跪くランスロットはその白の機体を夕日の赤に染め上げ、金のあしらいを橙に変色させて煌めかせた。
神々しいまでの剣と盾を兼ね備えたその巨体は漆黒の人物に向けて敬意を払った。

ゼロ。

芝居臭い優美なまでの仕草、指揮する声は異質な姿だからこその名声。
素顔は漆黒の仮面に閉ざされ、纏う仮面と同色の漆黒のマントで彼は身体を包み全てを隠す。嘘を吐く為に。

ゼロはランスロットに乗る『騎士』を知り、又、ランスロットの搭乗者もゼロの正体を知っている。
だからこその現状が今此処に。
ランスロットが差し出した手に、ゼロは迷い無くその手に己の手を添える。

行こう、共に。



その光景を見守っていた黒の騎士団はその場から動けなかった。
動くなと、ゼロの命令だからなのか、はたまた、立ち入れられぬ空気なのかは定かではない。
しかし、黙っていられぬ者がいた。

「ブ、ブリタニアの軍人なんかッ!」

信じられないと玉城が声をあげ、他の騎士団員も抗議の声を次々にあげ始める。
それを扇とカレンがたしなめるが、効果は全くもって無い。
抗う声にゼロは仮面を向ける。

「黙れ!」

仮面越しでも良く通るその声に騎士団は沈黙した。
怒りともとれるその落ち着かないゼロの声は滅多に聴くことは無く、扇とカレンでさえも口を挟むのは難しいことだろう。
ゼロはランスロットに向き直り、顔を上げる。

「降りてこい」

誰もが息を飲んだ。
いつも苦い思いをさせられた白兜のパイロットの姿を拝める日が来ると誰が想像出来ただろうか。
コクピットが後ろに開かれ、立ち上がり、無駄な動作一つ無く降りてくる者は知らぬ者がいない程の有名人だった。

枢木スザク。

クロヴィス殿下殺害の元容疑者であり、ゼロが自ら助け出した男。
そして、カレンのクラスメイト。

余りの偶然に声にならない声しか漏れない。
ゼロの前に出たスザクはその場に跪く。

「汝、枢木スザクは私に忠誠を誓うか」

もはや、問い掛けるまでもない。

「イエス、マイ ロード」

ランスロットの手を取っていたゼロはそこから手を放し、スザクの目の前へ。
その手を取り、誓いの口付けをして力で引き寄せる。
バランスを崩したゼロはスザクの胸に不自然な格好で飛び込むこととなる。

「・・・おい、何のマネだ」

不機嫌な声が仮面から聞こえた。
その身体をギュッと抱き締める。傷には負担を掛けぬように。

「君を死なせずにすんで良かった・・・」

掠れたスザクの声にゼロは仮面の奥で眉を寄せた。
それはこちらにも言える事で、自分だってスザクを死なせずにすんだ事に喜んでいる。こうして抱き締められているのも悪くないとも思うのだが。

「周りを考えろ、馬鹿」

その一言にスザクは一気に真っ赤になる。
一番の注目の的になっていることにようやく気が付いたのだ。
ぱっとゼロを抱き締めていた腕を放す。それを名残惜しいと思ったゼロも周りをあまり考えていないかもしれない。

ゼロは立ち上がり、再びスザクに手を差し出す。
その手を取り、スザクは立ち上がる。

黒のマントと白のスーツがお互いの色を拒絶しつつも、交わりを魅せる。

「ゼロの名の下に、枢木スザクを私の騎士とする」

「有り難き光栄です」







◇CHANGEABLE◇






「納得いかねぇ!」

いつもはゼロが座る席にどかりと玉城が仰け反り、我が物顔でそこに座っている。
扇とカレン、それに新入りの騎士団員は紅蓮弐式の整備をしている。ここに居るのは初期の黒の騎士団メンバーのみ。
だったはずなのだが、

「同感ですね」

新入りのディートハルトだ。
初期メンバーは余り人の良い顔を浮かべずにディートハルトに視線を向けた。

「私達は貴方も信用してないわよ」

井上の言葉にディートハルトは肩を落とすが、不敵な笑みを見せる。

「おおっと、恐い。綺麗な顔が台無しだぜ」

それにむっとした顔を返す。苦笑し、肩を竦めたディートハルトはもう一度玉城を振り返った。

「貴方達はゼロの正体に興味があると見える」

「そう言うあんたもな」

「話が早いですね、先輩」

「よせよ、先輩だなんて」

満更でもなさそうな玉城にディートハルトは唇の隅を吊り上げる。
乗ってきた、と。

「どうです?賭けをしませんか?」

「賭け?」

「ええ。私か、先輩方、どちらが先にゼロの仮面を取るのか」

その一言に誰かが喉を鳴らした。
冷え切る緊張の中、玉城はその勝負を買った。





「ルルーシュ、肩見せて」

「・・・・・・」

「ルルーシュ」

「・・・・・・ゼロだ」

トレーラーの一室。ゼロ専用の私室にゼロとスザクは居た。
スザクは先程の戦闘でゼロ、ルルーシュの右肩に怪我を負わせてしまった。それを治療する為に救急箱からガーゼや薬を取り出し、ベットに座って彼を待っているのだが、スザクと微妙な距離を置いてゼロは立っていた。

「じゃあ、仮面取って。そうしたら、ルルーシュになる」

「ゼロだ」

「意地っ張り」

「何だとッ」

「いいよ。分かった。じゃあ、ゼロ、こっち来て」

「投げやりだな」

「君のせいだよ」

フンと、そんな雰囲気を醸し出しながらゼロは素直にスザクの左隣に腰を下ろす。
マントを取り、上着を脱ぐと、黒のアンダー姿で肌が露わになる腕は白い。肩に紫がかった青がとても異質に浮き出ていた。
それを見とめ、スザクは顔を歪ませた。

「・・・そんな顔するな」

「でも・・・」

スザクの視線に堪えきれなくなり、ゼロは仮面を取る。

「お前は、お前がそうしたいと思って動いたはずだ。後悔はするな」

「それでもッ、君を傷つけた・・・」

最後の方はもう言葉にならなかった。
仮面を取ったゼロは溜息を零す。ルルーシュはその紫電に淡さを覗かせた。
それにどきりとする。
ルルーシュはスザクの手を取り、自分の傷口へ。
腫れているそこは少しの接触で痛みをもたらしたが、それを我慢し、スザクの手をぎゅっと握る。

「お前に与えられる痛みなら堪えられる」

「ッ・・・・・・・・」

参ったな、とスザクは微笑を零す。こんな殺し文句は聞いた事が無いとでも言いたそうな顔をして。

「早く治療しろ」

スザクの笑顔に堪えきれなくなったルルーシュは手を放し、そっぽを向いた。

「うん」

手際良く、ルルーシュの傷はスザクによって手当てされた。
傷の手当てを終えると、ドアの向こう側から声を掛けられた。

「ゼロ、少し話したい事があるんだ」

扇の声にゼロは「何だ」と答える。

ドアを開ける気は無いのか、ルルーシュはゼロの仮面を未だに被っていない。服を着てマントを装着しているだけだ。

「白兜はどうすればいい?」

「あ、すみません」

後、「白兜じゃなくて、あれはランスロットです」と続いて聞こえた声の主に扇は目を見開く。何故、スザクがゼロと共に同じ部屋に居るのだろうかと、もっとも、彼の居場所は他に無いも同然なのだが。
ゼロは仮面を装着し、ドアを開けた。そして、目の前にいる扇の微妙な顔に首を傾げた。

「あ、あぁ、何でもない」

「・・・そうか」

余り納得のいく言葉ではなかったが、特に気に止めずにゼロは一歩を踏み出す。
ゼロは格納庫に向かう為に扇の横を通り過ぎる。
それを慌てて扇は追いかけ、スザクは部屋の電気を切り、彼らの後を追った。
翻るマントをただ、追いかける。





「で、この白兜だが」

「ランスロットなんだけど」

「細かい事を気にするな」

「本当に君はがさつになったね」

「関係ないだろッ」

格納庫では延々と言葉のキャッチボールが続いていた。それを遮ったのはカレンだ。

「・・・スザク」

「あれ?カレン?」

はぁ〜、と盛大な溜息を吐き出したカレンは今頃自分に気が付いたクラスメイトに怒りを通り越して呆れた。
いつもの学校で良く見掛ける弱々しい瞳では無く、活気溢れる意志の強い瞳が青くスザクを射抜く。
そして、横に立つゼロをもまた、射抜く。
推測でしかないが、彼以外にゼロは有り得ないと確信が迫る。


スザクに対するゼロの態度。
ゼロに対するスザクの態度。


カレンはガシッとゼロの仮面を掴んだ。それを勢いのままに引っ張った。

「な、何をするんだ!?カレン!」

「ちょっと、コレどうやって外すのよ!抜けない!!」

後頭部を収納しなければなかなか外れない仮面はカレンの胸の谷間に押しつけられた。

「放せ!コラ!!」

「放さない!」

二人の仮面の取り合いにスザクはどうしようかとオロオロするが、取り敢えず此処はカレンを落ち着かせた方が良いだろうと判断し、彼女の手に自分の手を乗せて、やんわりと仮面からその手を剥がした。

疑惑の瞳を向けられ、スザクは物怖じするが、しっかりと彼女の瞳を覗き込み、頷きを返す。
それは彼女の確信に似た疑念の肯定。

じっと、カレンはゼロを見つめる。誰よりも尊敬し、誰よりも忠誠を誓ったのが、ルルーシュであることに複雑な感情が押し迫る。

「・・・ルルーシュ」

小声で彼の名を呼んだ。ごく僅かな首の動きは肯定されたようだ。

彼も隠しきれないと諦めたのだろう。もっとも、先程のように無理矢理仮面を取られては最悪の結果を招くこ事になるから、仕方のない事とも言える。
カレンはその場に「後で説明してよね」と言い残して去っていき、不審な眼差しを送る扇のもとへ足を運んだ。

「あ、カレン・・・」

「何でもない。ちょっと遊んでただけだから」

「あぁ、そうか。俺はてっきり」

「てっきり?」

「カレンはゼロのことが好きなのかと」

「ばっ、違う!」

何を勘違いしたらそうなるのかと、カレンは扇の視線から逃れるように顔を逸らした。
逸らした視線の先にはゼロとスザクがランスロットを見上げて何かを話している。
学校での二人の姿が重なった。

カレンは扇に視線を戻し、真剣な瞳をその顔に宿した。








「黒の騎士団は、これから大きく変わる」








◆あとがき◆

CHANGEABLE 変化のある。

続く・・・・・・のか?
ゼロが仮面を取るシーンが違和感。
『スザクの視線に堪えきれなくなり、ゼロは仮面を取る。』コレです。コレ!
堪えきれなくて仮面被るならともかく、外してる。
アンダーに仮面は不格好なので、すぐ外したかった結果が・・・。

カレンたん好きv


更新日:2007/01/27



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