋上に辿り着く。
風がユーフェミアのドレスのスカートをふわりと靡かせ、その風は次にゼロのマントをばさりとはためかせた。

日が昇る。

夜が明けたそこは一面の芝生と小さな花達。
中央には小さな白いテラス。

ゼロは仮面とマスクを取る。

「此処は・・・・・・」

似ている。

「似ているとは思いませんか?アリエスの離宮に」

ルルーシュはユーフェミアを弾かれるように振り返る。
どうして似ているのかを問うように。

「此処は・・・ね、ルルーシュ・・・クロヴィスお兄様が設計したのよ」

「馬鹿なッ・・・そんな事をして何にッ」

「お兄様はあの場所が好きだったの」

微笑むユーフェミアにルルーシュは面食らったように言葉を無くし、肩を落とせば、諦めたように小さく笑いの息を吐く。

「喧嘩・・・ばかりしていたのにな」

「ふふ、お姉様もそう言っていたわ」

ユーフェミアは軽やかに緑の芝生の上でくるくると踊るように回り、上へ行く太陽を背にルルーシュを前に立ち止まる。

「ルルーシュ、私は汚いものも見てきた」

「ユフィ・・・」

「確かに綺麗なものをたくさん見てきたわ。汚いものなんてほんの少しよ」

ルルーシュは俯き、両手は拳を握る。

「ルルーシュは私が汚いものを見るのを怖がってる・・・そうでしょう?」

「・・・そうだ。見せたくないんだよ」

「ルルーシュ、それは過保護って言うのよ」

「過保護だろうと構わないさ。それでも、お前を危険な目にあわせるわけにもいかない」

今でも、妹として見てくれるルルーシュにユーフェミアは泣きそうになった。
憎まれても、文句なんて言えない自分に。
ブリタニアで何不自由無く毎日を過ごしていたのに。

「優しいままね、ルルーシュは」

「俺よりお前の方が優しいだろう」

「違うわ。ルルーシュの優しさは私のとは違う」

「ユフィ?」

ユーフェミアはゆっくりとルルーシュに向かい、歩く。

「だから心配なの。ルルーシュの優しさは分かりにくいから、ううん、伝わりにくいって言うのかしら」

ユーフェミアはルルーシュが握りしめている右手を左手で、左手を右手で取り、ぎゅっと握る。

「ルルーシュの優しさは愛情がたくさんあるの。母親が子供に与える当たり前の優しさだから気付きにくいけど、どんな優しさよりもそれは大きいのよ」

深く関わらなければそれは理解されることなく消えてしまう儚い優しさ。

「何が言いたい」

「はっきり言わないと分からない所もそのままね」

「ユフィ」

少しきつめに名前を呼べば、ユーフェミアは苦笑の後に眉を立てた真剣な瞳でルルーシュを見つめた。

「もし、ゼロがブリタニアを我がものとして君臨出来たその日、どうやってブリタニアの人達を治めるつもりですか」

「そんな事か。王が誰なのか分からせれば良いだけの事だろう」

「争いを終わらせた後に争いを繰り返すつもり?」

「誰かが終わらせれば、それで良い」

「誰が終わらせるの?」

「俺が、」

「自惚れないで!!」

怒気を含んだ声とは裏腹にユーフェミアは泣き出しそうに顔をくしゃりと歪める。
ルルーシュは戸惑ったように声を出すしか無くて。

「ユフィ・・・?」

「自惚れないで・・・終わりが見えないものに、そんな風に・・・お願いだからッ」

涙が頬を流れる。

「力だけでねじ伏せては駄目。私が止めるから。貴女に向けられる殺意や憎悪から私が貴女を守るから・・・お願い・・・」

連れて行って。
一緒に。
慈悲を貴女のために。

ルルーシュは視線を逸らして戸惑ったまま、ふと落ちた視線は自分の手を握るユフィのか弱い手。
けれど、こんなにも温かい。

自分には勿体ないくらいに。

「・・・一度しか言わないぞ・・・・・・有り難う・・・・・・」

ユーフェミアは涙で濡れた瞳を細めた。
幸せそうに。



























皇帝陛下と元日本国首相が手を組んでいたという事実は受け入れがたい事だった。
当時、神聖ブリタニア帝国と日本は一触即発の微妙なバランスの上に立たされていたのだから。

「それは確かな情報なのですか?」

信じられない面持ちで目の前に立つコーネリアをギルフォードは見つめる。
その視線は戸惑い以上のものを秘めていた。

「あぁ、マリアンヌ様の遺体はシュナイゼル兄上が皇帝に命じられて回収している」

「しかし、棺は・・・」

「空っぽだよ。空の棺を土に埋めた」

ギルフォードはコーネリアが語る事実をゆっくりと一つずつ受け止めていくのが精一杯でそれから導き出される答えなど考えもつかなかった。

「すまない、ギルフォード。こんな話をしてしまって・・・」

「いえ、姫様のお心が私の心。貴女の決意も全て」

「・・・お前が騎士で良かった」

しかし、コーネリアには気掛かりな事が一つあった。
それは枢木ゲンブの死である。

皇帝と彼が秘密裏に行っていた事を全て把握しているわけではないが、皇帝は日本に攻め入るつもりでおり、枢木ゲンブもそれを了承していた。
おそらく、中華連邦と澤崎同様にエリア11となった日本の主導権はそのままに枢木ゲンブに受け渡すという条件だったのだろう。

だが、枢木ゲンブは自決しているのだ。
『日本最後の侍』という名を得て。

早く聞くべきだったのかもしれない、枢木スザクに。
息子というだけで、全てを知っているとは思わないが、何かきっかけになるような事を聞き出せた可能性はあるのだ。

それでも聞かなかったのは、嫌悪だった。
ルルーシュとナナリーを守ってはくれなかった枢木に対しての嫌悪が邪魔をした。
ランスロットに助けられた事は認められても、いや、助けられたからこそ、どうしてあの時守ってくれなかったのだ、と。

二人が生きていると分かった今は、少しだけ・・・信じようと思う。
未来を。

家族の笑顔が見たかっただけ。




























◆後書き◆

ルル様の優しさって何だろう?と考えながら執筆。
把握しきれていないまま書いているので、変な所がありそうな予感・・・。

24&25話で色々変更したり、設定固めたりを脳内で編集中。


更新日:2007/08/18








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