◆REMOTE CONTROL story23◆









潜水艦内の格納庫は騒然としていた。
ブリタニアの軍人だと思われる女を一人とサザーランドを抱えたランスロットも原因の一つだが、最大の原因はガウェインから降りたゼロは一人の少女を抱きかかえていた。

少女は若草色のワンピースを着ており、薄い栗色の髪は緩やかな曲線を描いたウェーブ。
閉じられた瞼で瞳の色は分からなかった。

その少女をゼロはゆっくりと優しく車椅子に下ろす。
ゼロは仮面とマスクを外して、車椅子の少女と視線を近くするためにしゃがみ込む。

「ナナリー、少し待っててくれ」

「はい」

ナナリーはルルーシュの声を頼りに、ルルーシュへと顔を向けて返事を返した。
ルルーシュは一度微笑み、ナナリーから視線を外してランスロットに捉えられた軍人へ向ける。

その表情は一瞬で無情と化した。
ルルーシュはゼロへと戻る為に漆黒のマスクと仮面をもう一度装着する。
ランスロットへ歩み寄るゼロは真っ直ぐにヴィレッタに向かっていた。

既にスザクはランスロットから降り、サザーランドの凹みのあるコクピットブロックに手を掛けた。
サザーランドは機能停止している為、内部からも外部からもハッチを開けることが出来ないのでスザクは素手で強制的にこじ開けようとしている。
それを尻目にゼロはヴィレッタの目前に立つ。

ゼロはヴィレッタに向かって銃を持ち、それをヴィレッタは無表情で受け止めている。
その場に居た者は殺すのか、と息を飲んだ。

「ルルーシュ!」

だが、それをスザクが咎めるように声を放った。
無惨なサザーランドのコクピットブロックの上部に立つスザクをゼロは一瞥してから小さな溜息を仮面の奥でくぐもらせた。

銃を仕舞ったゼロにヴィレッタは片眉を跳ね上げた。
スザクの言葉にゼロが従ったのかと、疑問が浮かび、沈む。

「殺した方が手っ取り早いんだがな。如何せん、彼奴には此方の都合を狂わされる」

「・・・・・・」

「今逃げられても、また同じ事を繰り返されそうだしな。捕虜として扱わせてもらう」

「敵のアジトで歯向かう程馬鹿ではないさ」

「良い返事だ。・・・では、君達二人の待遇に関しては副司令に一任する」

ゼロが振り返った先に自然と周りの者の視線も集中し、扇は呆気に取られたような顔を晒してしまった。
自分を指さす扇に玉城はご愁傷様だと背中をバンバン叩いて、嬉しくもない洗礼を送った。

扇の姿に、自分が彼の世話になるのかと、ヴィレッタは口を引き結んだ。
ある意味、逆戻りの生活となってしまったようだ。

そして、サザーランドのコクピットのハッチを無理矢理こじ開ける事に成功したスザクは中からジェレミアを引きずり出し終えていた。
気絶しているジェレミアは救護班によって潜水艦内の治療室へと運ばれた。
傷も深いものは無く、日本の医療技術のみで充分に完治出来ると判断した為だ。
アヴァロンでなくとも大丈夫であろう。


ゼロはナナリーのもとに戻り、仮面を外す。

「明日の朝にはクラブハウスに戻れるよ、ナナリー」

「お兄様は・・・」

「ごめん。着いてはいけないから、見送りだけ」

「・・・そうですか」

せめてもう少し長く一緒に居たいと願うも、ナナリーは少し寂しそうに笑って納得した。
ルルーシュは辺りを見回してカレンを探し当てると、彼女を呼んだ。

「カレン」

「はい」

カレンは黒の騎士団の制服を身に纏い、赤髪を跳ねさせてルルーシュとナナリーのもとに歩んでいく。

「お前の部屋はまだ人が泊まれるよな」

「C.C.がまだ居座ってるけど、ベットはたっぷり開いてる」

「今日だけナナリーを頼めるか?出来れば明日、学園に送り届けて欲しいんだが」

カレンはナナリーに視線を送り、溜息を吐く。
それにルルーシュは眉を下げ、カレンは苦笑した。

「駄目なんて言ってないじゃない。良いわよ」

「すまない・・・」

「謝ったらナナリーに失礼だよ」

後ろから声を掛けられ、振り返ればスザクが苦笑している。
それにルルーシュも苦笑を返し、ナナリーを愛おしむようにその柔らかな薄い栗色の頭を撫でる。

「・・・そうか・・・・・・そうだな」

周りの視線は既に扇からナナリーへと移っており、それから逃れるようにカレンが先頭をきって部屋へと歩き出したので、ルルーシュは車椅子のキャスターを下ろしてカレンの後に続き、スザクも彼女らを追った。
それでも通路を歩く四人にすれ違う者はナナリーに首を傾げて誰だろうかという視線を注いでくる。

だが、もう一つルルーシュは気になった。
スザクを見た者が皆、一様に身を強張らせたり、一礼していく。

今のスザクはブリタニアの軍服を着ている。
その格好のままルルーシュとナナリーを助けに来たのも些か引っかかっていた。
何故、パイロットスーツでは無いのかと。

それが表に出ていたのか、ルルーシュを振り返ったカレンはこう言った。

「彼、あんたの居場所を教えろって凄い剣幕だったから」

ルルーシュはその言葉に立ち止まって首を傾げ、ゆっくりと後ろのスザクを振り返った。
だが、彼も首を傾げてはどう返したら良いか分からない。
カレンはその場に居た為、事情を説明した。







ルルーシュが姿を消してからスザクは直ぐに軍服に着替え、最初はアヴァロンから直接潜水艦へと連絡を取ろうとしたが、ロイドの姿が見当たらなかった為に、アヴァロンの格納庫に収容されたランスロットに乗り込み、そこから潜水艦へと連絡を取ったらしい。
その時に扇が対応し、近くにいたカレンも二人の通信内容を聞いていたのだ。
周りには数十人の黒の騎士団員が作業をしていたので、彼らも掻い摘んで話を聞いていた。

通信画面に映ったスザクの姿に扇は疑問半分に画面を見つめる。
画面に映る場所はコクピットの中のようだ。

「枢木君?」

スザクが直接潜水艦に連絡を入れるとは予想していなかった扇は戸惑いながらも応答した。

「ルルーシュは何処ですか」

「ゼロは・・・その」

「何処ですか」

スザクの瞳は据わり始める。

「いや、我々は待機を命じられているから」

「そんな事は関係ないッ、ルルーシュは今何処に居るんだ!」

大声で叫んだスザクに視線が一気に集中した。

「しかし、ゼロの命令なら君にも拒否権は無いだろう」

「俺に直接言ったわけじゃない!手遅れになったらどうするんだ!!」

スザクには嫌な予感がしていた。
今此処で動かなければならないのだと、背中を押される。
そして、スザクの剣幕に扇は腰が引けてしまっていた。

「早く教えッ・・・っ・・・」

そこでスザクの異変に扇は顔色を変えた。
スザクの傷はまだ完治していない。

傷が開いたわけでは無いが、痛みにスザクを顔を歪ませる。
だが、その痛みがスザクを突き動かしているようであった。

「早く教えろと言っているんだッ!!!」

鋭い目つきは、さも敵を見ているかのようであった。
根負けした扇は保存していたルルーシュとヴィレッタの通信内容をランスロットへと送信する。

「分かった。今、そっちに情報を送信した。俺も何処にいるかまでは分からない。それだけが頼りだ」

スザクは転送された事を知らせる文字に視線を走らせる。

「有り難う御座います」

一方的に通信は切られ、扇は張り詰めていたものが解けたのか、崩れるように椅子にもたれ掛かった。







その場にいた者が噂話でもしたのだろう。
スザクに向けられる反応の数はその場にいた者達よりも多い。

学園でもあんな顔を見たことがなかったカレンはスザクに対しての印象が少なからず変わっていた。
ちぐはぐしている部分もあれば、辻褄の合っているような部分もある。
それが顔に出ないだけ、カレンは自分も成長したものだと他人事のように感慨深く思考を飛ばした。

一通りの事情を聞き終えたルルーシュは溜息を一つ漏らしただけで、立ち止まっていた足を動かし始めた。

「相変わらず自分勝手な奴だ」

けれど、数歩歩いたところでルルーシュはそんな一言を呟く。
だがそれが微笑み混じりなのをナナリーは感じていた。

「お兄様の事が心配なんですよ、スザクさんは」

ナナリーが小鳥のように笑えば、ルルーシュは唇を引き結んで、伏せ目がちになる。

「あら?ナナリー?」

ふと顔を上げれば、総督府に居るはずのユーフェミアがそこに居た。

「ユフィ、俺はあの場を任せたはずだが」

ルルーシュが呆れたように言い放ち、ユーフェミアは目をぱちくりさせて首を可愛らしく傾げる。

「お気に入りの寝間着をカレンの部屋に忘れてきてしまったんです」

「だから・・・取りに帰ってきたと」

「ええ」

もう少し念入りに釘を差しておくべきだったと、ルルーシュは言葉無く項垂れる。

「ユフィお姉様?」

ユーフェミアの声にナナリーは億劫になりそうな声で義母姉を探す。

「ナナリー、久しぶりね。私は此処にいますよ」

ユーフェミアはナナリーの前に来ると、しゃがみ込み、ナナリーの両手を自分の両手で包み込む。
すっぽりとまではいかないが、包まれた両手は小さく、ほんのりと温まっていく。

「会いたかった・・・ナナリー」

ユーフェミアはナナリーの背に両手を回し、ぎゅっと抱き締める。
いつの間にか失ってしまった温もりを再び抱き締めることが出来、ユーフェミアはまた泣いてしまわないように硬く瞳を閉じた。
それでも一筋だけ、涙が流れた。

「・・・ユフィお姉様」

ナナリーもユーフェミアに答えるように抱き締め返した。
目の見えないナナリーにとって、視覚以外の接触が何よりも嬉しくて。

けれど、そんな平和な姿にカレンだけが着いていけずにルルーシュの腕を取ってどういう事だと視線を送る。

「皇女とナナリーが姉妹ってことは・・・」

「ユフィは俺の妹だ。腹違いのな」

目を見開いたカレンにルルーシュは陰った笑いを返した。
ブリタニアに反逆しているのは紛れもなく、その皇帝の子供なのだと。




























◆後書き◆

ちょっとだけ俺スザク登場。
オレンジのポジション考え中です。

そろそろキョウト六家が出てくるはず。


更新日:2007/05/19








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