◆REMOTE CONTROL story12◆
「貴様は人を信用し過ぎだ。黒の騎士団のアジト、その場所も分かったからにはもう用は無い」
扇のジャケット裏に忍ばせたスティック状の小型探知機をヴィレッタは手に取り、それを扇に見せつける。
赤く点滅するそれはヴィレッタの小麦色の親指と人差し指に挟まれている。
「何時の間に・・・」
「何時だと?随分前の話になるぞ、私が目覚めたその日だ。私の服の裏ポケットも調べておくべきだったな」
驚愕に目を見開く扇にヴィレッタは笑う。
ヴィレッタが壁に突き刺さった包丁を引き抜き、再び扇に突き刺そうとしたその瞬間、下からの物音に動きは止まる。
「ジェレミア卿・・・?」
呟く名は下で眠っていた男の名前だ。
ジェレミアと別々に行動するのはこれから効率が悪い、そう判断したヴィレッタは包丁を投げ捨て、玄関から下の階へと続く階段を駆け下りる。
だが、既にジェレミアが眠っていた部屋は蛻(もぬけ)の殻だった。
あの怪我だ、そう遠くまでは行っていないはずだと思うが、この服装で外に出るのも心許ないと扇の部屋に戻るが、そこに扇は居なかった。
窓が開け放たれ、そこから風が入りヴィレッタの髪を揺らす。
「そこまで考えの無い奴では無いか」
ヴィレッタは自分の血の汚れが付いたままの服を手に取る。
髪を結えば、軍人としての意識を確固たるものにする。
部屋に備え付けのPCに小型探知機を差し込み、表示されたウィンドウにヴィレッタは口元を緩めた。
「海の中を移動している・・・潜水艦か」
ネットを繋げば此処最近のニュースは全て黒の騎士団で持ちきりだ。
今、各地のテロ組織への物資支援が絶たれ、貯蓄分に手を出す頃だ。
ゼロは各幹部を呼び集め、ミーティングルームの王座に君臨している。
「あら、どうしたの?そのほっぺた」
ラクシャータは煙管で扇の右頬に貼られた絆創膏を指す。
「ちょっとブリタニア人に絡まれて・・・」
「そ。気を付けなきゃ駄目よ、副司令さん」
「ああ、気を付けるよ」
そこへ藤堂が現れ、幹部が皆揃った所でゼロは口を開く。
「揃ったな」
次いでゼロは日本地図を広げる。
「桐原氏に各テロ組織への援助を遮断して頂いた。主にカナガワ、アイチ、オオサカ、ヒョウゴだ」
キョウトから大量の物資支援を受けているのは大都市がある県が主だ。
イレヴンの住人も多い。つまりゲットーが大半を締める県。
そして、ゲットーの数に比例するように軍も強化されている。
六大都市はトウキョウ、ヨコハマ、ナゴヤ、オオサカ、キョウト、コウベだ。
キョウトは桐原率いるキョウト六家と神楽耶が治めている。
その他を全て制覇すればコーネリアがエリア11に滞在し続けるのは難しくなるのだ。
「大胆ねぇ。それじゃあ、イレヴンは踏んだり蹴ったりよ」
ラクシャータは煙管を上下しながら楽しそうに言い、ゼロは頷きを返す。
「それで良い。今までそちらに回っていた物資をこちらに回してもらうからな」
「では、私達が物資を援助すると言う事ですか?」
「それも近からず遠からずだ。黒の騎士団内で物資を循環させる、と言えば分かるだろう?」
疑問に返された答えにディートハルトは笑みを浮かべる。
本当にゼロは素晴らしい素材だと。
つまり、各地のテロ組織を黒の騎士団にし、我ら黒の騎士団の規模を拡大させる。
日本を創り、形だけだがイレヴンは日本人に戻り、それは優越感を呼び覚まして士気を上げる。
黒の騎士団は各地の軍に攻め入り、勝利を。さすればエリア11全てが日本の名を取り戻すことになるのだ。
「しかし、それでは路頭に迷うイレヴンが出るんじゃないのか?」
扇の言葉にゼロは溜息を吐く。
「多少の犠牲には目を瞑れ、コレが一番効率が良い」
ゼロの指示ならば扇は目を瞑るしかない。
ただ、気に入らないわけじゃなく、悲しむ人を出したくないのが扇の本音だ。
ゼロもそれを理解した上で、扇へ言葉を掛ける。
「扇、何故私がお前を副司令官にしたか分かるか?」
「いや・・・」
正直、扇は自分なんかが幹部としてゼロと肩を並べられる位置にいるのは不思議だった。
カレンの方がナイトメアフレームを上手く使えるし、戦略を理解するのも早く、彼女が副司令官になっていても不思議に思う者はいないだろう。
「お前の求める世界が私の目指す世界に一番近いからだ」
それに驚いたのは扇だけでは無く、ディートハルトもだ。
扇は争いの無い世界を求めている。それは誰の目からも明らかだった。
だが、ゼロが創ろうとしている世界は誰にも想像出来なかった。
仮面のせいもあるかもしれないが、素顔の彼女を目の当たりにしても分からなかったこと。
ブリタニアを壊していくゼロが目指す世界が優しいものだとディートハルトは嘘でも信じたくなかった。
「だが、その為ならば私は邪魔なものは全て滅ぼす」
矛盾しているかもしれない。
平穏ならばブリタニアに支配されていても得られる。しかし、それを良しとしないのは憎いからだ。
あの国が、あの王が。
「ゼロ、そろそろお色直しの時間だ」
空気をぶち壊すような台詞と共に姿を現したのは紙袋を三つ抱えるC.C.だ。
「おい、勝手に入って来るな」
「男は出て行け」
ゼロの言葉を聞いていないかのようなC.C.の言葉に藤堂は素直に従い、さっさと部屋を出て行く。だが、ディートハルトと扇は困惑の表情で固まっている。
それをラクシャータがソファから立ち上がり、彼らの背を押して部屋から追い出し、ドアを閉め、しっかりと鍵も掛ける。
ディートハルトも扇も展開に着いて行けず、壁に寄り掛かっている藤堂に視線を送るが、彼もまた、知らないと言うかのように首を左右に振った。
『脱がすなッ自分で脱げる!』
『遠慮するな』
『固定しててね、C.C.』
『や、やめろ!何処を触っている!?』
『履かせているだけだろう』
『化粧は薄めで良い?肌白いし』
そんな会話とガタゴトと何かしらの攻防の音に男三人は呆気にとられ、かれこれ三十分経過しただろうか、扉が開かれ、ラクシャータが先に出てきたかと思えば、次の一言に肩を落とした。
「やだ、まだ居たの?」
作戦会議の途中だったはずだと藤堂は口を開こうとしたが、ゼロの姿が見当たらない事に気付き、それを問う言葉を口にした。
「ゼロの姿が見受けられないが」
それにラクシャータは次いで出てきたC.C.に視線を送り、彼女の後ろに屈んで身を隠そうと努力しているルルーシュに視線を移す。
「この子の後ろに居るわよ」
「私の後ろに隠れるな、鬱陶しい」
C.C.が横に退けば、ラクシャータとC.C.の間にルルーシュが現れるが、男三人は一様に目を丸くした。
ルルーシュの姿は何処から見ても女の子だったからだ。
そう、余りにもゼロとかけ離れていた。
白いベレー帽を被り、トータルネックの白いトレーナーの上には薄い水色のキャミソール、膝丈の清楚なクリーム色のプリーツスカートの下には肌の色と変わらないパンスト。靴は白のパンプスと柔らかい色で整えられていた。
「あの・・・ゼロ」
「・・・何だ」
ディートハルトが呼びかければ、ルルーシュは赤い顔を隠すために俯いていた顔を少し上げるが、視線を横に逸らした。
「い、いえ・・・その、お似合いです」
ディートハルトも声を掛けたは良いが、何と言葉を続ければ良いのか分からず、多少考え倦(あぐ)ねいた結果、そんな言葉を漏らしていた。
返答の無いルルーシュは明らかに不機嫌な気配を露わにしている。
ゼロの神経を逆撫でしてしまったかと、ディートハルトは身を強ばらせ、背筋を伸ばした。
「顔を上げろ」
だが、C.C.がルルーシュの頭を鷲掴みにして顔を上げさせると、彼女は見たこともない表情をしていた。
顔を真っ赤にして褒められることに馴れていないように眉を自信無さげに下げ、彷徨うように目を泳がせる。
それには男三人も面食らう。
ただ、本当に女の子なのだと現実を突き付けられ、自分達よりも頼りなさそうに見えるルルーシュがゼロであることに心を痛めるのは藤堂と扇だ。
ディートハルトはゼロのそのような雰囲気は見たくないのか、顔を顰める。
「財布だのハンカチはこれの中に入れておいた。持って行け」
「人の財布をさも自分の物のように扱うなッ」
C.C.が差し出したキャミソールよりも少し濃い水色のポシェットをルルーシュは奪い取る勢いでその手に掴む。
右肩から斜めに掛けられたポシェットが揺れる。
だが、誰もその場から動こうとせず、C.C.がルルーシュの腕を掴んで引きずろうとするが、ルルーシュはその場から動きたく無いようにC.C.の腕を振り払った。
「・・・本当に行くのか?」
「今更何を言っている。作戦会議を今日にしたのは意識していたからだろう」
何もかもお見通しだと言いたげな金の瞳にルルーシュはぐっと詰まる。
ルルーシュのその反応をC.C.は鼻で笑う。
「怖いのか?」
C.C.の挑発をプライドの高いルルーシュは買ってしまった。
◆後書き◆
次には必ずスーさんをば!
オレンジが行方不明になってしまったよ・・・。
ヴィレッタさんはオレンジと無事に合流出来るんだろうか?
ディートハルトもどの位置に持って行こうか悩み所です。
文中に書いてありませんが、ルル様はパット入りブラしてますv
胸の谷間にポシェットのヒモって萌えるわー。
更新日:2007/04/05
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