◆REMOTE CONTROL story30◆









ヴィレッタは与えられた室内の椅子に腰掛けてテーブルに肘を突いて何やら考え込んでいるジェレミアを覗き込むように声を掛ける。

「ジェレミア卿・・・」

「・・・ヴィレッタ・・・私は、どうすれば良いのだろうな」

重い面持ちで呟くジェレミアはヴィレッタの顔を見ることなく、ただ思考を深くしていく。
正しいものが見えない。
ゼロとルルーシュが未だに結びついていないのだと、眉間に皺を寄せる。

だが、悩みはそこではない。
それもあるが、一番の悩みはルルーシュがスザクの前で変化を見せたこと。
いや、スザクにだけ見せるものがあった。

他の誰かと対峙するルルーシュをほとんど見ていなくとも、それは分かった。
妹のリリーシャがいたからこそ気付けたのかもしれないが、そのことはジェレミアにとっては喜ばしいことでは無く、今回もそうである。

ルルーシュが選んだ相手ならば祝福するべきであるのにそれが出来ないのは、相手がスザクであるからだ。
純血派のジェレミアにとってブリタニアの血では無いナンバーズは侮蔑の対象でしかない。
助けられた事実があったとしても、だ。
認めることなど出来なかった。

「どうしてナンバーズである枢木スザクを好きになってしまったんですか?ルルーシュ様ぁ」

突然哀愁が漂いだし、どれ程の悲しみに打ちひしがれているのかと思えば出てきた言葉はヴィレッタを落胆させるには十分な威力を秘めていた。
半目でジェレミアを見下ろしたヴィレッタは深い溜息を吐く。

「そちらの話ですか・・・」

「む。これは由々しき事態なのだぞ、ヴィレッタ!」

立ち上がり、叫ぶジェレミアにヴィレッタは頭痛を覚える。

「今はそれよりも私達の処遇がどうなるか」

「ルルーシュ様は正真正銘ブリタニアの皇女であらせられるのだぞ、あの『閃光のマリアンヌ』と謳われたマリアンヌ后妃様の忘れ形見!そんなお方がナンバーズと!?」

「ルルーシュ殿下のお話はオレン・・・いえ、その日の前日に一度聞いていますし、先程も詳しく聞かせて頂きましたのでジェレミア卿がご心配なさるのも分かりますが、枢木スザクとルルーシュ殿下の事をジェレミア卿が口出しするのも如何なものかと思いますが」

それは個人の自由であるし、第一、ルルーシュには既に皇位継承権どころか存在さえ記録から消されているのだ。
皇族であったのは確かだが、既にそれは無効に等しい。

ブリタニア人とイレヴン。

普通ならば相反するものか、そう行き着くが、ヴィレッタにとってそれは他人事でしかない。
ただ、スザクが黒の騎士団の居場所を選んだ理由が分かった。
それだけだ。

「しかし、」

「ルルーシュ殿下のお気持ちも考えているのですか?」

「そ、れは・・・だな。ルルーシュ様は高貴なお方であって、あのような」

「枢木スザクは元日本国首相の息子のはずですが」

「それは七年前の話だろう」

「ルルーシュ殿下もそうではありませんか」

「ぐ・・・」

再びヴィレッタは深い溜息を吐いた。
ジェレミアはルルーシュの敵に廻ることは決して無いだろう、と思う。
このまま黒の騎士団に加わるかは問題外として、ブリタニア軍に戻ることは無さそうだ。






















ダールトンは言葉を無くした。
コーネリアの命令が理解できなかったわけではない、隣のギルフォードもダールトンと同じように驚きに目を見張っている。

その先の人物はゼロに殺されたはずのクロヴィスであり、コーネリアの隣に立っていた。

「聞こえなかったのか。クロヴィスを総督府の方へ送り届けろと言っている」

「ッし、しかし、コーネリア様、本当にこの方はクロヴィス殿下、なのですか?」

何も言えずにいるダールトンの代わりにギルフォードが些か訝(いぶか)しげな面持ちでコーネリアに抗議を示す。
しかし、コーネリアは顔色一つ変えずに、再びダールトンに向き合う。

「ギルフォードは私と共に中華連邦に向かってもらう。これは・・・信用出来る者にしか頼めぬのだ」

何時になく、沈痛なコーネリアの表情にダールトンは意を決する。
それが主の願いならば従うのみ。

「・・・分かりました。姫様のご命令とあらばお引き受け致します」

「ダールトン卿!?」

ギールフォードは尚も抗議しようとするが、ダールトンはそれを手で制す。
押し黙るしかなかった。

「すまないな。船は宰相(さいしょう)閣下が用意して下さっている。それを使え」

「Yes, Your Highness」

「それから、ゼロの行動には全て目を瞑(つむ)れ」

「・・・・・・良いの、ですか?」

「構わん。あの子には全てが終わったら、話す。全てが終わる頃には知っているだろうがな、真実を・・・」

黙り、沈黙は了承と理解だった。

ふと、それまで何も喋らなかったクロヴィスが顔を上げる。

「コーネリア、私は・・・」

「ルルーシュに言わなければならない言葉が見つからない・・・か。そうだな、始めに謝ればいい。すまなかったと、そう言えばいいだろう。あの子は優しいからな」

昔からルルーシュは優しかった。

ユーフェミアと共に、もちろん護衛付きだが、二人でアリエスの離宮を訪れてはマリアンヌに連れられて外を駆け回ったり、寝転がったりと、ルルーシュとナナリーとユーフェミアの笑顔を見るのがコーネリアはとても好きだった。

しかし、ゼロはどうなのだろうか。

「本当に私は、ルルーシュと会っても?」

「それが正しいかは私にも分からないさ。けれど、お前がまたこうして生きているのは既に偶然では無く、必然だ。正直、私も未だに戸惑っている。だが、悲しんでいるだけでは前に進めない。立ち止まっていても、だ。分かるな?」

「はい」

クロヴィスに僅かだが変化が見えた。
瞳に輝きが戻ったのだ。虚ろ気味だった視線に力が宿るように。

それを見て取り、コーネリアは口元を緩めた。
腹違いといえど、弟が戻ってきてくれたのだ。
その方法がどうあれ、亡くしたと思っていた。いや、実際に亡くした。
二度と戻ってきてはならないはずの命でも。
もう一度生まれたのならば。

現実にはありえないのだけれども。

















シュナイゼルは洞窟内に作られた一室へ足を運ぶ。
自分以外は誰も入ってこない暗い部屋。

真ん中に椅子が一つあるだけで他には何もない。
その椅子に座る少年は長く薄い金色の髪のウェーブを肘掛けに流していた。

「お疲れ様、V.V.」

少年はうっすらと瞼を持ち上げるが、力が入らないのか、その瞳の色さえ分からない程に伏せ目がちになる。

「僕はそろそろ行くよ」

「Vの世界へかい?」

「うん」

「クロヴィスの蘇生は大成功だよ。有り難う、V.V.」

「どういたしまして」

コーネリアには心臓を蘇生したと言ったが、本当は違う。
蘇生と言うよりは、生まれ変わりに近い。
それを行うにはV.V.の力が必要で、それのリスクは・・・。
代価は大きかった。

シュナイゼルはくすりと笑い、V.V.にもう一歩近づき屈んで、その柔らかい髪を梳く。
その緩やかな時間の中、V.V.と呼ばれた少年は視界を閉ざし、この世界との繋がりを遮断する。

Vの世界への旅立ちを。



























部屋に戻ってきた途端にゼロはスザクから背中から抱き込まれた。

「スザク!?」

抵抗している暇など無いままに、ぼすんっ、とスザクがベットに腰掛け、ゼロは抱き込まれたままスザクの膝に腰掛ける羽目になる。
更にぎゅっと、切なくなるほどに抱き締められて。

ゼロは決して呆れたわけではない息を吐き、仮面を外した。
後頭部が収納される軽い音の後に黒のマスクを下ろしてスザクを振り返る。

「どうした?」

紫電と碧がぶつかり合い、スザクは小さな溜息を一つ。
その反応にルルーシュは片方の眉を跳ね上げる。

何か気に入らないのかと、そんな思いを込めて。

「何なんだ、本当に」

「別に何でもないよ」

巧妙に仕掛けられたわけでは無い言葉は何よりもルルーシュを混乱させる。
ルルーシュは策士だが、スザクは策士ではない。

苛立たしさよりも先に戸惑いが掠め、深まる。

「何でもないわけないだろう、これは一体何だ」

だからもう一度似たようなことを聞く。
けれど、スザクから返ってきた言葉はとくに変わりない。

「だから何でもないって」

「人を背後から襲っておいてか?」

「何か・・・人聞き悪いな」

「そう言われたくなければ、行動を改めろ」

「うーん、それは無理だろうな」

「・・・拗ねてるのか?」

意外そうなルルーシュの声にスザクはもっとルルーシュを抱き込む手に力を入れた。

「そうかもしれない」

「・・・・・・本当に何なんだお前は」

「多分・・・過去のルルーシュを知っている人がいるのが嫌なのかもしれない」

「それを拗ねていると言うんだ」

ルルーシュは今度こそ呆れたように言い放ち、スザクから視線を外すように前を向く。
勝手な解釈かもしれないが、僅かに空気が変化したように感じられた。

「スザク、お前は今まで遠慮してたのか?」

「え?」

「・・・その・・・触ってこないと言うか、そういうの。あの時以来、何もしようとしないから・・・」

一瞬きょとんとしていたスザクだが、漆黒の髪の間から覗く耳をだんだん朱に染めていくルルーシュに彼女の言おうとしていることが理解出来た。
同時に、そう思わせてしまう程に自分が無意識に彼女と交わることを遠ざけていたのだと気付いた。

「ルルーシュは・・・良いの?」

だから、確信が欲しかったのかもしれない。
お互いの想いが一つであることの。

ルルーシュが再びスザクを振り返れば、ルルーシュと同じように顔を赤くしているスザクが目に入ったが、一瞬でスザクの視線がすっと細められた。
余計に恥ずかしさを増したルルーシュは熱くなる顔を片手で隠しながらスザクの腕から逃れようとしたが、スザクはそれを許さない。

答えを聞くまでは離さない。

「もう一度聞くよ。ルルーシュは良いの?」

「ば、馬鹿かッ、良いも悪いも・・・」

「どっち?」

言葉を濁したルルーシュの瞳を伺うように覗き込む。
やがて、沈黙の後にルルーシュは真剣な眼差しで言った。

「・・・とっくに覚悟なんて出来ている」

それが始まりの鐘のように。

漆黒のマントと純白のシーツに皺が刻まれる。
シーツの波に沈んでいく二人に明かりも鎮められた。
沈んでも、鎮んでも、本当の意味では沈まない。

流されるままに溺れるなんて二人には似つかわしくない。







白と黒が交じり合う。




























◆後書き◆

オレンジが楽しい今日この頃。
ヴィレッタが居てくれて良かったと思う今日この頃。

V.V.出番終了。(早ッ)
心臓蘇生のまま行こうと思っていたのですが、路線変更で登場予定のなかったV.V.に出ていただきました。

スザルルがラブラブしてきましたv書くのは難しいですが、幸せになっていただきたいお二人です。


更新日:2007/07/08








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