◆REMOTE CONTROL story15◆









潜水艦内の通路に二人分の足音が響き、反響する。
スザクは物珍しそうに辺りを見回しながらルルーシュの後を続く。

性格は大人しくなったが、好奇心旺盛な所は変わっておらず、そんなスザクの様子に瞳を緩めつつルルーシュは淡く微笑む。
その視線に気付き、スザクも微笑めばルルーシュは頬を赤くしてそっぽを向いた。

「おめでとうと言うべきか?ルルーシュ」

気配無く二人の前に姿を現したのは黄緑色の髪を持つ少女であり、彼女は金目をさも面白そうに細めている。
そんな彼女にルルーシュは片眉を跳ね上げ、探るように瞳を細めた視線を向けた。

「君は・・・毒ガスの・・・」

スザクの声が疑問の声色を持つ。
それとナリタの時に見た彼女は白い拘束具の服に未だ身を包んでいる。

「C.C.だ。枢木スザク」

「シーツー?」

それが名前なのかと問うスザクの声にC.C.は頷きを返した。
視線をルルーシュに移し、C.C.は気付かれぬように僅かに眉を潜める。

ほんの一瞬だけ感じたギアスの異変。

勘違いでは無かったらしい。
だが、暴走に至る程では無く、今は安定している事に安堵する。

この男のおかげかと、瞼を伏せることで不安を沈めたC.C.はくるりと後ろを向く。

「お披露目といこうか」

お前の騎士の。

















黒の騎士団員は皆、ブリーフィングルームに集合していた。
C.C.からの指示である事に不満がある者は多かったが、ゼロは自分が居ない間はC.C.の指示に従うように命を下したからだ。
それは以前、ゼロとカレンが行方不明になった時に行動出来なかったという前科への配慮である。

ブリーフィングルームには寝こけている者、談笑している者と様々だ。
そこへ、カツカツとヒールの高い靴音が近づき、黒の騎士団の中でそんな靴を履いているのはC.C.とラクシャータのみであり、ラクシャータがこの場に居るならば、耳に届く足音はC.C.のものだ。
寝ていた者は起き上がり、談笑は消えた。
他にも足音が聞こえ、ゼロが帰ってきたのかと皆が背筋を伸ばしたが、それは呆気なく崩れ去る。

姿を現したC.C.は問題無いとして、ゼロの衣装に身を包まずにスカートを履いているルルーシュも百歩譲って良しとしよう。
だが、ルルーシュの隣に立っているのは敵であるはずの枢木スザク、その人であった。

彼女らの前に歩いてきたのは藤堂だ。
C.C.はそれを見てルルーシュとスザクの前から移動し、近くの壁に背を預ける。

藤堂はスザクの真正面に立ち、彼を見下ろして真義を見定めるような視線を寄越す。
それに答えるようにスザクも藤堂を見上げて唇を引き結び、一礼する。

「お久しぶりです。藤堂さん」

顔を上げて言った言葉は以前『敵』だと言ってしまったが為に余り覇気は無い。
それに藤堂はフッと口元を緩めた。

「此処が君の信じた道ならば、私は君を認めよう」

安堵の息を吐いたのはルルーシュであった。
そして彼女の言葉にその場に居た者全てが驚愕に言葉を無くす事になる。

「枢木スザクには私の補佐をしてもらう」

文句は言わせないとゼロは紫電に睨みを効かせた。






















「ざぁんねんでしたぁ〜」

ロイドの声にユーフェミアはむっとしながら一度だけ振り返り、まだ諦めないと再び画面を覗き込む。
頑固なユーフェミアにロイドはやれやれと通信機を取り出して通話コードを打ち込み、耳にあてる。

『ロイドさん、どうかしましたか?』

通話相手はセシルだ。

「いえね、そちらの収穫はありましたぁ?」

『ええ。あるにはあるんですけど、地下に入ってしまったみたいで途中で見失ってしまったんです・・・』

「それじゃあ、僕達もそちらに向かいますから場所を教えて頂けます?」

『はい。シンジュックゲットー第四区域にあるドームです』

「MVS(メーザーバイブレーションソード)の実戦データを取ったとこですか?」

『そうなりますね。実際は内ゲバ止めですけど』

『内ゲバ』と言ったセシルにロイドは苦笑する。
彼女は時々毒舌である。

『内ゲバ』は同じ純血派であるジェレミアとキューエルが仲間割れをした事を指していた。

「分かりました。アヴァロンごと其方に向かいますから」

ドームの場内には余裕でアヴァロンは収まるだろう。

『それじゃあ、この辺りをもう少し調べてみますね』

「ええ、お願いします」

通話を切り、ロイドは此方に視線を送っているユーフェミアににんまりと笑い掛ける。
通話の内容にユーフェミアはロイドに問い掛けるような色を視線に絡ませていたからだ。

「気になります?」

「見つかったの・・・ですか?」

「見失ったみたいですが、大体の位置は」

簡易椅子から腰を上げたロイドはその場から操縦室へと向かい、ユーフェミアも彼の後を追う。
ゼロに会えると、その希望の種を追いかけるように。

夢見ているように待ち続けるのはもう出来ないから。






















一度ブリーフィングルームをスザクを伴って後にしたルルーシュはゼロの衣装を身に纏い、再びブリーフィングルームにスザクと共に現れた。
ゼロが少し段のある舞台に佇み、スザクが右後ろに控える。

「先程も言ったようにスザクには私の補佐を。だが、黒の騎士団では無い」

黒の騎士団では無いとはどういう事かと問う視線の群にゼロは用意していた言葉を述べ始める。

「彼には私の指示に従ってもらうが、他の者の指示は受けない」

「それは、C.C.の指示にも従わないという事ですか?」

ディートハルトが代表して問い掛ければ、ゼロはその問いの答えを肯定する。

「そうだ。私が指示していない事に関しては彼の思想、行動に全て任せる」

余りにも信用し過ぎなスザクへの対応にディートハルトを始めとして不満の有る者は大勢居た。
それが普通の反応だろう。
スザクは敵だったのだから、信用しろと言うのは納得出来ない。

そして、その判断はゼロらしく無い。

特に幹部にあたるディートハルトはそう思う。
ゼロは甘さ等切り捨てるような人物のはずであり、破壊を求めている。
彼女の創り出すカオスは本物なのだ。

それが欠けている。

「もう一つ。彼に危害をくわえようものなら、死が待っていると思え」

変声機を通して今までに無い程の低い声に誰も口出しはしなかった。
ゼロを信じるしか無い。

解散を言い渡してブリーフィングルームから団員達はバラバラと自分達の持ち場へと解散する。

演説が終わり、ゼロが段から降りる祭にスザクが先に段を降り、手を差し出す。
その手をゼロは戸惑いも無く取り、舞台を降りる。
仮面の鋭さが和らぐ。

その足でゼロは藤堂のもとへ歩み、立ち止まる。

「藤堂、スザクから知り合いだと聞いた。次の作戦には貴様の部隊に入れるが良いか?」

「無論、お受けしよう」

ゼロは後ろに控えているスザクを振り返る。

「藤堂の指示に従う従わないはお前が決めろ。その代わり、足下をすくわれるなよ」

「分かってるよ」

その返事に満足したゼロは辺りを見回し、C.C.の隣で壁に寄り掛かっているカレンの姿を見つけると彼女を呼ぶ。

「カレン」

「はい」

カレンはゼロとスザクの目の前に立つ。

「君はスザクを仲間と認められるか?」

ゼロの問いかけにカレンはチラリとスザクに視線を寄越し、再びゼロを見上げる。
緑がかった青い瞳は真っ直ぐにゼロの奥の瞳を見ていた。

「正直、今は無理です。けど・・・今後の態度次第では認めることも出来ます」

「充分」

後はスザク次第だとゼロが彼を振り返れば、スザクは眉を下げて笑った。
そう簡単に受け入れて貰えない事は百も承知。
カレンの答えは歯痒いながらも嬉しいものであった。

「私も聞いて良い?」

「どうした?」

真剣なカレンの瞳にゼロがそう返せば、カレンは一度だけ大きめに息を吸う。

「落としたの?」

「何をだ」

カレンは無言でスザクを指さした。
それも思い切り人差し指を突き付けるように。

ゼロは暫く沈黙し、次にC.C.に視線を送れば彼女は自分の黄緑色の髪を弄るのを止めて、右手の親指を上に向かって立てた握り拳を突き出してきた。
さもルルーシュが色気でスザクを落とした事になっている。

「違う!」

否定の言葉をカレンに向かって怒鳴ったが、彼女は指を下ろして気の無い生返事を返した。

C.C.がカレンに何を吹き込んだのかはゼロには分からず、ルルーシュにとって未知なる世界であったに違いない。

















格納庫の配線の群の中で椅子に足を組んで座っているラクシャータは片眉を跳ね上げた。

「やだ、見つかっちゃったのかしら?」

ラクシャータは煙管をくるくると器用に横回転させながらPCの画面の赤い点滅を見つめる。
ゼロに言うべきか迷う。自分はそんなタマじゃなく、誰かと馴れ合う気もさらさら無いのだ。

それに、悪い事にはならないような気がする。
赤い点滅は敵機を示すが、優しい色のようにも見えた。

「どうしよっかなぁ」

そこへ、ゼロとスザクが訪れた。
格納庫へ来たのはスザクにナイトメアフレームを与えるためだと見える。

グッドタイミングだと、二人がこちらに近づいて来る頃合いを見計らい、ラクシャータは手招きした。

「ゼロ、これ見てくれる?」

暢気な声色にゼロは面倒臭そうにラクシャータに近づき、此方に向けられたPC画面に息を飲む。
着けられていたのだろうか。

「分かった。今直ぐ対処する」

ゼロはラクシャータに背を向け、スザクを連れて格納庫を後にした。






















アヴァロンはシンジュクゲットー第四区域に到着した。
ドームにその巨体を着地させる。

アヴァロンから降り立ったユーフェミアはスザクと初めて出逢ったときの事を思い出した。
この場所を境にスザクは決して『ユフィ』と声にしてくれなくなった。

今思えば、自分は既に失恋していたのだ。

ユーフェミアに続いて降りてきたロイドはこの前よりも瓦礫の山が多くなっているドーム内を見渡し、二人の到着を待っていたセシルが二人のもとへ駆け寄ってくる。

「すみません。地下への入り口がなかなか見つからなくて」

「要塞ごととは随分派手なご来客だな」

突如、ドームの全てのライトが眩い光りを輝かせ、夜のドーム内を黄白く照らした。
セシルの報告を遮るようにゼロの声が響き、セシルが振り返った先には銃口を此方に向けているゼロの姿とその横に立つスザクが居た。

「スザク君・・・」

セシルがスザクの名を呼べば、彼はどういう顔をすれば良いのか分からないように瞼を閉じた。

「彼を連れ戻しに来たのなら無駄ですよ、皇女殿下」

「いいえ。私は貴女に会いに来たんです」

「私に?」

ユーフェミアはゼロから視線を外さない。
ゼロはユーフェミアへと銃口を移動させた。

「ええ、確かめたい事があります。それを確かめた上で私は決めます」

「・・・・・・」

「・・・・・・ルルーシュ」

「ッ!?」

ユーフェミアがその名を呟けば、ゼロの肩に力が入り、スザクはゼロを庇うように彼女の前に立つ。
そのスザクの行動にロイドとセシルは驚く。

守るのだという強くて鋭い碧の瞳にユーフェミアは身動き一つせずにスザクを見据えた。

「やはり、ルルーシュなのですね」

にっこりと微笑めば、ゼロは自ら仮面を外した。
黒いマスクを口元から下ろし、ルルーシュはスザクの肩に自分の手を置いて大丈夫だと告げる。

スザクの後ろからはっきりと姿を現したルルーシュにユーフェミアは泣きそうに顔を歪め、ルルーシュに走り寄る。

「ルルーシュお義母姉様!」

抱きつけば、ユーフェミアは温もりに涙を堪えることが出来ずにその頬を濡らす。
抱き締めれば、ルルーシュは答えるように抱き締め返してくれた。

「本当に・・・相変わらずだな」

苦笑と共にそんな言葉が漏れた。
姉妹の抱擁を見守っていたセシルはロイドを振り返る。

「知ってました?」

「全然」

そうは答えるものの、ロイドに驚きの表情は見えなかった。
既に有る程度の予想範囲内だったのだろう。

次いで、セシルがスザクに視線を移せば、ルルーシュとユーフェミアを温かく見守っている。
セシルの視線に気付いたスザクは元上司二人に苦笑を向けた。

「さてと、これからどうしようかなー」

ロイドは空を仰いだ。
星屑が綺麗だ。

ユーフェミアは顔を上げ、ルルーシュから一歩離れる。
もう涙は無い。

「ルルーシュ、お姉様には貴女の事は言わないわ」

「ユフィ・・・お前は」

「ごめんなさい、ルルーシュ。私は貴女を守ってあげられなかった」

「それは、仕方ないだろう」

当時のユーフェミアもルルーシュも幼かった。
世界をどうこう出来る力なんて皆無だったのだ。

「それでも、謝りたかったの。私に出来る事なんてそれくらいだから、だから・・・ごめんなさい」

震えるユーフェミアの声にルルーシュはもう良いのだと、首を左右に振る。
それを受け取り、ユーフェミアは微笑む。

そして、真剣な瞳をルルーシュへ。







「私、ユーフェミア・リ・ブリタニアは黒の騎士団に亡命いたします」




























◆後書き◆

いつもより長くなってしまいました。
本当はいつもと同じ量の予定だったのですが、次の話でユフィたんに今回の最後の台詞で締めてもらうはずが、短くなりすぎたので合体。

二、三話後にはナイトメア戦書きたいです!

今回、会話文が多すぎるような・・・反省せねば・・・。
オフセに出来るようならば加執修正したい・・・。


更新日:2007/04/16








ブラウザバックお願いします