◆REMOTE CONTROL story18◆
紅い匂いが鼻につく。
白いパイロットスーツの脇腹から赤が咲くように染み広がり、地を黒く染めていく。
ゼロを庇うように飛び出し、スザクは倒れ伏した。
撃ったのは、軍人だった。
「スザク!」
ゼロがしゃがみ込むようにスザクに駆け寄り、仮面を剥ぎ取り捨て、マスクを下ろして叫ぶようにその名を呼び、肩と頭を抱き上げる。
ゼロの仮面から現れた素顔にダールトンは息を飲んだ。
似ている。
コーネリアが憧れを抱くマリアンヌ皇妃に。
軍人が今度こそは外さないと、銃の照準をゼロに合わせ、引き金を。
「やめろ!」
止めたのはダールトンだ。
銃を跳ね飛ばし、部下を殴り倒す。
何故だという部下の視線に、自分の行動に戸惑うしかなかった。
だが、ゼロは殺してはならないと早鐘が鳴る。
「おい、スザク!」
呼びかけてもスザクからの返事は無い。
僅かだが、呼吸はある。
けれど、致命傷のそれは急激にスザクから体温を奪っている。
死ぬのか。
「生きろ、生きるんだ、スザク!」
ギアスはまだ有効のはずだ。
うっすらと瞳を覗かせたスザクにルルーシュの瞳から涙がこぼれ落ちた。
スザクの手がゆっくりとルルーシュの濡れる頬に触れる。
その手にルルーシュは自分の手をぎゅっと添えた。
「君の中で・・・・・・生き、られるなら」
「馬鹿!そういう意味じゃない!!」
何故自分を庇ったんだと、ルルーシュは唇を噛む。
瞳を閉じ、スザクの意識は手放された。
いなくなるな。
瞬時、ギアスの左目が紅く染まり、紋章を浮かび上がらせた。
熱く、痛みを訴え続けるギアスにルルーシュはスザクの胸に顔を埋まらせて呻いた。
同時にC.C.にもその痛みが伝わる。
「まさか、もう・・・」
痛みに耐えながらC.C.はオープンチャンネルで全ての者に呼びかける。
「エネルギーが残っている者は居るか!」
だが、全てのナイトメアフレームのエネルギー残量は残り僅か。
半分も残っている者は居ない。
誰からも返事は無く、C.C.は苛立ったように命令を下す。
「救護班、直ちに現場に来い!枢木スザクの治療を早く!・・・それから、ゼロの目を隠せ」
最後の命令の意味は分からないが、救護班はトレーラーで現地へ直ぐに赴き、藤堂達はスザクの傷の具合を見るためにナイトメアフレームから降り立ち、ゼロとスザクのもとに駆け寄るが、夥(おびただ)しい血の匂いに顔を顰める。
藤堂がスザクの傷を見ようと二人に近寄る。
「ゼロ、スザク君を離してくれ」
だが、ルルーシュはスザクの胸に顔を埋めたまま顔を横に振る。
黒髪が小さく揺れた。
ゼロがこんなにも人の生死に執着したのを目の当たりにしたことなど無く、藤堂は動揺するが、応急処置をしなければ本当にスザクの生存は危ういだろう。
「離すんだ!スザク君を死なせたいのか!!」
ルルーシュの肩が揺れた。
スザクから離れ、藤堂に任せる。
顔を上げたルルーシュは左目を自分の手で覆っていた。
涙を押さえる為では無い、ギアスを抑える為だ。
千葉がルルーシュに仮面を渡す。
「C.C.からの指示です。貴女の目を隠せと」
ルルーシュは無言で仮面を受け取り、左手をギアスから離す。
現れた瞳は紫電では無く、朱だった。
それを問う暇も無く、ルルーシュはゼロの仮面を装着する。
「・・・藤堂・・・・・・・・・スザクを、頼む」
ゼロの声は掠れていた。
藤堂は重々しく頷き、立ち上がり背を向けたゼロを見ている暇もなく応急処置を始める。
運び込まれるスザクの姿にユーフェミアは駆け寄りたい衝動にかられるが、それは自分の役目では無いと、藤堂に担がれた彼と交差するように前を見据えて歩いていく。
ゼロの姿はそこには無く、悲願がユーフェミアの胸に募る。
迷い無く真っ直ぐ歩く先はダールトンのもとだ。
「ダールトン」
「ユーフェミア様・・・」
スザクが救護班により、アヴァロンの治療室へと運ばれる。
それと入れ替わりにユーフェミアは呆然と佇むダールトンと殴り倒されている軍人の側に立つ。
「そちらの救護班の力を貸して頂けませんか?」
「それは、枢木スザクを助けろということですか?」
「そうです。ダールトン、貴方はゼロの正体に気付いたのでしょう?」
ユーフェミアは困惑の表情で此方を見上げている軍人を一度見据え、再びダールトンへと視線を送る。
彼は口を紡ぎ、自分の予想は正しいのかとユーフェミアの瞳の色を映す。
「ダールトン、お姉様が憧れていたマリアンヌ様の事はご存知でしょう。直接会ったことは無いでしょうけど、マリアンヌ様がどのようなお方であったのかは知っているはずです」
やはり、そうなのかと。
ダールトンは自分の予想が真実である事に複雑な感情が渦巻いた。
マリアンヌの死後、その子供である二人の姉妹は旧日本に送り込まれ、人質としての材料とされた。
表向きには留学生という扱いであったが。
日本占領後、姉妹は巻き込まれて死亡したと本国には伝えられた。
まさか、生きていようとは誰が思っていたであろうか。
そして、年格好からして姉の方であろう者がゼロとなってブリタニアに復讐しているのだと分かった今、何を信じれば良いのか。
硬く瞼を閉じたダールトンをユーフェミアは静かに見つめる。
「私の手を取れますか?ダールトン」
「・・・・・・取れません。私は・・・コーネリア様こそが我が主君で御座います」
瞼を持ち上げれば、そこには微笑んだユーフェミアが居た。
「そうですね、お姉様に貴方が居るように、私もゼロの支えになってあげたいのです」
自分に言い聞かせるように呟いたユーフェミアは瞼を伏せる。
「ユーフェミア様・・・」
「ダールトン。私はもう、お姉様のもとへは戻れません。けれど、貴方は戻れます。そちらの救護班の力を借りるのは諦めます。だから、この場を今直ぐに立ち去りなさい」
きっと、ルルーシュなら去れと言ったであろうから。
苦渋に表情を歪めたダールトンは歯を食いしばり、未だに地に腰を落としたままの部下に言い放つ。
「船を用意しろ!イシカワに向かう!!」
「イ・・・Yes, My Lord!」
ゼロは総督区のメインモニターが設備されている室内へと足を運び、そこから全局へハッキング及び、情報の流出を開始する。
サイレンがトウキョウ中に響き渡り、就寝していた者達は飛び起き、家々の電気が明かりを灯した。
『聞け!民衆よ!!』
何事かとトウキョウの住民はテレビの電源を入れる。
画面に映るのは漆黒。
『トウキョウは我ら、黒の騎士団が占領した!日本人よ、喜ぶがいい!!私が、私達が新たなる創世の国を創るのだ!ブリタニア人よ、畏(おそ)れることは無い!黒の騎士団は正義の味方であり、力無き者には慈悲を与えよう!』
ゼロの姿に息を飲む。
コーネリアはどうしたのだと、騒ぎ惑う。
そして、弱き者は希望の光をゼロに見る。
世界が変わる。
『人種も!力も!関係なく、全てを受け入れよう!!トウキョウは新たな名を得る時が来た!!その名も【共和国日本】!!』
両手を広げ、掲げ、マントが翻る。
主権が人民にあり、人種差別も無い。
中華連邦のように私有財産制の否定と共有財産制の実現によって貧富の差をなくそうとする思想を含み、EUのように人民が権力を所有し、権力を自ら行使する立場を言い、基本的人権・自由権・平等権あるいは多数決原理・法治主義などがその主たる属性をも含まれている国を目指す。
つまり、民主制と共産主義を取り入れた国家となる。
『だが、政治は存在しない!いや、まだ完全では無いのだ!エリア11が完全に日本の名を取り戻す時こそが真の【共和国日本】であり、今は序章に過ぎない!!』
政治は完璧なる日本が誕生してこそ意味がある。
ゼロは手を差し出し、私の手を取れと動作した。
『「日本人」の名を持つ者よ、我らの同胞となり、ブリタニア帝国に正義の鉄槌を見せよ!』
ブツリとテレビ画面との通信が切れ、砂嵐が巻き上がる。
言葉無く、トウキョウに住む者は混乱する。
信じるべき頭首は・・・。
◆後書き◆
サブタイトル「燻る血に謀反の灯火を」
『燻(ふすぼ)る』さえない色になる。くすむ。気持ちがふさぐ。
『謀反(むへん)』国家の顛覆をはかること。
『顛覆(てんぷく)』政府などが倒れること。政府などを倒すこと。
撃たれたのはスーさんでございました。
【共和国日本】になりました。
共和国で本当に良いのかなー?まだ悩んでます。
そろそろネリお姉様とシュナイゼルさんにも動いてもらいたい所ですが、その前にヴィレッタとオレンジかと。後、神楽耶さん。
更新日:2007/04/28
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