◇FUNNY◇
学園の屋上で待っていると合図をして数十分。
午後の授業にはまだ時間があるから問題無いが、遅い。
はぁ、と溜息を吐き出して、曇り空を見上げたらドアが開かれる音がして、足音。
そちらに身体ごと振り返ると、目前に銃口。その奥にはギアスの力を両目に宿した男がニヤリと笑っていた。
「・・・何故、生きている」
あの時、死んだはずだ。
体中に無数の銃弾を浴びたはずのマオ。
「そぉうだね、銃弾を浴びたんだよぉ、ボク」
何で生きているのかは、こいつ自身判っていないようだな。
目的はC.C.か?
「そう。シーツーは何処なの?」
そこらへんに居るだろ。
なら、ナナリーは無事だな。そろそろ教室に戻っているだろうし。
人ゴミはこいつにとって害だ。
進んでは行かないだろう。
此処で始末するか。そもそも俺のギアスがこいつに有効なのかは知らないが、試しに死ねとでも言ってみるか、こいつに。
「ねぇ、さっきから『こいつ』『こいつ』ってひっどいなぁ、ボクには『マオ』って名前があるんだよぉ?ルルーシュ」
そんなことは言われなくても分かっている。
子供だな。
別にどうでもいいか。
「良くないよぉ」
言ってろ。
それより、銃をどけろ。
「やぁだ」
本当に子供だな。
それじゃあ、C.C.が愛想を尽かすのも納得だ。
「やだ。やだやだやだ!違う違う!!シーツーはボクのことが大好きなんだから!!!」
「C.C.は俺のモノだと言ったはずだ」
「嘘だよ!シーツーはボクに優しい!優しいんだ!」
捨てられた理由も分からないのか、可哀相に。
銃声がルルーシュの鼓膜に響いた。
左頬を掠めただけ。それにほっとする。
マオが動揺して手元が震えていたことに感謝すべきか。
一歩間違えば頭をぶち抜かれていたはずだ。
「どうした、C.C.にやったように俺も撃つんじゃないのか?」
「フフ、フハッ、アハハハハハハハハハハ!!!」
突然笑い出したマオにルルーシュは眉を潜める。
何が可笑しい。
「アハッアハハ!何が可笑しい?可笑しいのは君だよルル!『俺も撃つんじゃないのか?』。なんて馬鹿らしいんだろぉ、君の心の中は恐怖でいっぱいなんだ!良いね、いいよぉ、ルル」
強がっている態度でか弱い心を隠そうとするなんて、なんて愚かなことで素敵なことなんだろう。
「ルルーシュも良いね。シーツーが一番だけど、君も捨てがたいなぁ」
銃を持つ手とは違う手がルルーシュの右肩を力強く掴みあげる。
この男の何処にそんな力があるのかと言う程の圧力にルルーシュは痛みに目を瞑り、小さく呻いた。
マオの腕を拒もうと左手を上げようとしたら、今度は腹に蹴りを入れられた。
息が詰まり、呼吸もろくに出来なかった。
立っているのがやっとだ。
ドアの開く音にルルーシュは待ち人が来たことに顔を歪ませた。
逃げろ、スザク。来るな!
「すざく?誰それ」
足音が止まる。
「ル・・・ルーシュ?」
痛みとも取れるその苦痛の表情にルルーシュは何も伝えられない。
逃げてくれ、だけど、側に居て欲しいと矛盾した心。
「ふーん、ルルの大切な人なんだ、君」
ルルーシュを放し、マオはスザクを振り返った。ルルーシュはその場に崩れ落ちる。
「ルルーシュ!」
「ちょっと待ってよ」
ルルーシュに走り寄ろうとしたスザクの額に金属独特の冷たさが伝わる。
マオの銃がスザクの脳に的を決めた。
やめろ!スザクに手を出すなッ。
そいつは関係ないだろ!
その銃を捨てろ!
「命令ばーっかり、五月蠅いよ、ルルーシュ」
スザクは混乱しながらも、今の状況を自分なりに解釈し始めていた。
ルルーシュは僕に逃げろとその表情が物語っている。
つまり、この男が危険ということ。
詳しくは分からないのは当たり前だが、ルルーシュを守るという選択肢しかスザクは認めなかった。
「ルルーシュに何をしたの?」
「別にぃ、お話してただけだよ、彼の心の中と」
「随分とメルヘンな人だね」
「君、今何も考えてないんだ」
「何のこと」
「静かだ。シーツーみたい」
しーつー?
「あ、聞こえた。そっかぁ、聞けないんじゃなくて、聞こえなかっただけかー、残念」
「何言ってるの?」
疑問に眉を潜めたスザクは、訝しげにマオを見た。
今のは僕の心の中を読んだのか。
そんな人間が居るとは信じ切れないけど。
なら、ルルーシュの心の中を聞いたのか。
「ルルーシュの心はボクにとって最高だよぉ、凄く心地が良い」
子供のように笑ったマオにスザクは力強く眉を立てた。
怒りか、それとも・・・。
どんっ、と途轍(とてつ)もない音がマオには聞こえた。
一気に何かが入り込んでくる感覚にマオは銃を足下に落下させる。
小刻みに震えだしたマオにルルーシュは疑問を問い掛けたが、彼はルルーシュの心の声を聞いているほどの余裕すらなかった。
「何だよコレ!何お前!痛い!痛いよ!!助けてッシーツー!!!」
耳を押さえ、しゃがみ込んだマオは目を見開き、叫びだした。
マオの豹変ぶりにルルーシュは疑念を抱きつつ、マオの前に立っているスザクを見上げた。
穏やかな表情をしていた。
無表情に近いが、確かに。マオを見下ろしている。
違和感のある情景だ。
叫び、狂いだしたマオを冷静かつ穏やかに見守っているスザク。
何を考えている?
「どうしたの?君の銃、落ちたよ?」
その銃でルルーシュを殺そうとしたんだ、お前。
その銃でルルーシュを殺そうとしたの?君は。
俺の大事なものを奪おうとしたな。
この銃で他にも誰か殺したのか?
彼は僕の大切な人なんだ。
君にはあげない。
横取りなんて許さない!
「五月蠅い!何だよお前!何人居るんだッ!!?五月蠅い!五月蠅いよ!!」
五月蠅いのはお前の方だ。
嫌になるな、その態度。
大丈夫なの?
ほっとけば良い、こんな奴。
クズは地面に這い蹲(はいつくば)ってるのがお似合いだ。
痛そうだね、助けて欲しい?
助けて欲しいよね、でも、助けないよ。
君はルルーシュを傷つけた。
俺のものなのに。
判る?判らないよね、君、馬鹿そうだし。
「ルルがお前のものって何だよ!?」
マオの言葉に再びルルーシュはスザクを見上げた。
弾かれるように。
「何のこと?」
「とぼけるなよ!」
ふざけるな。
僕はそんなこと思ってないよ。
五月蠅いな、コイツ。
何様のつもり?
先に傷つけたのはお前の方だろ。
知ったことか。
手を出すな、これ以上。
去れ!
僕の声聞こえる?
全部は把握しきれてないみたいだな。
そんなに僕が恐い?
顔が歪んだね。
僕が恐いんだ。
「恐くない!!」
悲鳴のような叫びだった。
震える手でなんとかヘッドフォンを掴んだマオはそれを耳にあて、慌てた動作で最大音量でC.C.の声を聴く。だが、聴こえない。すなわち、安息は無い。
「君に一つだけ言っておく」
突然静かになった中で、マオは流した汗を拭くこともせず、ヘッドフォンを取った。
自分を見下ろすスザクはとても穏やかに笑った。
「気分が悪いなら保健室に連れていってあげるよ?」
俺はお前を消滅させる。
声よりも、心が強くそう言った。
声が何を言ったのか聞き取れない程の音量で心がそう言った。
マオは銃をその場に残したまま、何処かへ走り去った。
スザクはルルーシュに駆け寄る。
心配そうに歪ませた表情はスザクだ。
なら、さっきの違和感は何だったのだろうと思わせるほど、スザクはスザクだった。
「ルルーシュ、大丈夫?」
「・・・あぁ」
何だか力が抜ける。
安心したせいだろうな、と一人思う。
「あの、さっきの人」
「不法侵入者だろ、麻薬でもやってるんじゃないか?」
「そう・・・」
不満そうな顔をされたが、納得したらしい。
お前に心が読める力がなくて良かった。
俺は嘘ばかりだな。
僕は偽ってばかりだ。
◆あとがき◆
FUNNY おかしい。こっけいな。
ルルーシュ「嘘」。スザク「偽」。な個人的解釈してみましたッ。
初の黒スザクかな?
なんだか精神的に痛め・・・。
マオが可哀相なお話に。ごめんよ、マオ。
更新日:2007/02/03
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