◇CHILDHOOD◇
目を覚ますと、あるはずの温もりが無いことにルルーシュは首を傾げた。
確かに昨日の夜は一緒だったはずだと・・・、そこまで思い至り、一人赤くなった。
制服に着替えてリビングへ行く。おそらくスザクはそこにいるだろうと確信して。
しかし、人影は見つからなかった。
トイレだろうかと、リビングを出ていこうとしたらガシャンッと破裂音が耳に響き、シャランシャランと紙の擦れ合うような音が続いて聞こえた。
誰も居なかったはずだと、リビングの奥にある台所にルルーシュはゆっくりと歩を進める。
見渡すが、何も居ない。
足下の割れたグラスに視線を下ろすと、それをしゃがんで見つめている栗色の髪が目に止まる。
目を丸くして、その子供の両脇に手を差し入れ、自分と目線の合うところまで持ち上げた。
「・・・スザク?」
ぶかぶかのカッターシャツを着込む子供は確かに七年前のスザクにそっくりであった。
だが、現実にこんな事があっても信じ切れない。
「誰だお前は。何で俺の名前を知っている?」
あぁ、スザクだ。
グラスを割ってしまったことに弱々しく眉を下げていた表情はルルーシュが名前を呼んだことで警戒の色に変わった。
再会してから変わっていた言葉遣いも昔に戻っている。
「記憶まで遡(さかのぼ)っているようだな」
「何を言ってるんだ?」
「まぁ、会長にでも聞けば判るだろ」
「おい、人の話しを聞けよ!」
その前に服を着せるべきかとルルーシュは思い至り、自室へと縮んだスザクを抱きかかえたまま戻る。
「これでいいか」
黒いTシャツをルルーシュはスザクに手渡す。
「着替えろ。それよりはマシだろうからな」
ルルーシュを見上げる碧の双眼は未だ、警戒の色が消えていない。
それでも、いそいそとスザクは着替えた。
かなりダボついてはいるが、足先が見えるだけ先程よりはマシになったようだ。
スザクを椅子に座らせ、そこから動かないように一言言い置いてからルルーシュは携帯を取り出す。
もちろん、相手はミレイ・アッシュフォードである。
『あら、ルルちゃん。なぁに、愛のモーニングコール?』
「スザクが小さいんですが」
『ノリが悪いわねー』
「その様子だと、犯人は貴女ですか」
『いやん。バレちゃったッ』
「どうやったら戻るんですか?」
『教えてあげるから生徒会室に来て頂戴』
「・・・・・・分かりました」
この様子だと、一通りスザクで遊ぶに違いないと諦めの溜息を吐き出したルルーシュは通話を切り、大人しく椅子に座ったまま自分を見上げているスザクに視線を送る。
目上の人間の言葉は忠実に守るのも昔からだったな、と思い出し、ルルーシュは柔らかく微笑んだ。
その顔にスザクは目を丸くしたと思うと、膨れ面をしてそっぽを向いた。
「スザク、学校へ行くぞ」
「?」
鞄を左手に持ち、空いている腕でスザクを抱き上げる。
玄関を出ると落ち葉を箒で掃いている咲世子にルルーシュは迷子を交番に送ってきますと嘘を言い、割ってしまったグラスを申し訳なさそうに片付けて欲しいと告げれば、笑顔で快く引き受けてくれた。
その足で生徒会室へと赴く。
「早かったわねー、ルルちゃん」
朝早いというのに、生徒会の全メンバーが揃っていることにルルーシュは一抹の不安を覚える。
授業だって始まるのは二時間も先である。
「早くスザクを戻してください」
「まだ遊んでないからダーメ」
そう言ってミレイはルルーシュの腕からスザクを取り上げた。
「やぁん、かわいいー!」
くるくると踊るように回るミレイをスザクは目を白黒させながら見ている。
「会長!スザクが目を回したらどうするんですか!?」
シャーリーがミレイに力一杯にそう言うので、ミレイは仕方なさそうにゆっくりとスザクを床に下ろした。
スザクは途端にルルーシュの足下に走って行った。目を回した素振りは無い。
「やっぱり、ルルーシュが良いのかしら?」
「知らない人間ばかりだから、最初に顔を合わせた俺にくっついてるだけですよ」
ルルーシュとミレイの会話にスザクは不思議そうにルルーシュを見上げる。
「・・・ルルーシュ・・・?」
初めて喋ったスザクにミレイは興味津々にスザクに近づき、しゃがみ込んでスザクと目線を合わせた。
「そう!ルルーシュのこと知ってるわよね?」
こくりと頷いたスザクにミレイは新しい玩具を発見した子供のように瞳を輝かせた。
「だって、ルルーシュ」
しゃがんだまま見上げてきたミレイにルルーシュはだから何だと、その瞳に告げる。
「ルルちゃんのちっちゃい頃の話聞きたいのにスザクが口を開いてくれないんだもの。こうするしかないじゃない?」
だからって本人の許可無くやって良い事では無いだろう。
「そうですか。で、戻す方法は」
「もう、そればっかりねー。後で元に戻る方法教えてあげるから楽しませて!」
「俺も被害者か・・・」
スザクはミレイ、リヴァル、シャーリーに取り囲まれていた。
カレンとニーナは書類整理をこなしながら、時折、スザクの方を気にしている。一緒にルルーシュも書類整理をしているが、ミレイが何かやらかさないかと不安でいっぱいだった。
「スザクはルルーシュとどういう関係なのかな?」
笑顔のミレイにルルーシュは机に突っ伏した。
いきなりそれか!?
「友達だ」
凛とした物言いにルルーシュ以外の者は瞬きを繰り返した。現在の彼とは幾分か何かが違う気がして。
まだ警戒しているのだろうと思い直して、今度はシャーリーが挙手して質問した。
「はい!やっぱり最初から仲良かったんだよね?」
「大嫌いだった・・・今は違うけど」
その場の空気が固まった。
現在のルルーシュとスザクしか知らない者ならば無理も無いだろう。
しかも、一瞬だけだったが本当に嫌そうな顔をスザクは表したのだから。
「ルル?」
その言葉が信じ切れず、シャーリーは椅子に座るルルーシュを振り返った。
「俺も大嫌いだった」
淡々とした口調に感情は無く、ただ事実だけをそこにあったように述べた。
嫌いだったのは事実であり、最悪な出逢いであった。
ナナリーが居てくれたおかげで仲を取り持っていたようなものだ。
考え方の違う二人ではあるので、まぁ色々あったのだろうとこれまた全員思い直して、ならばと今度はリヴァルが質問した。
「んじゃ、何で仲良くなったんだ?」
何気ない質問だ。
だが、スザクとルルーシュにとっては何気ないこの質問が地雷であったのだ。
スザクは突然俯き、口をもごもごとさせている。
ルルーシュもやばいと思い、席を立ってお暇(いとま)しようとしたが、ミレイに制服の首根っこを掴まれてしまう。
「どうしたのかな?ルルちゃん」
「忘れ物を取りに行くだけですよ」
「何を隠してるのかしら?」
「何も隠してません」
言わなければ良いのだ。言わなければ・・・。
だが、スザクが顔を上げて意を決したように口を開いたのにルルーシュは気付き、ミレイの腕から直ぐさま逃げ出しスザクの口を防ごうと手を伸ばしたが、時既に遅く。
「キスした」
あぁ、お終いだ。
誰もが静寂の中、身動きを取れる者はいなかった。
書類整理をしていたカレンとニーナの手から数枚の紙がパラパラと机に床に落ちていく。
「ち、違う!事故だ!!」
我を取り戻したルルーシュは全員を見渡すが、余りにも視線が痛かった。
何だその疑いの眼差しは!?
押し倒されたのは俺の方だ!いや、そんな事はどうでもいいか・・・。
視線に堪えきれず、ルルーシュは顔を背けると、スザクと目が合った。
邪の無い視線も今のルルーシュにはどうすれば良いものなのか謀りかねるものであった。
「お前、本当にルルーシュか?」
少し眉を潜めたスザクにルルーシュは今更か、と溜息を漏らした。
その態度が気に入らなかったのだろう、スザクはルルーシュと距離をとる。
「ルルーシュは『俺』なんて言わない」
思春期を越えたんだから一人称ぐらい変わるというのは子供には通じない。
「その言葉は今のお前に返す」
「?」
首を傾げたスザクにまた盛大な溜息を吐き出した。
◆あとがき◆
CHILDHOOD 子供時代。児童期。
中途半端に終わってしまいました・・・。
多分、続かないとは思うのですが・・・妄想出来たらまた。
子供スザクはまた書きたいですし。
スザクの年齢は10歳?
更新日:2007/02/09
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