※ルルーシュ女体化長編小説「REMOTE CONTROL」のスザ+ルル+神楽耶。
※一部ギアスの小説版のネタバレっぽいところがあります。
※全然OKな方はどうぞ!



《REMOTE CONTROL 〜before story_engagement〜》



気に食わない。



気に食わない気に食わない気に食わない気に食わない気に食わない!

神楽耶は幼いながらも整った顔立ちの頬を膨らませて、どすどすと枢木神社の縁際を歩いていた。
そのまま婚約の儀式を終えた一室に入り、道具を清めている枢木ゲンブと桐原奏三に神楽耶は大声で叫んだ。

「おじさま!私を一週間ココに置いて下さい!!」

ゲンブは振り返り、神楽耶を視界に収めると少し考える素振りを見せた後に溜息を吐いた。

「神楽耶、儀式では二日だけ同じ屋根の下で住むのが習わしだ。例外を出すわけにはいかない」

「どうしても、駄目ですか・・・」

視線を落とした神楽耶にゲンブは首を捻る。

「何故、そんなにも固執(こしつ)する必要がある」

「だって、スザクは・・・私を見てくれない」

神楽耶は着物の裾をぎゅっと皺が出来る程掴み、顔を上げた。

「ブリタニアの皇女と一緒に遊んでいたんです。儀式が終わった後、スザクの後を追ったら、そこで・・・」

言い淀んだ神楽耶はきゅっと唇を引き締めた。
泣き出しそうに顔を歪めた神楽耶に慌てはしないものの、ゲンブは小さな呻りを漏らした。

スザクがブリタニアの皇女達と良く遊んでいるのは知っていた。
あの蔵はスザクが気に入っていた場所だったせいもあるだろう。
特にゲンブもスザクを咎めなかった理由があるのだ。
それはスザクの学校での成績が上がっている事。

皇女が来てから一ヶ月後ぐらいにテストの点数が良くなっていた。
珍しく、ゲンブがスザクを自室に呼び、褒めれば、スザクは誇らしげにブリタニアの皇女、ルルーシュに教えてもらったのだと言っていた。
それまではスザクが皇女達の住む蔵に通うのを渋面で見守っていたゲンブも特別、スザクに何も言うのでもなく、ただ放って置いたのだ。
それが思わぬ所で躓(つまづ)いてしまう事になるとは。

「枢木、神楽耶とてそういう年頃ということだ。日にちが短くなるなら問題だが、伸びるのは歓迎すべきことではないか?」

桐原の助け船に神楽耶は瞳を輝かせた。

「うむ、しかし」

「儂が面倒を見よう。最近は大きな取引も無い」

「良いのですか?」

「お主は忙しかろう。明日には東京に発つそうじゃないか」

苦笑を漏らしたゲンブは桐原に軽く頭を下げて、その申し入れを受け入れた。

「では、一週間」

「ああ」

トントン拍子に進んだ話に神楽耶は喜色満面になる。

「有り難う御座います!」












次の日の朝、スザクは道場へと出掛け、稽古をする為に早起きしていた。

神楽耶はスザクより三時間後に目覚め、朝食を済ませた直ぐ後に神楽耶は足を運ぶ。
あの蔵へと。

辺りに人影は無く、風の音と鳥のさえずりだけが神楽耶の耳に届き、本当に誰か住んでいるのかと思わせるほどだった。
昨日は騒がしかったのにも関わらず。

そっと、蔵の扉へと歩み寄り、その扉を開けようと手を上げれば、後ろからの怒声に神楽耶はビクリと肩を跳ねさせた。

「誰だ!?」

振り返れば、そこには昨日初めて会った皇女、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが買い物袋を手に、その頬に殴られた赤い痕を付けて立っていた。

「君は・・・昨日の。神楽耶だったか?」

「勝手に呼び捨てにしないでッ、いいえ、それより何で私の名前」

「スザクに教えて貰っただけだ。僕も質問して良いか?」

「何よ」

「どうして此処にいる?ナナリーに手を出したら」

「何もしないわよ。どっちかと言うと、私は貴女に用があるの」

「僕に?」

神楽耶は蔵の扉の前からルルーシュの方へと歩み寄っていく。
神楽耶の歳はナナリーと余り変わらないであろう。
彼女の背はルルーシュよりも頭半分程低く、上目遣いでルルーシュを睨み付ける神楽耶は納得出来なかった。

スザクがどうしてこの皇女と仲が良いのかと。

「女のくせに『僕』なんて言ってる男女にスザクは渡さないんだから!」

神楽耶からの気丈な発言にルルーシュはキョトンとした顔を晒す。
だが昨日、スザクが話した事を思い出して溜息を吐く。

「君はまずスザクの事を知った方が良いんじゃないか?」

「私は貴女よりもずっと早くスザクを知ってるわ!」

出会ったのは自分の方が先だと神楽耶は視線を鋭くする。

「そうじゃない。昨日のスザクの話しぶりからすると、彼奴、あんまり良く分かってなかったぞ」

「ど、どういう事よ?」

「婚約が結婚を前提にある事を理解していないって事だよ」

「それは・・・」

首を傾げた神楽耶にルルーシュはもう一度溜息を吐き、言った。

「スザクはままごと程度にしか考えていない」

そんなはずは・・・・・・と神楽耶は青冷めた。












スザクが道場で竹刀を振り下ろし、稽古をしていると、道場に、スザクの背後に人影が迫った。
それをスザクはサッと飛び退き、竹刀を構えるが、その顔は喜びに満ちていた。

「おはよう御座います!藤堂先生!!」

「おはよう、スザク君。いつも早起きだな、君は」

「だって、目が覚めるもんは仕方ないじゃないですか」

「ははは、君らしいな。ところで・・・こういうのも何だが・・・」

「?」

「婚約おめでとう」

「・・・・・・・・・」

キョトーンとしているスザクに言葉を誤ったかと藤堂は分からない程度に頬を引きつらせたが、スザクはそんな藤堂の表情の変化に気付きはしたものの、言葉の意味には理解を示せなかった。

「ねぇ、藤堂先生」

「ん?」

「コンヤクってどういう意味?ルルーシュに聞いたけど、アイツの説明って分かんない言葉使うから分かりにくい」

「スザク君は皇女に聞いて、なんと返されたんだい?」

「コンヤクとは基本的に互いの文化と・・・えっと、チツジョを保つ為と、友好関係を築くのが目的であって・・・・・・それから、何だっけ?何とかの思惑がどーたらこーたら・・・」

「い、いや、有り難う。もういいよ」

皇女はスザクと同じ歳であったはずだが、と藤堂はスザクの発言から出された内容に冷や汗をかくが、取り敢えず、話の内容は把握出来た。

「そうだね、婚約と言うのは簡単に言ってしまえば、将来の結婚を約束する事だよ」

「結婚って・・・夫婦になるって事ですよね・・・」

「ああ」

竹刀を構えから下ろし、スザクは視線を落として暫し考え込む。
次の瞬間には竹刀を投げ捨て、駆け出した。

「俺、ちょっと行って来ます!」

「スザク君!?」

一体何処へ行くというのか。

しかし、門下生がもう直ぐ来てしまう時間の為、藤堂はスザクを追いかける事が出来なかった。
スザクも門下生である為、追いかけるべきかもしれないが、スザクは時間外にも稽古をしているし、何も問題は無いはず・・・・・・である。

藤堂は苦笑と共に溜息を吐き、スザクが投げ捨てた竹刀を拾い上げた。












「ルルーシュ!」

スザクは目的の人物を遠目に発見し、大声を張り上げたが相手は気付いていないようでスザクは少しむっとしながら近くへ行こうと走り寄れば、ルルーシュの影に隠れて見えていなかった神楽耶が目に入り、足を止める。
どうして此処に神楽耶がいるのだろうかと、スザクは首を捻る。

隠れる必要など無いのだが、何となく様子を伺う為にスザクは木の陰に隠れた。







「大まかには教えたから、それなりには理解しているはずだ」

「あ、貴女の説明なんか信用できないわよ!」

「君がどう解釈しようが僕には関係無い」

「関係あるわ!間違ったことをスザクに教えたんじゃないでしょうね!」

「いいや、間違っていない。政治的公約について教えたんだから」

「政治的・・・公約・・・・・・」

大人の事情を理解するには神楽耶はまだ幼いと言ってもいい歳頃だ。
ルルーシュもそれを理解した上で話は終わったとばかりに神楽耶の横を通り、蔵に入ろうとするが、神楽耶は尚も喰ってかかった。

「ちょっと、待ちなさいよ!」

「何?」

面倒臭そうに振り返れば、そこには肩を怒らせた神楽耶がおり、彼女の振り上げた右手の掌がルルーシュの左頬に迫り、ルルーシュは避けきれないと判断すると来るであろう痛みに目を瞑った。
しかし、何時までも衝撃は来ず、ゆっくりと瞼を持ち上げれば、スザクが神楽耶の右腕を掴んで神楽耶の平手をくい止めていた。

スザクを振り返った神楽耶の表情は驚きに目を見開いている。

「スザ、ク・・・」

「やめろ、神楽耶」

「でも・・・だって、私は」

「傷つけたら許さない」

「ッ」

神楽耶は視線を落としたかと思えば、スザクに掴まれた右腕を振り払うようにスザクの手から逃れ、その場を走り去った。

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

ルルーシュとスザクは顔を一度だけ見合わせ、ルルーシュがスザクの足下に視線を送り、言う。

「追いかけてやったらどうだ?婚約者だろう?」

「俺は・・・神楽耶と結婚するつもりなんか無い」

「やっと根本的な事を理解したか。だったら尚更、お前は此処に居るべきじゃない」

「どういう意味だ?」

「ブリタニアの皇女と仲良くしない方が、君の為でもあるし、彼女の為だ」

「何だよ、ソレ」

スザクはルルーシュを睨み、視線が合わないことにも苛立ちを覚える。

「君がいなくたって、僕は生きていける。ナナリーも」

「嘘だ!」

そう怒鳴り、スザクはルルーシュの両肩を掴み、ルルーシュに此方を向かせた。
絡み合った視線は互いに鋭さを持っていた。

「嘘じゃない」

「嘘じゃないって言うなら、その傷どうしたんだよ!」

スザクはルルーシュの頬に残る赤い痣を指摘する。
既にその色は青紫色へと変色しようとしていた。

「いつもの事だよ。君だって知っているだろう」

「外に行くときは俺も行くって言っただろう!」

「今日は一人で行きたかったんだ・・・」

視線を逸らしたルルーシュにスザクは何だかもやもやして更にルルーシュを睨み付ける。
その視線はルルーシュにとって居心地が悪くて、彼女はスザクを振り払おうとするが、到底力では及ぶはずも無く、失敗に終わる。

「昨日・・・俺が何かしたか?」

暫くルルーシュを睨んでいたスザクだが、ゆっくりと息を吸い込んで、落ち着いてルルーシュの顔を覗き込む。
突然柔らかくなったスザクの視線にルルーシュは目を丸くしてスザクを見つめた。

「・・・いや、お前のせいじゃない」

「じゃあ、神楽耶?」

「いや、彼女のせいでもない」

「じゃあ、何だよ」

「・・・・・・どうにも出来ないよ、僕にも、お前にも」

スザクと神楽耶の婚約の話に何かが揺れ動いただなんて言えるはずがなかった。
崩れるように何も考えたくなくて、スザクをまともに見るなんて上手く出来る自信がなかった。

「出来ないなんて諦めるな!お前がどうしても出来ないって言うなら、俺がどうにかしてやる!最初から諦めるなんてお前らしくないこと言うな!!」

再び怒鳴られるが、ルルーシュはスザクの言葉にキョトンとしたかと思えば、次の瞬間にはふわりと笑った。




君らしいよ。





「そうだな。スザクのそういうところが好きだよ」

「え?」

「そろそろ放してくれないか?結構痛いんだけど」

「あ、あぁ、うん」

スザクはルルーシュの肩から手を放した。
ルルーシュの言葉の意味が気になるが、彼女は特にその言葉に深い意味を含んで言ったようでは無く、何だか寂しかった。







今日から一週間、神楽耶との好敵手生活が始まった。















後書き



「engagement」婚約

ゲンブさんがちょっと良い人っぽくなっているような気もしますが、本編通りのお方です。
神楽耶が関わってきた事でルルーシュもスザクも互いに意識し始めたという感じで。

過去編はあと一話書こうと予定しています。
そこでスザルルになって・・・・・・欲しいですね。(願望)

しかし、神楽耶が可哀相な・・・ごめんよ。
神楽耶可愛くて好きですよ、表情がくるくる変わるところとか萌えるv


更新日 2007/07/24