◆REMOTE CONTROL story31◆









漆黒の仮面の奥から通路の脇に立つ人物を一瞥する。

「船の準備はどうだ?」

「はい。既に各地域に到着したと報告が来ています」

ナイトメア輸送船はエリア11各地のレジスタンスに支給され、ブリタニア本国へ奇襲を仕掛ける準備は着々と整いつつあった。
だが、ゼロに報告した張本人であるディートハルトはあまり良い顔を示さなかった。

理由は

「しかし、ゼロ。早過ぎではありませんか?」

そう、早過ぎるのだ。

トウキョウに日本を設立し、そのままエリア11全土を日本に取り込む方が理想的だとディートハルトは考える。

「早過ぎるのは私だって分かっている。だが、早過ぎるからこそ敵の不意打ちを狙えるものだ」

「そうかもしれませんが、黒の騎士団では無いレジスタンスを投じるには些か問題が生じるのでは」

「それも予測している。人の話を聞かない奴は絶対いるからな。まぁ、味方同士で撃ち合うことはないだろう」

その前に堕とすからな。

ゼロは仮面の奥でほくそ笑んだ。
全ての船には爆破装置を取り付けるように指示してある。
船を提供するのはブリタニア人だ。それを行うことに抵抗はなかったであろう。
それはゼロの持つ起爆スイッチとリンクしているのだ。
変なマネをするようであれば、即排除可能だ。

「まだ何か言いたいようだな」

けれど、ディートハルトは納得した様子を見せず、ゼロに疑いに近い眼差しを送っていた。

「いえ、そんな事は」

「そんな答えで私が納得すると思うか?」

言葉を濁したディートハルトを追い詰めるような言葉をあえてゼロは選ぶ。

「・・・ただ、貴女らしく無いと思っただけです」

「・・・・・・・・・」

ゼロはディートハルトから背を向けた。
ディートハルトはゼロのその行動に冷や汗を流し、ゼロの腕を掴んだ。

「・・・私らしく無いのは百も承知だ」

「でしたら、」

「もう、そんな時間は無い」

ゼロが非道を突き通していられる時間は余り無いのだ。
いや、ゼロとルルーシュの区別が出来なくなっていると言うのかもしれない。
ゼロであっても必ず近くにスザクが居る安心感がルルーシュをそうさせていた。

C.C.とは違う意味でのルルーシュの理解者であると同時に対等の存在でもあるスザクはルルーシュにとって掛け替えのないたった一人の人だから。

それは同時にルルーシュを弱くした。

【共和国日本】に関してもそうだ。
当初の予定では【合衆国日本】を設立するはずであったが、合衆国は全ての地域を取り込む意味があり、ゼロならばそうするべきだった。
それでも共和国にしたのは、スザクに返すべき日本を選んでしまったからなのかもしれない。
本当の意味ではルルーシュ自身も何故【共和国日本】を創ったのかは理解しきれていなかった。

ルルーシュはこの選択を間違ったとは思っていない。
ゼロはこの選択を間違ったと思っている。

「その手を離せ。次の作戦会議までに仮眠を取りたいからな」

ディートハルトは渋々といった感じにその手を離し、ゼロの腕を解放した。
ゼロが掴まれていた腕をさするのを視界に収めながらディートハルトは尋ねる。

「お疲れなのですか?」

「どこかの体力馬鹿のせいでな」

















「くしゅッ」

スザクは身体を冷やしすぎたかと上着を羽織り、ちょうど着替え終わると同時に扉がノックされた。

「ゼロ、ちょっと良いか?」

聞き覚えのある声にスザクは扉を開ける。

「ルルーシュ・・・じゃなくて、ゼロはいませんよ」

ゼロではなく、スザクが現れたことに扇は面食らうも、咳払いをして気を取り直す。

「何処に行ったか分かるかな?」

「ディートハルトさんに報告を聞きに行くと言って出ていってから結構経ってますし、もうすぐ戻ってくると思いますよ」

「そうか。なら、どうしようか・・・」

「立ち話もなんですし、中にどうぞ」

「い、いや、別に急ぎの用事ってわけでも無いんだッだから、それは」

「大丈夫ですから」

何が大丈夫だと言うのかを問う暇もなく、あれよあれよという間に扇はスザクによってゼロの自室に招かれてしまった。
いつの間にか二人して床に正座している状況になり、扇はどうしたものかと悩み始める。

「あー、その・・・枢木君」

「はい」

「いや・・・何でもないんだが・・・」

「何かお悩みでも?」

「・・・実は・・・・・・あの二人の軍人、瀕死の状態の時に俺が自分の家に連れ帰ったんだが・・・・・・もし、そのせいでゼロに迷惑をかけてしまっていたのなら、俺は・・・」

だんだん言葉を曇らせ、同時に俯いて床を見つめてしまった扇をスザクはじっと見つめる。
そうか、とスザクは話を自分の中で整理していく。

「大丈夫ですよ、ゼロは怒りませんから」

「え?」

扇が疑問に顔を上げれば、スザクはにっこりと笑い、その笑みを静かなものに変えていく。

「ゼロが結果重視なのは、貴方は良くご存知のはずです」

「・・・あぁ」

「それまでの過程がどうあれ、ゼロは・・・ルルーシュは今を見てくれます」

ゆっくりと時間が流れていた。

扇は安堵の息を吐き、晴れ渡るように意を決した。
瞬間、扉が開き、ゼロが現れる。

「・・・・・・何をしているんだ?二人で正座なんかして」

畳でもないのに何を畏(かしこ)まっているのだろうかとゼロは首を捻る。

「ゼロ、実は君に言っておかなければならなかったことがある」

正座のまま、扇はゼロに向き直って頭を深く下げた。
それにゼロは仮面の奥で驚く。

「すまないッ、あの二人の軍人を俺は前に匿っていたんだ!本当にすまない!!」

ゼロは仮面の奥ですっと瞳を細めた。

「・・・・・・顔を上げろ、扇」

扇は恐る恐る顔を上げる。
そこには表情の無い仮面を外したゼロがいた。

「お前が挙動不審だった理由が分かった」

「そ、それは・・・」

「部下の様子ぐらい見ている。変化があれば気付くだろう」

副司令ともなれば黒の騎士団にとっては重要な人材であることも確かだが、扇は黒の騎士団結成前からの付き合いだ。
初期黒の騎士団メンバーの性格をゼロはそれなりに把握している。

それは向き合うという意味だったのかもしれない。
関わりの無い他人と区別するには出来なくなってしまったそれは仲間へと変わろうとしていた。

「怒って・・・いないのか?」

「もう少し早く言ってくれればその方が良いが、問い詰めてまで聞くような内容ではなかったな。扇があいつらを匿っていなくても、同じようなことになっていただろう」

「すまない・・・それから、有り難う」

ゼロが黒の騎士団員にまで目を向けていてくれたことが何よりも嬉しかったのかもしれない。
ゼロは扇から視線を外し、マントを外しながらベットに向かう。

「少し仮眠を取る。また作戦会議には召集を掛けるから遅れるなよ」

「分かった。それじゃあ、俺はこれで」

扇は立ち上がり、扉を潜る。
扉が閉じる機械音とルルーシュがベットに沈む音がスザクの耳に届く。

スザクが振り返れば、ルルーシュは彼に背を向けて横になっている。

「辛い?」

「誰のせいか分かって言っているんだろうな?」

ルルーシュがごろりと寝返り、スザクに視線を送れば、スザクは苦笑しながらベットの縁に腰掛け、ルルーシュの頬を撫でる。

「・・・ん」

ルルーシュは猫のように目を細め、ゆだねるように自分よりも温かい体温のスザクの手に擦り寄るような行動を見せる。

暫くそうしていると、ルルーシュは何の前触れも無くスザクの腕に触れた。
キョトンとしていたスザクはルルーシュの言いたいことに気付くと、丸くしていた目を柔らかくして微笑む。
ルルーシュの頬から手を離し、自分もベットに横になると、スザクは腕を差し出した。
無駄な動作などせずにルルーシュはスザクの腕に頭を預ける。

「良く分かったな」

「腕枕して欲しいのかなって思っただけなんだけど」

「そういうものか?」

眉を潜めながら瞳でも問い掛けるようにスザクを見つめれば、スザクは答えが出なかったのか、ルルーシュをもう片方の腕で抱き寄せた。

「ちょッ、おい、この馬鹿!はぐらかすな!!」

「だって良く分からないし」

「だからってまた人を抱き枕にするなッ」

「うん。ごめんね」

そう言いながら更にルルーシュを抱き締めるスザクの腕は反省の色を見せなかった。



























ユーフェミアは総督区の玉座にて、滑走路を渡って此方に向かって来る人影に目を丸くする。
民間の誰かが来てしまったのかとガラス張りの壁に寄って、誰だろうかとその姿をはっきりと確認すると、目を見開く。

「・・・クロヴィスお兄様?」




























◆後書き◆

スザルルシーンの部分を「時/を/か/け/る/少/女」を見ながら書いておりました。

もうすぐクロヴィスが本格登場する・・・かもしれません。
ユフィたんももっと活躍して頂きたいですッ

ブリタニアに攻め入る作戦をまとめ中。


更新日:2007/07/21








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