◆REMOTE CONTROL story33◆









「C.C.、何をッ」

ルルーシュがC.C.の肩に触れようとするが、それをC.C.は肩越しに睨み付ける。

「触るな」

ナリタの時と同じ状況に陥る前にC.C.はルルーシュを制止させる。
関節接触ではなく、直接接触だ。どうなるか分からない。

ルルーシュもあの時のことを思い出したのか、ぴくりと手を止めた。
だが、視線をスザクに向け、視界に彼を収めた瞬間に自分の恐怖など投げ捨てた。

それは余りにも危うかったから。

だから、C.C.に触れた。
C.C.は驚いてルルーシュの瞳を振り返れば、紫電の色は真っ直ぐにスザクを見ていた。
私に入り込んでくる余裕は無い、とC.C.は悲しげに笑みを浮かべた。
ルルーシュも見ることになるだろう。

スザクが父である元日本国首相枢木ゲンブをどのようにして殺してしまったのかを。

受け止めるとでも言うのか、この男の闇までをも。

つくづく興味深いな、この女は。
いや、あの女の血筋なのだからこんなにも真っ直ぐなのかもしれない。視線も、想いも、感情でさえも揺るがずに誰かを愛せるのは。

優しさをとっくに忘れたC.C.には、共犯者が一番明確な関係だった。
それ以上でもそれ以下でもない関係で見ているだけで良かったはずなのに、こんなにも関わることになるとはあの時は思っていなかった。
ズレが生じたのはマオにクロヴィスランドに呼び出され時にルルーシュに助けられ、あのヘリポートで彼女からの契約を受け入れた時。

だから、彼女の盾となろうとした。

それも今日でお終いかもしれない。
過去に怯えるスザクを一瞥したC.C.は無表情に天井を見つめた。



ルルーシュに嫌われるかな・・・。

















電磁波のような青い道を抜け、ルルーシュが始めに目にしたのはモノクロの世界だった。

目線の先には項垂れているスザクの姿があり、彼に歩み寄り、膝を突いて彼に触れた瞬間に入り込んできたのはスザクの過去。

雨が降っていた。

覚えている。

何かの薬でルルーシュは眠らされ、その間にナナリーが連れ去られた。
スザクが蔵に来た時に自分は覚醒していなくて、彼に頼るしかなかった自分。

その後の記憶は無くて、気付いたら、ナナリーは蔵に戻ってきていた。
でも、戸惑っているナナリーがスザクに何かあったのだと教えてくれた。

雨の中を走って、やっと見つけたスザクは何かが違っていた。
全てはルルーシュが意識を手放した時に動いていたのだ。





その間にスザクに何があったのか、開かれる。



























徹底抗戦を掲げようとした父を止めれば、戦争は起きないと思った。

「父さんは生きてちゃいけないんだ・・・」

「・・・スザクッ」

振り返ったゲンブは既に刺されていた。
それは刹那の隙。息子に対しての後ろめたさだった。

スザクが手にしていたのは師の剣であり、日本の伝統的な剣であった。
その刃はゲンブを突き刺し、ゲンブの腹部から銀の刃を伝って鮮明な血が流れ、滴り落ちていく。
飛沫を上げないそれは生々しく、刃を伝って手に触れたソレは滑(ぬめ)っていて気持ち悪かった。

でも、それ以上に目の前の現実が自分でも信じられなかった。

けれど、既に引き抜いた剣は自分の手の中にあり、やはり自分が父を殺した。
ゲンブは息絶え、その場に倒れている。
まともに父の顔を見ることが出来ず、剣を落とし、後ずさり、部屋の隅に蹲(うずくま)るしかなかった。

その後、藤堂と桐原が来るまでずっと、スザクはそうしていた。

自分が弱いことを知り、同時に剣という大きな力を奮うことの恐ろしさを知った。
だから、これからは自分の為に自分の力を使わないと誓った。

















「俺は・・・・・・いや、僕は・・・もう二度と自分の為に力を使わない」

大切な少女にそう言って、雨の中、彼女に誓った。

彼女は瞳を揺らして自分を見ていた。
雨の音が激しくなった時、彼女は言った。

「なら、理由は僕が作ってやる」

スザクが顔を上げれば、彼女は生きている瞳で尚も言う。

「お前が自分の為に力を使えないなら、俺が理由を作ってお前の力に意味を持たせてやる」

彼女は生きていた。
そこに。

スザクの目の前に。

「似合わないな」

それは彼女が「俺」と言ったことに対して。

「君こそ似合わないよ」

それは彼が「僕」と言ったことに対して。



























既にあの時、スザクは父を殺めていた。



























結果的にその事実は形を変える。

元日本は枢木ゲンブが自決した事を公表。それは神聖ブリタニア帝国と日本を終戦へと導き、ブリタニアが勝利を掲げた。
日本にとっての夢物語は偽りの平和をもたらした。

だが、日本は余力を残していた。
藤堂という奇跡と、中華連邦の介入前に白旗を上げてしまったが故に、エリア11は希望を捨てきれずにレジスタンスのような組織が他のエリアよりも活発であり、リフレインのような過去に縋る麻薬が広まった。

それを逆手に取り、ゼロはイレヴンの士気を上げる。
スタンピードに弱い人種である事を充分に理解していたからこその芸当とも言えるだろう。



























C.C.の額のマークが消え、空気は動き出す。

「勝手に介入して来たのはお前だ。後は好きにすればいい」

C.C.はスザクの肩から手を離し、スザクはゆっくりと床に崩れ落ち、ルルーシュは彼の目の前に膝をつく。

「勝手なのはお前の方だろう、C.C.。・・・・・・見たのか?お前も」

振り返り、問う。

「いや。私には見えない。お前は私を媒体にしてこの男の過去を見た。それだけだ」

「それだけ・・・簡単に片付けるつもりか」

「さあな。私は頼まれただけだこの男の本当を見せて欲しいと」

「お前は見ていないんじゃないのか」

「見るのはこの男の過去じゃない」

「何を言って・・・」

「この後を見たいんだよ、私は」

C.C.はクロヴィス達を一瞥して部屋を出ていく。
クロヴィスもC.C.の後を追い、ダールトンも続き、ユーフェミアがジェレミアとヴィレッタにも退出するように視線を送る。
ユーフェミアは一度だけ、床に崩れ落ちているスザクと、彼を見下ろすルルーシュを振り返った。

大丈夫、きっと。

ユーフェミアはスザクが自分の騎士を辞任したその日、スザクが父を殺めてしまった事を彼の口から聞いた。
ユーフェミアはスザクに何も言えなかった。

言葉が見つからないのとは違う。もっと根本的な何かが見つけられなかった。
だから、自分を否定するようなスザクの言葉を聞いているしか出来なかった。
違うのだと言えれば、どんなに良かっただろう。

この人は自分が嫌いなのだと知ってしまった。だから他人優先に物事を考える。
きっと、自分に似ているから彼に惹かれていた自分。

けれど、ユーフェミアではスザクを癒せない。それを分かっているからこそ身を引いた。
見守れるだけで良い。
運命に結ばれている二人は大好きな二人だから。
ユーフェミアは無言で部屋を出ていく。

ドアが完全に閉まっても、ルルーシュは直ぐに何か言葉を繋ぐことも、行動を起こすことも出来なかった。
初めてスザクが父を殺めていた事を知った時と同じ言葉は慰めにもならないだろう。
けれど、放っておくなんて選択肢はルルーシュの中にはなかった。

「スザク」

呼んでも彼は俯いたままだった。

ルルーシュはスザクを胸に抱き締める。それで気付く。
スザクの身体がこんなにも震えていることを。

「・・・俺は・・・・・・まだ、ルルーシュとナナリーと三人で居たくて、でも」

「分かってる。分かってるよ、スザク」

「違う!俺は責められないといけないのにッ現状に甘んじてしまったから」

「それはいけない事か?十歳の俺達には何も出来なかっただろう」

スザクは首を横に振る。ルルーシュの言葉を肯定するにはスザクは理解し過ぎていた。
剣を持つ重大さを。

「それでも、父さんを殺してしまったのは俺だ。隠してもその事実だけは変わらない」

「それで得た結果さえもお前は否定したいのか?」

スザクはその言葉に目を見張るようにルルーシュを見上げた。

「俺と再会出来たことも否定するのか?」

ルルーシュの手はぎゅっとスザクの軍服を掴み、皺を刻む程に力を入れる。

七年間、お互いの生死すら分からぬままだった。
再会の場はあんな場所であり、次にはゼロとしてスザクと向き合い、今度は学園という平和な場所で共に肩を並べられた。

短かった。

ゼロとして立つルルーシュと軍人として立つスザクは余りにも遠かったはずだった。
今こうして、学生としてではなく肩を並べられるはずは無かった。

だが、ゼロとスザクが肩を並べているのではなく、ルルーシュとスザクが肩を並べている。
スザクはゼロの手を一度も取っていないからだ。

「否定したくない・・・けど、俺がしてしまった事は許されていいものじゃないッ」

ルルーシュはその言葉に奥歯を噛み締めた。

「甘ったれるな!」

「ルルーシュ・・・」

「お前はそんなんじゃないだろう!自分を正当化したって現実が変わるわけでも、正しいわけでもない」

正義も悪も誰かが定めるものじゃない。
悪からしたら、正義が悪であるように。

「・・・・・・」

「考えて行動するような奴じゃなかった、七年前は」

静かに呟く。

「もう七年前だ」

「たった七年と言ったのは・・・お前の方だ」

猫騒動の時を思い出したのか、ルルーシュは苦い顔をした。
スザクはそんなルルーシュに肩を震わせる。

「おい、笑うな」

「ごめ、でもッ、可笑し」

「言葉になっていないぞ」

口をへの字に曲げてルルーシュは恨みまがしい眼差しをスザクに送る。
それでも、笑ったスザクの顔に安堵してしまう。
知らずに笑みが零れた。

お互いに笑っていることに気付くと笑いは止まり、同時にまたくすりと微笑み合った。

闇は理屈でどうにかなるものじゃない。
既に過去の闇もスザクの一部となり、今のスザクが存在しているのだろう。

ルルーシュは立ち上がり、スザクに手を差し出す。
スザクはその手を取り、立ち上がった。

「スザク、お前はまだ自分の為に力を使うつもりは無いんだな」

「使うつもりは・・・無いよ」

「なら、あの時の誓いをもう一度言おう・・・俺がお前の力に意味を持たせる」




















































生きろ、と。




























◆後書き◆

スザクの過去を書くのは難しいですね。
無理矢理感バリバリ。
覚悟やら何やらグルグル回ってます。
完全に乗り越えたわけでは無いですが、簡単に乗り越えて良い問題でも無いような気もするので、自分的解釈で済ませます。(汗)

後の問題はブリタニアとの最終決戦のみとなりました。
今後とも見守っていただけると嬉しいですv


更新日:2007/08/03








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