◆REMOTE CONTROL story10◆
潜水艦内の一室で椅子に腰掛け、ゼロは片手に仮面を片手に通信機を持ち、コードを打ち込んで耳に掛ける。
手持ち無沙汰になった片手はもう片方と同じように仮面を掴む。
通信相手はキョウト六家代表の桐原奏三。
今回は資金援助面の話では無く、トウキョウに独立国の日本を創る為の話だ。
『よもや、そのような事が』
受話器の向こうのゼロの計画に桐原は恐怖とも歓喜とも区別しがたい表情を浮かべる。
湿った汗が顎から滴となり、落ちる。
本当に修羅の道を行く気か。
「大丈夫ですよ。こちらには紅蓮弐式と奇跡の藤堂、それにガウェインも手に入れた。本国まではまだ流石に無理ですが、トウキョウだけならば」
コーネリア軍の戦闘データにもゼロは幾つかのパターンを弾き出している。それらの対策も万全だ。
式根島から離れた孤島で白兜をデヴァイサーごと捕獲しようとした時に攻撃してきた戦艦はシュナイゼルが所有するものであるとも分かっている。
シュナイゼルは今、トウキョウを離れているとの情報も入手済み。
あの戦艦だけはトウキョウにあり、シュナイゼルが後ろ盾となっている研究所が所有権を握っている。
軍に在籍しているが、戦闘は素人同然のはず。
『して、何がご要望かな』
「流石、令名でいらっしゃる。実は、そちらと関わりのあるテロ組織への支援を止めてもらいたいのですが」
『っば、馬鹿な事を!!』
それではイレヴンの経済活動がままならなくなり、全てに等しいイレヴンの生活が危うくなってしまう。
だからこそ、ブリタニアもこちらには手出しが出来なかったというのに、ゼロはあっさりとそれを崩す。
桐原の慌てた声にゼロは落ち着いた声色で告げる。
「ご心配には及びません。トウキョウに来れば支援を受けられるのですから」
地方で活動するテロリストを黒の騎士団に引き入れるのがゼロの狙いだ。
支援を受けられなくなれば、受けられる所へ来る。
『そうか、そういう事か』
「ご理解頂けたようで何よりです」
『分かった。直ぐに手配しよう』
「有り難う御座います。成功の祭には是非、日本へと足をお運び下さい」
『よかろう』
「ご協力感謝致します」
通信機を耳から外し、通話を切ればゼロは口元に笑みを浮かべる。
イレヴンの経済が混乱を起こすのは約一週間後だろう。
・・・・・・一週間後。
スザクの声が蘇り、あと三日か、と自室のカレンダーに目を止める。
赤い数字は休日を示している。
「あの場所とは何処のことだ?」
ハッとさせられ、ルルーシュは眉間に皺を寄せてベットでくつろぐC.C.をそういえば居たんだったと振り返る。
「お前は知らなくてもいい」
C.C.が言う『あの場所』がスザクが言ったものだと直ぐにルルーシュは理解した。
「喋りたく無いほどに大切な場所か?」
確かに大切な場所・・・だった。
「・・・もう、何処にも無い」
ブリタニアに塗り替えられたその場所は消えた。
満面の太陽の花を二人で駆けたあの場所は焼け焦げ、埋め立てられた。
「位置は分かるんだろう?」
「俺が行くとでも思っているのか?」
ルルーシュの口から出た言葉はC.C.には予想の範囲内だ。
枕を抱き締め、C.C.はルルーシュを見上げる。
「行けば良いじゃないか。一日ぐらい此処を離れたって問題はあるまい」
「そういう問題じゃない」
「では、どういう問題だ」
そう返せば、ルルーシュは言葉を一度詰まらせ、床を見下ろしてもう一度口を開く。
「決心が鈍る」
俯いているルルーシュの顔をC.C.は見ることが出来ない。だが、瞳を不安げに揺らしているであろうことが手に取るように分かる。
スザクがルルーシュの修羅の道の妨げになることはC.C.も理解している。
しかし、最近のルルーシュは心が不安定だ。
このままではギアスの力に支配され、己を見失う。
「お前の決心とやらはそんなに生半可なものではあるまい」
「当たり前だ。だが、だからこそッ」
顔を上げ、ルルーシュはC.C.を睨む。
紫電は深い色を見せ、C.C.の金の瞳に映り込む。
「ならば何故、日付を気にする」
「ッそれは」
「それとは違う決心が出来れば行けるのだろう?」
艶やかな瞳を細め、口元に弧を描く魔女はルルーシュの私服を引っぱり出す。
「おい、何を!?」
「着替えろルルーシュ、お出掛けだ」
ヴィレッタはベットから起き上がり、与えられた扇の服を着る。
顔を洗い、スッキリしたところで何か作ろうとエプロンを身に着け、台所に入って食材と包丁を取り出す。
タマネギを切っていると、玄関から扇が帰ってきてヴィレッタのエプロン姿に目を丸くした。
「お帰りなさい」
振り返り、微笑んでそう言えば扇は少し戸惑った後に返事を返す。
「た、ただいま」
それにヴィレッタはクスクスと笑う。
扇も照れ笑いを返した後、部屋に備え付けた監視カメラの留守の間の時間を巻き戻し、映像を確認する。
相手は記憶喪失者。
肌の色などからして、ヴィレッタは純血なブリタニア人だと思われる。
名前も覚えていないらしく、世界に怯えるように身を縮こまらせて生きている。
だが、扇はヴィレッタを助けたその日に彼女が口にした『そうか・・・お前が・・・ゼロ』と譫言(うわごと)のように繰り返していたのが気になり匿(かくま)う形になった。
既にゼロの正体が分かった・・・と言っても顔と性別、それからカレンから聞いた事だが、カレンと同級生とのことだけだ。
少ない情報だが、それらが分かった今、ヴィレッタをこのまま此処に置いておくのも釈然としない。
警察か病院に引き取ってもらうべきだろうが、イレヴンの自分が連れていけば事情聴取やらで黒の騎士団に迷惑をかける可能性は高い。
暫くはこのまま様子を見るべきか。
問題無さそうだと、扇は映像を早送りにしていく。
だが、ある一点に気付き、慌てて巻き戻す。
彼女が外へ出たのだ。
外は危ないから出ては行けないと言ったはずだ。
扇は台所を覗き込むが、そこにヴィレッタの姿は無かった。
背後に気配を感じてそちらを振り向けば包丁を手に持つヴィレッタが殺意の瞳を向けていた。
「何で私まで・・・」
カレンは前を歩く二人の少女をじっとりと見つめる。
白、赤、黒と決められた色のいわゆるゴスロリというジャンルの服を身に纏うC.C.は髪をツインテールに結っており、その黄緑色の尻尾を左右に揺らしながら何処から見ても少年なルルーシュの手を引っ張っている。
紅蓮弐式の調整をラクシャータと話し合っていたら突然C.C.に呼ばれてそちらを向けば私服姿のC.C.とルルーシュの姿に驚いてカレンは紅蓮弐式から落っこちて、カエルが潰れるような声を出してしまった。
そのまま私服に着替えさせられて、今に至る。
ルルーシュの不機嫌そうな顔を見ればC.C.の我が侭かもしれないと、溜息を漏らす。
「まずは此処だな」
立ち止まったC.C.にルルーシュは目を見開き、C.C.が店に入ろうと引っ張るが、ルルーシュも負けじと踏ん張る。
「さっさと来い!」
「こ・と・わ・るッ」
傍観していたカレンはC.C.に名を呼ばれて意識を取り戻す。
「カレン!手伝え!!」
もしかしなくても自分はこの為に呼ばれたのだろう。
カレンは店を見上げ、看板を確認して納得と同時にC.C.を手伝うべく、C.C.とは反対のルルーシュの左手を取り、力の限り引っ張った。
看板の店名の右下に小さく彫られた文字はLingerie specialty store(下着専門店)。
スザクはシンジュクゲットーに足を踏み入れていた。
まだ荒れ地だ。だが、人の気配を感じて足を進める。
振り返った数人の若者はイレヴンだ。
彼らはスザクを視界に入れると、憎悪を向ける。
『ブリタニアの狗』
それがゲットーに住む者達がスザクに対する認識だった。
◆後書き◆
トウキョウに日本創るってこんなにも難しいのか・・・。
ルル様は何十通りも一瞬で思い浮かんだんだろうが、私は一通りだ!(悲)
ヴィレッタさんはこんな感じで。
シュナイゼルさんは何処行ったんだ・・・。
C.C.がゴスロリなのは私がこのC.C.のコスチュームが好きだからv
スーさんちょびっと。
これとは違うバージョンでスーさんと子供達の温かいふれ合いバージョンも書いたんですが、しっくり来なかったので削りました。
更新日:2007/03/28
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