◆REMOTE CONTROL story3◆









千葉の服であるカッターシャツに着替えさせたルルーシュは千葉の部屋のベットで静かな寝息を繰り返して眠っていた。

「すまないな、千葉」

布団を掛け直す千葉を藤堂は見上げて礼を言う。

「いえ」

千葉は藤堂に苦笑を返した。

突然自分の部屋に藤堂が訪ねてきたかと思えば、藤堂の腕の中にはゼロのマントに身をくるむ子供が居て驚いたものだ。
更にその子供がゼロだと言うのだから、今も半信半疑で千葉はベットに眠る少女を見下ろした。

ベットの傍らでは、藤堂が椅子に座ってルルーシュを心配そうに見つめている。
そう、まるで。

「お父さんみたいですよ、藤堂さん」

朝比奈の言葉に藤堂は気難しい顔で背後を振り返る。
そこには椅子に座り、テーブルに紅茶の入ったカップを置く朝比奈が、紅茶の湯気で曇った眼鏡のレンズをハンカチで拭い取っている姿があった。

「ええ、本当に」

朝比奈の後ろに立つ、二人、仙波とト部も朝比奈の言葉に相づちをうつ。
更に口をへの字に引き結んだ藤堂は彼らの視線から逃れるように再び眠るルルーシュへと視線を下ろす。

「けど、本当にその子がゼロなんですか?」

眼鏡を掛け直した朝比奈は疑いの眼差しをルルーシュに向ける。
朝比奈の問い掛けに藤堂はルルーシュを見下ろしたまま口を開いた。

「ああ。お前達が格納庫に来る前に色々あってな」

しかし、四聖剣は未だに信じられない瞳をルルーシュに向ける。
こんな子供が一人で黒の騎士団を創り上げたなどとは信じ難く、戦略さえも大人が舌を巻く程の完璧さだ。
それをたった一人でこなしてきたのが、今眠る少女であり、藤堂が千葉の部屋を訪れる前にも色々あったと見える。

「・・・・・・ん・・・」

ルルーシュの瞳がゆっくりと開かれようとしていた。
藤堂は椅子から腰を上げ、ルルーシュの顔を覗き込んだ。

「大丈夫か?」

しかし、ルルーシュの瞳は光りを写さず、藤堂から後ずさるようにベットの枕元の方へ身を寄せる。
ルルーシュには藤堂では無く、別の人物の姿が見えていた。

どうしたのかと、藤堂はルルーシュの腕を掴むが、それを力任せに振り払われた。
けれど、ルルーシュは自分の腕を信じられないような瞳で見つめたかと思うと、振り払ったはずの藤堂の腕を掴んだ。
力強いけれど、弱いその手に藤堂は戸惑う。

「ッ・・・ごめんなさい、お兄様達の言うこと聞くからッ、だから、ナナリーだけは!お願い・・・お兄様ってちゃんと呼ぶから、ナナリーにはッ」

光りの無い瞳は確かに藤堂を見ているはずであったが、その向こうにルルーシュは過去の傷を見ていた。

自分を正しく認識していないルルーシュに気が付いた藤堂は仕方ないかと、ルルーシュの鳩尾に軽く拳を入れる。
一か八かの軽いそれだけで、意識を手放したルルーシュの体力の無さにも戸惑うが、痛みを堪えるような顔で切実に願い、縋っていた言葉が引っかかる。

自分の腕に落ちたルルーシュを再びベットに横たわらせ、布団を掛けてやる。
息を吐き、藤堂は椅子に腰を下ろした。






















ここ最近では思い出すことの無かった過去をルルーシュは思い出してしまった。
原因は未遂だったが自室で組み敷かれたことだ。

母であるマリアンヌの死後、ルルーシュとナナリーが日本へ送られるまでの短い期間であったが、その時に受けた異母兄達からの傷は簡単には消えなかった。
幼かったルルーシュの身体を異母兄達は玩具のように弄(もてあそ)んだのだ。ナナリーを人質にして。

ルルーシュにとって、たった一人の家族になってしまったナナリーに自分と同じ思いをさせたくなかったルルーシュは異母兄達の要求を受け入れた。
自分で決めた事だと納得しても、その時の痛みも恐怖も現実で、忘れる事なんか無い過去の傷だった。

ただ、忘れる事が出来なくても、自分の心を和らげてくれる存在が出来た事が嬉しかった。

外交目的と言う名の人質として枢木首相の実家に預けられたそこでは、普通の生活さえままならなかったが、スザクと出会って、一緒に生活していくうちに、いつの間にかスザクの存在がルルーシュの中で大きくなっていった。

日本がブリタニアに占領されてから、スザクと生き別れたルルーシュとナナリーは途方にくれながらも、マリアンヌと関わりのあったアッシュフォード家が後見人として面倒を見てくれる事となった。
その時にルルーシュは自分の性別を男と偽る事を決めた。
経歴も嘘ならば、性別までも嘘にしてしまえば良いと。
それならば、本国に連れ戻される可能性も低くなる。

だが、妹のナナリーとアッシュフォード家の令嬢であるミレイには反対された。
しかし、その反対もされなくなった。
念の為と受けたアッシュフォード家直属の医者の健康診断で自分の身体が使いモノにならないものだと知ったのだ。

その結果にナナリーとミレイに泣かれてしまい、自分が異母兄達に何をされたのかナナリーにも知られてしまった。
隠しておきたかったが、しょうがないと諦めたルルーシュは困ったように笑って、泣きやまないナナリーの背を撫で、大声で泣くミレイには怒られた。

再びスザクと出会ってから、過去の傷を振り返る事は無かったはずなのだ。


スザクと想いを寄せ合えた矢先のそれはルルーシュの傷をえぐった。






















千葉はティーカップに紅茶を入れ、藤堂に手渡した。

「少しは温まりますよ」

「ああ、頂こう」

藤堂はティーカップを受け取り、一口含む。
ダージリンの香りは少なからず、藤堂を落ち着かせた。

千葉はその場を離れ、備え付けのキッチンの棚を開ける。
再び藤堂の傍らに立った彼女が手にしていたのは塗り薬だ。

「何をする気だ?」

「ええ、首筋のアレに塗ったほうが良いかと思ったんですが」

アレと、千葉が指さしたのはルルーシュの首筋に咲く赤い痕だ。
流石に目の付く場所は消すべきだと千葉は考える。
しかし、今更ながらにその痕に気付いた男四人は何故か顔を赤くした。

「これだから男って・・・」

自分の主張しか考えて無いんだから、と悪態を吐く千葉のその小言をダイレクトに聞いてしまった藤堂は身を縮こまらせた。
自分が悪いわけでは無いが、言外に蔑(ないがし)ろにされているような気がしたのだ。

千葉が薬の蓋を開け、円柱形の容器を満たす白いクリームを人差し指ですくい取る。
ルルーシュの首筋の赤い痕にそれを塗ろうとしたが、突然ルルーシュが起き上がったのでその手を退いた。

流石にあの程度の拳の力ではそう長いこと眠らせておくことは出来なかったようだ。

「此処は・・・何処だ?」

いつものルルーシュであり、ゼロだが、その瞳は警戒の色が濃く映し出されていた。

「私の部屋です」

「四聖剣の・・・千葉だったか?」

「はい」

ルルーシュが周りを見渡せば、藤堂と他の四聖剣のメンバーが目に止まる。
次第に記憶が蘇り、藤堂にぶつかった所まで思い出した。その後の記憶は綺麗に無い。

「藤堂か、私を此処に連れてきたのは?」

偉そうな口振りに朝比奈が抗議を挙げようと椅子から立ち上がろうとするが、朝比奈の肩を仙波が押さえつけ、椅子に戻す。
仙波を振り返る朝比奈は文句を言おうとするが、首を左右に振る仙波の瞳は駄目だと告げる。

彼女はゼロとして今此処に居るのだと。

「左様。貴殿がただならぬ様子だったので、千葉の部屋に」

「・・・・・・そうか」

先程の悲痛な声の事を聞こうとしたが、藤堂は口を閉ざした。
触れられたく無い事には違いないからと。

「少しじっとしてて下さい」

千葉の言葉にルルーシュは首を傾げた。
しかし、首筋のそれに触れようとした千葉の手を掴み、薬が塗られる事を遮った。

「どうかしましたか?」

「あ、いや・・・これは、その、違うんだ」

千葉の手を掴んでいない手でルルーシュは首筋の痕を押さえ、顔を赤くした。
それを正しく理解した千葉は掴まれたルルーシュの手を優しく解き、人差し指の薬を容器に戻し、蓋をした。

「早とちりでしたか。すみません」

「いや、有り難う」

女同士のやり取りに男達は首を傾げるばかりだ。

ルルーシュの首筋の赤い所有印はスザクからのものであり、消してはならないものだった。
いつかは消えてしまうそれだが、薬を塗って直ぐには消したくは無い。

千葉もルルーシュの反応に微笑ましく目元を緩める。
見た目の歳的にはまだ早いような気がするが、ゼロはそこまで考えの無い人物では無いことは部下となってから知っている。

ルルーシュは顔の熱みが退いていくと、自分のマントを探すように辺りを見回し、自分が身を置いているベットの枕元に畳んで置いてあることに気付く。

仮面と繋ぎは自室だ。
どうしようかと思った矢先に千葉の部屋の扉が音を立てて開いた。

「お探し物はコレかな、ゼロ」



金の瞳がやんわりと微笑んだ。

















◆後書き◆

一番書きたかったとこです。
スーさん居ないけども。
精神不安定なルル様が書きたかったのですッ(私ちょっと危ない人に!?)

次はC.C.書けます!やったー!!
C.C.は書きやすい。勝手に動いてくれるので。
一番書きにくいのはナナリーたん。おんにゃの子キャラでは一番好きなのに純粋過ぎて私には荷が重いのだよ!!

藤堂さんお父さんキャラにして行こー!

更新日:2007/03/11

千葉さんが持ってる薬はオ〇ナイン。







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