◆REMOTE CONTROL story24◆
キョウト六家。
全国のレジスタンスを束ねる旧財閥系家門の総称であり、彼らは各地のレジスタンスへ兵器の物資支援を今まで行ってきた。
だが、今それは変わり、全ての兵器を黒の騎士団のみに支援している。
桐原の独断であった為に急な支援止めは混乱を招いたのだ。
キョウト六家が『共和国日本』へと避難を始めた理由は二つ。
混乱の火種はキョウト六家にまで届き、キョウトに留まれる状態では無くなった事が一つ。もう一つの理由はコーネリアをこのエリア11から引き離す事だ。
全てゼロの予想通りに、桐原はゼロの計画通りに動いただけ。
「しかし、本当に信用に値しますか?黒の騎士団は」
長身で大柄な茶髪の男、刑部辰則(おさかべ たつのり)は桐原にそんな疑問を投げ掛ける。
今向かうは正にその黒の騎士団のもとなのだが、それが本当に正しいのかと刑部は真義を確かめるように目を細める。
「既に物資支援までしているのだ。今更・・・」
「貴殿はゼロをいたく信用し過ぎではあるまいか?」
白髭を片手で撫でつけながら宗像唐斎(むなかた とうさい)も桐原に厳しい口調で言うが、桐原がそれに億劫になるわけでもなかった。
それはゼロの正体を知っているが故。
けれど、ゼロとのやり取りと違う事が一つあった。
ゼロがトウキョウに日本を立ち上げるまでは直接聞いたとおりだったが、新しい日本の名前は『合衆国日本』の予定であった。
何を考えて『共和国日本』となったのかは分からないが、それなりの理由があるのだろうと桐原は踏んでいるが・・・。
「確か、桐原公だけでしたな。ゼロと面識があるのは」
痩せた細身の男、公方院秀信(くぼういん ひでのぶ)はジロリと視線だけを桐原に向けた。
桐原も公方院をチラリと盗み見る程度に留め、溜息を吐く。
「動かなければブリタニアの支配からは逃れる事は出来まい。エリア11となったこの国で一番主力となっているのはゼロのみ。他に候補が居るとでも言うのなら、話を聞くが」
「なら、奇跡の藤堂ならばどうなのです?」
「奴はゼロの支配下に既に下っている。それこそ今更であろう」
のちのち続く年輩の言い合いに彼らの横に立つ十代前半だと思われる長い黒髪の少女は和服を着込み、何も言葉を発さずに、ただ前だけを見据えていた。
黒の騎士団と合流するその時だけをじっと見つめて。
カレンはアッシュフォード学園の制服に着替え、ナナリーの車椅子を押す。
その横をユーフェミアが歩き、三人揃ってゼロの私室へと向かっていた。
「ナナリーはともかく、あのルルーシュが皇女様だなんて信じられない」
カレンが呟けば、ユーフェミアは瞳を瞬かせる。
「そうですか?ルルーシュは昔から頭が良かったですし、私は勉強でも、ゲームでも、一度も勝った事がないんです」
「そうじゃなくて、何て言うか・・・懐が大きくないっていうか・・・」
「確かにお兄様は視野が狭いかもしれませんが、優しいですよ」
口ごもるカレンにナナリーは賛同しながらも、ちゃんとフォローを入れる。
心から言っている為、嫌味には聞こえない。
ルルーシュは近くにある者から守ろうとする傾向があり、カレンはゼロの行動や命令を思い返して、ナナリーの言葉に納得する。
「ねぇ、ナナリー。一つ聞いても良い?」
「何ですか?ユフィお姉様」
控えめなユーフェミアの言葉にナナリーは首を傾げながらも、先をどうぞと施した。
「勘違いだったら、ごめんなさい。もしかして、ナナリーはスザクの事・・・好きなのかしらって」
周りを気にして、自分達以外に誰も居ない事を確認したユーフェミアは声を潜めてナナリーに聞く。
それを間近に聞いたカレンは車椅子を押す手を止めてしまう。
ナナリーは車椅子が止まった事を気にせずに、口元に人差し指を当てて少し考える素振りを見せた。
「・・・そうですね、スザクさんの事は好きですよ。お兄様の次にですけど」
明るい声ながらも、眉を下げた微笑みは言葉よりも雄弁に語っていた。
もちろん、言葉も本当の気持ちである。
ナナリーと同じように、眉を下げて微笑んだユーフェミアはナナリーと視線を合わせる為にしゃがみ込み、内緒話をするようにナナリーの耳元に口を近づける。
「実は私もスザクに振られてしまったんです」
「え?」
ユーフェミアはナナリーの耳元から離れ、彼女の栗色の髪を撫でる。
「失恋しちゃいました」
「私も、ですね」
困ったように笑ったユーフェミアの言葉に、ナナリーも自分もだと微笑んだ。
二人が願うのはルルーシュの幸せとスザクの幸せだから。
そんなナナリーとユーフェミアの姿にカレンはただただ、目を丸くするはがりだ。
そこから何故か話はカレンの初恋は誰なのかという話に流れ、カレンは顔を赤くしてナナリーの車椅子を早足で押した。
ユーフェミアは慌てて二人を追いかける。
僅かに言い争いながらも、並んで三人の少女達はゼロの私室へと確実に近づいていく。
けれど、目的の場所に辿り着く前に、ゼロの私室の前に立っている人物にカレンが眉を潜めて声を掛けた。
「何やってるのよ、玉城」
玉城が不審者同様の行動、ゼロの私室の前を右から左、左から右へと繰り返しウロウロしていた為にカレンは据わった視線を送る。
「うげっ、カ、カレンかッ、何だよ、ビックリさせやがって」
「何だとは何よ。あんたが不審者面してるからでしょ」
「そんな面構え俺はしてねぇ!」
「はいはい。ちょっとそこ退いて」
「ッ、今馬鹿にしただろ、俺の事!」
カレンは無言に通り過ぎ、冷たい目で玉城を振り返った。
「今度は何の賭事よ」
「!?」
ギクリと首を捻った玉城にカレンは盛大な溜息を送る。
後輩への飲み食いの金遣いの荒さに、遊びの賭事、等々。
呆れて言葉を掛ける事さえ面倒臭いが、カレンは律儀に答えを求める。
「で、負けたあんたは何しにゼロの部屋の前をウロウロしてたわけ?」
「べ、別に」
しかし、玉城はチラチラとナナリーへと視線を向けたり、目を泳がせたりしており、それだけで答えは明白であった。
ナナリーについて聞きに来たのだろうと、カレンが口を開くが、その前に私服姿のルルーシュが私室から出てくるのが早かった。
ルルーシュはナナリーの姿を見つけるとふわりと笑った。
それにカレンと玉城は目が離せない。
「おはよう、ナナリー。迎えに行こうと思ってたんだけど、先を越されたな」
「おはよう御座います、お兄様。あら?スザクさんはどうしたんですか?」
ルルーシュとスザクが同室だとカレンから聞いていたナナリーはもう一人の声が聞こえない事に不思議そうに首を傾げて見せた。
「あ・・・あぁ、もうすぐ来るんじゃないか?」
歯切れの悪い答えにナナリーは疑問符を浮かべ、視線を彷徨わせたルルーシュに他の者も首を傾げた。
そこでゼロの私室の扉が再び開き、軍服姿のスザクが姿を見せた。
微妙な空気をスザクは不思議に感じながらも、ルルーシュと同じようにナナリーの姿に微笑み掛けた。
「おはよう、ナナリー。やっぱりナナリーの方が早かったなぁ」
「おはよう御座います、スザクさん。やっぱりってどういうことですか?」
「ああ、うん。僕がルルーシュを足止めしちゃったみたいで」
「足止め、ですか?」
「うん。僕がルルーシュを抱き枕代わりにしてたからルルーシュ動けなかったんだよ」
ね?と問い掛けるようにスザクはルルーシュを振り返る。
振り返られたルルーシュは眉を潜めた表情をスザクに返し、その顔は『体力馬鹿』と言っていた。
ルルーシュが何を言いたいのか理解したスザクは苦みの無い苦笑を表した。
ルルーシュとスザクのやり取りにナナリー、ユーフェミア、カレンの三人は顔を見合わせて笑い、玉城は目をぱちくりさせた。
ルルーシュがナナリー達の反応に居心地を悪そうにした所で、彼女は玉城の存在に気付き、目を向けた。
「玉城、お前は格納庫で無頼の機能チェックの時間のはずだが」
一瞬にしてゼロの威圧を放ったルルーシュに玉城は声無くしどろもどろになるばかり。
それを見かねたカレンが呆れた様子ながらもルルーシュに説明を始める。
「何人かの団員がナナリーの事が気になって、賭けで負けた玉城がゼロにナナリーの事を聞きに来たんです」
何も話していないのに、カレンの言葉が的確すぎて玉城はただカレンの言葉に同意を示すように首を縦に振った。
「そうか・・・この子は俺の妹だ。別に隠す必要は無いからな、他の奴らが待っているなら言いに行くがいいさ。それと、自分の持ち場は余り離れるなよ」
「お、おう!」
貰えないかもしれないと思っていた答えを得られ、玉城は直ぐさま来た道を走り戻って行った。
元気の良い足音にカレンは呆れたような顔を残す。
玉城を何となく見送り終わったカレンは再びルルーシュとナナリーに視線を戻した。
ルルーシュがナナリーに向けるものをカレンは自分の兄のナオトと無意識に重ねた。
懐かしいと同時に羨ましいのだと自覚しては二度と届かないものなのだとも理解している。
ルルーシュがゼロの衣装を身に纏っていないのもナナリーの為だ。
この中から出る事は無くても、ナナリーの前だけではせめてもの自分を。
ゼロでは無く、ありのままで。
◆後書き◆
神楽耶さん初登場!
そろそろシュナイゼルさんとネリお姉様も動かしていかないと時間軸が噛み合わない所へ・・・。
キョウト六家の皆さんの口調は捏造です(汗)。
更新日:2007/05/25
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