◆alumni association◆
突然の電話にスザクは首を傾げた。
学校からの連絡網なら携帯に掛かるはずなのだが、そんな事を思いながらも侍女から受話器を受け取る。
「もしもし?」
少しの警戒と共に慎重に耳を澄ませる。
『お、スザク?オレオレ!分かる?』
流行の詐欺だろうか。
「お金は振り込みません。では」
『ま、待った待った!!タケシだって!中学の!』
電話を切ろうとしたが、あまりの大声に受話器を再び耳にあてる。
中学・・・タケシ・・・・・・。
あ、とスザクは何かを思い出したように顔を上げた。
「あぁ、分かるよ。何か用でも?」
『実は明日の夕方から中学のメンバーで同窓会やろうって事になってさ』
「そうなんだ。でも、行けそうにな」
『で!お前ん家が会場ってことになったから、宜しく!』
「は?え、いや、待って!」
ツーツーツー。
折角の誘いを断ろうとしたが、無惨にも会場は自分の家に決定しており、一方的な電話は強制的に途切れてしまった。
下手に出ようとした自分は一体何だったのか。
掛け直そうにも、中学時代の友人の電話番号なんて覚えているはずも無かった。
当時の連絡網の用紙も遠い昔にゴミ箱の中だ。
しかも、同窓会は明日。突然すぎる。
自分は場所提供をしろ、という事らしいから飲み食い全般は彼らの分担という事なのだろう。
そこに問題は無い。
問題は・・・。
「何を電話の前で蹲ってるんだ?お前」
ルルーシュ、この人である。
彼がブリタニアの皇子だと知られれば、良く思わない者もいるかもしれない。
中学は日本人ばかりの学校へ入学したスザクは過去の選択を悔やんだ。
日本はブリタニアに占領はされたが、特に今までの生活を脅かされた事は一度も無かった。
戦争は別としてだが。
その後は政治から何までがブリタニア式になり、クロヴィス殿下が総督としてエリア11となった日本国を動かしている。
それでも、外国人の移住が多くなっただけでイレブンには何の被害も無い。
だが、戦争で何万人、何百万人の人が死んだだろうか。
計り知れない悲しみもある。
それが、ルルーシュに牙を向く事だけはどうしても避けたい。
ルルーシュはしゃがみ込み、スザクを見下ろす。
反応を返さないスザクにルルーシュは苛立ち、両手でスザクの肩を突き飛ばした。
コケ。
押された肩とは反対側が床に引っ付いた。
随分と可愛らしい転け方をしたスザクにルルーシュはクスクスと肩を震わせる。
「・・・・・・ルルーシュ」
恨みがましい視線をルルーシュに送りながら、スザクは起き上がる。
胡座(あぐら)を掻くスザクと体育座りをするルルーシュは対面する。
ルルーシュの笑いが収まると、スザクは決意を新たに溜息を吐き出した。
「ルルーシュ」
真剣な眼差しにルルーシュは息を飲む。
「何だ?」
「明日は部屋から一歩も出ないでくれる?」
その言葉にルルーシュは戸惑いの瞳を向ける。
スザクとてそんな顔が見たいわけでは無い。だが、此処は心を鬼にするしか無いのだ。
「さっき笑ったのがそんなに嫌だったのか?」
消え入りそうな声に違う!と即答したいのを飲み込む。
けれど、このままではルルーシュを傷つけてしまうと、スザクは鬼にした心を鎮めた。
「いや、違うんだ。中学時代の友人が家で同窓会をするって電話があって」
「ドウソウカイ?」
「そうか、ルルーシュは同窓会知らないよね。うーん、そうだな、お茶会に似てるかな?規模の小さいパーティーのようなものだよ」
「ふーん。で、何で俺が部屋から出てはいけないという結論になるんだ?」
「だって、イレブンばっかりだから君に何かあったら・・・嫌だし」
「そんな壊れ物みたいに扱うな」
不服そうな表情を見せたルルーシュはスザクから視線を外した。
自分の事を思って言ってくれる言葉だとは分かった。けれど、そこまで弱い存在だとは思いたくは無かった。
「・・・ごめん」
それをスザクとて分かってはいる。
騎士は主を守るのが役目。
矛盾しているのはルルーシュだが、守られるだけを良しとしない彼は自ら進むことに躊躇などしない。
守られるより、側に居ることを求めているのだ。
「謝罪の言葉が欲しいわけじゃない」
スザクに視線を戻したルルーシュは真っ直ぐに碧の瞳を見つめた。
それを受け止めたスザクも真っ直ぐに紫電の瞳を見つめ返した。
暫しの間睨み合いが続く。
溜息を吐いたのはルルーシュだった。
「分かった・・・ただし、部屋に閉じ込めるのは勘弁してくれ。その同窓会とやらをやる部屋には入らない。これでどうだ?」
ルルーシュが持ち掛けてきた提案にスザクはこくこくと何度も首を縦に振った。
何だか犬っぽい仕草に見えて可愛いと思ってしまった事は本人には言わないでおこうと、ルルーシュは心の中で呟いた。
翌日。
同窓会の会場と化した枢木家の居間は長机が四つに座布団四十枚弱。
机には鍋が並べられる。コップや茶碗も次々に並べられ、スザクはそれを傍観するしかなかった。
鍋やコップは枢木家のものではなく、同級生が何人かで分担して持ってきたものだ。
「いやー、去年やるつもりだったのにお前行方不明だったからさー。最近戻ってきたって風の噂で聞いたわけよー」
肩をがっしりと掴まれ、スザクはそちらを振り返れば、昨日の電話の主であったタケシが膨れっ面でそんな事を言った。
それに苦笑いを返す。
「色々あって・・・ね」
「いろいろねー。彼女でも追いかけて?」
あながち間違いでは無いだけにスザクは苦笑に苦笑を重ねるという器用な表情をした。
それに他の同級生メンバーが野次馬根性で会話に加わる。
「おおっとー!スザク君衝撃のスクープですか!?」
「枢木君はどんな子が好みなのかな?」
「全クラス、いや、全学年の女子の好意を独り占めしていたお前が幸せになるなんてオレは認めん!」
言いたい放題言われ、スザクは目を白黒させた。
更に追い打ちを掛けるように立て続けに女子まで会話に加わってくる始末だ。
「嘘ー!私、スザク君に告白しようと思ってたのにッ」
「ワタシだって!」
「彼女出来たの!?」
卒業から二年経っているにも関わらず、スザクに好意を寄せている女子は何人もいた。
しかも、積極的に成長なされたようで。
「いや、あの・・・まぁ」
一度に質問を幾つもされても、そう答える事しか出来ず、しかし、それだけで周りの落胆の色やら悔しそうな眼差しやらが向けられた。
「で、ご紹介は何時してくれるわけ?」
「は?」
タケシの一言に間抜けな声を出した。
「その彼女さん」
「うーん。彼女ってわけじゃ無いんだけど」
だって、男だし。
「そう言わずにさー。どんな子なのかくらい教えろよな」
どんな子と聞かれ、スザクは暫し考え込む。
口から出た言葉は。
「自信過剰。艶麗(えんれい:なまめかしく美しい)。気まぐれ。俺様」
「・・・・・・・・・」
分からない。全くもって想像がつかないのだが・・・。
「お前、ムチで叩かれたいタイプ?」
そんな感想を言っても、目の前のほわほわした生き物は首を傾げただけだった。
それと同時に階段を駆け下りるような音が地響きのように耳に届き、同窓会会場の襖が大きく開け放たれた。
「スザク!」
「ルルーシュ!?」
何でと言いたげなスザクの顔にルルーシュは顔を引きつらせながら近づく。
「お前は俺をそんな風に思っていたのか!」
「ルルーシュだって僕の事『体力馬鹿』って言うじゃないか!って・・・・・・その・・・インカム・・・」
スザクはルルーシュの右耳に装着されている黒いインカムに気付く。即ち、盗聴されていたというわけである。
ルルーシュならやりそうな手口に、今更ながらに気付いた事にスザクは落胆の色をみせた。
「俺がお前の要求をそう簡単に受け入れるわけないだろ」
見下ろされるスザクは、ただ、溜息しかその口からは出なかった。
しかし、約束を破られた事にスザクはルルーシュに恨みがましい視線を送る。
それを真正面で受け止めても、ルルーシュは動揺など欠片も見せない。
その睨み合いを間近で見守っていたスザクの同級生達は突然乱入してきた黒髪の青年が先程話題にしていた人物であると認識し始める。
つまり、彼がスザクの想い人という事だ。
綺麗な人だとは思う。思うのだが、『男』ですよね?
いや、偏見は良くない、良くないな。仮にも同級生だ。これから理解すればいいじゃないか。
そんな葛藤と同級生達が戦っているとも知らず、渦中の二人は未だに睨み合いを続けていた。
「ルルーシュ、僕が入るなって言った意味分かってるよね」
聞くまでも無いが、ずっと睨み合っていてもしょうがないと、スザクが先に口を開いた。
「あぁ。だが、お前が守ってくれるんだろう?」
これだから皇子様は自信過剰だ。騎士の忠誠に対しては特に。
だから、スザクも信頼の笑みに微笑み返す。
「イエス、ユア ハイネス」
跪き、口にした言葉の意味が分からない者は此処には居ない。
息を飲んだ者が殆どであろう。
皇族に対しての了解の言葉は、それ程までにエリア11に浸透している。
それを此処で口にするのは自殺行為。だが、ルルーシュは平然としたままだ。
守られる事を承諾する言葉を言った事に後悔も無く、その言葉に対してスザクからあの言葉が返ってくる事も分かりきった事だった。
「・・・ブリタニアの、皇子?」
誰かの呟きにスザクは肩に力を入れた。
しかし、そんな警戒も無駄に終わる。
「本当の皇子様!?」
「オレ、ブリタニア人見るの初めて!」
同級生達は興奮のあまりギャアギャア騒ぎ始めたのである。
そこに殺意など微量も無い事に安堵する。
しかし、これから質問責めの刑に掛けられる事だけは回避出来そうにもなかった。
◆後書き◆
「alumni association」同窓会。
ギャグのつもりで書いていたんですが、どうなんだろ・・・。
妄想していたのと違うものに仕上がりました!(オイッ)
二日間ほどベットの中で色々妄想してましたが、文章にすると別物になっているという。
更新日:2007/02/14
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