校門から校舎までの道のりにあるベンチにルルーシュは座り、本を片手に。もう片方の手はその膝に眠る彼の人の髪を撫でる。
昼休みはまだ十分にある。
あんな事を言ってしまった為にルルーシュは此処から動けずにいた。
膝の上で夢の住人となっている茶毛を指に絡ませる。クセのある髪は動物のようで可愛いと思ってしまう。
知らず、笑みが零れた。

「我が騎士よ、まだ起きないのか?」

少し不服な声色に悪戯を仕掛けるような微少を浮かべ、スザクの寝顔を覗き込んだ。
既に本の文字の羅列など読んではいない。
何時、誰が此処を通り過ぎても可笑しくはないのだ。
見つかったら恥ずかしい所では無い。
だが、こんな一時も悪くない。
安らげる場所が此処であり、ルルーシュであることが。

「男の膝なんて硬いだけだろ、馬鹿」

屈み、触れ合いそうな程に近づいて言った言葉はそれ。
何事もなく、離れ、コツンと一発だけ本でスザクの額を叩く。
小さな呻き声がスザクの口から漏れたが、すぐに寝息が再び聞こえてきた。
それに少しだけルルーシュは残念そうな顔を一瞬覗かせる。
確かにまだ時間はある。けれど、時間は増やせれない。
無駄にしたくなくて、一緒に居られる時間は思ったよりも少なくて、これからずっと時間に囚われるのだろうかと不安が過ぎる。

「ス、ザク・・・」

起こしては駄目だ。
折角、気持ち良さそうに眠っているのだから。それに、やっと眠らせる事が出来たのだから。





◇TIME◇






朝から少し変だとは思ったのだ。
注意して見なければ、ルルーシュでさえ見逃してしまいそうな程の変化であり、異常であった。
いつもより歩く速度が遅いとは思っていたが、寝不足だったとは。
天気が良いからと外で昼食を、と向かった先は校内の白いベンチ。
日溜まりのせいだろうか、スザクはコクリコクリと頭を揺らし始めた。

「スザク、眠いなら寝たら良いだろ」

授業中に睡魔に囚われる生徒は多い。一人ぐらい増えたって構いはしないだろう。
特にスザクは軍と学校の二重生活。
ルルーシュとてそうだ。バレないように眠っている。

「そういう訳にはいかないよ」

真面目だなと言ってしまえばそれまでか。
差し当たり、授業に遅れるとかそんなものだろう。
授業はもちろんブリタニア語だ。日本語なんて一度も使わない。
イレブンであるスザクにとっては難しい課題だろう。
しかし、さっぱり分からない訳でもない。

「頭は良いんだから、使い方考えろよ」

「ルルーシュほど頭は良い方じゃないんだけど」

「俺と比べるな。凡人と比べろ」

「相変わらず辛口」

「お前も相変わらず隠すのが上手いな」

「褒めてるの?それ」

「さあな。とっとと寝ろよ」

テンポの良い会話にお互い自然な笑みが表れ、その流れでルルーシュは勢いだけでスザクの頭を右側から押して自分の膝へと導いた。

されるがままにルルーシュの膝に左頬をくっつけたスザクは慌てる。

「ル、ルルルルッ・・・・・・」

「大声出すなよ。俺だってこんなところ誰にも見られたくないからな」

ルルーシュの顔を見ようと、膝に後頭部をくっつけるようにして振り返ると、優しく微笑む瞳とぶつかる。
甘えて良いのだとその瞳が語る。
何も言えなくなる。
飲み込まれそうな程の深く、落ち着いた純な紫に安らぎの場所を見つける。

「ごめん・・・」

「謝るな。それとも、耳掻きのオプションが欲しいのか?」

「そんな事思ってないし、言わないし」

「耳掻きなんか持ってるわけないだろ」

「分かってるよ」

「おやすみ、スザク」

「おやすみ」

いつまでもコントのようなやり取りをしていては休まるわけがない。
勝手にキリを付けてルルーシュは自分を見上げる碧の双眼に手を被せ、眠りへと誘う。
規則正しい寝息が聞こえてくるのに時間は掛からなかった。

「お休み三秒だな」

そんな一言はゆるやかな風に溶ける。
本を開いて文を読む。それでも左手はスザクの髪を優しく撫で続けた。


だから、もう少しだけ眠らせてあげよう。
ルルーシュの我が侭はスザクの身体に良くない。
分かっている。
判っているからこそ、染めてしまいたい。いっそのこと染められても良い。




どちらが先に飲み込まれるんだろうな、スザク。




後戻りをするには遅すぎる。
どちらかが囚われるのは時間の問題か。



「・・・ん・・・ルルーシュ?」

ぼやけた視界に青空と黒髪。はっきりと晴れる視界は真っ直ぐにルルーシュの瞳を映し出す。

「起きたのか?ちょうど良い、教室に戻るぞ」

「うん」

スザクがルルーシュの膝から離れる前に小さな嵐はやって来た。

「ランペルージとクルルギ?」

歴史の教師であった。

「あ、先生」

「いえ、これは別にっ」

ルルーシュの間の抜けた声を遮るようにスザクは焦った声を出す。
誰も声を発さなくなり、暫しの沈黙の後に。

「先生はそういうの気にしないぞ。うん。気にしないから」

何処か心此処に在らずな視線が気になるが、ルルーシュは既にこの教師にギアスを掛けているので力を使えない。
こんな事ならギアスの力の分析は他の奴で試すべきだったと、後悔しても後の祭りとはこの事だ。
スタスタと目の前を通り過ぎた教師は明らかに顔に戸惑いと焦った表情を器用にも交互に表して去っていった。









放課後の生徒会で会長であるミレイには既に筒抜けであり、その事をネタにルルーシュは遊ばれた。

「ルルちゃんったら健気ね」

「・・・・・・ぶっ飛ばしますよ」




◆あとがき◆

ただ膝枕が書きたかっただけです。
スザルルで甘々v

またキス無し・・・・・・。
何故だ!何故書いていないのだ!!??

じ、次回こそはチューをば!


更新日:2007/01/15



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