◆REMOTE CONTROL story19◆









コツコツと、足音にゼロは振り返る。
そこにはユーフェミアが立っていた。

「ダールトン達には撤退を命じました。暫くは何も無いと思うわ」

「そうか・・・すまないな」

此処に軍人が居ないだけで、安堵感は違う。
しかし、まだ不安定であった。

「ルルーシュ、此処は私に任せて下さい。だから、スザクのもとへ」

行ってあげて欲しいと、ユーフェミアはゼロに近づき、仮面の頬に手を添える。

「それは出来ない」

即答したゼロにユーフェミアは困惑の表情を見せる。
スザクはルルーシュにとって掛け替えのない存在であることは確かなのに、それを表に出そうとしないルルーシュはゼロであろうとするが故に自分の感情のままに行動出来ない。

だからなのかと、ユーフェミアは瞼を伏せる。

「ゼロだから?ルルーシュはゼロじゃないわ。スザクの側に居たいのはルルーシュでしょ?」

「私は黒の騎士団の総司令官だ。【共和国日本】の創世主であり、メシアでもある。一個人の感情になど左右されない」

ゼロの言葉は、立場は、悲しいものだとユーフェミアは理解していた。
それにルルーシュが飲み込まれている。

「ルルーシュ、スザクは大丈夫。死んだりなんかしないわ。今までだって窮地に立っていても、何度で・・・」

「だからだ!」

ユーフェミアの言葉をゼロは叫んで、遮る。
目を見開いたユーフェミアからゼロは視線を外し、尚も激しく言った。

「彼奴はそうやって自分を追い込んでッ死のうとして!自分の正義を正当化して許されて死にたいんだ!!だから、生きろとギアスを掛けたのに彼奴は何も・・・・・・何も分かっていないじゃないか・・・」

最後の声は掠れていた。
このとき程、ゼロが、ルルーシュが、小さく見えたことはユーフェミアにはなかった。

何か言わなければと口を開くが、ユーフェミアの口からは何も音を成さずに閉じられる。

「哀れだな」

そこへ、C.C.がパイロットスーツのまま現れ、そんな言葉と共にゼロの前に立つ。

「・・・お前の力もあてにならないな」

「ギアスのことか?」

C.C.は面倒臭そうに溜息を漏らし、言葉を繋いだ。

「お前のギアスは直接大脳に命令を下すが、それは本人の意思を無視したものが殆どだ。枢木スザクがお前を庇ったのは・・・ギアスの命令よりもお前が大切だからじゃないのか、ルルーシュ」

見上げれば、ゼロは怯えているかのように後ずさる。

ギアスの力が弱まったわけでは無い。
命令を無視したのはスザクの意志。
ならば、スザクを危機に追いやったのはルルーシュ自身だ。

「なら・・・尚のこと、俺は彼奴の側には行けない」

「ルルーシュ!」

スザクのもとへ行って欲しいとユーフェミアは呼ぶ。
素直にそう出来れば、どんなに良いだろうか。

「ルルーシュ、ギアスが暴走したな」

「!?」

「暴走?」

ユーフェミアが居る前で話すべきことではないだろうが、未だに揺れたままのルルーシュの心はC.C.にとっても大事な事だ。
C.C.がゼロの仮面に手を伸ばして剥ぎ取れば、ルルーシュの左目は紅く染まったまま、紋章を浮かび上がらせていた。

「やはりな」

痛ましそうに顔を歪めたC.C.と視線を逸らしたルルーシュに、ユーフェミアは自分ではどうにも出来ないことなのだと感じ取り、暗黙する。

「お前にとってはあの男が安らぎの場所なんだろうな」

C.C.は瞼を伏せ、言う。

「・・・・・・・・・」

「もう一度『生きろ』と言ってやれ、彼奴の為にも、お前の為にも」

「・・・・・・・・・」

見上げれば、ルルーシュは歯を食いしばり、固く瞼を閉じる。
それにC.C.は、しょうがないなと溜息を漏らして苦笑した。

「どうした?私にギアスは効かない。枢木スザクにも既に使ったのなら、彼奴にも効かない」

「そう・・・だったな」

やっと零れた言葉はそれだけだった。
ギアスの制御が出来ない今、不用意に言葉を繋げない。

ユーフェミアと視線が合う前にルルーシュはC.C.の手から仮面を受け取り、装着する。
マントを靡かせ、ゼロはC.C.とユーフェミアに背を向ける。

「暫く頼むぞ、ユフィ」

肩越しに振り返ってそう言えば、ユーフェミアは嬉しそうに微笑んだ。

「はい」

ブリタニア人がストライキを起こさないようにするのが、今、ユーフェミアに課せられた使命だ。
だから、全ての民衆に安らぎを。
不安に苛(さいな)まれている人々に、慈悲を伝える。

砂嵐だったテレビ画面に映ったユーフェミアに再び民衆が何事かと喰い入るように見つめた。






















総督区の滑走路に留まり続けているアヴァロンに乗り込み、ゼロは今まで歩いていた足に力を入れていつの間にか走っていた。
向かう先は治療室だ。
既にアヴァロン内の地図を把握しているゼロの足に迷いは無い。

治療室の前では藤堂を始め、四聖剣の四人が佇んでいた。
ゼロは彼らから少し離れた所で立ち止まり、肩を上下させる。

ちょうどその時、治療中の赤いライトが光を失い、治療が終了したことを知らせた。
ドアが開き、姿を現したのはロイドだ。

「ゼロもお目見えですか」

ゼロに気付いたロイドの言葉に、藤堂達もまたそちらを振り向く。
ゆっくりと歩き出したゼロは無言で藤堂とロイドの横を通り過ぎて、治療室へと入っていく。
それに続き、ロイドも藤堂達も治療室へと入り、ドアが閉められた。

ゼロの入室に血の付いたガーゼ等を片付けていたセシルや救護班の何人かが振り返る。

ベットに横たわり、静かな寝息をたてているスザクをゼロは見下ろす。
右手の手袋を外し、スザクの髪に触れれば、僅かに汗ばんだ感触があるものの穏やかな表情で眠るスザクに笑みが零れた。
仮面でそれを誰かに知られることはなかったが。

名残惜しそうに手を離せば、張り詰めていたものが解き放たれ、その場に崩れ落ちるように座り込んでしまったゼロに藤堂は自分の肩を貸して立ち上がらせる。

「すまない」

「いや」

自嘲を含ませたゼロの言葉に藤堂は気にするなと、含ませる。
すると、横からカルテらしきものを手にしたロイドがその紙に書かれた文字に目を通して、ゼロを横目に見る。

「暫くは安静に。貴女の指示だけスザク君に拒否権は無いんですから、一応」

「分かっている。負荷が掛かるようなことはさせない」

ロイドの言葉を聞きながら、ゼロは藤堂の肩から身を離す。
もう大丈夫だと。

そして、数人の気配に落ち着かなかったのか、スザクがうっすらと目を覚ました。

「・・・ルルー、シュ」

「スザク?」

ゼロは仮面とマスクを外し、スザクを覗き込む。
流れ落ちる涙にスザクは手を伸ばし、触れて拭い取ろうとする。
しかし、視界がぼんやりと歪み、正しく距離を掴めない。

「また・・・泣かせちゃったな・・・・・・」

ルルーシュは仮面を捨て落とし、スザクの手に素手と手袋越しの両手を添えて、ルルーシュは瞳を細める。

「馬鹿が、そんな事を気にするな。俺はお前に生きていて欲しいのに」

「ごめん、でも・・・守るって言っただろ?僕だって、君に生きていて欲しいよ」

「なら、俺が生きる為にお前も生きろ。お前が生きる為に俺も生きる」

「・・・・・・君の考えた暗号より難解だね」

「分かりやすく言ったつもりだが・・・?」

「叶えるのが難解ってことだよ」

その返事にルルーシュはスザクを睨み見据える。
上手くいかない苛立ちとスザクの『生』への薄い縋(すが)り。

「俺との約束は出来ないと?」

「破らないように努力はする」

「・・・・・・・・・」

眉を下げ、瞳を揺らしたルルーシュにスザクは困ったように笑う。

「そんな顔しないでよ。今はそれで精一杯だから・・・・・・それだけは嘘じゃない」

不安にさせたいわけじゃない。
困らせたいわけじゃない。
泣かせたいわけじゃない。

「それなら、嘘にならないように約束だ」

「ルルー・・・」

降りてきたルルーシュの瞳は閉じられ、スザクはまだ自由に出来ない身体では動くことさえままならずに、ルルーシュの口付けを受け入れる。
直ぐに離れたそれ。

瞳を覗かせたルルーシュの左目は朱からゆっくりと、紫電に戻った。




























◆後書き◆

サブタイトル「桎梏の漆黒」
『桎梏(しっこく)』足かせと手かせ。また、手足にかせをはめること。厳しく自由を束縛するもの。

会話が多いですね、また・・・。(汗)
会話で魅せるにはどうすればッ

とりあえずスーさん大丈夫そうです。
全治二ヶ月ぐらいの怪我だと思いますが、彼は二日で回復です。
壁を走るお方なのでそれくらいはオチャノコサイサイだと!!

てか、ギャラリー何人かいるのにキスシーンですv

更新日:2007/05/01








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