◆REMOTE CONTROL story21◆









ゼロは手持ち無沙汰にアヴァロンの治療室に逆戻りしていた。
それもこれも、皆がゼロの仕事を奪ってしまったからだった。

PCを開けば、奪い取られる。
ナイトメアフレームの各武装のチェックも部下が自分がやりますと横取りされる。
各地のテロ活動の情報収集も大勢でやった方が効率が良いと、集団に取られる。

することが無い。

疲れてはいるが多少の仮眠は取ったうえで眠くもなく、気が付けばスザクが眠っている治療室の前。
いや、気が付けばと言うのは違う。

片手にはスザクへの見舞いの品がぶら下がっている。
あからさまに見舞いに来ているではないか。

「林檎で良いよな・・・」

そうして自動で開かれた扉を潜れば、上体を起こしているスザクに呆れた溜息を漏らした。

「相変わらずの体力馬鹿だな」

「・・・馬鹿は非道いよ、ルルーシュ」

「ふん。にしても、怪我人を一人残しておくとはな」

呼び出しブザーなんてものが無い部屋に怪我人一人。

「みんな忙しいんじゃない?君は良いの?」

「追い出された」

ぽつん、とそんな一言を漏らせば、スザクは肩を震わせて声を抑えていた。
それにルルーシュは仮面の奥で口をへの字に曲げる。

気を取り直して仮面とマスクを外し、ルルーシュはスザクのベットの横の机にそれを置き、椅子をその横まで移動させて腰を下ろす。

「林檎、食べれるか?」

「あ、うん」

「少し待ってろ」

ルルーシュは紙袋から小さなまな板と果物ナイフと林檎を一つ取り出した。
いきなり林檎を十字に切り裂いたルルーシュにスザクは疑問符を浮かべる。
そして、静かにそれを眺め続けていると、差し出された林檎の一切れは、うさぎの真っ赤な耳が生えていた。

「うさぎ・・・」

「あ・・・すまない、つい。ナナリーが喜ぶから」

視界が閉ざされた少女にとって、うさぎの耳が生えた林檎は触覚で捉えられる楽しいものであったのであろう。
だから、皮を剥かなかったのかと、スザクから疑問が消えた。

「ううん。嬉しいよ」

「?」

男のくせに変な奴だと、ルルーシュは首を傾げるが自分もまたうさぎの耳が生えている林檎を一切れ手に取り、スザクが一口口に含むのを見送ってから、自分も口に含む。
シャリ、と瑞々しい音が響き、甘酸っぱい味が舌の上を転がった。






















放課後の生徒会室へと気分良く鼻歌を奏でながらミレイは向かい、ドアを開け放てば、今日の主役はまだ不在のようだ。

「あれ?ナナリーは?シャーリー」

今日はナナリー主催の千羽鶴を作ろう企画の当日であるはずだとミレイは近くに座っていたシャーリーへと視線を送り、問い掛けた。

「まだですよ?それにしても、ナナちゃん主催の企画なのにどうしてルルーシュが来ないんだか」

むすっとしたシャーリーの表情にミレイはまだ他人ゴッコ中なのかと肩を竦める。
早く「ルル」と呼んで欲しいものだ。

「てか、会長、こんな時に祭りって・・・」

「リヴァル、こんな時だからこそよ」

黒の騎士団が掲げた【共和国日本】はトウキョウに住むブリタニア人に恐怖を与えたが、今こうして、昨日と同じように平穏な日常を過ごしているのはユーフェミアのおかげであった。
ユーフェミアは慈悲の皇女であり、彼女の言葉は民衆に圧倒的な支持率を持つ。


『お聞きなさい。そして、ご安心下さい。【共和国日本】はブリタニア人を拒みません。日本人もブリタニア人も名誉ブリタニア人も皆、平等であり、差別をしてはなりません。慌てないで下さい。日常が変わるわけではありません。いつものようにお過ごしなさい。そして、私は今此処に、黒の騎士団に亡命したことを宣言致します』


迷いのない瞳だった。
そして、微笑みを浮かべたユーフェミアに民衆は腰を抜かす程に安堵した。

ただ、彼女がどうして黒の騎士団に亡命したのかは分からず、今日も学園内の生徒や教師の会話からゼロに言いくるめられたのではないかとの噂を口にするものも少なからずいる。

それでも、人々は皆、いつものように日常を過ごした。
何も変わっていないんだと、思う。

「ちょっと、見てくるわね」

そう一言言い置いて、ミレイは生徒会室を後にする。
部屋の中はニーナがPCのキーボードを打つ音だけが響いた。












同じクラブハウス内の生徒会室からナナリーが居るであろうリビングへ足を運べば、ドアが開け放たれており、ミレイはそれを視界に入れた直後、嫌な胸騒ぎを感じて、知らず早足になる。

「ナナ・・・ッ、咲世子さん!?」

倒れ伏している咲世子にミレイは駆け寄る。
抱き起こせば、咲世子は痛みに顔を歪めながらも、確かにミレイを視認する。

「ミレイ、様・・・ナナリー様、が・・・」

「誰がこんな事を!」

「おそら、く、軍人、の方だと・・・」

「分かった。早く病院へ」

「すみま、せん・・・守れなく・・・・・・」

「良いわよ!貴女は良く頑張ったから!・・・不甲斐ないのは・・・私なんだから」

ごめんね、ルルーシュ。
約束・・・破っちゃって。
連絡を入れる事しか出来ない自分を・・・許してだなんて言わない。

『ミレイ?』

涙が流れた。

携帯の向こうの声はこちらを心配している声だった。

『ごめん。ごめんなさい、ルルーシュ。ナナリーが』






















苦い顔をして携帯の通話を切ったルルーシュをスザクは怪訝そうに見つめた。

「ナナリー・・・って、聞こえたけど・・・」

内容までは聞き取れなかったが、何度も「ナナリー」と通話の中聞こえた。
ルルーシュの手も震えている。

ナナリーに何かあったのは明白だった。

「ナナリーが誘拐された・・・」

「え?」

「情報が足りない。女の軍人が連れ去ったとしか・・・調べて来る」

「僕も・・・」

「お前はまだ休んでいろ。その怪我じゃ足手まといだ」

ベットから降りようとしたスザクは傷が痛み、声無く身体を震わせる。
ルルーシュは冷たい言葉ながらも、そっとスザクをベットに寝かせた。

「ルルーシュ?」

「お前にまで何かあったら、俺が堪えられない」

「・・・そっか」

「そうだ」

スザクをそのままに、治療室からルルーシュは出てガウェインに乗り込んだ。
C.C.は居ない。

おそらく今、C.C.はカレンの部屋に滞在中だろう。
彼女は潜水艦内のカレンの部屋に住み着いたらしい。
彼女いわく、『当て馬は御免だ』とのことらしく、ルルーシュの部屋を出て行った。

C.C.と入れ替わりにスザクがルルーシュの自室に滞在という形になった。
それに関しても黒の騎士団内で一悶着あったのは言うまでもない。

ガウェインに通信が入り、ルルーシュは疑問に思いながらも仮面を装着した後に回線を開いた。

『どうした、扇』

画面に映った男に対し、ゼロは何か問題でも発生したのかと問う。
問われた扇の方は口ごもった後に意を決して言葉を繋いだ。

『君に通信が入ってるんだ。今、映像を切り替える』

ゼロの了承も得ない扇に疑問は残るが、突然切り替わった画面の中に息を飲み、小さな画面に映し出されたナナリーの姿に手を固く握りしめた。

『取引だ。ゼロ』

ナナリーを隠すように前に現れたのは女の軍人であった。
銀の髪がさらりと揺れ落ちた。

『取引?』

『そうだ。この少女を賭けた、な』

『その子を人質にしてどうする?ただの民間人だ。私に何の特がある?』

『良いのか?この少女はお前の妹だろう?』

『ッ』

バレている。
外れて欲しいと鎌を掛けたが、現実はそうもいかない。

『取引の内容は貴様が此方に来てからにしようか。この映像が切れた最後に場所のコードが表示される。そこに貴様一人で来い』

『良いだろう』

軽率過ぎる判断だった。
最愛のナナリーを前に冷静な判断など出来なかったのだ。

もう一度画面が切り替わり、扇にゼロは待機していろと命じた。






















後はジェレミアだけだが、と。
ヴィレッタはサザーランドを見上げる。

憤怒のごとく怒り狂っていたジェレミアを取り押さえるのにヴィレッタはかなりの労力を費やした。

何とか事情や、ゼロを誘き出す罠の説明を聞かせたが、ゼロが【共和国日本】を掲げた映像を見た直後のジェレミアは凶器そのものだった。
怒りのままにゼロに襲いかかりそうな勢いであったことが、ヴィレッタには不安であった。

別にゼロがどうなろうと構わないのだが、ゼロの正体を明かして、軍へ汚名を雪(すす)ぐには死体は余りいただけないだろう。
サザーランドからジェレミアの表情が見えないのは幸か不幸か、ヴィレッタには判断が出来ない。

「あの、何故こんなことを?」

ヴィレッタは車椅子ごと縄で縛られたナナリーを振り返り、表情も声にも張りを表さずに、淡々とした軍人的な言動でヴィレッタはナナリーの疑問に答える。

「ゼロの首は私達に価値がある。それだけだ」

「本当に・・・お兄様がゼロ、なのですか?」

眉を潜めたナナリーに可哀相にな、とヴィレッタは頭の片隅で思う。
同情する気は全く無いので、心の中で可哀相などとは思わないが。

「信じられないか?」

「・・・いえ」

おや、とヴィレッタは僅かに目を見開いた。
ゼロが自分の兄だと否定していないその言葉に僅かに驚く。

「お兄様がなかなか帰ってこなくなったのも、ゼロがニュースに取り上げられた時とほぼ同時でしたから」

「なかなか鋭いじゃないか」

目も足も不自由な少女にしては敏感だと、ヴィレッタは思う。

「貴女はお兄様を傷つけるのですか?」

「もちろん」

ナナリーは一度言葉を飲み込んだ後、気丈に言葉を放った。

「お兄様を傷つける方は私が許しません!」

ヴィレッタは一度大きく目を見開くが、次の瞬間には嘲笑った。
それにナナリーは自分が無力であることを思い知らされて、固く口を閉ざした。




























◆後書き◆

オレンジいつの間にか帰ってきました。

シャーリーはギアスで記憶無くなってます。
あのキスシーンは無かったことになりますかねー、REMOTEでは。
ルル様に抱きついた瞬間に何か柔らかいものがー・・・。
シャーリー(あれ?何か・・・あれ?あれ?胸がなんだか・・・柔らかいこの感触は)
ルルーシュ(しまったップロテクターしてない!)


更新日:2007/05/05








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