◆REMOTE CONTROL story11◆
扇は襟首を掴まれ、壁に頭を叩き付けられる。
頬を包丁の刃が掠(かす)め、壁に突き刺さり、頬から鮮明な血が顎を伝う。
「下に居る男・・・」
ヴィレッタが扇に向けた言葉はこの廃墟のマンション、扇の住む一室の下の階で眠っている男の事についてだ。
「あの男は・・・ナリタで瀕死の状態だったのを俺が連れてきたんだ」
ナリタ攻防戦の時に扇は意識の無いブリタニア軍人を連れて来た。
あのまま放って置いても問題は無かったが、人が良すぎるのか、扇は連れ帰って来てしまっていた。
自分が住む同じ階には仲間が何人か住んでいる為、下の階、誰も住んでいない階に彼を匿うことにしたのだ。
「そうか。意識は?」
「まだ一度も目を覚ましてない。点滴の栄養剤で何とか」
軽い植物状態だ。
何時目を覚ますか分からない為、何度か食事を運びに行くと同時に様子を伺っていたが、目を覚ます素振りは無かった。
治療もそこそこに、と言うよりはそこまでの技術も無ければ薬もあまり良いものは無く、もしかしたら有り難迷惑というヤツだったかもしれないと扇が思い始めていた矢先にヴィレッタを助けたという流れだった。
「もう一つ、何故私を助けた?ブリタニアの軍人だと分かっていただろう」
「それは・・・君がゼロの正体を知っているようだったから・・・」
「貴様は黒の騎士団だろう、裏切る気か?」
「そんなんじゃないッそれに・・・正体なら知ったばかりだ」
ヴィレッタは目を見開く。
「まさか、捕まったのか?」
あのゼロがブリタニアに捕らえられたのかと、ヴィレッタは扇の襟首を引き寄せる。
扇が呻くが、それに構う気など無い。
「ッ、いや、騎士団内のトラブルだ」
そうか、それならばまだこちらにも手はある。
扇の襟首を放して、ヴィレッタは口元に笑みを浮かべる。
「俺も質問していいか?」
「何だ?」
「記憶は・・・」
その言葉にヴィレッタは先程の笑みとは性質が違う笑みをその顔に浮かべ、言った。
「最初から喪失なんかしていない。全部お芝居だ」
上の階の物音が大きかったせいか、下の階で眠っていた男はうっすらと瞼を開け、のっそりと起き上がるが、脇腹の痛みに顔を苦渋に歪める。
包帯が巻かれた自身の身体に疑問と同時に辺りを見回した。
知らない場所だ。
確か自分はサザーランドに乗り、ゼロを見つけ・・・赤いナイトメアに・・・。
「・・・・・・ゼロ」
そうだ、彼奴を倒さなくてはならない。
それがジェレミアに行動を起こさせた。
C.C.は上機嫌だ。
黒の騎士団のアジト、潜水艦に戻ってきたC.C.はブランド物の紙袋を二つと何処の店か謎の紙袋を一つ、合計三つの紙袋を抱えていた。
その後ろをカレンが紙袋を一つ持って歩き、その後ろをぐったりしたルルーシュがカレンに手を引かれて半分引きずられるように歩いていた。
彼女らが通る通路にたまたま居合わせた黒の騎士団員は一様に目を丸くした。
C.C.のゴスロリ姿も目を引くが、最も目を引くのはゼロがゼロでは無いことだろう。
C.C.が先頭を歩くので、カレンはC.C.の後を追うのだが、彼女が進む道のりにカレンは疑問を感じ始めていた。
ゼロの自室とは違う方角、格納庫に向かっているのだ。
先に自室に荷物を置きに行くべきではないのかと思うのだが、C.C.の足に迷いは無い。
格納庫に辿り着けば、ラクシャータに出迎えられた。
「ラクシャータ、お望みのモノはコレで間違いないか?」
C.C.は小さな紙袋を一つラクシャータに手渡す。
ラクシャータは紙袋から長方形の箱を取り出し、箱を開けて確認すると満足そうに口元を緩める。
箱の中にはふんわりと白い布の上に大事に置かれた煙管が一つ。
「ありがと。間違い無いわ、特注の特注よ」
「三日後だ、その時は頼むぞ」
「オッケー、任せなさい」
ラクシャータは箱に蓋をし、紙袋に戻す。
C.C.の『三日後』という単語にルルーシュはまさかと、顔を上げるが、既にラクシャータは紅蓮弐式へと背を向けており、C.C.もさっさと格納庫を後にしようと自室へと足を進めており、そのC.C.の後を追うべく、カレンに引っ張られてルルーシュは疑問を口にする隙は無かった。
「ねぇ、ゼロ・・・あ、いや、ルルーシュ」
「何だ?」
後ろのルルーシュを振り返るカレンにルルーシュは面倒臭そうに顔を上げた。
「スカートとか履かないの?」
「九年前までは毎日だったが・・・あぁ、男女逆転祭で数ヶ月前に履いたな」
遠い目をしたルルーシュにカレンはふぅんと気のない生返事を返した。
他愛もない会話だが、ルルーシュが数年間スカートを自分の意思で履いたことが無いのは明らかだ。
こんな会話をしなくても、買い物をしている間のルルーシュの反応を見れば容易に結論には辿り着いたのだが、試着で女の子の格好をすれば、かなりルルーシュは美人な部類に入るんだと分かったカレンは、何故、男の格好をルルーシュが好むのかが疑問だった。
今もパット入りブラで膨らんだ胸元を隠すようにカレンに掴まれていない左手で右肩を掴んで胸を隠そうとしているのもカレンには不思議でしょうがなかった。
服の試着の為に下着専門店を出てからずっとこの格好だ。
「ねぇ、だったら何で女物の服を買いに行ったの?」
「俺は買いたくて買いに行ったんじゃない」
「デートの準備だ」
カレンの疑問にルルーシュは不機嫌そうに答え、C.C.が簡潔に答えを述べた。
「デート?」
C.C.の後ろを姿をカレンは振り返り、再びルルーシュを振り返れば、心底嫌そうに顔を歪めていた。
「俺は行かないぞ」
「勝手に言ってろ。当日になったらソワソワしだすのがオチだ」
「ッ・・・・・・」
肩越しに振り返るC.C.は楽しそうに目元を弓形に細め、ルルーシュはそんなC.C.の顔と予想の言葉に何も返せなかった。
謀らずとも、図星というものだった。
神根島の洞窟にシュナイゼルは再び船を使って訪れていた。
神根島はシュナイゼルが初めてゼロと対面した場所であり、ガウェインを奪われた場所でもある。
ガウェインのゲフィオンディスターバーを完成させて此処で現在行われている実験に役立てようとしたのだが、ガウェインが無い今は少し方向性を変更した。
軍事目的から医療目的への変更だ。
「バトレー将軍、進行状況はどうかな?」
シュナイゼルの姿を見とめたバトレーは実験状況の書類をまとめてシュナイゼルに手渡す。
バトレーは本国で階級も人権も落ちに落ちた所をシュナイゼルに助けられ、その恩を返す為にシュナイゼルの部下となり、彼の実験の補佐をしている。
「はい。順調に進んでいます」
シュナイゼルは手渡された書類の束をぱらぱらと捲る。
ブリタニアの医療技術の進化を示すその書類に記されたグラフにシュナイゼルは口元を笑みの形に緩める。
「そうか、この分だと後どれくらいだい?」
「二週間後には目覚めるでしょう」
バトレーが見上げた先をシュナイゼルも追うように見上げる。
洞窟だったそこはアスファルトやタイルを貼られ、研究所と化していた。
薄暗く、赤いライトが眩しくない程度に室内を照らす。
その中央には大きな柱と言っても過言ではない円柱形のカプセルが立っていた。
カプセルの中は青い液体に満たされ、何本ものチューブを刺された人間を守るようにそこに存在している。
シュナイゼルと同じだが、少し色合いの違う金色の髪は液体の流れに沿ってカプセルの中で揺らめいていた。
シュナイゼルはカプセルに一歩一歩と慎重に近づき、カプセルの前に辿り着くと、そっと片手をカプセルに添える。
見上げれば、肉親が眠っている。
「もうすぐ会えるよ、クロヴィス」
◆後書き◆
とりあえず、シュナクロじゃないよ?
兄弟愛だよ?
何故にハテナ・・・。
サプライズがオレンジかヴィレッタさんに邪魔されそうだ・・・。
なんとかそれは回避したいところです。
C.C.&カレン&ルルーシュの買い物風景どうしようかな。
もしかしたら番外編とか書く・・・ような、書かないような。
更新日:2007/03/30
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