◇desert island1◇
空が見え、慌てて身を起こす。
周りを見渡すが、自分が乗っていたはずのナイトメアフレームは見当たらず、無理矢理乗り込ませたゼロも居ない。
此処に突っ立っていてもしょうがないと、スザクは無人島らしきこの山を登る。
まずは水を確保しなければならない。
滝の音に耳を澄ませる。
「あっちか・・・」
雑草や木の枝を掻き分けて滝の方へ正確に歩を進める。
だが、人影が水浴びをしている事に驚くと同時に話し掛けようとした口を閉ざした。
滝の近くの岩の上にある衣服はゼロのものであり、仮面もそこに。
此処でゼロを捕まえれば素顔を見ることが出来るが、スザクはその場を動けずにいた。
滝のシャワーを浴びるシルエットの線は細く、肌の色はきめ細やかな程に白い。
女の子かと見間違う程のボディラインに喉を鳴らすが、スザクは首を左右に振る。
相手はゼロだ。
何を考えているんだと、スザクは木の枝を掴んでいた手に僅かに力を入れてしまい、ぱきっと折ってしまった。
その音に気付いたゼロと思わしき人影がスザクのいる場所を弾かれるように振り返る。
しまったとスザクは咄嗟に身を近くの岩に隠すが、ゼロは仮面を手に取り、変声機に口を近づける。
「誰だ!」
ゼロの声にスザクは身を固くする。
何の返事も返ってこないが、ゼロはマントを身体に巻き付け、仮面の変声機に口を近づけたままもう片方の手に銃を持つ。
「そこに居るのは誰だ?黒の騎士団ならば隠れる必要は無いはずだ」
滝の水が流れる川からゼロは小石ばかりの地面に素足を忍ばせる。
自分の部下ならばギアスでこの記憶のみ消して気絶でもさせておけば良い。
だが、敵ならば・・・此処で撃つのが最適だ。
どちらにしても素顔を隠しておく必要は無いと、口元に笑みを浮かべる。
頬を流れる冷や汗は無視だ。
「ワン!」
「・・・・・・・・・ん?」
スザクは自分に近づく足音にどうすることも出来ない。
ゼロは銃を手に持っているようであり、自分はこの身一つ。
短距離なら体術でどうにかなるが、長距離では圧倒的に不利であり、勝ち目は無い。
ならば、自分としてはそんな自覚は無いが、動物に例えるなら犬だと言われたことをフル活用するのみ。
犬の鳴き声をしてみた。
ゼロは歩む足を止めてくれたようだ。
「何処の馬鹿だ。こんな無人島に犬なんか居るわけないだろ、狼ならともかく」
ごもっともである。
自分の愚かさにスザクは乾いた笑いが出そうになった口を慌てて押さえる。
ゼロの足音が再び聞こえた。
銃口がスザクの頭にカチャリと向けられ、スザクはその銃の先にある手首を瞬発的に掴む。
手首の痛みにゼロは銃を地に落とした。
スザクは掴んだその腕の細さに驚くと同時に、ゼロの素顔に目を丸くし、ゼロを投げ飛ばそうと思ったはずの思考は止まった。
ゼロもまた、スザクと遭遇するとは思わず思考が暫しの間止まった。
「ル、ルーシュ?」
「何で・・・お前が此処に」
此処にスザクが居る事は何ら不思議では無い、ゼロもまた此処に居るのだから。
しかし、軍はまだ動いていないという事であり、相手も通信手段は何一つ持っていない。
スザクには既にギアスを使ってしまった。
撃つ事も出来ない。
スザクは思考が止まっても、視界が遮断される事は無く、いつもはゼロが羽織っているだけのマントがルルーシュの身体を守るように巻き付けられて露わになっている白い腕とすらりとした足に惹き付けられる。
濡れた艶やかな漆黒の髪は頬に貼り付き、鎖骨から項(うなじ)にかけてのラインも艶(なま)めかしい。
じっと見つめられ、ルルーシュがそれに気付かないわけも無く、居心地悪そうに身じろぎする。
「・・・変なとこ見るな」
「あ、ごめん!」
スザクも自覚していたらしく、素直に謝るが、掴んだ手首はそのままだ。
それにルルーシュは機嫌が悪そうに視線をスザクから外す。
「放せ。痛いだろうが、体力馬鹿」
「え?あー、うん・・・でも」
しかし、スザクはルルーシュの腕を放そうとはしなかった。
歯切れの悪い言葉と一向に放してくれない手の力にルルーシュはスザクを睨む。
「おい、放せ」
「ごめん、出来ない」
「ッおい!いい加減に」
「君を拘束する。拘束理由は黒の騎士団リーダー、ゼロとして今までの破壊活動の繰り返しによる反逆罪だ」
真剣な瞳で告げられた言葉にルルーシュは息を飲む。
スザクにとって自分は敵以外の何者でも無いと同等の言葉に、奥歯をギリッと噛み締めた。
「で、いいのかな?」
「は?」
しかし、次に聞こえたスザクの声にルルーシュは力の抜けた間抜けな声を漏らした。
ポカンとしたルルーシュの視線にスザクは何やら言いづらそうに口ごもらせる。
そんなスザクの態度にルルーシュは溜息を一つ。
間近で聞こえた隠そうともしない溜息にスザクはルルーシュを見上げた。
「ルルーシュ?」
「お前は本当にお人好しというか、何というか・・・」
呆れた声にスザクも返す言葉が無く、しょんぼりと俯く。
「まぁ、俺がお前に力で敵うわけが無いしな。だけど、服が乾くまでは拘束は勘弁してくれよ」
「え?」
スザクが顔を上げれば、しょうがないな、と言いたげなルルーシュの微笑みに出くわす。
仮面を放り投げ、ルルーシュは自由な片手でスザクのふわふわの癖毛に手を添えて優しく撫でてやる。
愛おしそうに細めた目元は何処か寂しげではあったけれど、スザクは撫でる手に身を任せた。
小石だらけの地面にルルーシュは座る。その身はマント一枚を肩に羽織っているだけだ。
スザクも隣で同じ地面に腰を下ろすが、パイロットスーツ越しでも石のごつごつした痛みがそれなりに感じるくらいであり、横に座るルルーシュは直接石ころが当たって痛いのではと思うのだが、ずっと無表情に自分の服が乾くのを待っている。
「・・・くしゅっ」
「寒いの?」
「いや」
やせ我慢しているのは明らかであり、スザクは立ち上がるとルルーシュの背後に回る。
何だ、とルルーシュは後ろを振り返るが、突然自分の身体が浮かぶ感覚に身を硬直させた。
すとん、と下ろされる感覚と共に硬直を溶き、柔らかくて温かい温度に目を丸くする。
「スザク、何をッ」
「寒いんだろ、この方が僕も暖かいし」
スザクはルルーシュを自分の胡座の上に乗せ、背後から抱き締めた。
「そういう問題じゃない!」
「そういう問題だから」
「あのなぁ」
脱力する声と共に振り返り、眉を八の字にしてスザクを見上げるルルーシュは何処か頼りなくて、その細い身体をスザクは大切にぎゅっと抱き締めた。
ギラつく太陽が今だけは柔らかく二人を照らしていた。
「第三皇女・・・」
「あの、もしかして、黒の騎士団の方ですか?」
ユーフェミアはナイフを自分に突きつけるパイロットスーツに黒の騎士団のものと思われるジャケットを羽織っている赤髪の少女に声を掛ける。
「そうだと言ったら?」
「少し・・・お話ししませんか?私では貴女に勝つ事なんて出来ませんし」
びしょ濡れのユーフェミアに武器らしき物を持っている素振りは無く、カレンはナイフを仕舞い、羽織っていたジャケットをユーフェミアに投げつけた。
ユーフェミアは咄嗟にジャケットを落とさないように慌てて受け取る。
「そんな服着たくないだろうけど、まずは服を乾かしなさい」
「有り難う」
微笑むユーフェミアにカレンは照れ隠しに背を向けた。
「皇女・・・」
向き合う形で大きな岩に座る少女二人に暫くの間会話はなかったが、カレンは意を決して口を開いた。
「ユフィとお呼びくださいな」
「けど・・・」
「肩書きは不要です。今此処にいるのはユーフェミアという個人です。ユーフェミアでは長いでしょ?だから、ユフィと呼んでいただけませんか?」
「・・・・・・分かったわ、ユフィ。私もカレンって呼んで」
「はい、カレン」
無邪気な皇女の姿に素直にカレンは喜べなかった。
彼女はいつも安全な場所で、温かい場所で、平和に暮らしてきた者の顔をしていたから。
「それで、ユフィはどうして此処に来たの?」
「私の意思で此処に来たのでは無いのですが、私の騎士であるスザクを死なせてまで、私は黒の騎士団、それにゼロを倒したいとは思っていません。だから、アヴァロン・・・貴女方の頭上に現れた戦艦からの攻撃を止めようとしてサザーランドに乗ってそちらに向かった所までは覚えているんですけれど・・・」
「成る程。だいたい分かったわ」
結構じゃじゃ馬な所が皇女様にもあり、カレンは口元を緩めた。
「私も質問して良いですか?」
「どうぞ」
「貴女はゼロの素顔を見た事があるのですか?」
「無いわ」
「そうですか」
「もう良いの?」
あっさりと納得したユーフェミアにカレンはこちらの方が納得していない顔を向ける。
「ええ。一度だけゼロと話した事があるんです。何となく。何となくなんですが、昔、エリア11で命を落とした異母兄と似ている気がしたんです」
「そのお兄さんがゼロだって言いたいの?」
「確信ではありません。けれど、彼がゼロならば、皇族を憎む理由も、私に『相変わらずだな』って言った事も、全部辻褄が合うんです」
私の中でですけど、と俯いて言った言葉は小さかったが、カレンは複雑な表情を隠せなかった。
その顔を俯いたユーフェミアに見られることはなかったが、青い空と海だけにはお見通しだった。
◆あとがき◆
desert island 無人島。
「1」なんで続きます。
予定では3話で終わるか・・・な?
しかし、やってしまいました!
スザルルin無人島☆
なにげにカレユフィを含ませ、自分の頭はお祭り状態!!
ぶっちゃけ楽しいのは私だけ!!!
本編感想で伝えきれなかった想いを小説で消化中。
まだまだ伝えきっていませんよ!!!
更新日:2007/03/02
ブラウザバックお願いします