◆REMOTE CONTROL story26◆









ゼロは少女に見覚えがあった。
少女はスザクの親戚で・・・それから・・・・・・。

走り寄って来た少女はゼロと背比べをするようにゼロを見上げ、右手を自分の頭のてっぺんに合わせて爪先立ちをする。

「わぁ、背が高いのね。でも安心して、直ぐに追いつくんだからッ」

「神楽耶・・・様?」

「あら、私の名前をご存知だなんて!やっぱりゼロは私の運命の人、未来の旦那様なんですね!!」

「・・・私は貴女を妻に迎るつもりはありませんよ」

「私は勝利の女神なんですよ、貴方以外の妻になるなんて考えられません!」

「勝利の女神ですか、それは頼もしい。しかし、私は既に悪魔に魂を売った身ですので、今更神と馴れ合うつもりはありません」

「つれないなー。でも、そんな所が良いのよねッ」

言葉に諦めてくれない神楽耶にゼロは根をあげる。

他の黒の騎士団の影に隠れているスザクも神楽耶に気付いているはずだ。
何かあったらスザクが止めてくれるだろうと、そんな曖昧な確信を抱くことでルルーシュは自分を落ち着かせて仮面に手を触れた。

「・・・久し振りだな、神楽耶」

素顔を露わにしたゼロに桐原は驚きと共に冷や汗を流す。
ゼロの素性がバレればゼロを信じる者はいなくなるも同然だ。

皇族が皇族を裏切ることなど無いと思われても仕方がない。
自分達が騙されたのだと誰もが考えるであろう・・・それさえも考えられない程に神楽耶に翻弄される人物では無いと信じたかったが。

けれど、ゼロが素顔を露わにしても黒の騎士団員が驚くことは無かったことに桐原は疑問の表情で周りを見渡した。
これが初めての事では無いというのか。





仮面が外されて最初に姿を現したのは黒髪。
整った切れ長の眉の下には紫電の瞳。

マスクを下ろした相手が誰なのか神楽耶は知っていた。
驚きに眼球が縮む己を押さえ込むように気丈に眉を立てる。

神楽耶は人差し指をゼロに突き付け、ゼロはただ無感情にそれを見下ろした。

「よ・・・・・・よッ・・・横取りブリキ女!!!」

数年前と同じ罵倒にルルーシュは溜息を漏らす。
それは神楽耶を馬鹿にしているも当然の態度であり、神楽耶は顔を真っ赤にして尚も言い迫った。

「何よその溜息は!ゼロがあんただなんて聞いてないんだから!!」

「言っていないからな」

「〜ッ、その人を下に見る態度が昔から嫌いなのよ!」

「これが性分だ。直すつもりは無い」

冷静なルルーシュと怒る神楽耶ではどちらが上か、端から見ても明らかにルルーシュが優位であるのが当然だった。

「何でよりにもよってゼロの正体が元婚約者を奪ったあんたなのよ!」

「いや、奪ったわけじゃ・・・」

いよいよ涙目で訴え掛けてきた神楽耶にルルーシュも流石に大人げなかったかと眉を下げるが、次の言葉にそれは片隅に追いやられることとなる。

「何よッ寝取ったくせに!!」

「ねとッ・・・だ、誰がだ!」

「嫌がるスザクを貴女が無理矢理襲ったに違いないじゃない!」

「そんな事はしていない!!」

喰ってかかってきたルルーシュに神楽耶はジト目でルルーシュを頭の上から爪先までじっくり眺めてから更にルルーシュに一歩詰め寄って、頭一つ分以上ある彼女へと両手を伸ばした。





フニ





「・・・・・・・・・・・・神楽耶・・・」

ルルーシュは顔を引きつらせて自分の胸を掴んだ神楽耶を見下ろす。

「あら、最後に会った時から成長してないみたいね。揉んで貰えてないのかしら?」

これなら自分の方が大きいと神楽耶はツンと澄ました顔で言い放ち、ルルーシュの頭には血が登ってしまった。
スザクがそれに気付いて彼女達のもとに向かうが、いかんせん、人が多すぎて人混みを掻き分けるのに時間が掛かり、上手く前へと進めず。

間に合わなかった。
ルルーシュの発言を止める事に。

「なッ、揉んで貰ったことぐらいある!!」

中央に立つルルーシュと神楽耶に後少しという、二歩前でスザクは固まった。

少女二人の会話からスザクが会話の中心人物であったのは明らかであり、全ての視線がスザクに集中した。
スザクを貫く視線は痛く、彼が恐る恐る後ろを振り返ってみれば黒の騎士団員はスザクから視線を外して近くにいる者とひそひそと会話を始めた。
スザクの視線は藤堂とも合うが、藤堂も視線を逸らした。

師匠でもある藤堂にまで見放されたスザクは少なからずショックを受けるが、今はそれよりもルルーシュを止めなければと、固まっている足を目的まで短い距離だが疾駆するように力を入れる。

「そんなに小さすぎたら揉んでも価値なんかないわよッ」

「スザクがそんな小さなことを気にするわけ・・・」

「ないだろう」という言葉はスザクの手によって塞がれ、ルルーシュはスザクを振り向き、自由な瞳だけで睨み付ける。
邪魔をするなと。

だが、こればかりはスザクも黙って見ていることなど出来ない。
ルルーシュは自分の発言を意識して言っているわけではないはずだから。

「ルルーシュ、君、さっき何て言ったか覚えてる?」

スザクはルルーシュの口から手を離して自由にする。

「・・・スザクがそんな小さいことを・・・」

「その前」

「・・・・・・その前?」

ルルーシュは顎に手を当てて高速で頭を廻転させる。

今し方出た自分の発言は神楽耶の「揉んでも価値がない」という言葉への対応だ。
何故、その話に流れたのか。
貧乳を指摘されて揉んで貰っていないのではないかと言われたのだ。
その時の自分の対応は?
一度しか無いが、揉んで貰ったことには違いなく、確かそれを口に出した・・・。

揉んで貰ったことぐらいある、と。

「あ・・・」

「思い出した?」

こくりと頷いたルルーシュは真っ赤になる顔を隠すように仮面を咄嗟に被った。
前を見据えるように真っ直ぐ立つ姿は背筋を伸ばして威厳があるが、急いでいた為に黒いマスクをしていない首から顎にかけてのラインは剥き出しであり、そこは赤く染まったままだった。












場所を移し、仮面を被り直したゼロはミーティングルームの一番奥のソファに足を組んで腰を下ろしている。
そこには扇を除く幹部とスザクのみがキョウト六家と対面していた。
副司令官の扇はジェレミアとヴィレッタの監視の為にその場に居ない。

ゼロの真正面に座るのは桐原だ。
桐原は他のキョウト六家の三人と神楽耶に視線を送り、頷きが返ってくると頷き返し、また正面のゼロに視線を戻す前にゼロの横に立つスザクを一度確認する程度に一瞥する。
軍に志願してから枢木家と縁を切っていたスザクは七年前の面影を残しつつ、大人と変わらない成長を遂げていた。
桐原も七年振りの再会となる。

スザクが黒の騎士団に加わった経緯は知らないが、ルルーシュとナナリーを枢木家が預かってからスザクが二人と友人関係になったのは知っている。
スザクとルルーシュに関しては縁結ばれたらしいことも神楽耶のおかげで知ることが出来たが、青臭いと思うのは歳をとり過ぎたからなのか。

再びゼロに視線を向ければ、表情の見えない仮面は何を考えているのか分からない。 静寂の中、ゼロが右手を頭上に上げて親指と中指を擦り弾き、小刻み良い音を鳴らした。
全ての視線がゼロに注目する。

「そちらのご意見からお聞きしましょう」

ゼロは頭上に掲げていた手を桐原に向けて手を差し出すような仕草を見せた。
それに桐原は生唾を飲み込み、こちらの言い分をその口から落ち着いた声で放つ。

「黒の騎士団を我がキョウト六家に引き入れたい」

その言葉にディートハルトが身を乗り出し、藤堂は僅かに眉をひそめた。
ラクシャータは楽しそうに口元を緩めただけ。
スザクは無感情に。ゼロも何も言わずに次の言葉を待った。

「キョウト六家には武器類の物資はあるが、戦力となる者がおらぬ。黒の騎士団は戦いにおいては上級者であろう。ゼロ、お主のプロパガンダにも我らは敵わぬのだ」

そこまで言い終え、ゼロの反応を待つ。
ゼロは腕を組み、王者の威厳を振りまいた。

「いや、違うな」

何を否定されたのか分からず、桐原は皺だらけの顔を僅かに引きつらせた。

「何が違うと言うのか?」

「あなた方には黒の騎士団に下って頂く」

「そのようなッ」

「桐原公、貴方の考え方は古い。確かにキョウト六家は大きな組織には違いない。しかし、そちらに武力となる我が騎士団をあなた方の支配下に置いたとしても彼らの力を最大限に貴方が引き出せる確証がありますか?」

「ならば、お主もこちらに」

だが、ゼロはくつくつと笑い出し、ついには声を出して笑う。

「ははは。先程貴方は言ったではありませんか、私のプロパガンダには敵わないと」

「それは・・・」

「つまり、実質的に私が支配するという事と同様なんですよ」




























◆後書き◆

『propaganda(プロパガンダ)』宣伝。特に、主義・思想の宣伝。組織的な宣伝活動。

ゼロと桐原さんの会話はこれが精一杯・・・。(汗)
ルルーシュVS神楽耶書けて自己満足達成!

次の話あたりでオレンジ書きたいです。
DVD5巻のピクドラ見たら書きたいネタが増えてしまった。


更新日:2007/06/06








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