押しつける圧力に困惑の瞳を向けた。
判ってくれない相手に悲しみに打ちひしがれる。
その瞳の弱さに押しつけていた手は戸惑いを見せ、訪れた逃げ道に縋(すが)るように上にいる相手を押しのけ、逃げ出した。






◆discrepancy◆






土砂降りなのは分かっていたが、傘を持つことに構っていられる程、ルルーシュに余裕は無かった。
今はただ、離れなければと、それだけを思って無我夢中に靴も履かずに外へ駆け出した。

「ックソ・・・彼奴はいつも!」

ルルーシュとスザクの考えは対立することが殆どだった。
何もかもが思い通りにならない事に苛つきながらも、自分と違うからこその考えに驚かされる事も多かった。



真逆でありながら対等だった。



それが誇らしかった。

お互い納得は出来なくても、理解し合えているという事に。
しかし、何処かに蟠りがあった。
矛盾の関係である自分達は何時まで一緒にいられるだろうかと、考えただけで一気に不安が押し寄せた。

ルルーシュの瞳が雨ではない水滴で溢れ、零れた。

直ぐ後ろに迫る追ってくる足音に頭では逃げ切れないと理解していても身体は逃げることを望む。
それでもやはり、追いつかれ、手首を後ろから掴まれた。

「ルルーシュ・・・」

先程の口論の時とは違い、迷子の子供のようにスザクはルルーシュを呼ぶ。
それでも振り向かないルルーシュにスザクは一瞬の躊躇の後、ルルーシュの肩に手を掛け、こちらに向かせた。

スザクは息を飲む。

「どうして、泣いてるの?」

頬を伝うルルーシュの涙にそっと触れる。
何も言わないルルーシュはスザクから視線を外した。そのままもう一度スザクに背を向ける。
無言の拒絶にスザクは何も言えなくなる。

だが、言葉が駄目ならば、と後ろからルルーシュを抱き込む。

ルルーシュの肩が揺れた気がした。

「・・・放せ」

「嫌だ」

「放せ!」

「嫌だ!!」

いつもなら無駄だと力で抵抗することの無かったルルーシュが、スザクから本気で逃げようとしていることに胸が痛んだ。
しかし、ルルーシュを抱き締める腕はより一層ルルーシュをぎゅっと抱きとめる。

「ルルーシュ。僕が悪かった。だから、帰ろう?」

「・・・・・・・・・わ・・・ない」

「え?」

「・・・お前が悪いわけじゃない」

雨音に掻き消された言葉をもう一度言う。

そこからは一瞬の出来事だった。

ルルーシュは濡れた髪を頬に貼り付け、弱みのある瞳を覗かせてスザクを振り返る。
それに腕の力を弱めたスザクから解放され、身動きが取れるようになると、ルルーシュはスザクに抱きついた。
驚きにスザクは目を見開く。

スザクの手は宙を彷徨い、やがて、ルルーシュをそっと抱き締める。

「ルルーシュ?」

首を傾げて優しく問い掛ければ、ルルーシュは頭をスザクの胸に押しつけた。

「違うんだ。・・・お前が俺の側から離れるのが怖くて」

「ルルーシュ」

いつもより低い声でルルーシュの名を呼ぶと、顔をこちらに向けた紫電の瞳と絡み合う。
その瞳から未だ止むことのない雨をスザクは指で優しく拭い取る。

「僕は君の側にいるよ」

ルルーシュが先程の言い合いで何を思ったのかは分からない。
だけど、何が言いたいのかは分かる。それに応えるように呟けば、ルルーシュは安心したように息を吐いた。









「良いんですか?藤堂さん」

朝比奈は開け放たれた玄関の戸をガラガラと閉めながら近くの壁に背を預けて腕を組んでいる藤堂を振り返る。

彼も今回ばかりは不安・・・というよりは心配しているらしく、厳格な雰囲気を醸し出しながら呻りを一つ。
更に激しさを増した雨音に眉を潜めた。

玄関先に藤堂と四聖剣が集まっているのは二人の主導者が帰ってくるのをこの目で確かめる為。
流石にあれだけの大声でルルーシュの名を呼び追いかけるスザクを目にすれば、何事かと慌てる。
藤堂は血相を変えて玄関を飛び出すスザクを見掛けているから一層不安が募る。

「今は・・・待つのが我らの役目だ」

そう返すのが手一杯。
四聖剣の四人も藤堂と向かい合う形で壁に背を預ける。


沈黙が続き、誰かが溜息を吐いたのと同時に玄関の戸が開かれた。

五人の大人の視線を一気に受けてスザクは目を丸くする。

スザクとルルーシュが共に帰ってきた事に藤堂は安堵の息を吐く。
ただ、気になったのはルルーシュの目元が赤いことと素足だったことだ。
藤堂の視線に気付き、ルルーシュはごく自然な動作で目元をスザクの手と繋がれていない手で隠した。
そこまでされては藤堂も指摘など出来なかった。

「風呂の準備はしておいたから行って来るといい」

だが、親切心で言った言葉にルルーシュの肩が大きく跳ねた。
それを皮切りにルルーシュはスザクの手を放し、スザクから逃げるように藤堂の背後に隠れた。

彼らしからぬ行動にスザク以外の者は唖然としてしまい、居心地の悪い沈黙が続いた。

「ルルーシュ」

笑顔のスザクが何故だか今日ばかりは違った。

藤堂は自分の後ろに隠れているルルーシュを振り返る。
ルルーシュは眉を下げて藤堂を見上げており、いつもの自信家の風貌など欠片も無く、小動物のように弱々しい瞳をしていた。
どうしたものかとスザクを再び振り返ってみるが、こちらも自分がどうにか出来る類(たぐい)の笑顔では無い。

板挟みに藤堂はこの間から抜け出そうと、スザクとルルーシュの前から退こうとしたが、服の裾が突っ張った。
そちらに目をやれば、ルルーシュの手がぎゅっと藤堂の服を掴んでいる。

非常に困る状況だ。

服が濡れるとか、床が泥だらけなのも、どうでも良い。後で洗濯なり掃除なりすれば良いのだから。
しかし、この状況の解決方法はどうすれば良いのかサッパリ分からない。

「ルルーシュ、風邪ひくよ?」

そう言って、スザクは雨粒を床にポタポタと落としながらルルーシュの腕を取る。

「なんで口論になったのか、お前覚えてるよな」

「もちろん。でも、このままだと身体が冷えるじゃないか」

それはルルーシュとて分かっている。
だが、素直に従う事も出来なかった。

「一つ聞くが、・・・・・・喧嘩、の原因は」

喧嘩という表現が正しいのか良く分からず、暫しの躊躇の後、藤堂は二人に聞くが、二人共『喧嘩』の単語では無く、『原因』の言葉に反応を示した。

「大した事じゃ・・・」

「そっか、大した事じゃ無いなら、構わないよね」

ルルーシュが口にしかけた言葉の揚げ足を取り、スザクはルルーシュを抱き上げる。
俗に言う『お姫様抱っこ』である。

「ば、馬鹿!昨日したばかりだろッ」

しかも12時間も経っていない。

「第二ラウンドじゃなくて第一ラウンドである事には変わり無いし」

その会話に藤堂達はある程度の流れを理解した。


喧嘩の原因とは、風呂場で第二ラウンドに突入するか、しないかであった。
もちろん、子作りと言う名の戦いである。
子供なんて出来る訳では無いが、つまりはそういう事だった。


「おい、助けろ!藤堂!!」

「御武運を」

礼をする藤堂に助けを求めるのは諦め、横の四聖剣に視線を送るが、彼らは揃って合掌。

「貴様らも手を合わせるな!!」

藤堂達の視界からスザクとルルーシュが消える祭にスザクはセクハラまがいの事をルルーシュにしでかし、あられもないルルーシュの嬌声が聞こえた事に藤堂と四聖剣は互いに顔を見合わせ、首を左右に振り、風呂場には近づかないように数時間過ごしたのだった。








◆後書き◆

「discrepancy」矛盾、食い違い。

やっぱり四聖剣の皆さんがしゃべれない。ってか、しゃべらせれない・・・。

オチ、こんなんです。
何だか申し訳ないです。はい。

楽しんでいただけましたらば、幸いで御座います。

更新日:2007/02/22







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