◆prayers◆


畳の一室に敷かれた敷き布団は一つ、しかし、そこに眠るのは二人。
朝を知らせる光は障子紙を通して、淡く、尚かつ目覚めを呼ぶように室内を照らす。
光の逆光の中、起きあがる影が一つ。

栗色のクセのある髪がいつもより少し跳ねている。碧の瞳を隣人の寝顔に向けて優しく細める。
暫く、黒髪を撫でていた手をふと止め、時計を見ると後一時間で出発しなければ学校に間に合わない。
惜しいと思うが、そろそろ起こそうとスザクは布団から抜け出る。
膝を突いて彼の人を揺さぶる。

「ルルーシュ、起きないと遅刻するよ」

自分も未だ覚醒状態ではないが、彼の瞳に自分が映されれば確実に目が覚める。
それは間違いないだろう。
それ程までに君に囚われているのだから、この心は。

「・・・・・・う・・・」

小さな声が漏れる。
ギュッと目を瞑る姿は子猫のようで可愛いと思う。
自分の名前を呼んでくれないだろうかと、淡い期待が胸を打つ。

近づきたくてルルーシュの上に覆い被さった。
額と額がくっつく。お互いの体温が溶け合いそうだ。
平和で、愛おしい時間が優しく流れる。

「・・・ルルーシュ」

耳元で呟く。
くすぐったそうに身をよじるルルーシュに自然と笑みが零れ、もう一度、そっとその名を呟く。
閉じられていた瞳がゆっくりと開かれていく。
開かれた瞳の色は綺麗なアメジストで、本当に囚われてしまいそうだった。

「・・・・・・ス、ザク」

「おはよう」

「あぁ」

まだ完全ではないルルーシュは自力で起きあがろうとはせず、腕をスザクの首に絡める。
暗に起き上がらせろ、と。

それに幸せな苦笑を返し、お姫様は我が侭だと言わんばかりに頬を撫で、起き上がらせる為にその背と布団の間に両手を滑り込ませる。
そこへ。襖を開ける音と共に藤堂の声。

「ルルーシュ殿、起床の時間で御座います」

正座をし、頭を下げていた藤堂は顔を上げる。
藤堂が目にしたのは受け入れがたい現実であった。

スザクがルルーシュを押し倒している。としか、言えない体勢が脳裏へと情報として送られる。

言葉を失う藤堂にスザクは冷や汗をかく。ルルーシュもゆっくりと藤堂を振り返る。

「失礼した」

言い終える前に襖は閉じられた。
足早にその場を去る藤堂の足音が遠ざかり、鳥のさえずりだけが耳に届く。
呆然としているルルーシュをスザクは起き上がらせ、苦笑いを一つ。

「どうしよう?」

「ッ知るか!」

失敗した。
いつもより起床が遅くなり、藤堂が様子を見に来たようだ。
スザクとルルーシュの部屋は別だ。隣同士ではあるが、就寝は共にしていた。
不審がられないようにスザクの布団の中には枕がいくつか敷き詰められている。
しかし、それも今日でお終いかもしれない。

「言い訳ぐらい聞いてくれる人だとは思うけど」

誤解ではないが、誤解していそうである。
昨日は何もしていないと言うべきだろうか。
そうこう考えていると不機嫌そうな顔とご対面した。

「ルルーシュ?」

「さっさと着替えろ」

自分の表情に気付いたのか、ルルーシュはすぐさまスザクから顔を逸らし、洗面所へと赴く。
後ろから慌てて着いてくる足音にルルーシュは溜息を吐く。

自分らしくないかもしれない。
不機嫌な理由は自分でも分かっている。
スザクと藤堂が知り合いのようだから、だ。

自分が知らないスザクの時間を彼は知っている。
そのことがルルーシュを追い詰めようと追いかけてくる感覚。

顔を片手で覆い、無表情を作ろうと心懸ける。
鏡の前に立つ頃にはいつもの表情で安堵する。隣に並んだスザクも怪訝な顔はしていない。

顔を洗い、スザクにタオルを差し出され、そのタオルで顔を拭く。
さっぱりして顔を上げると、心配そうなスザクの瞳とぶつかった。

「なんだ?」

「僕は君以外に帰る場所はないよ」

その言葉にはっとさせられる。

自分が気付かないようにしていた感情をこうも簡単に暴かれ、欲しい言葉を伝えられる。
直接的な言葉ではなくとも、その音に含まれるものが判る。

「理想論だな」

冷たい言葉とは裏腹に、ルルーシュは嬉しそうな笑みを。




その後、心此処にあらずの藤堂を元に戻すのに数日掛かったそうだ。
もちろん、スザクが一人で解決したのは言うまでもないだろう。







◆後書き◆

「prayers」祈りの言葉。
藤堂さんとスザクきゅんの話は次回書きたいと思いつつ。
コレはコレで完結。
二人が通ってる学校は言わずもがな、アッシュフォードです。
パラレルですが、本編の設定もちまちま入れて遊びます!


更新日:2007/01/10



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