◆REMOTE CONTROL story22◆
倉庫が立て続けに組み立てられている空間に続く滑走路にガウェインは降り立つ。
ガウェインの巨体は少々動きにくそうだと判断したゼロは地上に降りる。
レーダーに敵機が引っかからなかった上での行動だが、いつもなら羅列する程の確率・選択・項目も考えられなかった。
ナナリーを守ってやれるのは自分しかいない。
誰もあてにならない。
スザクが脳裏を過ぎるが、頭を振ることで散らす。彼はまだ万全では無い。
自分だけでナナリーを助け出してみせる。
自信家故の行動だったのかもしれない。
だからだろう、影に潜んでいる起動スイッチの入っていないサザーランドに気付けなかった。
『6−B』と黒のペンキでゴシック体で書かれたシャッターの壁に手持ちライトの明かりを向け、ゼロは見上げる。
「6−B倉庫だったな」
シャッターは手動では開かない為、右にある小さな灰色の扉のドアノブを回す。
カチャリと障害無く、いとも簡単に開け放たれる扉は錆び付いた音を僅かに響かせてゼロを迎え入れた。
暗闇の奥へ進めば、窓から明かりの漏れている場所に繋がる扉があり、パネル式の解除装置を開き、難解であろうパスワードを簡潔に導き出していく。
解除された扉は自動で右へスライドした。
第一関門突破。
いや、始まりだろうな、とゼロは拳を固く握りしめる。
鉄の棒や木の棒、建築用の倉庫らしいその奥にナナリーの姿を見つける。
「ナッ・・・」
駄目だ。
仮面からの声はルルーシュではないから。
知られてはいけない。
ゆっくりとナナリーへと足を進める。
足音にナナリーが顔を上げ、ゼロを真っ直ぐに受け止めた。
「お兄様?」
「私はゼロだ。君を助けに来た。軍人の女が居るはずだが、何処に居るか知っているか?」
「・・・・・・」
「どうした?」
「・・・げて」
「え?」
「逃げてッお兄様!!」
直後、壁を突き破る爆音がゼロの背後で起こる。
だが、ナナリーがルルーシュとゼロが同一人物だと確信している事実にゼロは戸惑い、動けなかった。
迫り来るのはサザーランドだ。
ゼロは踏鞴を踏むが、ナナリーを守らなければと彼女の車椅子へと手を伸ばす。
けれど、届かずにサザーランドの手にゼロは掴み上げられた。
真正面からサザーランドの顔面、ファクトスフィアがゼロを捉え、サザーランドの搭乗者は口角を吊り上げた。
「お兄様ッ!?」
ナナリーは不安に、恐怖に声を震わせながらも、ルルーシュの無事を確認しようとする。
「ジェレミア卿、まだ殺してはいけませんよ」
ヴィレッタが血の付いた軍服を身に纏ったまま、銃口をナナリーに向けてサザーランドへと声を放つ。
『分かっている・・・ッ、分かってはいるが』
忌々しいとばかりにジェレミアはコクピットの画面からゼロを睨み付ける。
オレンジ事件を思い出す度にこの仮面がちらつき、苛立たせた。
だが、思い留まらなければならなかった。
ゼロを捕獲し、その悪行の数々をゼロ自身から洗いざらい吐かせるまではジェレミアの汚名は雪げないからだ。
殺してしまえば、証拠は無いも同然だろう。
「あの時のオレンジ君か」
頭が冴えてきたゼロはヴィレッタとジェレミアの会話に有る程度の状況把握を終えていた。
なら、ナナリーを助けるのに最善の方法は自分が死ぬことか。
手っ取り早く相手のトラウマを刺激する。
『!?オ、オ、オレンジだとぉお!!!』
サザーランドが両手でゼロを掴み上げる。
「ぐッ」
「ジェレミア卿!」
咎めるヴィレッタの声にジェレミアは耳を貸さず、ゼロを放り投げた。
目を閉じた。
視界は闇に囚われ、ゆっくりと時間が過ぎているような感覚が身体中を覆った。
サザーランドのスラッシュハーケンがゼロに迫り、宙に散った。
背に硬い感触が当たり、痛みに瞼を上げた世界は白と金色。
それにエメラルドの輝きだった。
赤い羽根を羽ばたかせる白のナイトメアフレームは入り口から倉庫内部の天井裏に二基のスラッシュハーケンを突き刺し、ワイヤーを巻き上げることで天井近くへ飛ぶ。
スラッシュハーケンを収納後、二回半横回転しながら地上に足を付き、その後も地上で三回転。
ナイトメアフレームはゼロをその手に受け止め、左手に持つメーザーバイブレーションソードでサザーランドのスラッシュハーケン二基のワイヤーを引き千切る。
そして剣を投げ捨ててサザーランドへと体当たりをかました。
サザーランドは吹き飛ばされ、鉄の柱の束に飲み込また。
地鳴りのような音を響かせて鉄の柱が倒れ、サザーランドの各部が鉄に凹まされる。
「ジェレミア卿!?」
ヴィレッタがジェレミアの安否を確認しようとサザーランドへ走り寄ろうとするが、その前に白のナイトメアフレーム、ランスロットが立ちはだかる。
「枢木・・・スザクか?」
『はい』
「何故、黒の騎士団の手助けをしている」
『黒の騎士団の手助けではありません。ゼロを助けに来ました』
どういう事だと、ヴィレッタは眉を潜めた。
ユーフェミアが黒の騎士団に亡命したのは知っているが、短い間とはいえ、スザクはユーフェミアの騎士をしていた。
主の後を追ったのなら、彼の意思は主張されないはず。
ゼロを助けに来たというのならば、それはスザクの意志となる。
「まぁいい。ゼロを寄越せ、枢木スザク」
しかし、ヴィレッタにとってはどうでもいい事だった。
銃口をナナリーに向け、ヴィレッタはランスロットを見上げる。
『僕の手元にゼロはいませんよ』
ランスロットは膝を折り、両手を下へと向ける。
確かにその手にゼロが居たはずなのに。
そこでハッと、ヴィレッタはナナリーへと視線を戻せば、ヴィレッタに銃口が向けられていた。
「挟み撃ちでは勝ち目はあるまい」
ゼロの声にヴィレッタはゼロとランスロットを交互に一度確認した後、舌打ちと共に銃を放り投げた。
大人しく両手を上げる。
ヴィレッタはランスロットの手の上に乗せられ、ジェレミアが乗っている拉(ひしゃ)げたサザーランドはランスロットの左脇に抱え上げられた。
ゼロはナナリーの縄を解き、車椅子をガウェインの手に、ナナリーと共にコクピットに乗り込む。
ゼロが前部座席、ナナリーが後部座席だ。
ゼロは仮面を外して後ろを振り返る。
「危ないから触ったら駄目だよ、ナナリー」
「・・・・・・ごめんなさい」
「ナナリー?」
何故謝るのかと、ルルーシュは不思議そうに首を傾げる。
「お兄様を危ない目に会わせてしまいました」
「ナナリーのせいじゃないよ。元々の狙いは俺なんだ、謝らなくちゃいけないのは俺の方だから」
俯きがちのナナリーの顔は悲しそうに影を作った。
安心させるように柔らかいルルーシュの声色にも、ナナリーは首を横に振る。
「お兄様がゼロになったのは・・・私のためですよね」
「それは・・・」
「私のことを思ってくれるのは嬉しいです。でも、私はお兄様と一緒に暮らせるだけで幸せなんです」
それが難しいことでも。
でも、世界を変えるよりは簡単であると思う。
「ナナリー、もう後戻り出来ないんだ」
ルルーシュは前を向いてガウェインを起動させ、言う。
「絶対に、世界を変えてみせるから。待ってて欲しい」
ナナリーはぎゅっと唇を引き結び、ゆっくりと解いて息を吸った。
ルルーシュの考えは変わらない。
なら、信じよう。
待っていることが姉の力になるというのならば。
「分かりました。待ってます」
「ナナリー?」
直ぐに了解の言葉を返したナナリーをルルーシュは振り返る。
本当に良いのかと。
「その代わりなんですけど」
「その代わり?」
「帰ってきたら、いっぱい甘えさせてくださいね」
ことりと首を傾げながら楽しげに微笑んだナナリーにルルーシュは目を丸くして、次には優しく微笑んだ。
「はいはい」
「『はい』は一回です」
「はい」
ルルーシュの隣にはスザクが居る。
それが一番、ナナリーには安心出来る理由だった。
自分の恋が実らなくても。
姉が幸せであれば、それ以外はいらないから。
幸せな未来を待っています。
◆後書き◆
ヴィレッタとオレンジお持ち帰りです。
ナナリーたんは一時的にお持ち帰り。
枢木さん、ルル様のピンチを嗅ぎつける!!
そこら辺の理由は次に書けるか、削るか・・・。
更新日:2007/05/13
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