◆REMOTE CONTROL story2◆









潜水艦内の自室に戻り、ゼロは仮面を外す。
閉まった扉に背を預け、深い溜息を吐き出したルルーシュは疲れた顔で口元に笑みを浮かべる。

「今更、どうしようも無いな・・・」

過去に受けた傷も。
性別も。
素顔を知られた事も。
ギアスの力も。
決意も何もかも。




コツコツ




背を預ける扉からノックの音と振動が伝わり、ルルーシュは仮面を装着する。

「何だ?」

扉から背を放し、扉に身体を向ける。
しかし、何の返事も返って来ず、もう一度問い掛ける為に口を開いた。

「おい、何の用だ?」

少し苛立ちが含まれた声色に扉の向こうの主は息を飲み、口を開いた。

「次の順路を聞きに来たんです」

その言葉に次は何処に向かうか言っていなかったな、とゼロは思案する。
直ぐにシュナイゼルを追いたいところだが、今は危険過ぎる。
あの戦艦の威力を把握する必要があるからだ。
話し合う必要があるな、と各隊長を集める為に扉を開くが、ゼロは背中を床に叩き付けられた。

「ック・・・何を!?」

起き上がろうとした身体は男に馬乗りにされたことで再び床に背を打ちつける形になった。
両手、両足を押さえ付けられる感覚に虫酸が走り、暴れようとするが、力の劣っているゼロの抗いは無に等しかった。

「貴様らッ」

四人の男は皆、黒の騎士団に入隊したばかりの者達だ。
ゼロのカリスマ性もまだ自分達に必要なモノだと理解していない。

馬乗りになっている男がゼロの仮面に手をつける。
その手から逃れようとしても、ゼロの抵抗も虚しく、仮面は簡単に剥ぎ取られた。
マスクも下ろされ、露わになった素顔に息を飲む男達に鳥肌がたつ。

「結構上玉じゃん」

「さっきは遠目からだったけど、当たりだなッ」

言葉一つ一つを取ってもルルーシュにとっては心地良いもののはずが無く、ルルーシュは馬乗りになっている男を睨み付ける。

「貴様ら、何のつもりだッ」

忌々しげな口振りも今の男達にとっては高ぶる以外の何ものでも無かった。

「こんなムサ苦しい団体に居ちゃあ、溜まる一方だろ?」

「黒の騎士団に入る女なんてみーんな怪力だしな」

「ゼロがこんな細いお嬢ちゃんだなんてなぁ」

「楽しくヤろうぜ?」

一方的な言葉の羅列にルルーシュは男達を鋭く睨み付ける。
顔もろくに覚えていない男達に組み敷かれる筋合いなど無いのだから。

「このゲス野郎がッ」

「口が悪いな、つまらなくなるけどアレ出してくれ」

「ま、しょうがないか」

ルルーシュの足を押さえていた男は片手でルルーシュの両足を押さえつけ、ポケットから小型のスプレーを手渡し、受け取った男はそれをルルーシュの顔に吹き付けた。

「なッ・・・」

文句も罵倒も言うことも出来ずにルルーシュの視界は暗転した。
夢も何も無い虚空に飲み込まれる。






















戦艦、アヴァロンの一室で、副総督の服を身に纏うユーフェミアにスザクは頭を下げた。

「自分は貴女の騎士には相応しくありません」

騎士の証であるブローチをスザクはユーフェミアに返す。
それをユーフェミアは困った笑顔で受け取った。

「重みでしたか?」

「いえ、自分には勿体無くて」

「そんな事は」

「あ、その、勿体無いも違い・・・ますね」

視線を落としたスザクにユーフェミアは首を傾げた。
意を決したように強い瞳がユーフェミアを射抜き、ユーフェミアは次の言葉を待つ。

「自分には守るべき人が出来ました。ずっと前から」

その言葉にユーフェミアは自分の胸が痛むのを感じた。けれど、同時に嬉しいと思う自分が居たことに気付く。

「そうですか。貴方はその方の騎士でありたいのですね」

「はい」

ユーフェミアは一度だけ瞼を伏せ、ゆっくりとスザクを見上げた。

「でしたら、その方を悲しませるようなことをしては駄目ですよ」

微笑んでそう言えば、スザクは苦笑した。
その顔に既にその人のことを傷つけてしまったのだとユーフェミアは表情を曇らせた。

「私のせい・・・ですよね」

スザクを自分の騎士と公言してしまったが故に、スザクの大切な人を傷つけてしまったかもしれない。
その人に嫉妬していないわけでは無いけれど、スザクの傷つく顔をユーフェミアは見たくなかった。

「皇女殿下のせいではありません。僕が知る限りでは、そのことについては気にしていなかったですし」

しかし、ユーフェミアはスザクの発言に眉を吊り上げ、怒鳴った。

「スザク!」

「は、はい!!」

「その方は女性ですか!?」

「はい!」

「それならばッ、貴方は女心というものが分かっていません!!」

「え?」

「騎士というものは主の側を離れてはいけない存在なのですよ!それを気にしない女性が何処に居るというのですか!!信じられません!!」

頬を膨らませ、本格的に怒ったユーフェミアにスザクは戸惑うばかりだ。
こんな時の対処法など知るわけも無い。

「あの、皇女殿下ッ」

「・・・スザク・・・」

いつもより低いユーフェミアの声は何処か恨みがこもっているようでもあり、スザクは背筋を伸ばし姿勢を正した。

「はいッ」

「私は、貴方が好きなんです」

「はい。え?」

柔らかな瞳は温かい。
驚くスザクにユーフェミアは悪戯が成功した子供のような顔で笑った。

「好きだった、なんて過去にしたくはありません。貴方が好きだからこそ、貴方の大切な人の気持ちになってみれば分かります。その方が自分以外の女性の隣にスザクが居たら辛いと思いますよ」

微笑むユーフェミアは副総督としてはまだ未熟だ。しかし、彼女は格段にスザクよりも大人で、女としての想いを誰よりも知っている。

参ったな、と自分では到底出来ない考えにスザクは関心する。
男と女の違いと言ってしまえばそれまでなのかもしれないが、他人の事を自分の事のように考えられるユーフェミアが羨ましかった。

「そう・・・ですね。その人に謝ります」

「そうして下さいね」

微笑むユーフェミアには悪いが、謝らなければならない相手はブリタニアの敵だった。
次は何時会えるかも分からない。






















「こっからは起こさないと面白くないな」

男はルルーシュの頬を二度叩く。

眉を寄せ、ルルーシュはうっすらと紫電の瞳を覗かせる。
ぼんやりとする視界は次第に明かりに慣れ、男達の姿が確認出来た。

「ヤるならヤるで声聞きたいよな」

ルルーシュは足を開かれ、衣服を纏っていない自分自身の身体に気付き、今から何をされるのか

「ヤッ、やめろ!」

気付いたときには叫んでいた。

















ゼロのマントだけを身に着け、ルルーシュは通路を走った。
ルルーシュの左目は赤く光っていたが、それも元通りの色に落ち着き、ただ、がむしゃらに走った。

目的も何も無く。

息も乱れ、素足で走っていた足も縺(もつ)れそうになるが、止まることはなかった。
前を見ていなかったせいで通路脇から現れた人物にぶつかってしまい、ルルーシュはその場に座り込むように崩れた。

「ゼロ?」

その声に顔を上げれば、藤堂の姿があり、ルルーシュは安心したわけでは無いが、瞳から零れ始めた涙を止めることが出来なかった。

藤堂は先程の格納庫での出来事を見ている為、ルルーシュの顔とゼロが一致したのは良いが、その後格納庫から出ていったゼロに何があったのか、マントから覗く素肌をみれば容易に結論に辿り着くことが出来た。

「うああああああああ」

項垂れ、絶望的なその叫びに藤堂は自分にそれが務まるのか不安だったが、膝をつき、ルルーシュを抱き締めてやった。

通路は二人以外に誰も居らず、ルルーシュの泣き叫びが響き続けたが、それも次第に収まりをみせた。
いつの間にかくったりと、ルルーシュはその身を藤堂の胸に預ける。

静かな寝息に藤堂はほっと息を吐き、ルルーシュをマントごと抱き上げて人気が無い通路を選び、静かに影へと姿を消した。

















◆後書き◆

なんとか区切りよく。
スーさんも無事に登場しましたッ。
ユフィたんは失恋して強くなりました!

藤堂さんが美味しいところをッ。

ナイトメアが登場しないとロボの記述が出来ないじゃないか!?
ガビーン!!

更新日:2007/03/10







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