◆REMOTE CONTROL story13◆









誰もが振り返るが、その視線を気にして彼女は走っているわけではなかった。
待ち合わせの時間は午後二時。
もう五分も無い。

灰色のコンクリートの階段を手摺りに手を這わせて駆け登る。
駆ける弾みで落ちそうになるベレー帽を片手で押さ込む。

階段を登り切った先には既に彼が居て、駆け出そうとする自分の足は戸惑いを覚えて踏鞴(たたら)を踏む。
今になってスカートを履いている自分が恥ずかしくなったのだ。

そうだ、デートをするなんて相手は一言も言っていない。

ただ話し合うだけだとどうして今まで思わなかったのだろうかと、ルルーシュは一気に気持ちを沈めた。
乱していた息と上下していた肩が不思議と止まる。

遠目の彼は私服だというのに・・・。それに、彼の前でスカートを履いた自分を見せたことは無かった。

ルルーシュの下ろした両手がギュッとスカートを掴み、皺を寄せる。

顔を俯かせたまま、後ろを振り返り、後戻りを始めようとしたルルーシュを足止めするように背後から彼女の腕を掴む者が居た。
誰だと振り向けば、笑顔に目を丸くする。

「時間ピッタリだね、ルルーシュ」

更に笑みを濃くされ、ルルーシュは赤い顔を隠すように彼に掴まれていない手で顔を覆う。

「俺はまだそこの噴水に辿り着いていないぞ、スザク」

照れ隠しなのか、待ち合わせ場所に自分はまだ到達していないとルルーシュは言うが、スザクにとってはルルーシュが来てくれたことが全てだ。

「この公園が一面向日葵畑だったから、今、君が立っている場所も思い出の場所だよ」

微笑まれ、そう言われてはルルーシュも返す言葉が見つからなかった。
同時に、沈んでいた自分自身も馬鹿らしくてどうでも良くなり、顔を覆っていた手を放して深い溜息を吐き出す。

「迷惑だった?」

軽く黒髪を一房摘まれ、深い碧色の瞳が紫電の瞳を覗き込む。
鼻と鼻が触れ合いそうな程に近すぎる距離にルルーシュは一度目を丸くして、次にはスザクの顔をまともに見られなくて、瞼を伏せめがちにして瞳を横に逸らした。

「・・・・・・迷惑じゃない」

間が空いた答えだったが、ほんのりと桃色に色付くルルーシュの頬にスザクの胸には期待が募(つの)る。

「この服、僕の為に?」

「それ以外に何がある」

ルルーシュの薄桃色の唇から、ぶっきらぼうな答えが紡ぎ出される。
しかし、それとは反対にルルーシュの髪の合間から覗く耳は朱色に染まっていて、スザクは自惚れても良いかな、とルルーシュの額に口付けを贈った。

身長はルルーシュの方がスザクより僅かばかり高いが、俯いている彼女は今ヒールの低いパンプスを履いており、スザクは底が厚めの靴を履いている為、爪先立ちと不格好な姿勢を取る必要がなかった事にスザクはほっとする。

そして、顔を赤くして恥ずかしそうに身を捩(よじ)るルルーシュの両手に自分の両手を重ねて、指を絡める。

「有り難う、ルルーシュ」

スザクは微笑むが、ルルーシュは見つけたスザクの頬の傷に顔を顰めた。
良く見れば服も泥だらけだったり擦っていたりと喧嘩の痕のように見える。それを瞳で訴えれば、スザクは罰が悪そうに眉を下げた。

「ごめん。ルルーシュがこんなに綺麗なのに」

「俺は謝れと言いたいわけでも、そんな言葉が欲しいわけでも無い」

ルルーシュらしい返答にスザクは苦笑する。
強がりでも無く、他の何ものでも無い言葉はスザクの胸にすとんと落ち着く。

スザクの苦笑をルルーシュがどう取ったのかは分からないが、ルルーシュはスザクの腕を取って歩き出した。

「ルルーシュ?」

何処に向かうんだと言う言葉を乗せるように名を呼べば、彼女は振り向き、こう言った。

「そのコートの泥が取れれば良いんだろ?」

「うん、まぁ」

「コインランドリーなら休日も開いている」

スザクの為のルルーシュの行動にスザクは嬉しくて彼女の右手と自分の左手を繋ぐ。

ルルーシュはスザクの横顔を振り返るが、彼もまた彼女を振り返っていて真正面から顔を付き合わせてしまった事と繋がれたお互いの手の温度を意識してしまい、顔を赤くするのと同時に顔を逸らした。






















ユーフェミアはアヴァロンの一室を貸し切り状態で多数ある画面の一つ一つを目を凝らして見つめていく。

「見つかりましたぁ?スザク君とゼロ」

「ふえ!?」

熱中し過ぎたせいか、ユーフェミアは声を掛けられてビクリと肩を跳ねさせた。
振り返った先にはロイドがランスロットのデータが記された用紙が閉じられているであろうバインダーを手にしている。

「スザク君が戻って来てくれるなら皇女殿下に手をお貸ししますが」

「既に手は貸して頂いていますけれど?」

ことりと首を傾げるユーフェミアにロイドは目を細め、彼女の隣に簡易椅子を組み立ててそこに座る。

「違いますよ。ゼロの正体によってはスザク君が戻って来てくれる可能性が無くなるから困るんです」

「貴方はゼロの正体に薄々気付いていると思っていました」

「興味ありませんからね」

返ってきた答えにユーフェミアは納得してしまった。
彼にとってはランスロットが全てなのだと確信も抱く。

「私も知っているわけではありません。辻褄の合う方が一人、心当たりがあるだけですから」

「女の勘は侮れませんから」

規則正しく無いものと言うか、非科学的なものには興味が無さそうなロイドにそんな言葉は似合わないとユーフェミアは思う。
それが表情に出ていたのだろう、ロイドはユーフェミアの顔を見るなり拗ねた子供のような顔をした。

「嫌ですねぇ、世の中測れない事だってありますよ」

「ごめんなさい」

不満な声色にユーフェミアは苦笑する。
この人がスザクの上司だったならば、彼の仕事場は温かい所であったのではないかと思うのだ。

「で、話を戻したいんですけどぉ」

「はい、ゼロの正体ですよね」

「ええ」

ユーフェミアはにっこり笑い、

「秘密です」

自分の口元に人差し指を持ってきて、そんな可愛らしい言葉を口にした。
それを受け取ったロイドは肩も頭も下ろしてぐったりと気力が失われた。

「ユーフェミア皇女ぉ」

「駄目ったら駄目です」

話は終わったとばかりにユーフェミアは再び画面へと視線を移す。

「スザク君がデートスポットなんて知ってるんでしょうかねぇ」

トウキョウ内のテーマパークの監視カメラの映像を管理局にハッキングし、入手し続けている映像に集中しているユーフェミアにその呟きは届かず、デートならばゼロは女である可能性が高いとロイドは目星を付けた。






















「あの、ルルーシュ・・・」

コインランドリーに到着した途端にルルーシュはスザクの青いコートを奪い取り、ドラム式の洗濯機に放り込み、コインを数枚入れる。

「どうせ財布をすられたんだろう」

「う゛」

設定ボタンをいくつか押せば洗濯機の中に水が流れ、自動的に洗濯を順序良く進めていく。

「たまたまかどうかは知らないが、踏み入ったゲットーで絡まれてしょうがなく数人の相手をしている間に他の奴に金目の物を盗まれた」

そのまますぎて返す言葉の無くなっているスザクにルルーシュは苦笑しながら振り返る。

「俺の金は綺麗じゃないが我慢しろ」

「そんなこと思ってないよ」

自分では正義の味方だと名乗っておきながら、ルルーシュはゼロとして動いている自分が得た金の出所は良いものでは無いと理解している。
だが、スザクは否定した。

ゼロがルルーシュでなければ口にしていなかったであろうそれは奥深くの何かを抉(えぐ)られているようだった。

「無理するなよ、お前がゼロに否定的なのは知っているからな」

「君はまた自分を否定するのか?」

「何の事だ?」

言葉とは裏腹に瞳を揺らしたルルーシュをスザクは見逃さなかった。
けれど、今は言わない。

公共の場であるコインランドリーは今は二人以外に誰も居ないが、監視カメラが備え付けられている。
音声まで拾われていたら不味い。

だからルルーシュも核心をつく言葉は一度も口にしていなかった。

洗濯機が一度動きを止め、乾燥へと移る。
乾いた音に二人は視線を外した。



























◆後書き◆

前半が凄く恥ずかしい・・・。
今時、少女漫画でもこんな展開無いよなー、クサイよなー。
ロマンの一言で片付けよう!

ロイドさんが掴めず。
未だにスーさんの喋り方も掴めず。(オイッ)

そういえばコインランドリー一度も入ったことないなー。
何はともあれ、無事にサプライズ突入出来ましたv


更新日:2007/04/07








ブラウザバックお願いします