◆REMOTE CONTROL story25◆









葦(あし)の生えた湖のほとり。

空気は動かず、全ての時間が止まってるかのような静寂。
その先にある島は空を貫いている。

この湖は王者の湖であり、真ん中に宮殿が存在する。

そして、更に向こうの向こうの西の方には、イニス=ウィトリン・・・”ガラスの島”があり、またの名をりんごの木の島”アヴァロン”という。

生身の人間の世界と、命の尽きぬ者の国の境目こそがアヴァロンである。
しかし、命の尽きぬ者の国というのは、死せる者の国でもあるということだ。





魔術師マーリンはアーサー王にそう語った。






















コーネリアは驚愕に目を見張った。

ダールトンと合流し、船で向かった先はシュナイゼルが待っているであろう神根島。
この島でシュナイゼルはゼロと対面したはずだと、コーネリアは思い返し、目の前の光景とその事でシュナイゼルに聞きたい事が一気に押し寄せてくる感覚を味わった。

「信じられないかい?」

「・・・クロヴィスなのですか?あれは・・・・・・」

柔らかな微笑みのシュナイゼルにコーネリアは巨大な柱のようなカプセルから疑念に満ちた視線を送った。

「ああ。もう目覚めるはずなんだ」

「何故このような事をしたのですか!?死人を蘇らすという事の重さを兄上は分かっておいででしょう!!」

「コーネリアは会いたく無いのかい?もう一度クロヴィスに」

「それとこれとは違います!クロヴィスが生き返ることを望んでいるようには思えません!!」

「これは神の所業じゃない。医療技術なんだよ、コーネリア」

「・・・どういう事ですか?」

視線を落としたシュナイゼルにコーネリアは熱くなっていた言葉を沈め、冷静さを取り戻した声で問い掛けた。

「心臓を蘇生した。生きている細胞から新しいものを創り出しただけだよ」

「それは・・・しかしッ、許される事では・・・」

「そうだね、許されないかもしれない。けれど、私は真実を知りたいんだ」

「真実?」

「何故、クロヴィスがゼロに殺されなければならなかったのか」

「ッ!?」

ゼロの名にコーネリアは瞳を揺らした。
それをシュナイゼルが見逃すはずがなかった。

「何か知っているのかい?コーネリア」

「いえ・・・私が直接確かめたわけではありませんから」

「良いよ。言ってごらん」

「・・・・・・ダールトンから、ゼロは・・・ルルーシュだと」

シュナイゼルは一度だけ驚いたように目を見開き、何か言おうと口を開くが、開き掛けた口を閉じてしまう。
目を細め、瞼を閉じる。

そして、笑った。

「そうか、生きていたのか。良かったじゃないか」

「本当にそう思っていらっしゃるのですか?」

「もちろん。何故嘆く必要があるんだい?」

「ゼロがルルーシュだとすれば、クロヴィスは肉親に殺されたのですよ!?」

それから、今までゼロがどのようにブリタニアに牙を剥いたのか、そして、ユーフェミアまでも黒の騎士団へと行ってしまった事をコーネリアは奥歯を噛み締めるように言葉を繋いでいった。
最後に特派も黒の騎士団に加勢した事をシュナイゼルに伝えるが、彼は眉一つ動かすことは無かった。

「知っているよ。アスプルンド伯爵から直接通信が入って来たからね」

それを聞いたコーネリアは目を見開く。

噂に聞く伯爵は好事家(こうずか)らしく、直接会話もしたことのあるコーネリアもその噂に納得を示している。
更に上を行くクセのある人物なのであろうかと疑問を潜ませる。

「特派は裏切っていないのですか?」

「いや、あちらの方が条件が良いから転職するそうだよ」

少し困ったような微笑みのシュナイゼルにコーネリアは毒気を抜かれたように目を丸くするが、それも一瞬で、直ぐさま鋭い目つきでシュナイゼルを睨み付けた。

「何ですか!?それはッ」

とんだ見込み違いだった事への怒りのままに怒鳴りつけるように言えば、シュナイゼルは更に苦笑を濃くした。

「私もこちらの研究に力を入れていたからね。伯爵はこういうのを好まない性格をしているから仕方ないよ」

「仕方ないとかそんな問題ではありませんッ」

更に視線をきつくしても、シュナイゼルは肩を竦めただけで、再び眠りの底についているクロヴィスを見上げた。

金の髪は青い波に沿って揺らめく。
コポリ・・・と空気の球体が上へ昇り、クロヴィスの身体が僅かに動いた。

それにはコーネリアもクロヴィスを注目せざる終えない。

再び空気の球が昇る。
クロヴィスの瞼がゆっくりと持ち上がり、その蒼い瞳が露わになった。

シュナイゼルは近くにいた研究員に指示を出し、クロヴィスを覆う青い液体を引き抜き、巨大柱のガラスを開く。

ペタリと柱の底に座り込んだクロヴィスの濡れた身体にシュナイゼルは緩やかな動作で自分の生地の厚いマントを羽織らせた。
ゆっくりとクロヴィスはその蒼い瞳でシュナイゼルを見上げる。
しかし、クロヴィスの瞳に再会の喜びの色など無かった。

シュナイゼルが声を掛ける前にクロヴィスはシュナイゼルから視線を外すように俯き、声を絞り上げ、荒げた。

「どうして私を生き返らせたのですかッ!!?」






















授業中の学校は静かだった。

今の時間は体育をやっているクラスも無く、窓の開け放たれた教室から教師の説明する声だけが風に乗って微(かす)かにカレンとナナリーの耳に届く。
人気がない時間帯を狙ってのことなのでなんら不思議では無い。

クラブハウスの扉を開ければ、生徒会室からミレイが出てきたのは同時で、二人の姿を見つけたミレイは階段を駆け下りてくる。
いつも放漫で頼もしい生徒会長の姿はどこにも無くて、ミレイは眉尻を下げて涙を堪えるように、ナナリーが無事に帰ってきてくれた事に喜びに瞳を細めた。

ナナリーの前にしゃがみ込み、その小さな両手をミレイは両手で包み込み、頬へとあてる。

「ナナリー・・・お帰り」

掠れてしまった声に取り付く島も無く、ナナリーは返事を返した。

「ただいま、ミレイさん」

ミレイが授業に出ていないのは、ルルーシュからの電話でナナリーを見つけたから送り届けるという連絡を貰っていたからだった。
誰が送ってくれるのか問いだたしてもルルーシュは明確な答えはくれなかった。

人知れずに、誰にも悟られる事無く、静かに送り届けようというのは目に見えていたミレイはルルーシュ本人がナナリーを送りに来たら一言、ちゃんと顔を会わせて謝りたかったのだが、予想は外れ、カレンが送り届けに来た事に少なからず疑問を持った。

ミレイはナナリーの前にしゃがみ込んだままカレンを見上げた。

「どうしてカレンが?」

「あ・・・いえ、その・・・病院帰りにそのまま車で来たんですけど、途中でナナリーと鉢合わせたから一緒に来たんです」

もしもの時にと、ルルーシュが提案した言い訳を頭の奥から引っぱり出したカレンは早口にそう言う。
ルルーシュには落ち着いて言えと言われたが、緊張には勝てなかった。
笑顔が引きつったカレンは冷や汗が背中を伝うのを感じる。
じっとりとしたミレイの視線は悪寒さえ覚えてしまう。

「ふーん。じゃあ、その時ナナリーの側に誰か居た?」

「いいえ。ナナリー一人だけでしたけど」

沈黙が続く中、ミレイが溜息を吐き出した。

「そ。ま、あんまり深入りしない方が良さそうね」

その言葉にカレンの肩がビクリと跳ね上がる。
それを視界で捉えても、ミレイはいつもの表情を崩さずに立ち上がった。

カレンと視線を合わせた所で青く真剣な澄んだ瞳の色を向ける。

「カレンも帰ってきてね」

「え?」

「此処はみんなが帰ってくる場所。仲間が居る場所なの、仲間外れになんかしてあげないからね」

微笑んだミレイにカレンは胸が張り裂けそうだった。
薄々感づいているであろうミレイは真実を知らないまま。

きっと、彼女ならば真実を知っても何も言わないで見守ってくれるだろう事は予測がつくけれど・・・それは彼女の生活を壊す矢となるだろう。

「はい・・・必ず、帰ってきます」

「よろしい!・・・新しい企画、作って待ってるからね・・・」

「恥ずかしいのは止めて下さいね」

「それはどうかしらねぇ?」

いつもの日常だった。
それに終止符を打つ。

「それじゃあ、私はこれで」

「もう早退?」

「ええ。早く治してみんなと長く過ごせるようにしたいですから」

「そう・・・いってらっしゃい」

「行って来ます」

ナナリーは背を向けたカレンを振り返る。

「カレンさん。有り難う御座います」

送ってくれたこと。
姉の支えになってくれていること。
他にもたくさんのお礼を言葉に乗り切らないほど乗せた。

カレンは振り返ることは無かったけれど、立ち止まってその言葉を受け止める。

「待ってなさい。平和ってやつを見せて上げるから」

病弱など投げ捨てて素の自分の言葉でカレンは宣言して、扉を潜って青空が広がる地を駆け出した。



























ユーフェミアが総督府を受け持ち、カレンが潜水艦へと帰ってきた頃に、キョウト六家は『共和国日本』に辿り着いた。
シンジュク第四区域にあるドームの中心にキョウトの重鎮達、その周りに黒の騎士団が数百名ほど銃を構えて囲んでいる。

「随分物騒な歓迎を・・・」

桐原がそう言えば、ゼロが前に進み出る。

「桐原公は信用していますが、そちらの方々はまだ私を不審がっているようですから、もしもの時の為の用心ですよ」

桐原の後ろに控えている刑部、宗像、公方院は焦臭(きなくさ)そうにゼロを拝見する。
失礼な視線にもゼロは動じる事は無い。

だが、イレギュラーが存在した。

「私は不審がってなんかいません!」

桐原の前に身を乗り出した黒髪の少女は大きな緑の瞳をキラキラと輝かせていた。
彼女は意気揚々とその表情に喜びの色を表す。

「私、ずっと貴方のファンだったんですから!」




























◆後書き◆

冒頭の部分は『サ/ト/ク/リ/フ/・/オ/リ/ジ/ナ/ル アー/サー王/と円卓/の騎士』を参考にさせていただいております。
勝手に参考にさせていただいております故、そちら様の関係者の方々様とは一切関係御座いません。

クロヴィスさん復活!
当初の予定では生き返る予定はなかったのですが、アフターストーリーで美味しいポジションにしたくて。
クロヴィスさんが生き返りたくなかった理由もぼちぼち明らかになってくるはず・・・です。


更新日:2007/06/06








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