◆REMOTE CONTROL story29◆
当時、マリアンヌがテロに襲われたその日。
シュナイゼルはエリアの総督に務め、コーネリアも他の国をエリアとする為に進軍をしていた。
マリアンヌの死。
それは多くの国民に悲しみをもたらし、シュナイゼルとコーネリアも例外ではなかった。
そして、一つ引っかかる事があった。
そう簡単には侵入出来ない宮殿内にテロ組織が入れた事だ。
離宮といえど、警備は完璧のはずだった。
皇妃が住む離宮は万全な設備が設けられ、兵の数も半端なものでは無い。
シュナイゼルとコーネリアはマリアンヌの死の報告を聞いた後、直ぐさま本国に戻った。
しかし、その頃にはルルーシュとナナリーは既に日本へと送られた後だった。
何者かによって情報が遅らされたのだ。
本国に戻ったシュナイゼルとコーネリアは部下に指示を出し、マリアンヌの死の調査を開始した。
調べるにつれ、辿り着いた答えは当時のシュナイゼルとコーネリアにはどうにも出来ない敵だった。
他国に協力者がいると。
「クロヴィス、それは本当のことなんだね?」
「はい・・・」
シュナイゼルは痛ましそうに顔を歪め、ルルーシュとナナリーにも気を掛けるべきだったと悔やむ。
それはコーネリアも同じで、表情を歪めずにはいられなかった。
女として、それがどれ程辛い事であるのか。
そして、ゼロ率いる黒の騎士団は今後、ブリタニア本国へと宣戦布告するとシュナイゼルは予想を固める。
シュナイゼルは表情を改め、コーネリアに視線を向けた。
「コーネリア」
顔を上げたコーネリアにシュナイゼルは緊張を帯びた声で言う。
「私はEUに赴こうと思うんだ。君には中華連邦に行って欲しい」
「それはッ・・・」
「ゼロはブリタニアを揺るがす。その隙をEUと中華連邦が見逃すはずが無いだろう?」
「・・・はい。確かにそうですね」
顎に指を添え、コーネリアは思案しながら言葉を探す。
「なら、中華連邦にブリタニアの情報が流れなければ良いんですね」
「ああ。くれぐれも武力行使はやめて欲しいかな」
「それは承知しています」
シュナイゼルはクロヴィスを振り返る。
「クロヴィス、君は総督府へ行くんだ」
ルルーシュが居るところへ。
敵わない。
ルルーシュを抱き締めるスザクの腕は決して神楽耶に向けられることの無いものだった。
自動扉の外、部屋に入れずじまいになってしまったのは空気の遮断があったから。
隣に立つヴィレッタもそうだった。
「神楽耶、こんな所におったか」
桐原は突然居なくなった神楽耶を探しに来ていた。
神楽耶は桐原を振り返ると、小さく呟く。
「・・・勝てるわけないじゃない」
そのまま桐原の横を通り過ぎる。
その緑の瞳は涙で潤んでいた。
桐原は疑問に皺だらけの瞼を瞬かせるが、部屋の中を一瞥すれば納得できた。
神楽耶がシンジュク事変から思いを寄せていたのは未だにスザクだった事は桐原は理解していた。
スザクを助けたゼロに心惹かれてはいただろうが、あくまでそれはきっかけにすぎず、それ以上ではなかった。
スザクが軍入りしてから、神楽耶の口からスザクの名が出ることはなかったが、ずっと胸に秘めていた想いを近くで見守っていた桐原にはお見通しだったのだ。
桐原は無言のまま神楽耶の後を追った。
もう既に修羅の道は開いている。
ゼロとキョウト六家との交渉でのこと。
黒の騎士団に下れと言ったゼロに桐原は奥歯を噛み締めながらも、声を絞り出す。
「お主が長となったとして・・・策はあるのか?」
潜水艦のミーティングルームの中、桐原がゼロにそう返せば、ゼロは仮面の顎に手を添える。
「ええ、既に他のエリアからの協力を得ていますよ」
「他のエリアだと・・・」
エリア11以外の国からの協力を得られたという事は黒の騎士団はそこまで広がっていたというのだろうか。
「ディートハルトの噂流しが上手くいきましたので」
仮面の奥から目配せすれば、ディートハルトは立ち上がり、手元の資料に視線を落としながら答える。
「フクオカ基地のキュウシュウ戦没事件で我々がブリタニア軍に協力をした事で黒の騎士団がただのテロリスト集団では無いことを他エリアに知らせる事が出来ました。それ以降、衛生エリアからの協力が根強いですね」
「衛生エリアから協力が?」
桐原が表情を歪めるのは無理もない。
衛生エリアは完全にブリタニア帝国の属領として安定しているエリアの事を指し、他のエリアよりも上位に位置しているのだ。
レジスタンスが存在しない、平和な地域と言っても良いだろう。
そんな地域からの協力を得られた理由をゼロは事も無げに口にする。
「完璧に見えるもの程、警備が手薄なんですよ。裏取引も簡単でした」
もちろん、ブリタニア人の協力者もいる。
スパイの可能性もある為、そこは一番慎重にゼロも警戒しての対応を示している。
「ならば、次のターゲットは・・・」
息を飲んだ桐原にゼロはほくそ笑む。
答えは決まっているのだ。
「ブリタニア帝国に鉄槌を」
衛生エリアからは大きな反乱が無い為、武器の密輸入は目立ちすぎるので支援してはもらえないが、時事関係の情報は何処よりも速い。
特にブリタニア本国の情報は幅広く集められた。
レジスタンスの活動が未だに活発な所からは沿岸警備用のナイトメア輸送船が数百機こちらに支援されている。
それらの輸送船は元トウキョウである【共和国日本】ではなく、他のレジスタンスが収める地域に手配された。
その輸送船でブリタニアの大地に足を踏み入れる。
キョウトからの支援が無くなった今、頼れるのは黒の騎士団のみ。
物資の支援を求めるのならば、我に力を貸せ。
それがゼロからの取引。
ブリタニアに進軍する話を持ち掛ければ、誰もが戸惑っていたが、この一度だけ黒の騎士団に力を貸せば、日本を取り戻す事が出来るかもしれないという誘惑はとても甘美なものだった。
震える肩は誰よりも小さく見えて、何よりも守りたいと願った人。
今、腕の中にいるルルーシュは声を殺して泣いている。
辛かったと口に出来ず、出来たとしても傷は決して癒されない。
涙はただ溢れる。
けれど、ルルーシュの頬に自分のものでは無い涙の滴が零れた。
スザクの胸に預けていた顔を上げれば、スザクの瞳から涙が流れていた。
「お前まで泣く必要ないだろう・・・」
「ごめん」
「謝る必要はもっとない」
「それでも、ごめん。守りたかった」
抱き締める。
壊れないように。
「・・・・・・・・・」
「ルルーシュは凄いよ。ナナリーを守る為だったんだろ?」
「・・・・・・・・・」
無言を肯定と取り、スザクはルルーシュの頭を撫でるように黒髪を梳く。
「ナナリーを守れたルルーシュは強いよ。だから、凄いんじゃないか」
「だからって、どうしてお前が泣くんだ」
「うん。どうしてだろう」
「答えになってないぞ」
苦笑にはにかみを含んだ顔は幸せそうだった。
お互いの頬に手を伸ばし、お互いの滴を拭い取る。
「何故、今までその事を話さなかった」
これはあの子だけのものだから
「では、どうして今、それを言う」
あの子の大切な人が知ったから
貴女に助言をお願いしたくて
「勝手だな、いつも」
貴女に言われたくないわ
「私はC.C.だからな」
分かっています
それで、お願いは聞いてもらえる?
「良いだろう。聞いてやろう、その願い」
貴女は優しいわね
「茶化すな。さっさと言わないと聞いてやらんぞ」
恥ずかしがらなくてもいいのに
「おい、いい加減に」
好きよ
「ん?」
有り難う、貴女が居てくれて良かった
「今更何を」
今言わないと、今度は何時言えるか分からないから
私は覚悟出来てる
「・・・そうか、そういう事か」
ごめんなさい
「良いさ。それがお前の望みなら私は拒絶しない」
貴女で本当に良かった
「それで?私はあの男に何と助言してやれば良いんだ?」
私の願いは・・・・・・
◆後書き◆
久しぶりの更新です。
お待たせしましたッ
ちょっとした体調不良でした。
無事に続きが書けて良かった・・・書けなくなってたらシャレにならんですたい。
最後の会話はC.C.とあのお方です。
23話のネタバレになってしまいますので、誰かは此処では言えませんが。
更新日:2007/06/29
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