◆REMOTE CONTROL story16◆









カッターの襟裏に瞳と同じ緑のネクタイを通して結び、橙の特有のデザインを施されたジャケットを羽織り、ベルトで固める。
最後に黒のブーツを履き、扉を潜る。
カツカツとブーツが高鳴る。

久しいな・・・そう感じてしまう程に懐かしさが蘇る。
一週間がもう何年も前のことのようだ。

向かう先はランスロットの所だ。
アヴァロン内にある格納庫にはランスロットがヘッドトレーラーに積まれたままそこにあった。

「ルルーシュ」

ランスロットの横でユーフェミアと何やら話していたゼロはスザクを振り返った。
だが、仮面は取らぬまま。
それは、此処にいるのはユーフェミアとスザクだけでは無いからだ。
特派の整備員から疎(まば)らに此方を気にするような視線が集中している。

スザクが目の前まで来るのを待ち、ゼロは口を開いた。

「軍服か・・・初めて見るな」

「でも、良いの?」

黒の騎士団では無いにしても、ブリタニアの軍人を示す軍服は反感を買うのではないだろうか。
そういう不安がスザクにはあった。

「これから国を創るんだ、人種に関係無いな。・・・それに、他の者がどう思おうと・・・・・・俺は嫌いじゃない」

言外に似合っていると言いたいのだ。
そんな空気を読んだのか、ユーフェミアはクスクスと小鳥のように笑った。
しかし、スザクは首を傾げるばかりで、更にユーフェミアは笑みを濃くした。

「ルルーシュはスザクにその軍服が似合ってて、格好良いって言いたいみたいですよ」

ユーフェミアの助言にスザクは目を丸くしてゼロを見るが、彼女の表情は仮面で全く見えない。
だが、スザクから視線を外したゼロが顔を赤くしているのは想像に難くなかった。
勘違いでも、自惚れでも無く。

嬉しいから笑ったら、素直じゃない返事が返ってきた。

「軍服に着られるなよ」

ルルーシュらしく、ゼロらしくないその言葉はスザクにだけ向けられる。
仮面をしていても尚、ルルーシュ個人がそこに居る。

もう二度と敵意は向けたくない。

「スザク・・・ネクタイ」

「え?」

ゼロがスザクへ一歩近づけば、お互いの距離は必然に縮まる。
黒い手袋をした両手がスザクの首もとの緑に伸び、崩れを直す。

「新婚さんみたいだねぇ?」

ロイドが小型ローラー付きの椅子の背もたれの上部に両腕を組んで乗せ、足で地面を蹴って三人のもとにガラガラと音をさせながら近寄ってくる。
はっきり言って行儀が悪い。

そういう態度が嫌いなゼロは仮面の奥で顔を顰め、言われた言葉も納得できないが、嫌だと思っていない自分に気付いて手に力がこもってしまった。

「ぅぐッ」

だから、スザクの首を締めてしまったことに気付くのが遅れた。

「ッ!?すまない、スザクっ」

慌ててネクタイを緩めれば、スザクは咳き込み、落ち着いた頃に大丈夫だと笑顔を返してくれたことに安堵する。
原点であるロイドへ睨みを向ければ、その必要は無かったようだ。

それは、セシルがロイドの椅子を蹴り飛ばしたことで、ロイドは彼方の壁へと激しく撃(ぶ)ち当たり、潰れる奇声をあげたからだった。

















予想通り、スザクの軍服姿に黒の騎士団員は殆どの者が良い顔をしなかった。
更にブリタニア第三皇女であるユーフェミアもゼロと共に姿を現した事で不信感は高まる一方だった。

ユーフェミアの後ろには特派も居る。
ロイドの姿にラクシャータは顔を顰めた。

「ユーフェミアは我らの同胞となった」

ディートハルトが前に一歩踏みだす。

「失礼ですが、ゼロ。その方はブリタニアの者、スパイだと考えるのが妥当ではないでしょうか?」

「皇女がスパイをするとでも?」

ユーフェミアに視線を向ければ、彼女はそこまで活発な少女には到底見えない。
それに、スパイなら変装なりするはずだ。
彼女は桃色のドレス姿でゼロの横に立っている。

「では、後ろの者達は」

そこで、ディートハルトはユーフェミアの後ろに控えている特派へと照準者を定める。
しかし、ゼロは事も無げにこう綴(つづ)った。

「彼らはナイトメアフレームの技術者だ。あの白兜はスザクでないと乗りこなせないらしいからな、予算の話を持ち掛けたら快く承諾して頂いた。此方の不利になるような事だけはしない」

シュナイゼルが後ろ盾となっている特派は、減り続けている予算に悲鳴をあげていたのだ。
数ヶ月前からシュナイゼルが独自に開発している軍事目的兵器へと予算が回され、医療目的への変更をしてからも予算は減り続けるばかりであった。
第七世代ナイトメアフレームの開発も一段落を終えたせいもあるだろう。

現在支給されている額の倍をゼロがちらつかせれば、ロイドは二つ返事で承諾した。
彼にとってはランスロットの予算に加え、スザクもデヴァイサーとしてランスロットに再び搭乗してもらえるのだから一石二鳥以上の報酬である。

特派に所属している技術者も変わり者が多いらしく、黒の騎士団に加入することに反対するものはいなかった。
類は友を呼ぶらしい。

セシルだけは微妙な顔をしていたが。

静寂の中、ゼロは漆黒のマントをばさりとはためかせ、裏地の紅を覗かせて両手を広げるように掲げる。

「我らの目的は日本を再建させる事だ!ブリタニアは平等を良しとしない国、差別も当たり前の国だ。だが、私達は違う。人種も強さも弱さも関係無い国を創ることこそが正義だ!」

誰もが魅せられていく。
恐いほどに。






















そして、混乱が起こった。
イレヴンの経済がままならなくなったのだ。

突然のキョウトからの物資支援の断絶は大きな被害をもたらした。
特にイシカワが被害を被(こうむ)った。

イシカワは六大都市の県に含まれていないものの、NACという旧日本における名門と財閥の集合体がイシカワでEUと中華連邦と手を組んでいたのだ。
だが、NACのメンバーであるキョウト六家への連絡が途絶えた事で計画は水の泡となった。
サクラダイトが無ければ、無力も同然であったのだ。

EUと中華連邦は焦り、その焦りが判断を鈍らせて隙を作ってしまった。
その隙を突いてコーネリアが進軍を開始する。

そして、それは黒の騎士団にとって好機となった。

コーネリアを始めとして、彼女の親衛隊の過半数がイシカワへと赴き、ダールトン率いるその他の親衛隊がトウキョウで待機となった。
それが隙となる事をゼロは予測し、総督区へと進軍を開始した。

作戦は午前0時スタート。

「好機はこの一度のみだ!失敗も敗北も許されない、この戦いでの勝利こそが正義だ!!」

ガウェインから黒の騎士団の乗るナイトメアフレーム全てにオープンチャンネルでゼロの声が響き渡る。
皆が操縦桿を強く握りしめた。

「技術班、ECMの動作は?」

『ばっちり。敵軍に何時でも乗り込んで良いわよ』

ゼロはラクシャータへとECMの確認を取る。
ECMは以前、ナリタで日本解放戦線が用いた電子妨害装置だ。
正式名を”Electronic Counter Measures”という。
このECMは敵の探索レーダーを妨害し、射撃管制を撹乱させる。

だが、それも長くは続かないだろう。
向こう側はECCMを所持しているのだ。
正式名称”Electronic Counter Counter Measures”は対電子妨害装置であり、ナリタでも活用された。
ECMに対し、周波数を変えることが可能であり、自軍のレーダー精度を確保することが出来るのだ。

今回ECMを用いるのは最初の一歩だけだ。
気付かれずに総督区に踏み入れれば後は必要なくなる代物。

より策士な者が頂点へ。

「スザク、準備は良いか?」

『問題無いよ』

ランスロットはその瞬発力の特性を活かし、最前線を斬る。
キーを差し込み、起動させれば画面に表示される文字は


”Marching Ever Onward To Tomorrow”


明日に向かって進軍しながら常に進化している。



午前0時までのカウントダウンが始まる。
シンジュクゲットーに冷たい風が吹く。












昨日の作戦会議後のスザクとのやり取りをルルーシュは思い出す。
最後にミーティングルームを出たゼロとスザクは部屋へ戻る途中の通路で立ち止まった。
ゼロが立ち止まれば、スザクも立ち止まることになるのだが、ゼロはスザクを振り返って通路の壁に左肩を凭(もた)れ掛け、仮面とマスクを外した。

黒髪から覗く紫電は見定めるようにスザクの碧を射抜く。

「はっきり言ったらどうだ?俺のやり方が気に入らないと」

スザクは表情一つ変えなかった。
ただ、瞳の色合いが少し変わった。

「賛成はしてない。でも、納得してる」

軍では矛盾は当たり前だったのもある。
だが、それ以上に最優先させるべき事がスザクには確かにあった。

「納得か・・・それで満足か?」

「Yesと言いたいところだけど、まだ」

やはり文句があるのかとルルーシュが視線を外そうとした瞬間だった。
スザクにこの身を強く抱き締められたのは。

訳が分からず、相手の鼓動に動揺してしまい、ルルーシュは言葉を繋ぐことが出来なかった。

「僕はルルーシュを守りたいんだ。何に換えても」

守り抜いてこそ、満たされるだろうから。
手の届かない所に君を行かせたりしない。

絶対に。












夜の風が止み、午前0時が告げられた。

「総員出撃!」

ゼロの指示に先頭をランスロットと藤堂が乗る月下(ゲッカ)が駆け抜ける。
その後ろを四聖剣が乗る鈍色の月下が続く。

多数の無頼(ブライ)は四方に回り込み、円を描くように総督区を囲んで進軍する。
後方からカレンが乗る紅蓮弐式、ゼロとC.C.が乗るガウェインが続き、トウキョウの中心に轟音が轟いた。

闇の中、襲撃に気付いたダールトン達は瞬く間に戦闘の準備を完了させた。



どちらが勝つか、見物だ。

勝てば世界は変わる。
覚悟は出来ているのだ。
あの時、クロヴィスをこの手で撃った時から。



























「だから」




























◆後書き◆

今回よりブライを無頼に、ゲッカを月下に表記変更。

ゼロの「だから」で締めくくりましたが、まだ終わりません。
次はナイトメア戦だ!

スーさんの軍服姿好きなので多分衣装はこのままかと。


更新日:2007/04/21








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