◆the knighthood◆
コーネリア軍には筆頭エリートと呼ばれるグラストンナイツという騎士団がいる。
彼らは皆、孤児であったがダールトンが引き取り、騎士として育て上げた。
騎士の称号を授かるまでは挫折しそうになるほどの訓練を繰り返し、今も尚訓練は欠かしていない。
グロースターの持つ大型ランスが相対し、火花を散らす。
金髪の青年が相手のグロースターと回線を開き、話し掛ける。
『なぁ、知ってるか?』
二つの大型ランスは押し合い、お互いのグロースターは踵部のランドスピナーで後ろへ後退。
コンクリートで綺麗に固められた地面は砂埃一つ巻き上げることは無かった。
『何を?』
亜麻色の短髪だがウェーブのかかった髪の青年は疑問に疑問を返す。
相手が何の話題を話そうとしているのかを問うために。
『来週騎士の称号を授かる名誉ブリタニア人!』
言いながらグリップを前へ押し上げる金髪の青年はグロースターを前へ走らせ、真正面から大型ランスを突き出す。
相手のグロースターも怯むことなく突き進む。
亜麻色の髪の青年は真っ直ぐに穂先を此方に向ける大型ランスに対して自分のグロースターは一度下に大型ランスを下げる。
金髪の青年はそれで足払いを掛けられると予想して交わりそうになった瞬間に右へ移動するが、相手は大型ランスを上へ振り上げる勢いで金髪の青年が乗るグロースターの大型ランスをその手から取り上げる。
空を舞う大型ランスは少し離れたところでコンクリートに突き刺さり、金髪の青年が乗るグロースターの首は亜麻色の髪の青年が乗るグロースターの大型ランスの穂先に捉えられていた。
『知ってるよ。第七世代に唯一認められた人物は有名人じゃないか』
第七世代ナイトメアフレームの適合検査にはグラストンナイツも実験開始初期段階に参加していたのだ。
だが、第七世代のランスロットはグラストンナイツの誰をも選ばなかった。
この亜麻色の髪の青年は特にランスロットのデヴァイサー第一候補と言われていただけに苦い思いもしている。
『お前は顔見たの?』
『いや、メディアに取り上げられても顔さえ出されないんだぞ。それに俺達はコーネリア様に仕えているんだ。第11皇子と会うこともそうそう無いじゃないか』
『興味無いの?お前の上を行くガキンチョ』
『・・・・・・このままお前の首を取るぞ』
お前の上を行くという言葉に亜麻色の髪の青年はグリップをしっかりと握り直す。
『ま、待てって!今日、父さんがその第11皇子に会いに行くらしいから、みんなでお願いして着いて行こうって!!』
『みんなって・・・・・・あの三人もか』
『そう!』
エリートと言われていてもやはり噂話というものは気になるもののようだ。
だが、亜麻色の髪の青年はあまり良い顔を示さない。
そんな野次馬根性など彼は持っていなくて、尚かつ野次馬の目に見られていたから嫌いなのだ。
同じ境遇だった兄弟とも言える仲間が野次馬根性を発揮しているのも納得いかないところがある。
『そうやって人を覗くようなマネは良くないぞ』
『場所が第七世代の研究所でも?』
『え?』
気にならないはずがない。
既に完成しているランスロットをこの目で見てみたいという思いもある。自分が動かせなかった機体が動いているのを見られるかもしれない。
このまま、彼は釣られてしまうことになる。
ダールトンには新しいナイトメアの性能をこの目で確かめたいと言えば、快くお供することを許してくれた。
「やはり気になるか、あのナイトメアが」
ダールトンは眉間を通る古い傷のある顔を柔らかくして亜麻色の髪の青年の頭を力強く撫でる。
「茶化さないで下さい、父さん」
「もうすぐ研究所だ。そこでは父さんと呼ぶなよ、息子達」
「分かってます、ダールトン将軍こそ」
「勿論分かっているさ、ナイトの諸君」
しかし、こんな大人数で押し掛けても大丈夫なのだろうかという不安がある。
亜麻色の髪の青年は後ろに少し下がり、一番髪が短く、銀の髪に橙色に輝くサングラスを掛けている青年に話し掛ける。
「お前までアイツらの話に乗るなんて珍しいな」
「それを言うなら君も・・・いや、エースパイロットの座を奪われたんだ、気にもなるか」
「お前までそんな事言うなよ、でも、こんな大人数で行って大丈夫なのか?」
「さあな。研究所はそれなりに大きいし大丈夫だろうが、これじゃあ遠足だな」
銀髪の青年が後ろを親指で指し、亜麻色の髪の青年は後ろを振り返れば、金髪の青年とオレンジ色の髪の青年が言い争っているのを青い髪の青年が宥(なだ)めていた。
その状況に亜麻色の髪の青年は溜息を落とす。
「そういえば父さん、どうして第11皇子殿下と会うのに研究所なんですか?」
銀髪の青年がサングラスを直しながら問い掛ける。
「姫様のご命令でな、ランスロットの力を貸して頂きたいそうだ」
最初はコーネリア自らが訪ねる予定であったが急用が出来てしまい、ダールトンが代わりに訪ねる形となったのだ。
しかし、そんな話をグラストンナイツの面々は黙って聞いていられなかった。
「どういうことですか!俺達が居るのに他の所属の者に命を下すというのは!!」
「熱くなるな、グロースターでは空を飛べないだろう」
ダールトンは亜麻色の髪の青年を宥めるように言い、他の四人にも少し困ったような顔を送る。
「ただ偵察を頼むだけだ。我々が赴くような任務ではない」
「しかし!」
「もう研究所だ。大人しくしてるんだぞ」
「・・・・・・・・・はい」
返事にダールトンは苦笑するしかない。
扉をIDカードで開き、中に入る。
中心にはランスロットが立っており、純白のボディに金で飾られる巨体にグラストンナイツの五人は目を奪われる。
見るのは初めてでは無いのにも関わらず。
「ダールトン、話というのは何だ?」
そこへ黒の皇族服を纏うルルーシュがダールトンに向かって歩いてくる。
父親とも呼べるダールトンを呼び捨てにする自分達よりも年下の少年にグラストンナイツの面々は皇子なのだからと割り切れない気分を味わう。
「はい。枢木の件でまずは貴方に許可を頂きたいと思いまして」
「姉上の命か?」
「はい」
「俺に拒否権は無いのにそういう所は律儀だな、姉上は」
拒否権は無いという言葉にダールトンは顔を顰める。
当然の事ながらルルーシュよりもコーネリアの地位は高く、軍務に関する事ならばルルーシュは断れないのだ。
ナナリーを守るためにも。
「取り敢えず内容を聞こうか、彼奴はまだ正式に俺の騎士じゃないから他人の命令を受け入れる義務があるけどな」
まだスザクは軍人という扱いなのだ。皇族の命令も上司の命令も絶対だ。
「はい。ランスロットでの偵察をお願いしたいのです」
「場所は?」
「砂漠地帯です。何も建物が無いので空からの偵察が必要でして、ヘリではもしもの時に反撃出来ないのです」
「戦闘の可能性があるのか?」
スッと目を細めたルルーシュにダールトンは一歩退きそうになるが、息を飲んで退くことはしない。
「無いとは言い切れません」
「そうか・・・」
ルルーシュは一度瞼を伏せ、感情の見えない瞳を覗かせた。
「後は本人に頼め。俺は何も言わない」
「有り難う御座います」
「呼んでくるから待ってろ」
ルルーシュはダールトン達に背を向けてランスロットへと歩を進めていく。
佇むランスロットの足下に辿り着いたルルーシュはコクピットまで続く鉄の階段を登る。
蓋の開かれたコクピットブロックをルルーシュは覗いた。
「スザク、お前にお客様だ」
「え?僕に?」
コクピットに座っていたスザクはルルーシュの声に振り返り、そんな疑問の声を出す。
「あぁ、ダールトンからのご指名だ」
「ダールトン卿が?」
ダールトンとはこの前訓練を共にしたが、それ以外ではコーネリアの横に控えているのを目にしたぐらいで特に面識が無い。
そんなこともあり、スザクの頭には疑問符が飛び交う。
危ないからとルルーシュの頭を引っ込ませて、スザクはコクピットの椅子を後ろへ下げる。
コクピットから降りたスザクはランスロットのOS部分の調整のみをしていた為、パイロットスーツではなくて特派の軍服を身に纏っている。
ルルーシュの横に並び階段を降りていたスザクは最後の残り三段目で先にルルーシュより地上に辿り着き、ルルーシュを振り返って右手を差し出し、その手をルルーシュは一度目を丸くして見つめて、次の瞬間には柔らかく目元を緩めてスザクの手を右手で取る。
一、二、三、とスザクに手を取られたまま慎重に降りる。
地上に降り立った二人を待っていたのは微妙な顔しているダールトンだった。
皇女殿下直属の騎士であったならばルルーシュとスザクのやり取りはそう疑問にも思うことではないのだが、皇子殿下直属の騎士は常に皇子の後ろに控えているのがごく当たり前と言える。
そこまで変だと言えることではないだけにダールトンも対応に困る。決まってルルーシュとスザクが並んでいる時に感じるものに気付くべきであるのか、気付かないべきであるのか。
「枢木少佐、貴殿に協力を願いたい」
「自分にですか?」
「コーネリア殿下より砂漠地帯の空からの偵察は貴殿にしか頼めぬと言付かっている」
「自分は構いませんが、ランスロットでの出動はロイドさんに許可をもらいませんと」
「それなら心配いらないよ〜、僕も飛行パーツのデータ取りたいしねぇ」
突然横からダールトンとスザクの間に顔を出したロイドはノートPC片手に楽しそうに口元に笑みを浮かべる。
「ならば問題は無いな。では、枢木少佐、明後日には此処を発つ。詳しくは明日、コーネリア殿下より連絡があるはずだ」
「Yes, My Lord」
しかし、それを素直に受け入れられないのが五人。
おそらくその日の作戦には待機としてグラストンナイツや他の騎士達は控えているのだろう。戦闘が無いとも限らないし、向こうが戦闘態勢を整えているのならば完成する前に叩き潰さなければならないからだ。
それでも先陣を切れない悔しさが五人の中に生まれる。
「ダールトン将軍、彼と勝負をさせて頂きたいのですが」
その言葉にスザクとルルーシュは目を丸くて、ロイドは新しい玩具を見つけたように、ダールトンはどうしたものかと眉尻をさげて、亜麻色の髪の青年を振り返る。
「何の勝負をするつもりだ?」
「勿論、ナイトメアでどちらが強いのかを勝負させて頂きたい」
ダールトンはその答えに呻りつつ、スザクに視線を送れば彼もどうしたら良いのか分からない顔をして首を傾げるばかり。
そのスザクの前に進み出て亜麻色の髪の青年は言い放つ。
「枢木スザク、貴殿に一騎打ちの勝負を願いたい」
「えっと・・・・・・・・・はい」
あまりにも真剣なスカイブルーの瞳にスザクは頷いてしまった。
二人はパイロットスーツに着替え、場所を少し離れた競技場に移し、その中心でランスロットとグロースターは向かい合う。
量産機のグロースターの角は短く、コーネリア専用グロースターと同じくマントをその背に靡かせていた。
両肩にはミサイル砲。右手には大型ランスを構えたフル装備だ。
それと向かい合うランスロットもまたメーザーバイブレーションソードをコクピットブロックのサイドに装備し、ヴァリスを右手に持つ。
ロイドが持つ銃が銃声を轟かせて、ランスロットとグロースターが同時に動き出す。
初めてランスロットが戦闘を目的に動くところを見るグラストンナイツのメンバーは息を飲むことさえも忘れる。
明らかにグロースターよりも速い。
だが、速い分、的を正確に射るのは難しいだろうと高を括(くく)る。
しかし、すぐ近くに立つルルーシュは余裕の笑みだ。
自分の騎士になる者の勝利を既に分かっているように。
ダールトンは自分が育てた騎士がどこまでやってくれるのかを親としての目で成長を見ようとグロースターを見上げた。
グロースターは肩からミサイルを放ち、ランスロットは足下を狙ってくる弾を全て避けながらヴァリスを放つが、大型ランスを盾にされてグロースターには傷一つ付けることは出来なかった。
「速いな」
亜麻色の髪の青年は歯を食いしばり、接近し過ぎた距離ではミサイルを発射すれば自分の機体にも被害がある為、距離を取る為に後退する。
しかし、近距離は遠くならずに縮まるばかり。
ランスロットはヴァリスを投げ捨てて、メーザーバイブレーションソードを引き抜いて向かい行く。
グロースターは大型ランスを突き出すが、ランスロットは身を屈めてグロースターの懐に入る。
しまったと思った時には既に遅く、ランスロットの蹴りがグロースターの腹部に深く入り、大型ランスは手を放れてグロースターは競技場の壁に背中から叩き付けられる。
グロースターが次の動きを見せる前にランスロットはメーザーバイブレーションソードをクロスさせてグロースターの首を挟むように壁に剣先を突き刺した。
「勝負ありだな」
ルルーシュは満足そうに言い放ち、グラストンナイツの面々はやり切れない思いを抱くが、ダールトンに肩を叩かれて思い直す。
まだ自分達にはまだまだ訓練が足りないのだと。
「もう少し早く決着が着くとおもったんですけどね、僕は〜」
「どういう意味だ?」
「貴方がラブコールすればもっと早いのにぃ、と思っただけですよ〜」
「・・・俺はまだあの時の事を許したわけじゃないぞ」
「シンクロ率百パーセントを叩き出してくれたのは傑作でしたねぇ。出来ればもう一度スザク君と寝て欲しいんですけど」
「お前の実験の為には御免だ」
そのロイドとルルーシュの会話にダールトンとグラストンナイツは固まる。
空気の変化にルルーシュは後ろを振り返り、自分達以外にギャラリーがいたことを忘れていた己の失態を呪ったのだった。
この後、犬のように尻尾を振って駆け寄ってくるスザクからルルーシュが逃げたのは言うまでもなく、捕まるのも目に見えていることであろう。
◆後書き◆
「the knighthood」騎士団。
グラストンナイツの皆さんの口調が分からず・・・。
やはりプライベートと仕事では喋り方が違うはず!と・・・色々妄想捏造。
久しぶりに騎士皇子を書いたので矛盾がありそうで恐いですねぇ。
しかもスザルルシーンと言えるのかも微妙なものを。
しかし、もう一話くらいグラストンナイツ書きたいです。
更新日:2007/09/24
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