◇desert island2◇



「何で後ろを向くんだ?お前は」

「え?あ、何でだろう・・・別に良いじゃないか、早く着替えなよ」

「ああ・・・」

マントをばさりと肩から下ろすと、慌てた動きでスザクはルルーシュから背を向けて直立した。
ルルーシュは自分達しかそこには居らず、同じ男なのだから気にしなくても良いのにな、と特に深く考えずにゼロの繋ぎを着込む。

マントを羽織り、スザクに向かって言葉を掛ける。

「もう良いぞ」

「うん」

振り返ってスザクが一番初めに思ったのはマントまで羽織って暑くないのだろうかという事だった。
マントを羽織っている本人は涼しげな顔をしているので、口に出すことはしなかったが。

「なあ、拘束しないのか?」

腕を差し出すルルーシュにスザクは律儀だな、と思うと同時にそういえばそんな事を言ったような、と曖昧な記憶を引きずり出した。

「でも縛る物何も持ってないし、いいよ」

そう言えば、目の前の縛られる気満々だったルルーシュは困惑の表情の後に苦笑を漏らした。

「計画性の無い馬鹿だ」

「そんなに馬鹿って言わなくても」

「馬鹿だろ」

余りにも綺麗な微笑みにスザクは溜息を吐いた。

「そうだ、はい、コレ」

ルルーシュはスザクから手渡された銃に対し、スザクを信じられないと言いたげな瞳で見つめる。
手の中にある重みは何故かルルーシュの胸に棘のように突き刺さる。

「お前ッ」

「それは君のだろ」

微笑むスザクに唇を噛む。

「俺がお前を撃たない保証は無いぞ」

「君はそんな事しないよ」

信じているという瞳にルルーシュは何も言えなくなる。

ルルーシュはスザクに『生きろ』と命じた。
ギアスの力は絶対。

スザクが死の危険を感じれば彼は何に換えても生きようとするだろう。
本当に自分が彼を殺そうと銃を向ければ、死ぬのはルルーシュの方だ。

それをスザクが望まなくとも。

それをルルーシュが望もうとも。


「水は確保出来たし、食料を捕りに行こう?」

差し出されたスザクの手にルルーシュは迷うことなく、その手に自分の手を添えた。










「お腹、空きましたね・・・」

「あんたの服、まだ少し湿ってるわね。果物でも探して来るから大人しくしてなさいよ」

その場から立ち上がるカレンをユーフェミアは見上げる。

「一緒に行かなくて良いのですか?」

「心配しなくても、ちゃんと戻ってくるわ」

「いえ、人に恵んで貰ってばかりでは・・・」

「以外としっかりしてるのね」

その言葉に自分が彼女より下に見られていると理解したユーフェミアは頬を膨らませた。

「以外ととは何ですか!私だってやる時はやれるんです!!」

「皇女様は皇女様らしく待ってなさい」

「どういう意味ですか!!」

「ユフィの事、嫌いじゃないって意味よ」

「え?」

微笑んだカレンにユーフェミアは間抜けな顔を晒す。
まだほんの少ししか言葉を交わしていない相手から好意を向けられるのは嬉しい事だが、お姉さんぶられるのも何だか釈然としなかった。

「じゃあね」

手を振るカレンをユーフェミアは呆然と見送る。

「あ、ちょっと・・・お待ちな・・・さ・・・・・・い」

既にカレンは生い茂る草木に飲み込まれ、その姿は見えず、ユーフェミアは伸ばした手を引き戻した。

「みんな、私を子供扱いしてばかりなのですね・・・」

黒の騎士団の上着はカレンのものと思われる甘い香りを漂わせ、ユーフェミアはジャケットごと自分の身体を抱き締めた。







「何であんな・・・」

自分らしくない行動にカレンは眉を潜めた。

ブリタニアは日本を占領した敵であり、カレンにとってブリタニアの皇女であるユーフェミアは敵以外の何者でもなかった。

だが、素顔の彼女は無邪気で、同じ年頃の少女としては正しいのだ。
身だしなみに形振(なりふ)り構わないカレンとは違い、温かな場所のお姫様。
それがユーフェミアであり、憎しみを抱いても間違いではない相手を自分は何故か守ろうとしている。

彼女を一人残してきてしまった事は少々悔やまれるが、あの場から離れたかったカレンにとって食料探しは絶好の機会だった。

「頭冷やそう」

手持ちのナイフで食べられそうな木の実や果物をもぎ取っていく。

だが、頭を冷やすどころか、一人になったせいで考えようとする思考は止まらず、深くなる一方だった。
ゼロがユーフェミアの異母兄であるならば、ゼロは皇族の人間だ。
日本人では無いと自ら言い知らしめ、だが、何処の国の人間かは分からない。
ユーフェミアの異母兄の死体は見つかっていないらしい。
勝手に死んだことになっている。

死んだ・・・その事実だけがそこにあるだけの抜け殻。

「ゼロ・・・貴方は誰なんですか?」

ゼロの顔が見たいとは思っていない。
気にならないわけでは無いが、ゼロという存在そのものが黒の騎士団の全てであり、カレンの世界であるから。

しかし、この胸にある曇りはどうしようもなくカレンを孤独にさせた。
いつの間にか座り込み、沈んだ気持ちになる。


カサッ


ハッと目を見開き、カレンは手に持つナイフを握り直す。

大きな木を背に、目を細めて音のした木の反対側に意識を集中させる。
誰かいる。野生の動物では無い。

しかし、カレンは我が目を疑った。

「ゼロ?」

後ろ姿だけだが、仮面を外しているあの姿はゼロの衣服だ。
ゼロの目の前を白いパイロットスーツ姿の男が歩いている。

「枢木スザク・・・」

恨みがこもった声色なのは、今まで邪魔をされた事とゼロの足取りが心なしかおぼつかないからだ。きっとスザクに何かされたのだと唇を噛む。

しかし、今飛び出すのはゼロをも危険に巻き込みかねない。
カレンは気配を殺して十数メートルの距離を保ちながら彼らの後を追う。

食料も忘れずに大きな葉でくるみ、抱えていく。










カレンが二人を見つける少し前のこと。


「ルルーシュ、大丈夫?」

スザクはルルーシュを心配そうに振り返る。

「これ、くらい・・・大丈夫、だ」

「マント取ったら?」

「日差、しが・・・痛い」

「ああ、そうか」

肌が白いルルーシュにはこのギラつく太陽は天敵のようだ。
日焼けして皮が剥けるのも肌に悪いし、とスザクは空を見上げた。

スザクはルルーシュの手を握る。
ルルーシュは驚いたように顔を上げ、スザクを見つめる。

「抱き上げると怒るだろ?」

「当たり、前、だ」

「手を繋ぐぐらいなら良いよね」

「ああ」

暑苦しいけどな、と言わなかったのは、言う気力が無いからだとルルーシュは自分に言い訳した。
しかし、ルルーシュの足取りはふらふらのままだった。










ユーフェミアは自分の衣服であるドレスを持ち上げる。

「もう良いでしょうか?」

内側がまだ湿っているものの、表面は日差しのおかげで温かい。
パタパタと服を両手で持ち、上下させてみる。
水滴も飛ぶ様子が無いので、ユーフェミアは自分のドレスに袖を通した。

カレンのジャケットは不要かと思ったが、日差しが強いのでもう少しお言葉に甘えて肩に羽織わせる。
服も乾いたことだし、何か自分も食料を探そうと辺りを見回す。

「待ってなさいと言われましたけれど、動くなという意味ではありませんし」

ユーフェミアはその場から離れ、浜辺に食べられそうな貝でもないかと探し始めた。










「スザク、食料なら草むらとかに居る動物とかを捕まえれば良いんじゃないのか?」

海辺へ連れてこられ、ルルーシュは不思議そうにスザクを見る。
しかし、振り返るスザクは驚いた顔をしていた。

「この島には動物は居ないんじゃないかな?」

「どういう事だ?」

「居ないとは断言出来ないけど、此処、無人島っぽいし。この島だけで食物連鎖を繰り返すのは相当厳しいと思うよ?」

ルルーシュはその言葉に横目に山を見上げる。
確かに自分達以外の人間が住んでいる気配も無く、動物の鳴き声も渡り鳥だけだ。

「それに、ルルーシュ、落とし穴とか考えたんじゃないの?」

「ッ!?」

図星だった。
穴を掘れば何か引っかかるかと思ったのは確かであり、スザクと遭遇するまではそうするつもりだったのだから。

「やっぱり。動物だってそこまで馬鹿じゃないよ」

クスクスと笑い出すスザクにルルーシュは恥ずかしそうに視線を逸らす。

「じゃあ、捕ってくるから待ってて」

「捕ってくるって何を」

「魚!」

スザクは海に足を進めていく。
膝あたりに水面が来る位置でスザクはパイロットスーツの上着部分を脱ぎ、袖の部分を腰に巻き付けた。

鍛えらて尚、程良いしなやかな筋肉が露わになり、ルルーシュはそんなスザクの姿に見惚れた。
何やら飛び上がる魚とスザクは格闘しているが、ルルーシュは魚ではなく、スザクの広い肩や背中、細いけれど逞しい腕を視線で追ってしまう。
そんな自分に自覚は無く、我を取り戻したのは嬉しそうなスザクの声が聞こえた瞬間だった。

「魚捕れたよ!!」

スザクの顔はとても嬉しそうであり、尻尾でもあったら振り乱していそうな勢いだ。
ルルーシュは口元を緩め、手でこっちへ来いとスザクを手招きする。

何だろう?とスザクはビチビチと逃げ出そうとする魚をしっかり手に持ちながら浜辺に座るルルーシュの元へと戻る。
ルルーシュと目線を合わせる為にしゃがみ込めば、頭を撫でられる感覚に瞬きを繰り返した。

「ルルーシュ?」

「お前はやっぱり犬だ」

とっても理屈が理解出来ないが、ルルーシュに撫でられるのは嫌ではないので、スザクは暫くルルーシュがしたいようにさせていた。

だが、この一時も介入者によって終わりを告げた。



「スザク?それに、そこに居るのはゼロですか?」













◆あとがき◆

desert island 無人島。

「2」。
次で・・・・・・終わ・・・る・・・・・・と良いですねー。

カレンたんにユフィたん置いてかれて三方向から話を書く羽目に。
色々無理がッ!?

カレンたんはゼロに盲目的であって欲しいv
恋愛感情は無いけど。

こじんまりなら次で終わると思うんですけど、拡大させると収集つかなくなるかなー?
シュナ様が登場してきたら拡大決定ですが。


更新日:2007/03/03



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