※ルルーシュ女体化長編小説「REMOTE CONTROL」の過去話第三弾です。
※小説版とドラマCDのネタバレ&捏造あり
※全然OKな方はどうぞ!




《REMOTE CONTROL 〜sunflower〜》




照りつける太陽に先程の事も重なり、ルルーシュはげんなりと前を勇ましく歩く少年に向かって呟く。

「運転経験がゲーム・・・」

「悪いか?ちゃんと運転出来たし、目的地にも来れたんだから良いだろ」

「多少のスリルを省けば結果は僕だって満足だけど、物事を進めるにはある程度の条件が必要だろ?」

「俺に何が足りないってんだ?」

「経験値だよ」

疑問の顔で振り返ったスザクに答え、ルルーシュは彼の隣に並んで歩く。
いつもはナナリーと三人で遊ぶのだが、今日は二人だけ。
今二人が歩いている足場が悪い事も理由の一つだが、最大の理由は此処が枢木の敷地外だから。

危険すぎるし、もし失敗して最愛のナナリーにお叱りの言葉がのし掛かるのは嫌だとルルーシュはスザクの作戦に協力することを断り続けたのだが、あまりにもしつこいので渋々といった感じにナナリーを巻き込まないのならと、やっと重い腰を上げてくれた。
ナナリーがいないのは残念だが、それでもスザクが喜びにぱっと笑顔になった途端にルルーシュは苦笑しながら爆弾の作り方、ルートを導き出していた。

そして作戦は決行され、今に至る。

問題は一つ。
ルルーシュにとってのイレギュラーがスザクであったことだ。

日本では何歳から車に乗れるのか調べておくべきだったと後悔する。枢木家の侍女達に聞けば教えてくれていただろうし。

「おッ、もうすぐだぞ!」

「木、ばっかりだけど・・・」

スザクが真っ直ぐに指差す方をルルーシュが見つめても、目を凝らしても見えるのは雑木林。

「匂うだろ、花の匂い」

「はな?」

「ほら、早く行くぞ!」

「って、おい!引っ張るなよ!」

スザクの野生の勘は今に始まった事では無いが、ルルーシュがキョトンとしているとスザクは焦れったそうにルルーシュの手を取り、導くように走る。
いきなり手を取られ慌てるのはルルーシュだ。

ぎゅっとスザクの手を握り返せば、スザクは何かに気付いたのか走る速度を緩めた。
僅かすぎる変化にルルーシュは気付かなかったのだけれど。

二人で走りながら雑木林を抜ければ一面の少し濃い若草色のてっぺんに鮮やかな黄色が彩り鮮やかに飾られている花畑が広がる。

「うわぁ・・・」

「な!すげーだろ!!」

感嘆の声を漏らすルルーシュにスザクはとても誇らしそうだ。
照りつける太陽が全てを眩しくする。

「うん。凄いな」

「全部ひまわりなんだ」

「サンフラワー・・・太陽の花か」

「サン?ブリタニア語?ブリタニアにもあるのか、ひまわり?」

「あぁ、見たことはあるけど、こんなに凄いのは初めて見たよ。ブリタニアは人工的に作られた物が多いから」

ルルーシュが向日葵を見上げる横顔をふとスザクは見て、未だに手を繋いだままであることに気付いて慌てて出来るだけそっと手を放すが、ルルーシュが何の前触れもなくスザクの方に顔を向けたのでスザクはバレたかと顔を赤くして視線を泳がせた。

「スザク?どうかしたのか?」

しかし、バレたわけでは無く。

少し屈んで身長差のないスザクの顔を心配そうに覗き込んで来るルルーシュにスザクは顎を上げて何でもない風を装うが、ルルーシュはそれで「はい、そうですか」と引き下がる性分では無い。

「顔が赤いぞ、熱でも・・・」

更にルルーシュが顔を近づけて来てスザクはその紫電の色に引き込まれるとも吸い込まれそうになるとも違う感覚に戸惑い、焦る。

スザクの行動は迅速だった。
がしりとルルーシュの肩を掴み、自分との距離を作るために引き剥がす。
少々乱暴にし過ぎたかと、スザクは今までないくらいに頭を廻転させて言葉を探したつもりだった。

「だ、大丈夫だ!俺は!元気だぞッ病気じゃない!俺は健康体だ!!不死身だ!!分かったな!!!分かれ!!!」

最後にルルーシュに指を突き付けながら自信満々に宣言するスザクに呆気にとられ、ルルーシュは一瞬唖然とするが、彼の必死さと滅茶苦茶な言葉に笑わずにはいられなくて、ルルーシュは肩を震わせる。

「ッ〜あはは、ははははは」

「な、なんだよッいきなり!」

「だ、だって君ッ不死、身・・・・って、あはは」

スザクは「あ」という顔をして自分の発言の馬鹿馬鹿しさとそれが目の前の少女にツボってしまったという事実に何だか恥ずかしさに襲われる。
一気に全身が噴火して顔も耳も真っ赤だ。

「わ、笑うようなことじゃないだろう!てか、そんなに笑うな!!馬鹿にしてるのかッ」

「してる」

「・・・お前なぁ」

突然笑いを止めて真剣な顔で肯定されてスザクは一気に冷めた。同時に重い物が肩や頭にのし掛かってきた感じだ。

「可愛くねぇなぁ」

「可愛くなくて結構だよ、女扱いはやめろ」

「はいはい、皇子様」

「それも微妙」

「我が侭な皇女様だなぁ、少しはナナリーみたいにおしとやかになれよ」

「君に言われたくない」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

お互いの無言を合図に二人は同時に静かに肩を震わせて、大きな声で楽しそうに笑い合った。
向日葵達が二人を優しく見守っている。





ただ、穏やかに。





「ははは、そうだ、ルルーシュ」

「ふふ、何?」

「お前は、さ、将来、どうするんだ?」

突然の問い掛けにルルーシュは笑っていた息を沈め、スザクは真っ直ぐにこちらを見ていた。

「多分・・・皇女のままだろうな」

「無職?」

「失礼なことを言うな、仕事ぐらいあるさ。各国の会議とか色々。・・・でも、僕の利用価値なんてブリタニアにとっては何処かの国との同盟の為に嫁がせるくらいだろ。ナナリーも・・・」

「結婚・・・てことだよな」

「お前と神楽耶みたいに上の奴らに勝手に決められた名も知らない皇子とかな。当事者の意見なんてどうでも良いんだよ、国単位の大事だから」

沈黙がその場を支配して、スザクは地面に腰を下ろす。服が汚れるなんて事は気にしたことはないが、すぐ隣でルルーシュも腰を下ろしたことに僅かに驚く。
スザクの中では『女=身だしなみを気を付ける』だからだ。

あまりルルーシュを女だと割り切っている部分は無かったりするのだが。それに彼女の服装も初めて会った時と変わらず、男の子の格好だ。
スザクはルルーシュがスカートを履いている姿を一度も見たことが無い。

「・・・俺はさ、藤堂先生みたいに軍人になるのも良いかなって思ってる」

「軍人・・・」

「お前は嫌いな職業かもしれないけど、俺はこの国に誇りを持ってる。だから俺に出来ることがあるなら・・・・・・」

「別に嫌いじゃないよ、僕は・・・でも、首相にはならないのか?」

「俺には無理だ。あんな難しい事」

「学校で学べば大丈夫だろ?君、そんなに頭悪く無いし。ああ、でも、君の場合はその無駄な体力を活かした仕事の方が良いか」

「お前、最近毒舌だな」

「そう?」

「あー、でも床屋さんとかも良いよなぁ」

「ナナリーの髪は切らせないからな」

「俺の方が上手いのに」

「絶対に触るな」

「じゃあ、ルルーシュの髪は?」

「へ?」

スザクがルルーシュの髪に手を伸ばす。
初めて触る感触にスザクはなかなか手を放さない。

じっとそのままで、スザクがふいに黒髪からルルーシュの顔に視線を向ければ、彼女はどう言い表したら良いのか分からない顔をしていた。
スザクは何か違和感を覚えて髪に触れていた手を引っ込めれば、ルルーシュは息を吐いた。

髪を触られている間ずっと息を止めていたらしい。
ルルーシュが息をすることも忘れていたのは、長かった髪を引っ張られ、小さなナイフでバラバラに切り取られていく自分の髪が散らかる中で乱暴されたことを思い出したからだった。

髪は女に切られ、身体は男に汚された。

こんな些細なことで蘇るような記憶では無かったはずだったのだが、そう思っていたのはルルーシュだけのようだ。

「ルルーシュ?」

「あ、いや、何でもない」



知られたくない。

聞くな。

言いたくないんだ。



「騎士・・・は?」

「ん?」

話を逸らそうと、ルルーシュの口から出たのは騎士という言葉だった。

「僕の騎士になるのは?」

「えー、やだよ、忠誠を誓うだとか何とか、しかもお前の手下なんて」

「・・・・・・そうか、そうだな」

ルルーシュは無表情を微笑みに変える。

「何、笑ってるんだ?」

「別に。ただ、騎士は友達じゃないな、と思って」

「何だよ、それ」

「騎士になったら友達じゃなくなるだろ。だから君は僕の友達なんだよ」

「・・・あったりまえだろッ俺達二人いれば出来ないことなんて無いんだからな!」

一瞬黙り込んでいたスザクは直ぐにルルーシュの言葉の意味に気付き、ニカッと笑って答えた。
スザクは立ち上がり、手をルルーシュに差し出し、ルルーシュはその手を何の迷いも疑いもなく取り、立ち上がる。

「あぁ、そうだな」

笑い合えば、二人は向日葵畑の散策を再開する。
ゆっくり歩きながら向日葵の匂いを堪能していく。絶妙な自然の色合いにも目を奪われる。

「あ、ルルーシュ見ろよ、アレ」

スザクが急かしてルルーシュを引っ張ってある一本の向日葵と出会う。
その向日葵は一本だけ他の向日葵達より三十センチ以上は背が高い。
ルルーシュやスザクの二倍は優に越えている。

「大きいな」

「だろ。コレをナナリーのお土産にしようぜ」

「え、でも勝手に取ったりしたら駄目じゃないのか?」

「へーきへーき」

「でもここまで大きくなったのに可哀相じゃないか」

「ナナリーの喜ぶ顔見たくないのか?」

「それは・・・見たいけど」

「大丈夫だって、ここのばあちゃんボケてるし」

「君の無神経さは尊敬するよ・・・」

ルルーシュが溜息を吐いても、スザクは気にせずに向日葵達の中に足を踏み入れる。

「ちょっと待ってろよ」

スザクが向日葵の根本の茎を握れば、ドンドンドンと重い音が続き、警報の甲高い音が耳に届く。

「何だ?」

スザクは向日葵から手を放し、空を見上げた。
彼が視覚で捉えたのは無数の戦闘機だった。

「雷?」

ルルーシュは訝しげに晴天の空を見上げたが、スザクは駆けていく。

「おい、スザクどうしたんだ?」

「確かめてくるだけだ!」

「確かめるって何を!」

スザクの気を張り詰めた声にルルーシュもスザクの後を追うように走る。

「危ないからお前はそこで待ってろ!」

「危ないって何がだよッ」

「飛行機!」

「え?」

「戦闘機かもしれない!だからお前はッ」

「僕も行く」

「なッお前!」

「ブリタニアかもしれない・・・」

「え?」

「EUや中華連邦よりもその可能性は高い」

「でも、お前もナナリーも此処にッ」

「用済みなんだろ、僕とナナリーはあの国にとって!」

「そんな・・・・・・クソッ」

スザクは崖を駆け登る。
身軽な彼は簡単に登り切るが、ルルーシュはそうもいかず、必死に崖に手を引っかけて登ろうとする。

「遅いぞ、ルルーシュ」

「そんなこと言ったって、君が体力馬鹿なだけッ」

「手伝ってくれって言えばいいだけだろ、ほら」

「うッ」

スザクに差し出された手をルルーシュは必死に掴む。
スザクの力を借りて崖を登り切り、息を切らして肩を上下させていたが、大きな爆音にハッと顔を上げた。汗を拭い取るのも忘れて。

五月蠅いセミの鳴き声が突然消える。

点々と見える光は戦闘機だ。
それも数え切れないくらいの。

ルルーシュとスザクはじっとそれを見つめた。
スザクの世話役とルルーシュの見張りの者達が来るまでずっと。












二人の別れは近い。

































向日葵の着物を来た少女は向日葵の花弁を一枚抜き取る。

「これを・・・お前は望んでいたのか?」

いいえ、私は破滅なんて望んでないのよ・・・望んではいけないわ
幸せって遠いものなのね

「・・・あぁ、すまない。お前の予感はハズレばかりだったな」

勘だけは昔からね

「まだ数年待つことになるが、良いのか?」

あなたこそ私の何倍もお年寄りでしょ?

「言ってくれるな、確かに私のほうが時間の感覚は狂っているさ」

そうね、頭も固くなったし、おばあちゃんみたいよ

「結構言うようになったな、そこの環境に馴れたか?」

環境ねぇ、モノクロの風景も最近では味わい深くなってきたものだわ

「お前は少し抜けているからな。それが遺伝していないことを祈るよ」

私の娘達はしっかりしてるわ
それに、ルルーシュにはこれから運命が待ち受けているから、しっかりしてもらわないといけない

「運命か・・・」

切なそうね・・・

「不確かなものだと思っただけさ。私がすることは決まっている。だから私に関わる者は全て運命ではなく、必然の導きだ。答えをみんな知らないだけで、既に答えはあるんだよ」

必然の答えがあの子達の道なのね

「魔神の誕生を」

向日葵の花弁が少女の手を離れた。































「スザク?」

自分の手を握ってきたスザクの手に、ルルーシュは戦闘機から視線を逸らせば、深い碧の瞳と向かい合った。
息を飲めば、彼は更にぎゅっと強く手を握ってきて、ルルーシュも答えるようにぎゅっと握り返した。

「ルルーシュは俺が守るからな」

「無理だよ・・・」

「ルルーシュは俺が守るんだ!だから勝手に何処か行くなよ」

それでも、日本は国のためにルルーシュとナナリーを生贄とするだろう。
子供の言葉なんて聞き入れてくれるはずが無い。

ルルーシュは視線を落とした。

「僕達の身がどうなるかなんて、だいたい分かる。・・・それでも、ナナリーだけは・・・」

「俺には難しいこと分かんねぇけど、だけど、絶対離さないからな、絶対!」

見つめてくる瞳は必死で、それでもとても綺麗で。



純粋だった。



「・・・うん。僕も・・・・・・離れたくない」

戸惑い、彷徨っていた視線は、真っ直ぐにスザクに気持ちを伝えた。
離れたくないのだと。

「なら、約束だ」

スザクは大きく息を吸って、宣言した。

「日本男児、枢木スザクはルルーシュ・ヴィ・ブリタニアを守ってやる!守り抜いてみせる!だから、勝手に何処かへ行くなッ俺の側に居ろ!!」

ルルーシュは俯き気味にこくりと頷いた。
告白にも似たその言葉にスザク自身は気付かず、ルルーシュは頬に熱が溜まっている不思議な自分を見られまいと顔を上げず。

しかし、また大きな爆撃の音に二人は弾かれるように空を再び見上げる。
灰色の空が何処までも続いていた。

















スザクが自分の気持ちに気付いたのは終戦後。





ルルーシュが自分の気持ちに気付いたのは七年後。
















二人が惹かれ合っていたのは初めての出会いからだった。

























後書き

『sunflower』ひまわり

過去編はこれで終了です。
当初の予定通り三本で終わって安心しています。

今回の執筆中のBGMは・・・何だったかな・・・?
えっと、あぁ、多分「こ/の/醜/く/も/美/し/い/世/界」と「ヤ/ミ/と/帽/子/と/本/の/旅/人」のOPです。はい。
自分の部屋の奥から引っぱり出して・・・電/王やらと取っ替え引っ替えにリピートの繰り返しをば。


『拍手掲載との違い』
マリアンヌ様の会話を追加。



更新日 2007/10/06