◇desert island3◇



ユーフェミアからはスザクの姿とゼロのものと思われるマントの裾が見えた。
ゼロの姿が見えないのは大きな岩で遮られているからだ。

「いえっ、それよりもスザク!皇女の前でそのようなはしたない格好はどうにかならないのですか!?」

ユーフェミアは両手で顔を隠すことで視界をシャットダウンさせる。
上半身裸の男性を直視出来る程、ユーフェミアはまだ乙女を卒業していない。

「そう言われましても、魚を捕るためですので」

「なら、その魚を捕って来なさい!私の前で破廉恥な姿を晒さないで!!」

「・・・・・・・・・イエス、ユア ハイネス」

かなり不本意だが、皇女の命令ならば自分はこの場を離れて魚を捕りに行かなければならない。
ルルーシュの手に魚を預け、スザクは海へと再び魚を捕りに行った。

水の無い場所に長く居たせいで魚はピクピクと弱々しく跳ねる。
魚を片手に持ち、ルルーシュはゼロの仮面を装着する。

「皇女殿下、彼は海の中へ行きましたよ」

「え?あ、そうですか。もう私の目の前には居ませんか?視界の範囲内に居ませんか?」

「貴女の右側には居ますが、そちらを向かなければ」

ユーフェミアはそろそろと手から瞳を覗かせ、右を見ないように岩影に隠れているゼロの近くに行く。
しかし、銃口を突き付けられ、足を止める。
けれど、ユーフェミアには恐怖も驚きも悲しみも無かった。

微笑めば、目の前のゼロは驚いたように肩を跳ねさせた。

「ルルーシュ。そうなのでしょう?ルルーシュなのでしょう?」

首を傾げる彼女は疑問では無く、確信している。
声色にそれは乗せず、瞳が確信していると告げる。

「まずは私の質問に答えて頂けたらその返事をしましょう」

銃はそのままにゼロは仮面の奥からユーフェミアを見据える。

「ええ、良いですよ。質問は何ですか?」

「その肩のジャケットは黒の騎士団員専用の服だ。何処で手に入れた?」

「これは貸して頂いたものです。カレンさんという方に」

カレンが?と疑問を抱くと同時に彼女もこの島に居るという事に安堵する。
あの銃撃で死んでいなかったのだと。

その返答にユーフェミアに向けていた銃を下ろした。

「では、私の質問の答えを下さい。ゼロ」

ゼロはゆっくりと仮面を外した。
現れた漆黒の髪、アメジストの瞳は昔、ユーフェミアの大好きな色だった。

生きていた。

目尻に涙を溜めるユーフェミアにルルーシュは困ったように笑った。

「ルルーシュお兄様!」

突然抱きついてきたユーフェミアをルルーシュは拒むことが出来ず、緩んだ手から魚が浜辺の砂の上に落ちた。

「ルルーシュ、生きていたのですね。良かった、良かったです」

声色に涙が混じり、ユーフェミアの声は震える。
それをあやすようにルルーシュはユーフェミアの背を優しく撫でてやった。
温かい場所であった昔を思い出すように。

しかし、そんなやり取りも海の浅瀬での出来事に掻き消された。





「枢木スザクッ覚悟!」

草むらから飛び出し、ナイフを持ち、身を低くして全速力でカレンはスザク目掛けて走り出す。

「カレン!?」

ルルーシュの叫びも今の彼女には聞こえていなかった。
ただ、突っ走る。
海の飛沫がカレンの駆けた足の後を追うように跳ね上がる。
水の抵抗で速度は落ちたが、この速度なら狙いを間違うことは無い。

「やめろ!!」

ルルーシュの制止の声と共にバシャンッと盛大な水飛沫が呻(うな)った。

「スザク!!」

目を見開き、スザクの名を呼ぶルルーシュをユーフェミアはじっと見つめる。


しかし、ルルーシュの心配を余所に、海に叩き付けられたのはカレンの方であった。

「カレン・・・さん?」

突然の殺気にスザクは相手の腕を掴み、投げ飛ばしたが、投げ飛ばした相手が生徒会役員のカレンであったことに驚きを隠せない瞳で見つめる。

「ッこの!放しなさいよ!!」

カレンの瞳からは殺意のみが溢れ出し、スザクは悪いと思いながらも彼女を起き上がらせると同時にナイフを持つ手首を捻り上げる。

「クッ」

「どうして君が此処に・・・」

「それはこっちの台詞よ!ゼロに何かしたら許さない!!」

「え?じゃあ、君は黒の騎士団・・・」

「そうよ。驚いた?」

カレンを見下ろすスザクに対し、カレンは勝ち気な瞳と笑みを浮かべる。
スザクはそんな彼女に対し、辛そうな表情を返した。
それにカレンは気分を害される。

「何よ、その顔」

「君は・・・」

「お止めなさい、スザク。その方は私の命の恩人ですよ」

ユーフェミアはルルーシュを遮るように立ち上がり、仮面を被るように目配せする。
ルルーシュはその意味を正しく読み取り、ゼロの仮面を装着する。
それを確認すると、ユーフェミアはスザクに浜辺に上がってくるように命じる。

ついでにパイロットスーツもちゃんと着ろとも。

「ユフィ、私、待ってなさいって言わなかった・・・」

「動くな、とは言わなかったではありませんか」

浜辺に戻り、ユーフェミアに恨みがましい視線をカレンは送るが、そんな視線もユーフェミアの微笑みには敵わず、ガックリと肩を落とした。

「そうだ!ゼロは!!」

弾かれるように顔を上げ、カレンは辺りを見回してゼロを探す。

「私はここだ。カレン」

少し呆れたような声色でゼロはユーフェミアの後ろから姿を現した。
ゼロの姿にカレンはほっと息を吐く。
それと同時にユーフェミアが語った彼女の異母兄の存在が脳裏を過ぎり、ユーフェミアを見つめる。
カレンの視線に気付いたユーフェミアは微笑むのみ。

はぐらかされている。

「四人も居るんだし、役割分担しようか」

スザクの言った言葉もカレンをはぐらかす言葉だとは彼女自身は気付かなかった。

「僕は魚を捕ってくる」

「私は果物とか木の実を採ってくるわ」

「私は?」

「私は何をすれば良いのですか?」

スザクとカレンの視線がゼロとユーフェミアに集中する。
沈黙するスザクとカレンにゼロとユーフェミアは同じ方向に首を傾げた。

「えっと・・・・・・じゃあ、火起こしを」

「どうやって火を起こすんだ?」

「どうやるのですか?」

スザクはガクリと肩を落とす。
その背中にカレンは同情を覚える。

「ゼロとユーフェミア皇女殿下は小石と木の枝を探してきて下さい。その後は僕がやります」

それぞれの役割分担が決まった。





カレンはユーフェミアに貸していた黒の騎士団のジャケットを返して貰い、スザクに飛び掛かる前に木陰に置いておいた果物や木の実を包んでいた大きな葉を持ち上げる。

カレンの数メートル先ではゼロとユーフェミアがしゃがみ込みながら小石と小枝を探していた。
あんなゼロの姿は見たくないと、カレンは二人から背を向け、四人分の果物を探しにその場を後にした。







「ねぇ、ルルーシュ」

「何だ?」

ゼロは小石を、ユーフェミアは小枝を集めていく。
ユーフェミアは長めの枝を二つにパキッと折り、横のゼロに視線を移す。

「あの時・・・ブリタニアがこの国を占領した時、スザクと一緒に居たのですか?」

「・・・ああ。俺とナナリーは枢木家に預けられていたからな」

やはりそうなのか、とユーフェミアは瞳を伏せる。

当時のユーフェミアは幼く、世界の情勢など何も知らなかった。
だから、ルルーシュとナナリーが何処へ行ってしまったのかも良く分からないままに、二人の死の報告を聞いた。
その情報にユーフェミアは何が起こったのか理解出来ず、泣くことさえも出来なかった。
二人を思って泣けたのは、始めてエリア11の地に降り立った時だったと思う。
それがとても歯痒くて、悔しかったのを覚えている。
もっと早く、二人の為に泣きたかったから。

「その混乱で、お互いの生死が判らずに・・・生き別れた」

ゼロはマントを袋代わりにして、その中に小石を投げ入れる。
石と石がぶつかり合う音が鈍く、二人の耳に届く。

「ルルーシュとして、スザクと再会出来たのですか?」

「誰かさんのおかげでな」

苦笑と思われる声色はユーフェミアに向けられた。
それをユーフェミアは目をぱちくりさせながら受け止める。
おそるおそる自分自身を指さしたユーフェミアにゼロは頷く。

「ユフィがスザクに学校へ行かせたんだろ?」

「え、ええ・・・もしかして・・・・・・学校で?」

「まあな。しかも同じクラスだ」

神様の悪戯だろうか、そう思わせる程にユーフェミアは心躍らせた。
幼い笑顔をユーフェミアはゼロに向ける。

「良かったですね」

ゼロは肩を竦め、それでも仮面の奥できっと、ぎこちない笑顔をしているのだろうとユーフェミアには容易に想像出来た。

ただ、問題なのはこれからだろうけれど。







無事に火を起こし、魚を焼いていく。
その手順は全てスザク一人に任された。というよりは、彼しかその作業が出来なかったわけだが。
しかし、焼き魚と果物も全て並んでいるにも関わらず、誰も手を付けようとはしなかった。

三人の視線がゼロに集中する。

「私は後で良い」

カレンが居る手前、仮面を取ることは出来ない。
ユーフェミアは焼き魚を二本取り、一本をカレンに手渡した。

「私、食べ歩きというものがしたいんです。お付き合いしてくださいませんか?カレン」

「・・・・・・まぁ、いいけど・・・」

ゼロとスザクを二人きりにさせるのは忍びないが、自分が居てはゼロは仮面を外せないことを分かっているカレンはユーフェミアと共に橙に染まる浜辺を散策しながらの夕食にその場を後にする。

カレンとユーフェミアの姿がぼんやり見える程度の距離になると、ゼロは仮面を外した。
ほっと息を吐く姿にスザクは苦笑を漏らす。

「はい、ルルーシュ」

「あぁ」

スザクから手渡された焼き魚を受け取り、ルルーシュは遠くの二人を見つめた。
先程より遠のき、何となく人影が確認出来る。
それを視界の隅に、焼き魚をもそもそと食べ始める。 ルルーシュが食べ始めたのを確認して、スザクも焼き魚を手に取る。

お互いに会話は無い。

日が昇れば軍は動くだろう。
黒の騎士団も軍の動きを確かめながら探しに来るだろう。
共にいられる時間は限られているけれど、どう足掻こうとも、これから先に訪れるものは変わらない。

食べ終わっても沈黙が続き、ルルーシュは口元を黒いマスクで覆い、仮面を手に取る。
だが、直ぐには装着しなかった。
それにスザクは不思議そうにルルーシュを見つめたが、自分に寄り添ってくるルルーシュに驚きを隠せずに彼を見上げた。

「ルルーシュ?」

「じっとしてろ」

マスクをしている為か、少しくぐもっているが、良く通る声がスザクの耳に触れる。
焚き火の炎がルルーシュの瞳の中で揺らめく。
揺らめきが閉じられると、スザクの唇にふわりと触れる重ねられたそれに目を見開く。
マスク越しでも分かるその柔らかさは確かに彼の唇だった。
離れ、再び姿を現した瞳は炎では無い揺らめきを示す。
その揺らめきを隠すようにルルーシュはゼロの仮面を装着する。

炎の揺らめきが仮面に写り、重圧を生み出す。
ゼロが君臨する。








向き合いながら、進む道はお互いに背を向けて歩き出した。













◆あとがき◆

desert island 無人島。

「3」。
良し!予定通り3話で終わった!!

乙女ユフィたん。ちょっとスーさんが可哀相だが、楽しかったというか、一番の笑い所のはず・・・。

集合しました。
ゼロとユフィたんは役に立たない感じに・・・。
サバイバルな経験は無いみたいなので。

ここまで読んでくださった方々に感謝です。


更新日:2007/03/05



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